第179話 上月彩梅 二日間の交際の最悪な終わり《前編》
「京太郎、お昼買いに行こうぜ?」
「コンビニか牛丼、どっちにする?」
「あ、ごめん、俺、今日は予定が…。」
昼休みいつものように、スギ、マサに誘われ、何と説明しよたいか俺は躊躇った。
「京太郎、何してるの?お昼食べに行きましょっ。」
「上…あ、彩梅…!」
いつの間にか、上月彩梅=昨日からお試しで付き合う事になった彼女が教室の入口から顔を出して、手招きしていた。
「彩梅…!?京太郎が、女の子を呼び捨てに…???」
「あれって、お前の部活の部長??ま、ま、まさか付き合ってるとかじゃないだろうな???」
動揺して問い詰めてくるマサとスギに、気まずい思いで答えた。
「あ、ああ…。じ、実はそうなんだ…。」
「「嘘だろ、京太郎…!?||||||||」」
衝撃のあまり、スギとマサは石化していた。
「じゃあ、今日は先約があるから、すまん。また、誘ってくれな…?」
俺はこの事で、友情に亀裂が入らないか心配しつつ、声をかけ、その場を去ろうとすると…。
「あれは、絶対嘘コクか騙されてるだろう…!ううっ。京太郎、可哀想に…!!」
「京太郎、何度瀕死の傷を受けても、戦場に戻っていってしまう孤独な戦士よ…!
また、戦いに破れて(フラレて)帰って来たら、俺達がいつでも温かく迎えてやるからな?」
「や、やめろよう…。
そんな憐れみの視線を俺に向けてくるなよう。」
友情に亀裂が入るどころか、マサとスギに泣きながら温かい言葉をかけられてしまった。
今までの経緯からか、全くその状況が甘いものだと信じられていなかった。
まぁ、俺だって、多分フラレて戻って来ると思ってしまっているんだけどな…?
「その人達は一体何を言っているの?」
彩梅は、怪訝そうな顔で首を傾げていた。
*
*
文化祭前、忙しい時は準備の傍ら、コンビニメシを手早く一緒に食べた事はあったが、
部活の仲間ではなく、彼氏彼女として、こうづ…、彩梅と中庭のベンチで二人並んで過ごすのは初めてだった。
「……」
「……」
どうしていいか分からず、お互い無言で、俺はコンビニ菓子パン、彩梅はコンビニおにぎりに齧り付いていると…。
「まーくん。あ〜ん♡」
「モグモグ。卵焼き美味しいよ。ゆっきー。ゆっきーもあ〜んして?」
「あ〜ん♡」
見れば、隣のベンチにも、カップルらしき男女がいて、手作り弁当を食べさせあいっこしていた。
俺達みたいなぎこちない雰囲気ではなく、向こうは、周りが当てられてしまいそうなラブラブな空気を醸していた。
カップル上級者はすげーな。あんなラブラブな体験、俺には一生無縁だろうなぁと思っていると…。
「京太郎…羨ましそうな顔してる…。」
「えっ!」
彩梅にジト目で指摘され、ビクッとした。
やべ。顔に出てたらしい。
「明日、お弁当作って来ようか?」
「えっ?そんな事できんの!?」
彩梅の申し出に、そんないい事が俺の身に起こり得るのかという意味合いで驚いてしまったのだが、彼女は、憤慨したようにぷーっと頬を膨らませた。
「失礼ね!私だって、お弁当ぐらいは作れるわよ。たまにお母さんが仕事遅いときは弟の分まで私がご飯作る事もあるし。」
「そうなんだ。彩梅すごいな…!」
料理のからきし出来ない俺は、素直に感心してしまった。
「京太郎、私の事、女子力低いと思ってるでしょ?」
「そそ、そんな事は…。」
彩梅に睨まれ、俺は気まずく目を逸らした。
ごめん。あんまり女の子らしいイメージは持ってなかったかも。
男子に興味ないと思ってたから、告白されてすげービックリしたし…。
「一応、これでも、か、『彼女』なんだからさ、私だって京太郎の為にやってあげられる事があるなら、やってあげたいと思う…わよ?」
「お、おう…。おう…?」
ほんのり頬を染め、チラチラッとこちらを窺ってくる彩梅に戸惑い、どう対応したものかと、目を白黒させていると、ツインテールの女生徒と男子生徒が連れ立って向こうから歩いて来るのが視界に入った。
「白鳥くんって、発想力があるんだね?その新聞部の企画すご〜く面白そう…♪
私興味あるなぁ…♡詳しく教えて?」
「いやー、ハハハ!じゃ、ちょっとだけ秋川さんに教えちゃおうかなぁ?」
!!? 秋川…!!
男子生徒に擦り寄るようにしていた秋川は、俺と目が合うと、目を丸くした。
「あっれぇ?矢口くんじゃない?読書同好会の部長さんも…?どうして、一緒にお昼食べてるの?もしかして、二人、付き合ってる…とかぁ…??」
「え?嘘コクの矢口くん、部活の部長さんと付き合ってるの?」
「「!!」」
ニヤッと邪な笑みを浮かべた秋川と興味津々の男子生徒に、危機感を覚えた俺は即座に否定した。
「何言ってんだよ。同じ部活なんだから、昼飯食べたっておかしくないだろ?変に邪推するなよ?秋川!」
「…!」
「へーぇ、あっ。そうなんだぁ…。二人共ごめんね?ただの部活仲間の間柄なのに、付き合ってるなんて、勝手に勘違いしちゃって。
じゃねっ。
白鳥くん行こ行こっ?」
「あ、ああ…。スクープかと思ったのに残念だなぁ…。」
秋川は傍目には可愛らしく映るであろう、ニッコリ笑顔で、手を合わせて、一瞬俺にだけ分かる蔑むような笑みを見せると、男子生徒を引き連れて去って行った。
俺は、ひとまずやり過ごせた事にふうっと息をついたが…。
「ねぇ!どうして、あの人に私達の関係を事隠したの?もしかして、京太郎は、あの人の事好きなの…?」
「ええ!違うよ!そんなワケないだろ?」
今度は、彩梅に泣きそうな顔で詰め寄られ、慌てて否定した。
「あまり、人の悪口は言いたくないが、秋川は、ああ見えて危険な奴だ。俺は彼女に嫌われているから、俺と付き合っているなんて言ったら、奴がどんな嫌がらせをしてくるか分かったものじゃない。」
「ええっ。あの人、そんな人なの?」
「ああ。彩梅も充分気をつけてくれ。
ただでさえ、嘘コクの俺と付き合ってるなんて言ったら、あんまり、いいイメージないだろうし、俺と付き合ってる事は紅ちゃん、碧ちゃんとか信頼おける人以外には言わない方がいいかもしれないな…。」
「え…。そ、そうなの…。京太郎がそう言うなら分かったわ…。」
そう言いながらも彩梅の顔が、少しがっかりした様に曇った。
*
*
お昼を食べ終わると、彩梅に、図書室で部誌を展示してあるところをみたいと言われたのだが…。
彩梅と共に図書室にそろそろと、足を踏み入れると、なんと神条さんかちょうど本の返本作業をしているところだった。
あちゃー、昼休みは当番じゃないはずじゃなかった?
俺は彼女に見つからないよう、挙動不審な動きをしながら部誌を探すと、奥の一角に文化部の部誌コーナーがあって、文芸部や、将棋部、イラスト部などと並んで読書同好会の部誌が表紙が見えるように、スタンドの上に展示してあった。
周りに手作りの飾り付きのポップが添えてあり、彩梅は歓声を上げた。
「わぁっ。可愛くて、手に取りやすい感じに展示してくれてるわねっ。図書委員の人にお礼言わなきゃ。図書委員さん、すみません。」
「…!!」
彩梅が返本作業中の神条さんに声をかけたので、俺は咄嗟に、近くの本棚の陰に隠れ蹲った。
「読書同好会のものですが、図書室に部誌を展示して頂いてありがとうございました。」
「読書同好会の方…ですか?」
神条さんの驚いたような声が聞こえた。
「はい。私、部長の上月で、もう一人が部員の矢口…あれっいない??どこ行ったのかしら。すいません。」
「い、いえ…。」
「っ…!」
上月が探しているのを気まずく思いながら、俺はその場で息を殺していた。
「読書同好会さんの雑誌読ませて頂きましたよ?」
「えっ。ありがとうございます。ど、どうでしたか?」
神条さんにそう言われ、彩梅がソワソワした様子で尋ねた。
俺も神条さんに部誌を読まれたかと思うとなにか落ち着かない気分だった。
「短編小説も、詞も、書評…も、どれも本当に素晴らしくて、感銘を受けました。どんな風に作品作りをされているのか、お話をお伺いしたいと思っていました。」
「そんな風に言って頂いて嬉しいです。
図書委員さん興味があったら部活を見学にいらしたらどうですか?」
「えっ…。」
…!! 彩梅の奴余計な事を…!
俺はハラハラしながらそのやり取りを聞いていた。
「え、ええ…。興味はあるのですが、今は図書委員の活動が忙しいもので…。」
「そ、そうですか…。」
神条さんのやんわりした断りに、彩梅は、肩を落とした。
「でも、図書委員で何かご協力できるような事があれば、いつでもご相談下さいね?私、神条といいます。いつもは水曜放課後の当番をしていますので…。」
*
*
「あっ。いた!京太郎、もう、どこへ行っていたのよ?
図書委員の人に挨拶していたのに。」
図書室の入口近くで俺を見つけると、彩梅は腰に手を当てて、ぷりぷりと怒っていた。
「あっ。ごめん。急に腹が痛くなって、その場に蹲っていたんだ。」
「ええ?大丈夫?」
「ああ、直ったみたいだ…。」
「それなら、いいけど…。
神条さんていう図書委員さん、とても感じのいい人だったわよ?
読書同好会の活動にも興味持ってくれたみたいで、あわよくば入部してくれないかと思って、見学に誘ってみたんだけど、委員会が忙しいからって断られてしまったわ。残念!」
「あ、ああ…。図書委員って色んな活動してて忙しそうだし、無理は言えないよな?」
神条さんが読書同好会に入部したら、今は彩梅との事もあり、気まずくてしょうがないだろうな?
神条さんが断わってくれて内心ホッとしていた。
「そうね。それに…彼女が入部したら、京太郎は彼女の事好きになっちゃうかもしれないし…。」
「えっ。何で?!」
彩梅に俯向いてそう言われ、もしかして、神条さんとの間にあった事を知っているのかと一瞬ビクッとすると、
「彼女美人だし、その、とても大きいの…。///」
ああ、何がとは言わないが、瞬時に理解しました。
「男の子ってやっぱり大きい胸の女の子の方が好きなんでしょ?私はあんまり大きい方じゃないから、京太郎に嫌われてないか心配だわ…。」
彩梅は、俯向いて自分のそれを確認するとため息をついた。
「いや、そんな事ないだろ?男の全員が大きい胸の子が好きなワケじゃないよ。俺は寧ろ大きすぎるのは気持ち悪くて苦手だな。」
うん。たまに、青年漫画で体のバランス明らかにおかしい程大きい胸とか胸が3つある女の子とか描かれていたりするけど、さすがにあそこまでいくと、生理的に無理だわ。
俺はあり得ない設定を思い浮かべ実感を込めて彩梅にそう言うと、彼女は安心したように微笑んだ。
「ほ、本当?なら、よかったわ。他の部分で、これからできる限り女の子らしくなっていくから、京太郎、私の事見てて…ね?」
「…!!//」
頬を赤らめて、そんな可愛い事を言ってくる彩梅にドキッとした。
一瞬、思ってしまった。
もし、彩梅が俺に愛想をつかさず、そのまま
好きでいてくれて、俺の方も少しずつ彩梅を
好きになっていけるのなら、それが一番いい事なのではないかと…。
でも…。
放課後、部室で会った彼女は、別人のように暗い顔をしていた。
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