第183話 上月彩梅の盗作疑惑

文芸部の千堂と左門が、読書同好会の部室に押しかけ、「コンクール用の作品を上月が盗作した。」と言いがかりをつけて来て、押し問答になっていたところ…。


それぞれの部活の顧問の教師が止めに入り、双方を落ち着かせてから、職員室で教頭と顧問を交え、事情聴取が行われる事になった。


「確かに私は今日のお昼休み、上月さんからコンクール用の小説の原稿を受け取ったわ。


教頭先生は、出張で午後からから学校に戻る事になっていたから、それまで、机の引き出しに入れて、私が預かっていたのよ。

(※コンクール用の作品は教頭先生が一括して送付する事になっている。)


そして、3時頃戻られた教頭先生に確かに原稿を渡したのだけど、その時、同時に文芸部の顧問の蓮水はすみれん先生が、文芸部のコンクール用の原稿を渡しに来たの。

その時、教頭先生が中を確認したところ、上月さんの原稿と千堂さんの原稿が全く一緒の内容だという事が発覚したの。上月さんは手書きの原稿と千堂さんはパソコン打ちの原稿という違いはあれど、二つは一字一句違わず、同じ内容だったわ。」


新谷先生は、神妙な顔で重い事実を話した。


「私、盗作なんかしてないわっ!!『翼の兄弟』は一年近くも前から、少しずつ書いてきてつい数日前にやっと完成したばかりだったんだから。」


盗作疑惑をかけられた上月は、ショックを受けつつも、必死に主張した。


「落ち着けよ、上月。俺だって何度も原稿見せてもらってるんだし、ここにいるメンバーで、上月が盗作をしたなんて思ってる奴はいないよ。」

「もちろんよ。上月さんがそんな事をしないのは分かっているわ。」

「私も、上月先輩はそんな事をできるような人じゃないと思います。」

「「私達も、部長の途中の原稿見せてもらってるし、盗作なんてあり得ない事は分かってます。」」


新谷先生も、芽衣子ちゃんも、紅ちゃん、碧ちゃんも、深く頷いた。


「千堂さんがやったって事よね…?でも、何の為に…??」


眉を顰めて、首を傾げる新谷先生に俺は自分の考えを伝えた。


「まぁ、以前から文芸部は読書同好会に対してよく思っていなかったから、嫌がらせもあるだろうし、

去年のコンクールで、千堂は佳作を取ったものの、上月が努力賞を取ったのを脅威に感じて…、今年は、上月の方が上の賞にならないよう、コンクールに参加出来ないようにしようと仕組んだとかですかね…。」


「確かにいがみ合っていたけれど、私の作品をコンクールに出さない為にそこまでするなんて…!」

「卑怯な手を使いますね…。」

「「許せませんっ。」」


上月も、芽衣子ちゃんも、紅ちゃん碧ちゃんも皆千堂の卑怯なやり口に怒りを隠せず、俺も同じ思いだった。


しかし、どうやって千堂は原稿を写したのだろうか?


「ちなみにお聞きしておきたいんですが、

お昼休みに新谷先生が職員室から席を外した事はなかったんですか?」


俺が尋ねると、新谷先生はすごーく気まずそうな顔をして、躊躇いながら話し出した。


「え、ええと…。実は、格安で条件のいい結婚相手を紹介してくれるっていう結婚相談所から、連絡があって、ちょ、ちょっと職員室を出たところで30分位電話を受けた事はあったかしらね。」


「「「「「新谷先生…!」」」」」


読書同好会全員の呆れたような視線を受け、新谷先生は涙目になっていた。


「ううっ。そんな目で私を見ないで?でも、戻って来たときに、確認したら原稿はちゃんとあったわ?もし、その間に原稿が持ち出されていたとしても、とても2万文字もの小説の内容を写し切る事はできないわよ?」


「取り敢えず、内容を写メで撮って後で写す事はできるかもしれません。それに、最近は手書きの原稿をパソコンの文字に打ち直してくれるアプリとかもありますし、コピーをするのに、そんなに時間はかからないのかも…。」


「千堂さんの取り巻きの左門くんは、確かパソコン系の資格をいくつも持っていて、詳しい筈よ?」


俺が考えていると、上月が左門についての情報を教えてくれた。


「なら、左門も共犯の可能性が高いな。ただ、証拠がないんだよな。実際に奴らが職員室から原稿を持ち去るところを見たとかなら、ともかく…。」


「今の状況だと、千堂さんがやったと主張するのは難しいわね。彼女は、教育委員長の娘だし、余程の証拠がないと、教頭先生も強く言いにくいかもしれないし…。

千堂さんの主張が通るか、その小説を提出するのが難しい状況になる事も考えられるわ…。」


渋い顔を見合わせて、新谷先生とあまり思わしくない状況を確認していると、上月が涙ながら、悲痛な叫びを上げた。


「そんなっ!!

あの作品だけは、絶対にお蔵入りさせたくないっっ!!ううっ。なんでよぉ…?

私にはもう小説しかないのにっ!!」


「…!!」

「上月先輩…。」

「「ううっ。ぶちょぉ…。」」


上月の言葉に胸を抉られるような痛みを感じながら、俺もあの作品=『翼の兄弟』だけは、なんとしてでも守りたいと強く心に思った。


顔を覆って啜り泣いている上月に呼びかけた。


「上月、落ち着け!取り乱したら、奴らの思う壺だ。こう提案をしてみてはどうだろう…?」


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇

         

京太郎から、思わぬ提案をされた私は不安な気持ちを抱えつつ、顧問の先生と共に、盗作疑惑についての話し合いをしに職員室に向かった。


話し合いの場で向かいの席に座った千堂さんは、女生徒に人気のイケメン英語教師、蓮水先生にもたれ掛かって泣き真似をしていた。


「ううっ。私、信じられませんっ。一生懸命書いた小説がこんな事になって、私も疑われる事になるなんてっ…。」


「千堂さん、落ち着いて?きちんと話してくれれば、君が無実だって絶対分かってくれるからね?」


蓮水先生は同情した様子で彼女の背中をポンと叩きながら慰めている。


っていうか、人の作品を盗作しといて、信じられないのはこっちよ!

蓮水先生も彼女の泣き真似にすっかり騙されてしまって、目が節穴としか思えない。


「私は、盗作なんてやっていませんっ!」


「そうです!上月さんの方が被害者なんですけど?彼女は、一年近くも前からこの作品を

作っていました。やっと完成させた作品を盗作したなんて言われて今、彼女がどんなにショックを受けているか分かりますか?」


私が千堂さんを睨んで、主張すると、新谷先生が援護をしてくれた。


「わああっ…!!私が一年近くも前から作っていた作品を盗作して、前から作っていたように先生に報告していたんでしょうっ?やることが卑怯だわっ。」


「千堂さん、泣かないで…。」


「ま、まぁまぁ、二人共落ち着いて。

我々は、話を聞きたいだけなんだ。」


「ああ…。とにかく千堂さん、泣き止んで?(教育委員長の娘を泣かせてしまって、後で処分受けないかな?)」


校長も教頭もオロオロして、やはり千堂さんを気遣っているようだった。


「ううっ…。無実を主張したとしても、証拠はないし、上月さんは、やってないって言うばかり…。どうしようもないじゃありませんか…。上月さんがどうしてそんな事をしたかは分かりませんが、こうなってしまった以上、彼女を責めても仕方ありません。


残念ですが、今回のコンクール、この作品を提出するのは見送ります…。」


「「「「「!!」」」」」


千堂さんの言葉に、その場にいる全員が息を飲んだ。


「こちらの作品程の出来ではありませんが、もう一つ作品を書いていましたので、そちらを提出する事にします。」


「「千堂さん…!」」


校長、教頭は事態が丸く収まりそうな気配に明らかにホッとしている様子だった。


「千堂さん、本当にそれでいいのかい?」


「はい。ですから、これ以上、先生方も上月さんを追求しないで下さい。彼女もいい作品が作れず、悩んだ末にした事でしょうから…。」


「千堂さん、優しい子だね…。」


蓮水先生は、理不尽な出来事にも人を恨まない気丈で心美しい少女を演じる千堂さんに

感動した様子で胸を押さえていた。


だけど、ちょっと待って!?


一年近くも前から作っていた思い入れのある作品を盗作されて、それをあっさりなかった事にするなんて、出来ると思う?


本当の作者だったらそんな事、絶対に出来ないわ!


始めから、千堂さんの狙いは、私の作品をコンクールに出させないようにする事だったんだ。


「じゃあ、上月さん、今回の事は追求しない代わりに、今回のコンクールは見送るという事でいいかな?」


「千堂さんが優しい子でよかったね?自分でやった事はよくよく反省するようにね?」


校長先生も教頭先生も、私の事を犯人だと半ば確定するような言葉を掛けて来た。


「校長先生、教頭先生、何言ってるんですか!それじゃ、上月さんが盗作したみたいじゃありませんか…!違うって言って…!」

「先生…、大丈夫です。」


新谷先生が抗議してくれようとしたが、私は先生に大きく頷いた。


「上月さん…。」


「コンクールを見送るのは待って下さい…!証拠はなくても、どちらがこの作品の作者か判定する方法はあります!」


私は職員室に響き渡る大声で高らかに宣言をした。


「コンクールの締め切りまでには、まだ

日数が10日程あります。

今からこの小説の続きを五千字程度書いて、一週間後、皆の見ている前で発表するのはどうでしょう?

本当の作者なら、登場人物や、今までのストーリーに違和感のないものを書ける筈です。


両者の作品を他の人に評価してもらい、出来の良い方を作者としたらいいのでは?」


「なっ。何ですって!?」


「「「!??」」」


私の奇抜な提案に、千堂さんは驚愕の表情を浮かべ、立ち上がり、

校長先生、教頭先生、蓮水先生は驚きのあまり、絶句していた。


「い、い、いや〜、そ、そんな方法で犯人を特定するのは、は前代未聞で…。」


校長先生がハンカチで汗を拭きながらどうしたものかと困っていると…。


ガラッ!


「失礼します!」


突然職員室のドアが開いて長身ポニーテールの女生徒が入って来て、私達の方に進み出た。


「お取り込み中、すみません。風紀委員です。校内見回りチェックの書類を提出しに来たんですが、偶然お話聞いて感じ入ってしまいました!


どちらかの意見を握り潰すことなく、両者の主張を公平に聞かれる先生方は、本当に教師の鑑ですね?」


「え?いやー…。ハハッ。」

「えーと…。いや、そう…かな?」


ハキハキ話す女生徒の勢いに、校長先生も教頭先生も飲まれてしまっているようだった。


「そういう事なら、一週間後の判定、ぜひ風紀委員にも参加させて下さい。生徒の代表として!」


有無を言わさぬニッコリ笑顔を浮かべて先生達に詰め寄ったのは、私の苦手な風紀委員長の白瀬先輩だった。





*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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