第177話 売上に協力してくれた人々

その後、紅ちゃん、碧ちゃんのご両親と、音楽関係の知り合い数名がここを訪れた。


部長の上月は、紅ちゃん碧ちゃんのお母さんであり、人気のピアニスト小倉紫苑に手を取って、丁寧に挨拶され、恐縮していた。


小倉紫苑さんは、最初は、ピアノの妨げになるのではないかと、紅ちゃん、碧ちゃんの部活を反対していたそうなのだが、部活に参加するようになって、前よりいい音を出せるようになり、今では部活に入れてよかったと思っているそうだった。


俺の顔を見ると、何を勘違いしたのか、

「恋愛は、音に艶を与えてくれるから大歓迎よ?ただし、学生の範囲内でお願いしますね?」

と言われてしまい、俺と紅ちゃん、碧ちゃんが、慌ててそんな関係じゃないと否定する一幕もあった。


俺の保護者関係では、午前中に母、凪叔父さん、京介おじさんがやって来た。


母は、上月と紅ちゃん、碧ちゃんに挨拶がてらお菓子の差し入れを渡し、

京介おじさんは、女の子ばかりの部活を羨ましがり、いらぬことばかり言って俺をからかってきた。


凪叔父さんは、部誌をパラパラめくっていたが、ふいに驚いたように目を見開いて、小説を書いた子は誰かと聞いてきた。

部長の上月だと答えると、凪叔父さんは、俺の肩をポンと叩いて、

「京太郎がこの前電話してきた訳が分かった気がするよ。色々複雑だろうけど、頑張れよ?」

とクシャッとした笑顔になり、激励をかけてきた。


凪叔父さんは、上月の小説を読んで、もしかしたら全てを悟ったのかもしれない。

見抜かれて気まずい俺は、ポリポリと頭を掻きながら頷いた。


その後はー。


「矢口!部誌、買いに来たよ♪後で、涼君も買いに来るって!」


バスケ部の女子を引き連れた柳沢。

         

        *


「おぉ!京太郎、本当に部活やってたんだな。しかも他は女の子ばっかりじゃん!」

ポヨンと腹を揺らして目を見開くマサ。

「ま、まさか…!京太郎がハーレム状態…だと!?」

メガネをスチャッとかけ直し、汗を流すスギ。


二人共、京介おじさんみたいな事言うのやめろって!

         *


「やあやあ、矢口少年!君が部活に入っていたとは…。部誌を書いているのか…!よし、ここで読ませてもらおうか…!ふむふむなかなか興味深いぞ…!!」


白瀬先輩が展示室でニッコニコの笑顔で部誌を読み始めた。


目の前で読まれるのは恥ずかしいから、やめてくれぇ!///


「矢口くん、書評書いてるんだ。すごいね?」

「矢口くん、博識なんだね?俺、あまり本は読まない方なんだけど、ここで紹介されてるの読んでみようかな?」

「私も〜!!」


大山さん、小谷くん買ってくれてありがとうだけど、それぞれ一部ずつ部誌を買ってくれてる筈なのに、一部を二人で寄り添って読んでいるのは仲睦まじ過ぎて、目の遣り場に困るんですけど…///


来てくれた風紀委員の人達には色んな意味で恥ずかしい思いをさせられたけど、

女子に絶大な影響力を持つ白瀬先輩が読書同好会の部誌が面白いと宣伝してくれたおかげか、その後、校内の女生徒が立て続けに部誌を買いに来てくれた。


そして、二日目の売上は、なんと166部!

一日目の売り上げ6部と併せて、文化祭二日間で172部の売上となった。


文化祭終了時刻、俺は満ち足りた思いで頷き、書いた売上の報告書を三人に見せた。


「「やったぁ!!172部も?!大健闘じゃないですか!」」


「よ、よかったあぁ…。」


二人抱き合って喜ぶ紅ちゃん、碧ちゃんに

ホッとしてその場に崩れ落ちる上月。


「残りは部員で4等分して7部ずつ引き取ればいいかな?」


「「はい!そうしましょう!」」

「えっ。でも、私、売上に何も貢献できてないのだから、残りは私が…!」


俺の提案に、紅ちゃん、碧ちゃんは快く返事をしてくれ、上月は反論しかけたところ…。


「ハーイ。じゃ、揉めないように、残りは私が買い取るわね♡?」


後ろから弾むような女性の声がかかった。


「「「先生!」」」


顧問の新谷良子先生だった。


「先生…。今頃登場ですか?」


部活に関しては普段から放任の新谷先生だが、顧問にも関わらず、文化祭様子を見に来たのが最後の最後だけってどうなの?


呆れ気味に半目になっている俺に、新谷先生は慌てて言い訳した。


「いや、先生も、忙しかったのよぅ!

クラスの展示も顔出さなきゃいけないし、ステージの方で先生達の出し物もあったしさぁ!決してあなた達の事を忘れてたワケじゃないのよ?部誌の事で図書委員ともやり取りがあったし。」


「え?図書委員…?」


「ええ。何でも、文化系部活の部誌を図書室で閲覧できるようにしたら、認知度も上がるし、来年の活動に向けて生徒の励みになるになるのではないかって、主張する図書委員の女の子がいてね。うちもお願いする事にしたのよ。」


「…!」


何の根拠もないのだが、その事を聞いて、その提案をしたのは、神条さんなのではないかという気がして、俺は複雑な気持ちになった。

突然の話に、上月、紅ちゃん、碧ちゃんは顔を見合わせている。


「私が引き取った部誌から、2部、図書室に回してもいいわよね?」


「え、ええ…。それは有難いですけど。

部誌、引き取るって先生にそんなご負担かけるわけには…。」


「「何だか、悪いですぅ。」」


「先生……。(うん、まぁ、俺も新谷先生にかれこれ累計10時間以上はこき使われているし、それぐらいしてもらってもいいかな…。)」


「いいのよ?私も一応これでも顧問だし、こういう時ぐらい役に立たなくっちゃね?」


俺以外の三人は躊躇っている様子だったが、新谷先生は、ニッコリ笑ってウインクをしたのだった。


          *  

          *  


文化祭から休み明けの放課後、部室に顔を出すと、会議室テーブルの席で上月が本を読んでいた。


「よう、上月。紅ちゃん、碧ちゃんは?」


「や、矢口!え、えっと…。小倉さん達は、もうすぐピアノのコンクールがあるとかで、しばらく部活にあまり参加できないって、連絡があったわ。」


俺が聞くと、上月は何故か声を上擦らせながら、緊張した様子でそう告げて来た。


「えっ。そうなのか?」


紅ちゃん、碧ちゃんのお母さん、全てにおいてピアノが最優先な感じだったもんなぁ…。

文化祭で会ったピアニストの小倉紫苑さんを思い浮かべてそういう事もあるだろうと俺は苦笑いした。


「じゃあ、しばらく二人になっちゃうな…。」

「そそ、そうね…。」


「先生に言って、しばらく部活休みにさせてもらうか?」

「えっ!?」


「だって、二人じゃ雑誌も出せないし、やる事がな…。」

「なっ、何言ってるのよ?部室の整理に、勧誘に、作品作り構想練ったり、読書で語彙を増やしたり、やる事なんて沢山あるわよ!」


「そ、そうなのか?わ、分かった。悪かったよ!」 


俺の提案は上月に怒りの内に即座に却下され、慌てて俺は謝り、

その日は、取り敢えず、文化祭で残った片付けや部室の整理をする事にして、そのまま上月と帰る流れになった。


学校からの帰り道、隣で黙りこくっている上月を横目で見ながら、俺は首を傾げていた。


今日は上月、随分静かだけどどうしたんだ?


紅ちゃん、碧ちゃんに用事がある時など、

たまに帰りが二人になる時もあるが、いつもは好きな作家の話や小説の構想の相談などをしてくるのに…。

仕方なく、こちらから話題を振ってみる事にした。


「上月、その後は、千堂達から何か変な事言われてないか?」


「えっ。//あ、ああ…、千堂さん?

『文芸部は2日目の午前中に完売したけど、そっちは在庫残っちゃったんですって?』

とか嫌味ったらしくマウント取って来たけど、相手にしなかったわ。だって、皆で頑張って作り上げた部誌をあんなに沢山の人に買って見てもらえたんだもの。それだけで充分価値のある事だと思えたから。」


「上月…!」


あんなに文芸部に対抗していた上月が、売上で文芸部に及ばなかったというのに、清々しくも満ち足りた笑顔を浮かべていて、俺はその変化に驚いた。


「どうして、文芸部に対抗して、発行部数を増やそうとして躍起にいたのか不思議なくらいよ。私には信頼できる仲間がいて、助け合って一緒に量より質の作品を作り上げて行けばいいんだって思えたの。

そう思えるようになったのは、矢口のおかげ。ありがとうね?」


珍しく素直にお礼を言ってくる上月に、俺は手を振って笑って否定した。


「ええ?何で俺?小倉さん達だろう?」


「うん。小倉さん達にも、もちろん有難いと思ってる。けど、編集や、売上の管理を引き受けてくれて、売れるような流れを作ってくれたのは、矢口だから。私なんか何も出来なかっのに、矢口って、頼りになるなぁって思ったわ。」


ぽっと頬を染めて、上目遣いで、尊敬の目で見てくる上月に面食らい、俺は思わず目を逸らした。


「い、いや、買いかぶり過ぎだよ。俺も友達や、先輩達に助けてもらっただけなんだし。」


「…!そういえば矢口の友達沢山来てたね。特に女子の…。小倉さん達も懐いているようだし、矢口って、結構モテるの?」


上月にあり得ない事を質問され、俺は笑ってしまった。


「ハハッ。モテるワケないだろう。俺の嘘コクの噂知ってるだろ?

女の子達には、たまたまあの時協力してもらえただけで、普段は、クラスの野郎とばっかりつるんでるし。」


「じゃあ、あの中に彼女とかはいないの?」


「だから、いるわけないだろうって。」


「よ、よかったぁ…。」


上月に更に追及され、俺が苦笑いを浮かべていると、彼女は、ホッと胸を撫で下ろした。


ん?何で?


「それなら、矢口、私と付き合ってくれない?」


???


あまりにも思いがけない人物からそんなセリフを言われたもので、俺はしばらく意味が理解できず、ただ目を瞬かせていた。






*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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