第186話 読書同好会フル活動💨💨
小説対決が決まった当日の夜ー。
〜小説対決の日まであと7日〜
上月彩梅と電話にて作戦会議中…。
『ええっ?!』
俺が作った文芸部の盗作疑惑に対抗する為のプランを上月に伝えると、彼女は電話の向こうで大声を上げた。
「い、いや、まさか、そんな事…!!」
「上月だったら出来なくはないだろ?小説は、構想自体はもう出来ているんだろうし…。」
『まぁ、不可能ではないと思うけど、それだと矢口が大変になるじゃないっ。それに、自分の信念を曲げる事になるけどいいの?
今度こそ原稿の保管に気を付ければいいだけで、そんな事をわざわざする必要は…!』
「俺がいいと言ってるんだから、問題ないだろう?
そうなったら、千堂&左門はもっとヤバイ
手を打ってくるかもしれない。こちらを舐めててもらうぐらいが丁度いいんだ。」
嘘コク二人目の秋川が校内放送で仕掛けた罠に、逆に嘘コク動画を流し、相手の虚をついた時の事を思い出していた。
相手が自分より程度が低く、やすやすと出し抜けると思っている場合、行動パターンがワンパターンになり易い。
どんな手を打ってくるか、分からない者に対処するより、そちらの方が何倍も楽だ。
あの時、芽衣子ちゃんが教えてくれた勇気と知恵だった。
『っ〰〰〰!わ、分かったわ。その方向でやってみましょう?』
「それから、この事は、紅ちゃん、碧ちゃんには伏せておいてくれ。」
『え、ええ…。心苦しいわね…。氷川さんにはどうするの?』
「彼女にも内緒にしておく。余計に辛い思いをさせてしまうから。」
『どうかしら?私は後で知らされても辛いと思うわよ?』
「彼女なら…、分かってくれると思う…。」
芽衣子ちゃんの笑顔を思い浮かべ、胸の痛む思いで俺は唇を噛み締めた。
『それなら、判断は矢口に任せるけど…。あまり無茶をしないようにしてね。』
「ああ…。それから、しばらく上月は部活に参加せず、小説制作に取り掛かっていてくれ。LI○Eで『文芸部に対抗する為のシナリオ』を随時PDFで送るから、目を通しておいてくれ。」
『…!分かったわ。』
「じゃ、上月、小説制作頑張れよ?」
『ええ。矢口もシナリオ作り、よろしくね?じゃあ…。』
俺は電話を切った後、ふうっとため息をついた。
絶対に成功するという自信なんてなかったが、口に出した以上は死ぬ気でやらなければならない。
俺は、家のノートパソコンを開くと、カタカタと文字を打ち始めた…。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
そしてその翌日の昼休みー。〜小説対決の日まであと6日〜
小倉紅、小倉碧と屋上のベンチにて作戦会議中ー。
「千堂について気になる事があったんで、調べてみたんだけど、紅ちゃん、碧ちゃん、聞いてくれる?
去年の…ふわぁぁ…。」
「矢口くん、眠そうですぅ。」
「矢口くん、目の下に隈できてますぅ。」
紅ちゃんは、欠伸をする俺の顔を覗き込んで、心配そうな票をした。
「いや、ごめん。昨日遅くまで千堂達に対抗する策を練っていたもので…。」
俺はショボショボする目を瞬かせて、両手で顔をパンと軽く叩くと、話を続けた。
「去年の文化祭で出された文芸部の部誌の千堂担当のページと、去年のコンクールで佳作をとった作品と、読み比べてみて欲しいんだ。」
俺が二つの冊子を紅ちゃん、碧ちゃんに差し出すと、彼女達は戸惑った表情で顔を見合わせた。
「部誌と…??」
「コンクールの作品…ですか??」
*
*
読み終えた紅ちゃん、碧ちゃんは、二つの作品を読み終わると、しっくりこないような顔をして、首を傾げた。
「なんというか…。文体といい、作風といい、話の面白さといい、部誌の作品と、コンクールの作品とは全く違いますねぇ…。
部誌に書いた短編は文章は上手に纏まっているけれど、どこかで見たようなお決まりのパターンで、目新しさがないというか…。
比べて、コンクール用の小説は、文章は所々辿々しいところが見られるけど、登場人物に魅力があって、次々と話が展開していって引き込まれますぅ…。」
「コンクール用の作品は特に力を入れたものでしょうから、違っていて当然なんでしょうけど、その人らしさが、全く出ないのは不自然ですぅ…。なんか、別人が書いたみたいな…。」
「ああ。俺も以前から得体の知れない違和感を感じていたんだ。それで、今回の事があったので、部誌を見直してみたら…。この、ペンネーム 『ことすず』っていう子の短編を
読んでみてくれないか?」
俺が部誌の該当ページをめくり、もう一度紅ちゃん碧ちゃんに、手渡し、読んでもらうと
驚いたように目を見開き、二人は顔を見合わせた。
「!! この話の文体、さっきのコンクール用の小説の文章に似ています!」
「!! この短編の主人公の性格も、コンクール用の小説のサブキャラの性格と少し似ているような…!」
「ああ。千堂が去年コンクール用に出した作品の本当の作者は、この短編の作者だった可能性が高いと思う。
盗作をしたのか、うまく言いくるめたのか知らないが、千堂は、他の人が書いた小説を自分のものとして、コンクールに出し、佳作を取ったのじゃないかと俺は思ってる。」
「「それが本当なら、許せませぇん!!」」
紅ちゃん、碧ちゃんは両手拳を握り締め、プンプン怒っている。
俺も彼女達の怒りに同調して頷きつつ、
「ああ…。もしこのペンネーム『ことすず』さんから事情を聞いて、証言を得られれば、千堂を追い詰める事ができると思うんだけど、このペンネームの人が誰が心当たりないかな?」
紅ちゃん、碧ちゃんは目をパチクリさせて二人顔を見合わせた。
「碧!同じクラスの
「うん。紅!確か彼女文化祭終わった辺りに文芸部辞めてたよね?」
「怪しいな…。紅ちゃん、碧ちゃん、鈴城さんに話を聞いてもらうのお願いしてもよいかな?」
「「ふふん。矢口くん、お任せ下さい!」」
紅ちゃんと碧ちゃんは俺の頼みを、笑顔で引き受けてくれた。
「ありがとう…!」
「そうと決まったら、さっさとお昼食べて、動こう碧?」
「そうだね、紅!にしても…。部長と氷川さん遅いですねぇ…。」
そう言ってお弁当を紐解き始めた二人だったが、残り二人(部長と新入部員)の読書同好会のメンバーがまだ屋上に姿を表さないのを指摘され、俺もメールを確認して、頭を掻いた。
「う〜ん。芽衣子ちゃんも上月も、すぐ屋上行くってLI○Eメールくれてたんだけどなぁ…。」
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
氷川芽衣子 階段で上月彩梅と遭遇中ー。
「こ、上月先輩っ?!こんなところで寝てたら駄目ですよ?起きて下さいよぉっ!」
「う〜ん。ムニャムニャ…。」
私は、眠りこけている上月先輩を必死に揺さぶっていた。
今日のお昼休みは、屋上で上月先輩の小説対決について、読書同好会メンバーで打ち合わせを行うことになっている。
午前中の授業が終わると、京ちゃんから、「今日は屋上集合でよろしくね?」と読書同好会のグループLI○Eに、メールが入っていたので、私は
「はーい!今から行きます🐶💕」
と返事をし、気合の入った天丼弁当(桃の形の卵焼き入り)を持って屋上に向かったのだが…。
「こっ、上月先輩っっ?!」
2階から3階に続く階段の踊り場で、上月先輩が床に倒れているところを発見したのだ。
何かあったのかと心配したのだが、近付くと、規則正しい寝息が聞こえ、上月先輩の目の下に隈ができているのを見て、寝不足で寝ているだけらしいと分かり、ホッとした。
しかし、困ったのが、上月先輩が全く起きてくれない事。
しかも、持っていたカバンからは書きかけらしい原稿用紙がはみ出ていて何枚か、床に落ちそうになっている。
「ちょっと、上月先輩!これ、他の人(特に文芸部!)に見られると絶対マズいヤツですよね?!|||| 盗作されたばっかりなんだから気を付けて下さいよぉ…!!」
私が青い顔で急いで原稿をかき集めていると、そこへ折り悪く、文芸部の面々が通り掛かった。
「あらぁ?上月さん、こんなところでおネンネかしら?」
「読書同好会の部長は、TPOをわきまえない人なんですねぇ?」
「!!」
千堂先輩と、左門先輩は、ニヤニヤとこちらを見下したような笑みを浮かべて近付いて来た。
「文芸部の方。今取り込み中なんですけど、
何かご用ですかっ?」
私は原稿の入ったカバンを抱え、二人を睨み付けた。
「礼儀を知らない後輩ね?困っているようだから、助けてあげようと思ったんだけど?」
千堂先輩がそう言い、左門先輩がワキワキと何やらいやらしい手付きで近付こうとした。
「保健室まで、その盗作女、運んで差しあげましょうか?」
「結構です!!お引取り下さい!」
私は速攻で断り、上月先輩を左門先輩から隠すように立ちはだかった。
無実の人に、盗作の言いがかりをつけてくるような人達に何をされるか分かったものではなかった。
「ふん。別にこの上の会議室で、小説対決について、先生と打ち合わせするから通り掛かっただけよ。確かに盗作するような人を助ける義理はないものね。遠慮なく見捨てていくわ。
あなたも、こんな無様な部長に尽くしても何にもならないわよ?フッフッフッ。」
「6日後には、そいつが盗作をする事が分かり、読書同好会は廃部になるかもしれませんね…。クックックッ。」
二人に笑われ、私は怒りのあまり言い返した。
「それはあなた方の方でしょう?盗作するような部長に、それに協力する副部長のいる文芸部は既に部活として終わってます…!」
「それは聞き捨てならねぇな…!部長と副部長を侮辱する奴は許せねぇ…!」
!?
階段の下の方から野太い声がした。
どうやら、二人の後ろにもう一人部員がいたらしい。
「あら?最近仮入部したばかりの
「鬼瓦くん?部長はちゃんと注意しましたからね?何か問題起こしたら、文芸部の入部を取りやめてもらう事になっちゃいますからね?じゃ、行きましょ?部長。」
「えっ…!ちょっ…?」
千堂先輩と左門先輩は、後ろの部員に対してそんな声掛けをすると、ささっと3階に上がって行ってしまった。
どうやら手荒な真似をしかねない生徒を私達にけしかけようとしているらしい。
しかも、何かあっても仮入部だし、一応注意はしたという事で、部活としては責任逃れしようとしている?
ドスッドスッ!
重々しい足音と共に、鬼瓦と呼ばれる生徒が階段を登ってくる…。
とにかく、原稿と上月先輩は守らなければ…!と私が戦闘体制を取った時…。
「んん…?私、何でこんなところで寝ているのかしら?」
「ええーっ!?タイミング!!」
上月先輩がパッチリと目を開けた。
どうしよう…!?上月先輩の前で暴力はふるえない…!!
「へへっ。お前ら、覚悟しろよぉっ!!」
「っ…!!」
絶体絶命の中、現れた大柄な男子は…。
風紀委員の服装チェックの時に、私に絡んできた悪人面の生徒だった。
「鬼瓦先輩〜!!💢💢あなただったんですね?ビビって損したじゃないですか…!!ガルル…!!」
「ひっ…。服装チェックの時の怖い女子っっ!!」
歯をむき出して怒っている私を見て、鬼瓦先輩は、途端に怯えて、涙目になった。
「気が弱いくせに、中途半端に悪い事しようとするのはよしてください!!庭木先輩が知ったら嫌われちゃいますよ?!」
「え。天使に嫌われちゃう…!そ、それだけはご勘弁を…!!」
人差し指を突き付けて鬼瓦先輩に詰め寄ると、天使な風紀委員=庭木先輩ラブな彼は、ぶるぶる震えて手を組み合わせて頭を下げて来た。
「では、すぐに文芸部とは、手を切ってくださいねっ?二度は見逃しませんよ?」
「ヒィッ。分かりましたぁっ!お助けっっ〜!!」
そう言って、彼は両手を上げて一目散に逃げて行った。
「全く…!」
私が両手を腰に当ててぷりぷりしていると、
上月先輩が目をパチクリしてこちらを見ていた。
「氷川さん…。今の男子生徒は一体?!」
「あっ。いえ!今の人は文芸部に頼まれて私達に悪さをしようとしていたのですが、私が、暴力ではなく、言葉で言い聞かせると、分かってくれたみたいです。」
「そ、そう…?何か今、変じゃなかった?あの男子生徒、氷川さんに怯えていたような…?」
上月先輩が眉を顰めて不審がっているのに、ギクリとしながら、私は大声で主張した。
「いえっ!それは、強い言葉の力によるものですよ!いやぁ、言葉の力って本当にすごいなぁ…。アハハ…!」
「そう…かしら?」
「そうです、そうです。あっ。上月先輩、皆との打ち合わせにもう随分遅れちゃってますよ?ホラッ!屋上へ急ぎましょ?」
「え、ええ…。」
まだ、腑に落ちない様子の上月先輩を屋上に急かして、私は辛くも事態を誤魔化したのだった…。
*あとがき*
何とも言えない『君の名は』でしたね…
(;´∀`)
いつも読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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