第185話 そして矢口京太郎は茶髪美少女とすれ違い始める

上月と休み時間に言い合いになってしまい、

部活の雰囲気が悪くなってしまうかと危惧していた俺だったが、いきなり千堂が上月に盗作の言いがかりをつけてきて、それどころではなくなってしまった。


作者を判定する為に上月に、続きの小説を書いて作者を判定する提案をすると、

上月の頑張りと白瀬先輩のアシストにより、

一週間後に上月と千堂の小説対決がする事が決まった。


それによって、上月と俺&芽衣子ちゃんの関係の気まずさも緩和され、大変な状況ではあるものの、上月をサポートする方向性に向かって、読書同好会の部員達の団結が図られる事になった。


そして、芽衣子ちゃんと二人の帰り道…。

国語方面があまり得意でない芽衣子ちゃんが

あまり力になれない事を気にして、護衛や文芸部への攻撃に役立ちたいと申し出て、右足を振り上げた時に、俺は思わず、芽衣子ちゃんを叱るように言ってしまった。


「コラコラ、君は読書同好会の中では右足封印でしょうが!上月の目の前で暴力振るったら、即退部になっちゃうよ?」


「ハッ!そうでした…!||||」


上月先輩が暴力嫌いなのを忘れてたらしい芽衣子ちゃんは、一気に青褪めた。


芽衣子ちゃんの脚力の威力が凄まじい事はしっているし、過去に頼ってしまった事もあったが、もう彼女には俺の為に危険な事をして欲しくなかった。


それにー。


今回ばかりは、上月の作品『翼の兄弟』の件に関しては、彼女に頼らず自分できちんと対処したいという気持ちがあった。


俺は、芽衣子ちゃんに真剣な眼差しを向けて語気強く言った。


「芽衣子ちゃん、頼むから今回は、無茶な事はしないで、ただ側で俺のする事を見てて欲しいんだ。」


「は、はうぅっ?。///側で…、京先輩のする事をっ…です…かっ?」


結構近くに詰め寄ってしまい、夕陽に煌めいている芽衣子ちゃんのサラサラの茶髪や長い睫毛が、狼狽えたように目を見開いた芽衣子ちゃんの愛らしい顔立ちが間近に見え、フワッとした甘い女の子の香りが漂って来るのにクラクラしながらも、俺は強い決意を込めて告げた。


「ああ…。上月の盗作の疑いをかけられた作品、俺も以前色々相談に乗ってた事もあって、これだけは、何としてもコンクールに出してやろうと思っている。」


付き合っていた当時は上月を守ってやれず、辛い思いをさせるばかりだったが、せめてその作品だけは守ってやれるようにー。


最低限自分で自分を認められるようにー。


君の隣に立てる男としてー。


そんな俺を芽衣子ちゃんは胸がキュッとするような不安げな表情で見上げて来る。


『二人っきりの時間が全くなくなっちゃうのは辛いですねぇ…。』


今日のランチの時に芽衣子ちゃん、そんな事言ってたもんな…。


芽衣子ちゃんを安心させてあげたくて、俺はニッコリ笑った。


「しばらく千堂に対抗する策を練るので、

忙しくなるけど、芽衣子ちゃんとなるべく一緒にいるようにするからね?その…嘘コク上とはいえ、一応彼氏…だからさ…。」



俺は芽衣子ちゃんの『彼氏』なんだから、『彼女』と二人きりの時間も取るよう努めなければと思った。


あと、昨日芽衣子ちゃんが出来なかった話もちゃんと聞いてあげなければ…。


「それから…、芽衣子ちゃんの大事な話って…?」


「あっ…!えっと…。」


芽衣子ちゃんは言い淀み、しばらく逡巡するように、視線を巡らせた。

俺はその話に大体の見当がついていた。


嘘コクについては、話しても楽しい事ではないし、5人目の嶋崎真柚ちゃん以外は芽衣子ちゃんに多くを語らなかった。


にも関わらず…。


今までの嘘コクミッションは、俺のトラウマを引き起こすような内容でありながら、

どれも、芽衣子ちゃんの奇跡のような気遣いにより、俺が心底辛い思いをするような事はなく、寧ろ癒やされるばかりだった。


芽衣子ちゃんは俺がされてきた嘘コクの詳細について、柳沢から情報を得ていたのではないだろうか。


上月から、芽衣子ちゃんと柳沢が親しげに話していたという事を聞いて、俺は今までの事に腑に落ちたような気がしたのだった。


悪意があるわけじゃなく、俺を思い遣る為にしてくれた事だ。


もちろん、そんな事で彼女を疎ましく思ったりはしなかった。


「えっと…。今…京先輩、忙しくなりそうですし、小説対決が終わってからゆっくり話を聞いてもらってもいいですか?」


そう言って、彼女は俺の顔色を窺うように恐る恐る言った。だから、俺は彼女に安心してもらいたくて笑顔を向けた。


「それでも、いいかい?こちらの都合で延び延びになってしまって本当にごめんね。小説対決が終わったその日、必ず聞くから。

他のどんな予定よりも優先して時間とるから…!」


この盗作疑惑のゴタゴタが片付いて、もし自分に少しでも自信のようなものが得られたならー。


その時は、どんな彼女でも受け止め、逃げずに真っ直ぐに向き合い、想いが伝えられるような気がしていた。


芽衣子ちゃんに嘘コクではない、マジ告をー。


「はい。小説対決の日を色んな意味で楽しみにしてます…。」


芽衣子ちゃんは健気にも優しい笑顔を見せてくれていた。

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