第189話 君の寝顔に…。《京太郎:甘いキス》

「京先輩、先程は大変失礼しました。」


再び俺の部屋に入って来た彼女は、ブラウスとスカート姿に着替えており、今度はちゃんとの目を見て、正座で謝ってくれた。

俺も、芽衣子ちゃんが着替えている間に、ある部分を静める事ができたので、お互いクールダウンの時間が取れてよかったのかもしれない。


「いや、こっちこそテンパっちゃって、ゴメンね。よく考えたら、俺が目を瞑っている間に自分で直してもらえばよかっただけの話だったよね…。」


俺も、適切な行動が取れなかった事を芽衣子ちゃんに謝った。


「ハッ。その手がありましたか…!二人共気付かず、さっきはめちゃめちゃ焦っちゃいましたね?ふふふっ。可笑しい…!」


「何だよ。笑い事じゃないよ。芽衣子ちゃん。」


呑気に笑い出した芽衣子ちゃんに俺は渋い顔をした。


「応援してくれるのは嬉しいけどさ。部屋に二人きりで、ああいう露出度の高い衣装を着るのはちょっと…。///

今回、芽衣子ちゃんに家に来てもらう事は

それぞれの親にも伝えてある事だろう?

うちの母なんか、部屋に、制限速度越えたら映像を撮る仕掛けをつけたなんて言って牽制してくるし…。」


「えっ…?//じゃ、さっきの映像撮られちゃいました?(やだ、恥ずかしい…//でも、その映像私にも送って欲しい♡)」


恥じらって両手で頬に手を当てる芽衣子ちゃんに、俺は苦笑いで否定した。


「いや、流石に冗談だと思うけどね。

芽衣子ちゃんのお母さんも一応俺の事を信用して送り出してくれていると思うし、その期待を裏切りたくないからさ。」


「は、はい。すみません…。チアガールの衣装を着るなら、もっとサイズのあったものを着るようにして、紐パンはやめときます…。


芽衣子ちゃんは神妙な顔で頷いたが、変えるとこそこだけ?チアガールの衣装着るのはやめないんだ??


「いや、芽衣子ちゃんよ…。」


額に手を当てて、更に諫める言葉を探していると…。


「でも、京先輩。さっきのは流石に危うかったですが、私達は、嘘コク設定上とはいえ、恋人同士なんですよ?多少の触れ合いぐらいはいいんじゃないですか?」


「え…。」


「R18はダメでも、R15くらいになるように

制限を少し解除して欲しいです…!」


「いや、R15って言われても…!」


R15って、どんなんよ?

パンチラとか、ほっぺにチュウぐらいか??


逆に芽衣子ちゃんに真剣な顔で正座のままにじり寄られ、タジタジの俺だった。


「キ、キス…とか、ハグ…ぐらいはいいんじゃないですかね?」

「キ、キス…とか、ハグ…だと…??」


赤い顔でチラチラッとこちらの様子を窺いながらの芽衣子ちゃんの衝撃的な発言に俺は石のように固まった。


反射的に芽衣子ちゃんの艷やかな桜色の唇と、女の子らしい体の曲線に目が行ってしまう。


「いえ、あの…、京先輩が嫌でしたら、無理にとは…。その…。」


硬い表情の俺に気後れしたのか、しゅんと首を項垂れて涙目になっている彼女にブンブンと首を振った。


「い、嫌じゃない!全然嫌じゃないよ!

ただ、今は、その…。小説対決で大変な事になってる時期だし、イチャイチャしてると歯止めがなくなっちゃうから、全部終わってからでいい…かな?」


「は、はいっ。//全部終わったら解禁になる方向でっ!楽しみにしてますねっ♪」


「お、お、おうっ!//じゃ、じゃあ、俺もそろそろシナリオ作りも再開しようかな?」


「あっ。そうですね。サポートする為に来たのに邪魔ばかりしちゃってごめんなさい。どうぞ、どうぞ集中して下さい!」


「あの、それと京先輩、今のところ家事は一段落したので、私もここで作品作りしてていいですか?」


「ああ、いいよ?作品作りで俺になんか手伝える事ある?」


「え。い、いえっ。///大丈夫ですっ!(京ちゃんへの恋の詩を書くのに、本人に相談とか恥ずかし過ぎるぅっ!)完成したら、お見せしますので、書いてる途中は決して見ないで下さいね?」


顔を真っ赤にして頼み込んでくる芽衣子ちゃんに、俺は笑って頷いた。


「分かったよ。完成したら、見せてね?

あ、あと、俺のやってるシナリオ作りも、完成するまで見せたくないので、絶対見ないようにしてくれるかな?」


「はい。分かりました。私も京先輩のシナリオは見ないようにしますね?」


いい機会だったので、俺も芽衣子ちゃんに同じ事を頼むと、芽衣子ちゃんは笑顔で了承してくれた。


そして、俺はノートパソコンにキーボードでカタカタ文字を打ち込み、

芽衣子ちゃんは、制作用のノートに鉛筆でサラサラと何かを書き付け、しばらく静かな時間が流れたのだった…。


         *

         *


「芽衣子ちゃん!芽衣子ちゃん…!」


「ん〜。ムニャムニャ…。」


芽衣子ちゃんは、テーブルの向かい側に顔を突っ伏し幸せそうな顔でスヤスヤと健やかな寝息を立てていた。


あれから何時間か、二人共作業に没頭し、それぞれの制作を進めた。


芽衣子ちゃんは、夕方になると、簡単に食べれてすぐ作業に戻れるような夕食〜肉巻きおにぎりと野菜たっぷりのけんちん汁(激ウマだった!)〜を作ってくれたのだが、

後片付けをして、再びここに戻ってきて、制作にとりかかろうとした時に既に目がトロンとしていて舟を漕ぎ始め、やがては本格的に寝始めたのだった。


「まぁ、そりゃ、疲れるよな…。」


慣れない人の家に来て、ご飯作りや掃除してくれて、慣れない作品作りをして…。


彼女の安らかな寝顔を見ながら、俺は彼女に申し訳ない気持ちになった。


先週、風紀委員の活動に、彼女を巻き込んだばかりなのに、今週は、読者同好会のゴタゴタに彼女を巻き込んでしまっている。


俺の為にいつも彼女は頑張り過ぎる程に頑張って尽くしてくれていて、俺はそれについ、甘えてしまう。


けど、どんなに迷惑をかけても、もう俺は彼女に離れてくれとは言えない。

彼女はいつの間にか俺の心に、生活に入り込んでしまって、必要不可欠な存在になってしまっていた。


これは俺のエゴなんだろうな。


「ゴメンね、芽衣子ちゃん…。」


俺は、席を立って、芽衣子ちゃんの方に屈み込むと、アップにしている茶髪の頭の部分をそっと撫でた。


「ん…。きょう…せん…ぱ…。おい…てかない…で……。」

「…!」


撫でられ、気持ち良さそうに表情を和らげながらも切れ切れに寝言を呟く芽衣子ちゃんに堪らない気持ちになった。


置いていかないよ…!逆に俺は君を追い掛けてるんだよ?


その優しい寝顔に吸い込まれるように俺は顔を近付け、ピンク色の頬にそっと口付けた。


チュッ。


小さくリップ音が響き、温かくも柔らかい頬の感触が感じられた。

うおぉぅっ。女の子の肌ってこんなに柔らかいのかっ。


「〰〰〰!!////ご、ゴメン…。芽衣子ちゃん!」


「すぅすぅ…。」


すぐに離れたが、彼女は起きる様子もなく、ただ規則正しい寝息を立てているだけだった。

「……。//」

ホッと息をつき、テーブルの上の目覚まし時計を見ると、7時。

彼女の門限に間に合うように7時半に出るとしてあと、30分位そのまま寝かしてといてあげるか…。


「よっと…!」


俺は彼女の上半身を抱えて頭がクッションに当たるように床に下ろして、楽な体勢をとらせると、上からブランケットをかけてあげた。


「ん〜?ムニャムニャ…。」


「可愛いな…。」


体を丸めて幸せそうに寝ている彼女を眺めていると、俺は何だか心の底から満たされるような癒やされるような気持ちになった。


上月のコンクール用の小説に出てくる『翼族の兄弟』の翼族の弟もこんな気持ちだったのだろうかと俺は想像した。


同じ翼族の兄にコンプレックスや共感という複雑な感情を持ちながら、幼馴染みの女の子に想いを寄せていた。


一章では、街に出稼ぎに行っていたという兄が、幼馴染みとの結婚の為、数年ぶりに村に戻るが、婚儀の途中で、突然帝国軍が現れ、村は焼き払われる。

兄は帝国軍の一員であり、婚儀は村の秘宝を奪うための計略だった。


裏切られ、ショックを受ける幼馴染みと共に弟は村を追われ、旅に出る。

優しかった兄が変わってしまった原因を探るべく、二人は兄が過去に行ったという翼の国へ向かう事にする。


二章では、弟と幼馴染みが、仲間と共に翼族の国へ行き、

そこで、兄が壮絶な扱いを受け、帝国の軍部に入る事になった過去を知り、

再び兄と弟&幼馴染みが対峙する場面で話が終わっていた。


小説の続きは、再び対峙した兄に対して幼馴染み&弟がどういう対応をとるかが注目される事になると思うが…。


俺は弟は、幼馴染みの女の子の為に力をつけたくて兄と同じ軍部に入るかもしれないな…と想像した。


上月は、どんな話を書くのだろうか?そう思いながら、千堂に対抗するためのシナリオを集中して書き始めた。


芽衣子ちゃんが何やら時折ムニャムニャ寝言を言っていたようだったが、何と言っているかは聞き取れなかった。





「ムニャムニャ…。きょう…ちゃ…。わらし…めー…こ…らよ。きづ…いて…?」







*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


187話にて、小説対決まであと4日と記載がありましたが、計算間違えてまして、5日の間違いでした。

度々ポカがあり、申し訳ありません

m(_ _;)m💦


最近特に抜けていまして、何かありましたら、何でもお知らせ下さいね。


今後ともどうかよろしくお願いします。


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