第184話 読書同好会の団結と茶髪美少女の笑顔の裏の小さなため息

「ふうーっ。疲れたぁっ…!」

「上月さん、お疲れ!!頑張ったわね?」


「上月!」

「上月先輩!」

「「ぶちょぉ!」」


上月先輩が新谷先生と職員室に事情聴取されに行った後、結果がどうなったかヤキモキしながら、部室前の廊下で待っていた私、京ちゃん、紅先輩、碧先輩は、新谷先生に労をねぎらわれながら、上月先輩がヨロヨロと帰って来たのを見て、一斉に詰め掛けた。


「じゃ、私は先生達との話し合いがあるから詳しい事が決まったら、伝えるわね?」


新谷先生はそのまま、職員室へ戻って行った。


部室に入り、疲れている上月先輩に椅子に座ってもらうと、周りをぐるっと取り囲んだ。


「上月、話し合いはどうだったんだ…?」


京ちゃんの質問に上月先輩は、親指を立てて

満面の笑顔になった。


「成功よ!一週間後に千堂さんと小説対決することなったわ!」


「!!やったな!上月…!」

「よ、よかったぁ…!」

「「ぶちょぉ!よがっだあぁ…。」」


ぱっと顔を輝かせる(可愛い!)京ちゃん。

胸をホッと撫で下ろす私。

抱き合って泣いている紅ちゃん、碧ちゃん。


読書同好会のメンバーは皆大喜びだった。


二人が職員室へ向かう前、作品を盗作したという言いがかりに対抗すべく、京ちゃんが出して来た提案というのが、

盗作疑惑のある上月先輩と先輩先輩に、小説の続きを書いてもらい、他の人にそれぞれの作品の出来から作者を判定してもらうというもの。

本来の作者である上月先輩が盗作事件を目論んだ千堂先輩に、当然負けるワケもなく、盗作疑惑は無事晴れるだろうと目算あっての事だった。


このピンチによく、そんな事を思い付くなぁと、!と私は京ちゃんに惚れ直す思いだったが、上月先輩の為にそこまで尽力する京ちゃんに少し胸がチクンと痛むのを感じた。


「小説対決の提案をした時、千堂さんも抵抗する素振りを見せていたけど、偶然風紀委員長の白瀬先輩が通り掛かって、風紀委員もぜひ参加したいと言って、うまく先生達を誘導してくれてたから、渋々了承していたわ。」


「「白瀬先輩が…。」」


私と京ちゃんは驚いて顔を見合わせた。


白瀬先輩、もしかしたら風紀委員の情報網から盗作騒ぎを知り、頃合いを見計らって援護してくれたのかもしれないな。


「うまく行ったのはよかったけど、白瀬先輩苦手なのに、借りができてしまったわ…。」


上月先輩は、複雑そうな顔をしていた。


「でも、白瀬先輩が参加してくれるのはよかったじゃないか?顧問の先生達は、それぞれの千堂、上月を支持するだろうし、校長先生、教頭先生は日和見だから、それぞれ一人ずつに入れるか、母親が教育委員長という事を考慮して、千堂を支持するかもしれなかったから、中立な立場の人に判定して貰えないと意味がないからな。」


「そうね…。最初からこちらにやや不利な状況になっているから、こちらの小説の出来が圧倒的によくて、中立の人に全員指示してもらえるぐらいじゃないと安心出来ないわね。続きについては、ある程度プロットを立ててはいたけれど、プレッシャーだわ…。」


上月先輩は、京ちゃんの話を聞いて、両手を頬に当てて、悲壮な顔つきをしていた。


「まぁ、そこは手伝ってやれないけど、皆でできる限り上月のサポートをしてやろうな?」


「「「はい!」」」


京ちゃんの言葉に私と紅先輩と碧先輩は、大きく頷いた。


上月先輩は、私達に手を合わせて謝ってきた。

 

「ごめんなさい…。文化祭の事を考えなくちゃいけないときに、個人のコンクールの事で皆の時間をとってしまって…。特に氷川さんと矢口には昨日から迷惑をかけてひどい態度をとってしまっていたのに…。」


ちろっと私と京ちゃんを見遣り、上月先輩は気まずそうに目を逸らした。


「いや、俺も言い過ぎたし、気にするな。

あ、芽衣子ちゃん、上月が君に付き纏っていたのは…。」


京ちゃんが、上月先輩に声をかけ、私にも事情を説明してくれようとしたけど、私は頷いて、それを引き継ぐような内容を話した。


「はい。さっき上月先輩から聞きました。

私が嘘コクの付き合いだと京先輩にバラそうとしてると思ったからですよね。誤解が解けて、もうしないと言って頂いたので大丈夫です。」


「え。知ってるの?」


「ええ。私もひどい事を言ってしまったのでおあいこです。気にしないで下さい。

千堂先輩達のやり口は許せませんし、上月先輩の作品を守って差し上げたいと思いますので、部員として、私にも協力させて下さい。


「よくお話は分かりませんけど、私も部長の力になりたいです!」

「部長!出来ることがあったら何でも言って下さぁい!」


私は力強く頷き、紅先輩、碧先輩もそれに倣った。


「皆ありがとう…!!」


上月先輩は目を潤ませていた。


         * 

         *


取り敢えず、その日は皆帰る事にし、上月先輩は小説制作にとりかかり、他の人は文芸部に対抗する案を練り、明日の昼休みに相談する事とした。


「また、何だか大変な事になってしまいましたね…。」


帰り道で私がほうっと息をついてそう言うと、京ちゃんがすまなそうな表情を浮かべた。


「ああ…。毎度毎度、芽衣子ちゃんを巻き込んでしまって本当にごめんね。」


「いえ、そんな!ただ、今回、上月先輩の小説制作のサポートをするという事ですが、国語力の低い私にはあまり力になれそうになくて心苦しいです…。」


部誌や、月刊誌で読んだ上月先輩の作品のレベルの高さを思い出し、肩身が狭い思いだった。


「いや、入部したばかりで、そんな風に負担に思わないでいいよ!芽衣子ちゃんは、部員としてそこにいてくれるだけで充分なんだからさ。」


「は、はい…。あ、でも!上月先輩の護衛が必要な時や、千堂先輩や、左門先輩をぶっ飛ばしに行くときはぜひ連れてって下さいね?」


ブンッと足を振り上げる私を京ちゃんは叱るように言った。


「コラコラ、君は読書同好会の中では右足封印でしょうが!上月の目の前で暴力振るったら、即退部になっちゃうよ?」


「ハッ!そうでした…!||||」


上月先輩が暴力嫌いなの忘れてた…!

青褪める私に京ちゃんは、とても真剣な眼差しを向けて語気強く言った。


「芽衣子ちゃん、頼むから今回は、無茶な事はしないで、ただ側で俺のする事を見てて欲しいんだ。」


「は、はうぅっ?。///側で…、京先輩のする事をっ…です…かっ?」


結構近くに詰め寄られ、夕陽に煌めく京ちゃんの茶髪や睫毛を間近が見え、男の子の匂いが漂って来るのに、クラクラしながらも息も絶え絶えに聞き返した。


「ああ…。上月の盗作の疑いをかけられた作品、俺も以前色々相談に乗ってた事もあって、これだけは、何としてもコンクールに出してやろうと思っている。」


そ、それって…京ちゃんと上月先輩が付き合ってた頃、作品の相談を受けていたってこと…??

付き合っていた頃の思い出の象徴があの作品だとしたら、それをどうしても守りたいって事は京ちゃんは、やっぱり、上月先輩の事をまだ好きな気持ちがあるんじゃ…。


私の胸は不安にザワザワと騒いだ。


「しばらく千堂に対抗する策を練るので、

忙しくなるけど、芽衣子ちゃんとなるべく一緒にいるようにするからね?その…嘘コク上とはいえ、一応彼氏…だからさ…。」


ああ…。『彼女』だから、『彼氏らしく』対応してくれるんだ。京ちゃん、本当に真面目で誠実だなぁ…。


「それから…、芽衣子ちゃんの大事な話って…。」


「あっ…!えっと…。」


私は躊躇った。


今、私が「めーこ」だと言えば、京ちゃん、私の事を今より特別大事に思ってくれるかな?

上月先輩を心配している気持ちよりももっと強く…。


それとも、そんな大事な事を黙っていた私に裏切られたように感じて、嫌われて遠ざけられちゃうかな…。


でもどちらにしろ、読書同好会がただでさえ大変な今の時期に京ちゃんを動揺させるような告白をしない方がいいのかな…。


「えっと…。今…京先輩、忙しくなりそうですし、小説対決が終わってからゆっくり話を聞いてもらってもいいですか?」


「それでも、いいかい?こちらの都合で延び延びになってしまって本当にごめんね。小説対決が終わったその日、必ず聞くから。

他のどんな予定よりも優先して時間とるから…!」


京ちゃんは、謝りながらも、少し和らいだ顔になり、小説対決の日に時間を取ってくれる事を約束してくれた。


京ちゃん、ホッとしてるみたい。やっぱりこれで正解だったんだ。


「はい。小説対決の日を色んな意味で楽しみにしてます…。」


心の中で自分が小さなため息をついたのに、気が付かないフリをして、私は京ちゃんに精一杯笑顔を向けた。

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