第192話 相談事は嘘コク女子が受け付けております。

〜小説対決まであと3日〜


「おっ。芽衣子嬢じゃないか!」

「白瀬先輩…!」


放課後、部室に行く途中3階に上がったところ、廊下で白瀬先輩に会った。


「小説対決まであと3日だが、読者同好会の様子はどうだい?続きの小説の方は間に合いそうかい?」


「はい。上月先輩、小説の方は、もうすぐ完成みたいです。京先輩も、千堂先輩に対抗する計画を練るので忙しいようで、二人共夜遅くまで作業して寝不足で大変そうです。」


爽やかな笑顔で聞いてくる白瀬先輩に、上月先輩と京ちゃんの目の下にクマができ、フラフラしている様子を思い浮かべ苦笑いしながら答えた。


「ははっ。そうか、大変だなぁ。まあ、それだけ作品に打ちこんでいるのであれば、きっといいものができるだろうな。

立場上表立って味方はできないが、私も、君達にあまり不利にはならないように、できる限りのことはさせて頂くよ。」


「白瀬先輩も小説対決に向かって色々動いて下さっているんですよね。ありがとうございます!」


「いやいや。小説対決に関して取りまとめをしてるだけだけどね。

小説対決に関しては、私が参加するのは、矢口くんを臨時の風紀委員をやった絡みもあり、公平じゃないと生徒会から指摘されたので、生徒会、風紀委員が主催として場を取り仕切る事にして、判定役としては上月、千堂以外の文芸部員、読書同好会の部員4名ずつ

各委員会や文化部代表者などが参加し、総勢30名程が選ばれる事になりそうだよ。」


「おおっ。大掛かりな事になってますね。」


「ああ…。校長先生と教頭先生はびびってたけどな…。生徒達の判定を元に先生方が最終

的に判断してもらう事になっているから、彼らにも、しっかりしてもらいたいところなんだがな…。


もちろん参加者に賄賂を贈る者がいたら、うちも厳しく取り締まるつもりだから、そこは安心していい。」


「ああ…、それならよかったです。」


千堂さん、何かと人を懐柔しようとするし、いかにも賄賂とか贈りそうだもんなぁと私は

白瀬先輩の言葉にホッとする思いで頷いた。


「矢口くんも策を練っているという事だし、小説対決に関しては、私は心配してないのだが、芽衣子嬢は大丈夫かい…?」


「えっ。今大変なのは、上月先輩と、京先輩で、私は特に…。」


白瀬先輩に心配そうな顔で顔を覗き込まれ、私はそう言いかけたが、彼女は顔を顰めて首を横に振った。


「いや、何だか顔色が悪いぞ?心配事があるのじゃないか?まぁ、ちょっと、生徒指導室で話を聞こうじゃないか。」

「えええっ!あのあのぉっ!私部活がっ…!」

「そんなに時間は取らせないから!さあさあ、来たまえ!」


白瀬先輩に腕を掴まれた私はアセアセしながら主張したが、そのまま強引に生徒指導室へ連れて行かれたのだった…。


         *


「ですからっ!私達付き合い始めたばかりで、超ラブッラブですし!

小説対決で忙しいですが、昼休みも、放課後も、部活がない日や休日は京先輩の家って夕食作りに行ったり、できる限り一緒にいまし…!小説対決が終わったら、チュウやハグを含めためくるめくイチャラブが始まる予定ですし…!別に、心配事なんてないですよっ!!」


「ふむふむ…。芽衣子嬢と矢口少年は付き合い始めたものの、まだチュウまではいっていないと…。小説対決の後、一度矢口少年に羽目を外し過ぎないように釘を刺しとく必要あり…と。」


「な、何をメモしてるんですかぁっ!?」


必死な私の主張を聞き、向かいの席で、頷きながら何やらノートに書き留めている白瀬先輩に、私は突っ込んだ。


白瀬先輩は、頭を撫でつけて私に謝った。


「いやぁ〜、すまんすまん。つい、仕事モードになってしまった。

今回は個人的な興味で聞きたかったんだった。うん。まぁ、状況的にラブラブなのはよく分かったよ。


だけど、芽衣子嬢。付き合ったからと言って不安が全くなくなるわけじゃないだろう?

君みたいなタイプは上手く行ってる時ほど、

あれも心配、これも心配とキャーキャー惚気混じりの愚痴を言ってくるものと思ったが、何だか不自然だな…。

本当は心配で堪らないのに、自分にそう言い聞かせているみたいな…。」


白瀬先輩の言葉にドキッとした。


図星だった。


「そ、そんな事ないですよ…。」


私は白瀬先輩の真っ直ぐな瞳から目を逸らした。


「そうか?私の取り越し苦労ならよいのだが…。

一応言っておくと、矢口少年が、読書同好会の部長にまだ未練があると思っているなら、それは杞憂だぞ?」


「…!」


「彼は君しか見ていないし、今一生懸命取り組んでいるのも、君と一緒にいる為に必要な事なんだろうと思うぞ?」


「私と一緒にいる為…?」


「ああ。男というのは、好きな女の前では、カッコつけたがるから、多くは語らないかもしれないが、あまり心配し過ぎず、彼のそのままの姿を見てやりなさい。」


「白瀬先輩…。」


私は白瀬先輩の言葉に、京ちゃんに、「見ていて欲しい」と言われた事を思い出した。


けど、私は…。


上月先輩の為に必死に頑張る京ちゃんを見るのが、今、すごく辛い…。


「白瀬先輩…。それでも、私がどうしても、京先輩を信じられなくて、彼を裏切って去ってしまう事があったら…。白瀬先輩は、彼の味方になって、見守って下さいますか?」


思わずそんな事を白瀬先輩にお願いしてしまっていた。


「白瀬先輩は、京先輩の事を特別大事に思っています…よね?」

「…!!」


白瀬先輩は、私の不躾な質問に大きく目を見開き、真剣な表情で頷いた。


「ああ。否定はしないが、約束はできかねる。」


「どうしてですか…?」


「彼が、私に望んだのは、公平な風紀委員長としての姿だったから。彼の為にも、私は客観的に見て正しい方の味方になる。」


「白瀬先輩……。」


白瀬先輩の少し切なそうな瞳に、私は何故だか胸が少し痛んだ。


「芽衣子嬢、君は私とは違う。

彼の事が心配なら、他人任せにせず、

間違っていても、公平でなくとも、自分の心の赴くままに彼の味方をしてやりなさい。

それは、私にも、恐らく上月さんにも出来ない事だ…。」


「はい…。」


私は泣きたい気持ちで、白瀬先輩に頷き、笑顔を浮かべた。


「もちろん、私はいつでも京先輩の味方ですよ!今のは例えばのお話ですから!」


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


連日、シナリオ作りに忙殺され、昨日は、手伝いに来てくれた芽衣子ちゃんを送りもせず、寝こけてしまい、代わりに駅まで送ってくれたらしい母にひどく叱られてしまった。


「こんのバカ息子っっ!!あんないい娘、もっと大事にしないと愛想尽かされちゃうわよっ?」


ぐふうっ!ご意見ご尤も…!


母の発言に打撃を受け、慌てて芽衣子ちゃんに電話をかけるも繋がらず、仕方なくメールで謝ると程なくして芽衣子ちゃんから返信が来た。


『気にしないで下さい。今日も一緒にいられて嬉しかったです💕シナリオ作り応援していますね?📣あなたの彼女芽衣子より😘』


ぐふうっ!可愛いっっ…!


「あなたの彼女」というワードの破壊力よ…!しかもキスマークの絵文字つき…!!

母の言葉とは別方向の打撃を受け、悶絶していた俺だった。


でも、いつまでも、芽衣子ちゃんが俺の事を気遣ってくれるのに、甘えてちゃダメだよな?

小説対決で上月の無実を証明し、『翼族の兄弟』を文芸コンクールに無事出す事が出来たら、その後は身の振り方を考えなければならないと思った。


昨日も一昨日も上月と小説の事で電話とLI○Eのやり取りがあったのだが、

小説制作で寝てないせいか、上月は半分寝惚けていて、

『は〜い。シナリオありがとー。いつも京太郎は色んな事に気がついていて、頼りになるね?』

とか、

『小説対決がもし、万が一ダメだったとしても、京太郎だけは私を信じてずっと作品のファンでいてくれる…?』


とか、俺を昔のように名前呼びで甘えるように話しかけてきて、度々戸惑う事があった。


芽衣子ちゃんが隣にいるときに、つられて彩梅と名前呼びしてしまいそうになり、あれはマズかった。


上月は俺との事は、気持ちの整理がついているものと思っていたが、そうではないのだろうか?


だとしたら、このまま同じ部活に所属しているのは、やはり、上月にとっても、芽衣子ちゃんにとっても辛く気まずい状況なんじゃないだろうか。


う〜ん。でも、部活が存続するためには部員がいなきゃいけないし、どうしたもんだかな…。


「ふわぁ…はぁ…。」


「矢口くん、どうしたんですか?何だか色々大変そうですね…?」


欠伸とため息の混じり合ったような息をついていると、

図書室のカウンター越しに、神条さんが首を傾げていた。


「はっ!ごめん。上条さん。これ、返却お願いします。」


俺は慌てて彼女に、本を差し出した。


「ごめん。それ、せっかく、予約してもらってたんだけど、期日までに全部読み切れなさそうで…。今、ちょっと、部活の事で色々と忙しくて…。」


「ああ、聞いています。読書同好会と、文芸部の部長さんが小説対決をするんですよね?私も図書委員として参加させて頂く事になりましたので、お願いしますね。」


「え!そうなんだね…!」


白瀬先輩から確か委員会の代表者も来るとは聞いていたが、神条さんも参加するとは…!


「ええ。部長も副部長も、あんまりそういうの興味ないみたいで。他に誰も希望しないようなので、立候補させて頂きました。」


「そうか…!神条さんがいてくれるなら、心強いよ。」


俺は思わずホッとしてそう言ってしまったが、神条さんは申し訳なさそうな顔を俺に向けた。


「あっ。でも、お力になれるかどうかは…。参加する以上は、純粋にどちらの作品が心に残るかで判定をさせて頂きたいと思います。」


神条さんの毅然とした態度に寧ろ好感を持って俺は頷いた。


「うん。もちろんだよ。変に忖度せず、純粋に作品の評価をしてくれるのが有難い。

俺は上月の作品が必ず勝つと確信しているから。」


「ふふっ。矢口くん、勝利を確信しているんですね?そんなすごい小説を読めるのが私も楽しみです。けど…。それなら、何故矢口くんはそんなに悩んでいるのですか?」


「えっ。いや、それは、その…。」


「もしかして…、上月さんと、氷川さんの間の関係で悩んでいたり…しますか?」


「へっ?」


「もし、そうなら…、私が言うのもおこがましい話ですが、何を置いても氷川さんの事を一番に考えてあげるべきだと思います…!」


いつも控えめな神条さんにずいっと前のめりになられ、それによって、迫力のある双子山も押し出され、俺はタジタジになった。


「い、いや、それはもちろんそう思っているけど、今俺と芽衣子ちゃんが部活を辞めてしまったら、読書同好会の人数が3人になって、廃部になっちゃうじゃないか。」


「なら、他の人を勧誘すればいいのではないですか?」


「けど、誰を…?文芸部と対立している読書同好会に入ろうなんて奴はなかなか見つからないよ。」


俺がそう言うと、神条さんは、人差し指を顎に当てて少し考えていた。


「うーん。それは、やり方次第ではないですか?小説対決で読書同好会が文芸部に勝ったら、しばらく文芸部の勢力も弱まるでしょうし、その間に勧誘すれば、入ってくれる人が見つかるかも…。」


神条さんの提案に、俺は感心して唸ってしまった。


「う〜ん。なるほど…!神条さんは賢いな。そうしてみるよ。」


「ふふっ。矢口くんのお役に立てたなら、何よりです。

私も図書委員の中で、入部してくれそうな人がいないか、聞いてみますね?」


「ああ。ありがとう!神条さん。」


マリアのように優しい笑みを湛える彼女に礼を言い、図書室を後にした。


後ろで、彼女が何か呟いていた気がしたが、よくは聞き取れなかった。



「それって…、私が入部希望してもいいんでしょうかね?」






*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


次回から、小説対決当日のお話になります。

京太郎くん、芽衣子ちゃん、上月さんの関係が大きく動く事になるかと…。


今後ともどうかよろしくお願いします。


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