第182話 茶髪美少女は上月彩梅の心情を知る
小さい頃からずっと大好きだった京ちゃんの彼女♡になった私=氷川芽衣子(15)
嘘コク設定上だけど。
本来なら幸せ絶頂の筈が、
嘘コク7人目=ラスボスの上、京ちゃんの元カノで読書同好会の部長、上月彩梅先輩に
何故か執拗に付き纏われて困っている。
昨日、ボーリング大会の後、辛くも上月先輩ひ勝利を収めた後、京ちゃんに私が幼馴染みのめーこだと、告白しようとすると、またもすごくいいタイミングで邪魔されてしまった。上月先輩から電話がかかってきたのだ。
内容は、作品作りの事だったけど、私と京ちゃんが、帰っている途中と知っててかけてくるなんて絶対おかしい。
京ちゃんとの仲を嫉妬して、邪魔をする為にかけて来たとしか思えない。
結局、その場ではその事を告白できずじまいだった。
帰ってからも何度も着信があったので、上月先輩に抗議しようと電話をするも、そのまま作品作りについて長時間話され、難しい国語の宿題があるからと電話を切ろうとすると、何故か丁寧に課題について解説され、終わるまで手伝ってもらい、ワケが分からなかった。
もしかして、私が京ちゃんに電話で接触するのを阻止しようとしているのかと思い、今日は京ちゃんに電話をかける予定はないと言うと、ホッとしたように「じゃあ、もう遅いから、また明日ね?」と電話を切られ、どうやらドンピシャのようだった。
そして今日、休み時間の間相談をしようと、京ちゃんの教室の前に行くと、毎回上月先輩が待ち構えていて、邪魔をされ、二人きりになれなかった。
昼休みも同じようになるのかとどんよりしていると、京ちゃんのお友達に声をかけられ、その彼女さん達も含めたと合同のランチを誘われ、二つ返事でOKした。
そして、彼らとその話をしている間は、上月先輩を近くに見かけたが、接触してこないようだった。
お昼休み、二人きりではないけれど、京ちゃんと少しイチャイチャ出来て、鋭気を養った。
お友達のマサさん、スギさんもその彼女さんのマコさん、アミさんもとてもいい方達で
私と京ちゃんの仲を祝福してくれ、今度トリプルデートもやりたいねっていう話もした。
そんな楽しい企画の為にも、今のこの状況を打開して、京ちゃんとのラブラブ時間を確保しなければ!と意気込んだ私は、
ちょうど京ちゃんに、今日は部室に別々に向かおうと提案された事もあり、その間に彼女と対峙する事を決意した。
そして放課後ー。
「教室間違えてるわよ。矢口の教室はあっち。」
教室の前で私を見つけた上月先輩は、何だか、さっきより疲れたような顔で、京ちゃんの教室の方を指差した。
「いえ、合ってます。上月先輩に会いに来たんです。少しお話いいですか?」
私は決然とした表情で上月先輩と向き合った。
「いいわよ? じゃあ、ちょっと、屋上に付き合ってもらってもいいかしら?」
*
*
屋上には他には誰もおらず、上月先輩は、青空を遠い目で見上げながら語り出した。
「ここ、暑い時期も風が通って過ごし易くていいわよね?私、以前はここでよく小説を書いていたのよ。そこの階段のところで、矢口と出くわして、読書同好会に誘う事になったの…。」
「そ、そうなんですね…。」
付き合うまでの仲になった京ちゃんと上月先輩との出会いを私は胸の痛む思いで聞いた。
私が固い表情になっているのに気付いたのか、上月先輩は、苦笑いを浮かべ謝ってきた。
「ふふっ。ごめんなさい。そんな話、聞きたくないわよね。今では、ここはあなたと矢口がいつもお弁当を食べて楽しく過ごしている場所なんですものね。それで、話って何?」
上月先輩のどこか悄然とした様子に戸惑いながらも、私は話を切り出した。
「え、ええ…。単刀直入にお聞きしますが、何故、私に執拗に干渉してくるんですか?
昨日だって、京先輩と一緒にいる時も家に帰ってからも何度も電話してくるし、はっきり言って迷惑なんですが…!」
きっと上月先輩を睨んで問い詰める私に、彼女は、腕組みをして言い返して来た。
「あら、初心者だっていうから、作品作りの事を教えてあげようとしただけなのに心外だわ。宿題だって教えてあげたのに…。
あなた、あのままだったら、源氏物語の冒頭部分の「
「そ、それはもう言わないで下さいっ!!///」
私は上月先輩に思わぬ逆襲を受け、顔から火が出る思いだった。
彼女は好きな文章であれば結構長文章でも意訳と共に覚えているしまうらしくって、昨日はまるで音声ガイダンスのように正確に、ポンコツな私の宿題の誤りを正し、正しい解答を教えてくれたのだった。
「いや、その点のみに関しては大変有り難かったですがっ!//
今日は、休み時間まで京先輩との時間を邪魔して来て、上月先輩の行動は明らかにおかしいでしょう?
京先輩の事をまだ好きで、嫉妬して私との仲を邪魔して来てるようにしか思えないんですけど、どうなんですかっ?」
私がそう言って詰め寄ると、上月先輩は悲しそうな表情になった。
「矢口と同じ事聞いてくるのね?
お姫様を守るヒーローよろしく、さっき、あなたに干渉しないように矢口に責められたわ。」
「え。///」
「あなたが、昨日の放課後、廊下で柳沢さんと何かを企んでいるような話をしていたわよね?」
「!!」
「私はてっきりあなたが矢口に嘘コクをするのかと思って、それを阻止しようと思って
いたのだけど…。」
「上月先輩、それは誤解です!私は…。」
「ええ。あなた達、嘘コク設定上の彼氏彼女なんですって?
あなた達の付き合いがどんなに非常識でも、
もう、私は馬鹿らしいから関わりたくないわ。
本当に彼は私以外の嘘コク女子には優しいわよね?」
言外に、京ちゃんへの非難の響きを感じて私は、思わずムッとして上月先輩に言い返した。
「京先輩は、私だけでなく誰に対しても優しくて誠実です。上月先輩に対してもそうだった筈ですよ?
嘘コクだと言って、京先輩を傷つけたのはそっちじゃないですか!」
「そうせざるを得ない状況にしたのは、矢口よ!
付き合う事になって、思い知ったのは、今まで彼がどれだけ、嘘コクの噂の出た女子と関わりが深いのかって事だったわ。
柳沢さんは、彼氏がいるくせにしょっちゅう矢口を気にかけて来るし、
風紀委員長の白瀬先輩とは妙に親しげだし、
図書委員の女の子とは、別れたカップルみたいな妙な雰囲気でお互いに避けているし、
私にちゃんと向き合って付き合ってくれてる気が全然しなかった!
だから、私もいっその事私も嘘コクだと言えば、どれだけ辛いか分かってもらえると思って…!」
「そ、それが理由で…、京先輩に嘘コクだなんて言ったんですか…!?」
私は上月先輩が京ちゃんを傷付けた理由を初めて知って、目を見開いた。
「ええ。嘘コクをしてきたような柳沢さんと平気で仲良くできるあなたには分からないでしょうけどね…。」
「わ、私だってその気持ちはよく分かりますし、平気なんかじゃありませんよ…?
柳沢先輩がいつも京先輩を心配している事は今でも気になります。
神じょ…、図書委員の先輩と京先輩は過去に何があったのかと思うと辛い気持ちになりました。
白瀬先輩の事を憧れの目で見ている京先輩にはモヤモヤしました。
でも、彼女達との付き合いがあって、今の京先輩があると思えば、辛くても全部を否定できないじゃないですか!
京先輩だって、嘘コクされた女子と何も思わずに今の付き合いをしているわけじゃないと思います。
嘘コクされた事が彼の中で傷になっていないわけない。彼なりの葛藤があって、今の関係に辿り着いた筈です。
それなのに、嘘コクという一番ひどい方法で京先輩を傷つけたあなたをやっぱり私は許せません!!」
「人の事を言えるの?嘘コクの付き合いをしているのは、あなただって同じでしょう!?」
「それしか方法がなかったんです。
嫉妬の感情のままに京先輩を傷付けたあなたとは違います!」
「ご立派ね…!一つのエゴもなく、ただ矢口の幸せのみを願えるというなら、もし矢口があなた以外の女の子を選んで幸せになれるとしたら、あなたは矢口もその女の子も傷付けずに、そっと身を引くって事かしら?」
「そ、それは…!」
上月先輩の挑むような視線を受け、私の心は大きく揺れ、答えを躊躇った。
「嘘よ…。矢口はあなたの事をとても大事に思っているわ。他の女子を選ぶなんてあり得ない。もうあなたにも、矢口にも干渉しないから安心して。」
「上月先輩…。」
上月先輩が、目を伏せて悲しげにそう言うのを聞き、私は彼女がまだ京ちゃんへの想いを残しているのだと感じた。
「ただ、活動中は二人でイチャイチャするのは控えてちょうだいね。
元々は興味なかったんでしょうけど、あなたもきっかけはどうあれ、読書同好会に入ったなら、真面目に作品作りに取り組んで欲しいと思うし…。」
「は、はいっ。もちろんです!」
元々は本とか作品作りとかに興味がなかった事を見抜かれ、ギクッとしながらも、私は大きく頷き、そんな私に上月先輩は弱々しく微笑んだ。
「じゃあ少し遅くなってしまったけど、部活に行きましょうか?」
「は、はい…。」
京ちゃんを巡って言い合いをしてしまった後に部活とか気まずいなぁと思いながら、屋上の扉から校内へ入って行く上月先輩の後に続いた。
しばらく無言で部室に向かっていたが、途中で上月先輩がふいに振り向いて、私に話しかけて来た。
「そういえば、紅さんと碧さんが、あなたの作品に興味津々で、制作したら、ぜひ見せて欲しいと言っていたわよ?」
「えっ。そうなんですか?有難いです!」
私は紅先輩と碧先輩の可愛らしい笑顔を思い浮かべ、少し和んでしまった。
「私も、もうコンクール用の小説も提出したし、部誌用の原稿も終わっていて、今のところやる事はないから、感想とアドバイス言うぐらいは出来るから、よかったら頼ってね?」
「え?えっと…。」
私は返事を少し躊躇った。
「心配しなくても、もう長時間拘束したりしないわよ?私が信用できないならいいけど…。」
上月先輩は気まずそうにそう言うとふいっと視線を逸らした。
「ええっと、そうではなくて…。」
上月先輩が純粋に好意で申し出てくれる事は分かっている。
ただ、私がこれから作ろうと思っていた作品は、京ちゃんを想った恋の詩で、それをまだ京ちゃんに想いを残している上月先輩に相談していいものかどうかと思い、困っていると…。
「上月さんったら、本当に信じられない事をするわね?」
「千堂、言いがかりはよせよ!」
「上月さん、自分の所業がバレてまさか逃げたんじゃないでしょうね?」
「「部長は、そんな事しません!」」
「「!??」」
部室近くまで来たところ、廊下で京ちゃん、紅先輩、碧先輩と、文芸部の千堂先輩、左門先輩が何やらひどく揉めていた。
上月先輩は、慌てて進み出ると、千堂先輩左門先輩の前に立ちはだかった。
「なっ、何?私はここだけど、あなた達、何を騒いでいるの!?ここは文芸部の部室じゃないわよ?早く自分達の部室に帰りなさい!」
「上月…!」
「「部長…!」」
京ちゃんと紅先輩、碧先輩が困った顔で上月先輩を見遣り、千堂先輩と左門先輩は、その顔に悪意ある笑みを浮かべた。
「あら、上月さん、逃げたかと思ったわ。
人の作品を盗作しておいてよくもそんな事言えるわね!!」
「本当です。泥棒猫の癖に面の皮が厚いですね。」
「はあっ?盗作!?あなた達は一体何を言っているのっ?!」
「!!?」
上月先輩は、信じられない事を聞いたように目を見開き、私はその様子をただオロオロしながら見守るばかりだった。
*おまけ話*
「うーん。京ちゃんと、上月先輩の過去の話は分かったけど、好きな人とせっかく付き合えたのに、いくら嘘コク女子達と距離が近いからと言って、その翌日に振るような事するかなぁ?誰か煽った人がいるんじゃないかなぁ…。」
上月彩梅の話を聞いた後も腑に落ちない事がある芽衣子。
そこへ、秋川からLI○Eメールが届く。
『組長。姉御様。お久しぶりです。
あれから、御二人様におかれましても大山様におかれましてもお元気でいらっしゃりますでしょうか?
絶賛反省中の身の上でありますが、あれから、スミレちゃんの指導の元、歌、踊りに邁進し、原付免許も取得致しました。
何か皆様のお役に立てる事がありましたら、
宴会芸や、アッシー、パシリなど何でも致しますので、いつでもご用命下さいませ。
あなたの奴隷 ☆ 秋川 栗珠』
「はあっ。相変わらずリア充アピールなのか、何なのか分からないメールを…。
あなたの奴隷 ☆とか返信に困るなぁ…。まぁ、ちょうど聞きたい事もあるし、連絡してみるか…。」
秋川からのメールをげんなりしながら見遣ると、芽衣子は彼女に電話をかけた。
『あっ。は、はいっ!姉御様!早速ご用命ではすか?原付で北海道までお連れしましょうか?』
電話に出た途端、声を上擦らせ、よく分からない事を申し出てくる秋川に突っ込む芽衣子。
「秋川先輩、行かなくていいです!○曜どうでしょうじゃないんですから!!
そもそも原付二人乗り禁止ですから!!
それより、嘘コク7人目の噂について聞きたいんですが、あの噂を流したのは秋川先輩ですか?」
『い、いえ、違います!嘘コク6人目と嘘コク7人目に関しては、噂を広げたのは私ではありません。本当です!
嘘コク7人目の時は、学校の昇降口で上月さんが嘘コクだと大声で話していたのを多くの生徒に目撃され、翌日自然に噂になっておりました。
当時、私は白瀬様、大山様を陥れる画策をしておりまして、他の悪巧みをする余裕がありませんでしたので、嘘コク7人目の噂に関しては、私は何もしておりません!』
「ああ…。そう言えば、秋川先輩、風紀委員に悪巧みしていたの、その時期でしたね…。」
他の悪巧みをしていたから、他の悪巧みをする余裕がなかったとかしれっと言う秋川先輩に呆れながらも、彼女の必死の訴えに頷く芽衣子。
『も、申し訳ありません!』
「いいんですよ?正直に話してもらえるのであれば。」
芽衣子はニッコリ笑い、電話口で頷いた。
「嘘コク7人目の噂に関しては、何もしていないんですね?なら、嘘コク7人目に関して何ならしたんですか?」
『ひ、ひぐっ!!』
「教えて下さいね?秋川先輩☆」
ぶりっ子調に語りかける芽衣子に電話の向こうでガクブルしている様子の秋川。
*
*
「はあ…!それは余計な事を言ったものですね?!あなたはいくつ余罪があるんですかっ!?」
『あぐふうぅっ!!申し訳ありませんでしたぁ…!!ええぅっ…!この場で死んでお詫びしますぅっ!!チキチキ…。』
「いや、カッターでリスカは逆に迷惑だから、やめて下さい!!」
号泣しながら、カッターの刃を出し始めているらしい秋川を慌てて止める芽衣子。
『は、はいぃ…。では、代わりの罰を与えて下さいっ!!』
「それは、京先輩と上月先輩が決める事ですから、相談してみないと、何とも言えません。沙汰は追ってお伝えします。
私からは取り敢えず繋ぎの罰として…。」
『繋ぎの罰?!』
「怖い話が苦手な秋川先輩に、私の制作したホラー話をお聞かせします。メリーさんのお話です。」
『い、いやああぁっ!!!それだけはあぁっ!!||||』
芽衣子に最悪の罰を言い渡され、恐怖に慄く秋川。
*
*
「「もしもし。私メリーさん。メエェリさんのひつじぃ〜☠ひつじいぃい〜☠」」
※芽衣子は破壊的に音痴です。
『いやああぁーっっ!!独特の節回しが怖いいっ!!!もう、やめてーーっっ!!!』
芽衣子のホラー話(?)に泣き叫ぶ秋川。
*
秋川との電話を切り、息をつく芽衣子。
「ふうっ。読書同好会の皆にはこれ、ホラーじゃないって言われちゃったんだよね。
罰としては甘過ぎたかな?とにかく、この件は京ちゃんに知らせとこう…。」
そして、秋川は…。
「うわああぁん!!あの歌が耳から離れない!夜、おトイレに行くの怖いよおぉ!!」
一週間連続でおねしょしましたとさ…。
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