第187話 私をおうちに連れてって?
〜小説対決まであと5日〜
「あっ!京せんぱ〜いっ♡」
「芽衣子ちゃん!」
家の最寄り駅東口の改札口のところで、周りをキョロキョロしていた茶髪美少女は、俺を見つけた途端にパァッと明るい笑顔でこちらに手を振ってくれた。
その笑顔にキュッと心を掴まれ、手を振り返しながら、芽衣子ちゃんの今日の格好〜
三つ編みアレンジをした髪をアップに上げ、白いフワッとしたブラウスに、綺麗な水色のスカートという清楚なスタイル〜を見て、ニヤけてしまった。
くうっ。今日も一段と可愛いなぁ…!
「すみませ〜ん。シナリオ作りで忙しいのに駅まで来てもらっちゃって!」
「いや、近いし全然いいよ。それより、せっかくの休みに、手伝いに来てもらう事になっちゃって、ごめんね?結局、親御さんにも連絡行っちゃって迷惑かけちゃったね。」
そう言って駆け寄って来る芽衣子ちゃんに、俺も走り寄って、申し訳ない気持ちで手を合わせた。
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あれから、上月VS千堂の小説対決に向けて、読者同好会メンバーは団結して、上月のサポートをする事になった。
千堂に対抗するシナリオ作りをしていた俺は、土日に集中して仕事を進めようとしていた。
その週は仕事が立て込んでいるようで、土日出勤する事になっている母は、
二日間分の食費を置いて朝早く会社に出掛けて行った。
忙しいし、カップラーメンとかレトルトカレーとかで食べて済ませようと思っていた俺だったが、それを聞いた芽衣子ちゃんに叱られたのだった。
「京先輩!忙しいからと言って、ちゃんと、栄養取らなきゃ駄目ですよ?それなら、土日は私がご飯作りにお手伝いにお家にお伺いします!!」
「え!!芽衣子ちゃんが家に?!」
(嘘コク設定上とはいえ)彼女が、(親が遅くまで帰って来ない)家に遊びに来るイベント発生?!
「はい♡読者同好会メンバーの京先輩のサポートをするのも私の大切な役目!
シナリオ作りのお邪魔はしませんから!ねっ?お願いします♡♡」
驚き固まりながらも、彼女の上目遣いで両手を組み合わせたお願いポーズに俺が抗えた試しもなく、有り難くお言葉に甘えさせてもらう事にした。
母には、一応友達が来ると伝えたが、いつもお弁当を作ってもらっている後輩の女の子ね?と瞬速でバレ、芽衣子ちゃんとLI○Eを介し、芽衣子ちゃんのお母さんの連絡先を伝え、親同士のやり取りの末、許可を得るという大事になってしまったのだった。
「分かってると思うけど、京太郎、可愛い彼女が来るからって、羽目を外し過ぎちゃダメよ?制限速度を守らないと、映像が撮られる仕掛けを部屋に仕掛けてあるからね?」
「オービスかよ?!いや、一緒に部活の仕事するだけだからっ!!そんな心配ないからっっ!!」
尤もらしくそんな事を言ってくる母に、俺は
突っ込み、必死に否定したものだった。
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「そんな…!強引に頼んじゃったのは、私なんで謝らないで下さい。うちの母も京先輩のお母さんと連絡取れて喜んでましたし、
私はお休みの日も京先輩と一緒にいられて嬉しいです…から…。///」
「!!///」
目の前でそんな可愛い事を言ってくる彼女に
俺は赤面して何と言ったものかと目を白黒させていると…。
「じゃ、行きましょうか…。途中でスーパー寄らせてもらっていいですか?」
「あ、ああ、芽衣子ちゃ…。うぉっ?!//」
ポフニュン!
彼女に腕を組まれ、例によってマシュマロのように柔らかいものが俺の二の腕に押し付けられた。
「つ、付き合ってる(設定)なら、こんな感じで歩いてもいい…ですよね?//」
「あ、ああ…。そそ、そう…だな…?//」
俺達は本物の恋人同士のように寄り添い、ギクシャクと歩き出した。
*
*
「ここのスーパー食料品が安くていいですね?お肉も野菜もいいものが安く買えて嬉しいです♪」
「ああ。特売にも当たったし、よかったよね。」
駅前のスーパーからの帰り、テンションが上がった芽衣子ちゃんが嬉しそうに話しかけて来るのに、俺も頷いた。
買い物の荷物を持つので流石に歩きにくく、腕を組むのはやめたが、俺は荷物を持っていない方の手を芽衣子ちゃんの手と繋いでゆっくり家のアパートに向かっていた。
「以前は少し離れたスーパーしかなかったから、近くに出来てよかったですね?」
「ああ。確かに!
以前はちょっと歩いたところにしかなかったから、買い物頼まれた時は大変だった…って、なんで、芽衣子ちゃんがその事を知ってるの?」
芽衣子ちゃんに言われ、勢い込んで同意したが、家に呼ぶのは初めてなのに、何故この近くのお店情報に詳しいのかと俺は疑問に思い、問いかけると、何故か芽衣子ちゃんはざっと青褪めて狼狽えた。
「えっ!|||| (あっ、ヤバっ!つい口がすべっちゃった!)あ、きょ、京先輩のお母さんと、お母さんが電話でそう話しているのを聞いたんですよ!そ、それだけなんです!!」
「そ、そうなんだ。そんな細かい事まで話したんだ。母親同士随分仲良くなったんですね?」
「ええ!それはもう!まるで長年の友達のように仲良さそうに話してましたよ?」
「へぇー、じゃ、昔あった商店街のお店がほとんどなくなって、コンビニが新しく出来た事とかも話してた?」
「えっ?そうなんですね。商店街のお店というと、たいやき屋さんとか文房具店…とかもなくなったんですか?」
「ああ、そんな事も話してたんだ。
文房具店は店主のおじさんが高齢になって数年前にやめちゃったね。」
「そ、そうなんですね…!(あそこのお店、店主のおじさんも、奥さんもすごく優しくて、文房具買うと、おまけつけてくれたりして、大好きだったのに、残念…。)」
芽衣子ちゃんは俺の言葉に、なんだかしょんぼりしている様だった。
何だろう?もしかして、商店街のお店回ったりしたかったのかな?
彼女を元気づけたくて、俺は商店街の方を指差して、言った。
「あっ。でも、たい焼き屋さんはまだあるから、寄って買ってく?」
「えっ!//(い、行きたいっ!)で、でも、時間をこれ以上取るわけには…。」
「近いし、いいよ。クリームチーズ入りのたい焼き美味しいよ?」
「はうぅ…!♡(あそこのクリームチーズ入りのたい焼き、小さい頃大好物だったなぁ…!!)
す、すみませ〜ん。では、ちょっとだけ寄らせてもらってもいいですか?」
「うん。行こっか!」
たい焼きが好きなのか、芽衣子ちゃんは頬を紅潮させて目を輝かせていた。
その様子を見て、誘ってよかったと思いながら、彼女の手を引いて商店街に向かった。
*
*
久々に老舗のたい焼き屋さんへ行くと、たい焼き屋のおじさん、おばさんは俺の事を覚えていて、芽衣子ちゃんを見ると、
「おっ、彼女かい?」「京太郎くんも隅に置けないねぇ!」などと散々いじられて、大変だった。
却って芽衣子ちゃんに悪かったかなと思ったが、彼女は俺達のやり取りを見ながら、とても幸せそうにニコニコ笑っていた。
ホカホカのたい焼きを荷物に抱え、たいやき屋さんをそそくさと出ると、程なくして俺の家のアパートに辿り着いた。
アパートの建物は全体的なくすんだ茶色で、2階に上がる階段の手すりは少し錆び付いている。
「アパート、メッチャボロくてゴメンね?
ガッカリさせちゃったかな?」
芽衣子ちゃんの住んでいるオートロックの建物とは大分違うだろうと思い、苦笑いして声をかけたのだが…。
「い、いえっ!そんな事はあり得ません!!最っ高の素晴らしい建物じゃないですかっ!!
(あの急階段下りて、京ちゃん
ぐすっ。」
彼女はアパートを見て、いたく感動したらしく涙ぐんでいた。
「いや、この建物のどこにそんな感動するポイントが??」
芽衣子ちゃんの感性がイマイチ分からず、俺は首を傾げた。
*
そしてその5分後、家のリビングでたい焼きを食べながら、号泣する茶髪美少女の姿があった。
「クリームチーズあんこ、美味しいですぅっ。えぐえぐっ。うわぁ〜ん!
(たい焼きの味も、京ちゃん家のリビングの家具の配置もほとんど変わってないぃっ。)」
「確かにこのたい焼き美味しいけど、芽衣子ちゃん、何も泣かなくても…。」
芽衣子ちゃん、いつも挙動不審だけど、今日は特に感情の起伏が激しいなぁと俺は不思議に思うばかりだった。
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