第171話 彼氏と彼女の帰り道
あの後、読書同好会のグループLI○Eに芽衣子ちゃんも登録してもらい、(後で、紅ちゃん、碧ちゃんボーリング場で撮った写真を送ってくれるそうだ。)解散することになった。
俺は芽衣子ちゃんと帰り、上月は勝負の約束を気にしてか、本屋に寄ってから帰る事となった。(ちなみに、紅ちゃん、碧ちゃんはお嬢様なので、帰りは家からお迎えがあり、黒塗りの高級車で帰って行った。)
ボーリング場から駅までの短い帰り道。
隣を歩く芽衣子ちゃんが、ほうっと息をついた。
「さっきは焦りましたぁ…。負けたら、元カノさんと京先輩が帰るのを泣きながら見送らなきゃいけないかと思いましたよ。勝ててよかったぁ…!!」
胸を撫で下ろしている芽衣子ちゃんに、俺は苦笑いを返した。
「いや、上月は真剣勝負をしたい為にあんな事を言っただけじゃないか?
もし、上月が勝ったとしても、俺とは帰らなかったと思うぞ?」
「そうでしょうか?上月先輩、かなり本気の目をしていたように思えましたが…。
実はまだ秘めた思いがあるんじゃないでしょうか…。」
顎に指をかけて考え込んでいる様子の彼女に、首をブンブン振って否定した。
「いやいや、ないない!以前付き合っていたっていっても、たった2日だし、今や上月は俺を嫌っているんだから…。
でも、芽衣子ちゃん、俺と上月の事そんなに心配してたんだね。」
「え。いや、そりゃ、心配しますよ。私は(嘘コク設定上の)京先輩の彼女…なんですから!///」
真っ赤になって狼狽えている彼女は、本当に可愛いなと思った。
前から、惹かれてはいたが、嘘コク設定上とはいえ、付き合う事になってから彼女の事が輪をかけて可愛く尊く見えるようになった。
「そっか…//ありがとうね。さっき、俺の為に一生懸命勝負してくれてる芽衣子ちゃん見てたら、ドキドキしたよ…。」
「え、ええ??///(京ちゃんったら、さっきから殺し文句ばっかり連発し過ぎぃ…!これ以上ドキドキさせられたら、私、死んじゃうよぉ…!)」
「何か、すげー男だなって!!」
「ううっ…!男って言わないでぇっ…!!(上げて落とす奴だったぁ…!)」
俺は拳を握りしめて、最大限の賛辞を送ったつもりだったが、芽衣子ちゃんは泣き崩れた。
「あ、いや、ごめん、!か、カッコイイって言いたかったんだよ!泣かないで、芽衣子ちゃん…!」
やべ。失言しちった。
今日から付き合う彼女に流石に「男だな」は、なかったよな。
俺が慌ててしゃがみ込んで泣いている芽衣子ちゃんを宥めていると、芽衣子ちゃんはぷーと頬を膨らませて涙目で、こちらを睨んで来た。
「いえ、許しません…!えいっ!!」
「ええっ…! うわっ…芽衣子ちゃん?!」
彼女は立ち上がり、オロオロする俺の背中に手を回し、思い切り抱き着いて来た。
ぽむぽむん!フニュン!
彼女の甘い香りが鼻孔をくすぐり、どこもかしこも柔らかい、彼女の体が俺の体に密着する。
ああ…!男なんて言って大変すみませんでした。君は確かに女の子!女の子です…!!
素晴らしい感触や匂いに五感を支配されながら、その事を全身に思い知らされていると、彼女は、俺の胸に真っ赤な顔を押し付けながら、ゴニョゴニョとつぶやいた。
「私の話を聞き終わるまで、許しても離してもあげません…。///」
「!!///」
「今日のお昼、京先輩に最後の嘘コクミッションと、大事なお話の為に、私がどれだけ緊張していたか分かりますか?
せっかく想いが叶って、京先輩と嘘コクでお付き合い出来る事になって喜んでいたら、大事な話の最中に、元カノの上月先輩が乱入して、京先輩は、彼女を名前呼びするし…。」
「ご、ごめん。でも、思わず呼んだだけで、俺もう、彼女とは…。」
「分かっています。それでも、不安は不安なんですよ?京先輩は、優しいから他の女の子が困っていると、助けに行ってあげて次々と惚れさせてしまいそうです…。」
芽衣子ちゃんは、ぎゅうっとさらに力を込めてしがみついて来て、俺は胸がズキッと痛んだ。
「芽衣子ちゃん…。いくら嘘コク設定とはいえ、俺だって何も考えずに、芽衣子ちゃんと付き合う事にしたんじゃない。
今の彼女は芽衣子ちゃんなんだから、他の女の子にふらついたりしないし、そもそも俺そんなモテないし、心配する必要はないと思うよ?」
「ま、まぁ京先輩が誠実な方のは分かっているんですが…。あっ。クウゥ〜ン…♡クウンクウン♡♡」
芽衣子ちゃんの不安を少しでも和らげようと、ポニーテールにした頭を撫でると、芽衣子ちゃんは、甘えた声を出し、俺の夏服シャツの胸にマーキングするように、スリスリと顔を擦り寄せてきた。
「め、芽衣子ちゃん、くすぐったいよ…。」
くうっ。めちゃくちゃ可愛いなぁ♡♡
愛おしさが込み上げながら、クシャクシャになった芽衣子ちゃんの前髪を撫でながら直していると、彼女はふいに深刻な表情で俺を見上げて来た。
「ごめんなさい。本当は、私に京先輩に怒る権利なんかないんです。」
「芽衣子ちゃん?」
彼女は、俺にしがみついたまま、震えていた。
「今まで本当の自分を隠して京先輩に近付いていたんですから…。
でも、それももう限界です。例え、京先輩に嫌われても、嘘コク設定の交際を破棄されてしまったとしても、私は真実を告げなければなりません。
京先輩を過去の呪縛から解放してあげたいですし、京先輩のお母さんにも不誠実になってしまいます。
そろそろ、お母さんの馬の呪いも解いてあげなければなりませんし…。」
「??芽衣子ちゃん、君は何を言って…。」
「私は、幼馴染みのめー…。」
ブーッ。ブーッ。ブーッ。
彼女が何か言いかけた言葉を、芽衣子ちゃんのスマホのバイブ音がかき消した。
「くっふぅ…!な、何故このタイミングで着信…。も、もしや…。」
芽衣子ちゃんが脱力しながら、スマホの画面を見ると、げんなりした表情で教えてくれた。
「やっぱり、上月先輩です…l||l
ごめんなさい。ちょっと出てもいいですか…?」
「上月?あ、ああ…。いいけど。」
「はい。氷川ですけど、上月先輩?一体何の用事でしょうか?あの、今、京先輩とすっごく大事な話をしていた最中だったんですけど…!
急ぎでなかったら、後にしてもらえませんでしょうか?
はっ?いや、読み上げ機能つきのの電子書籍アプリ?それは有り難いですけど、明らかに急ぎではないですよね?
いや、善は急げじゃないんですよ。今から3時間なんて無理ですからぁっ!ちょっ!聞いてますか?あのっ!」
「どうした?芽衣子ちゃん?」
芽衣子ちゃんがキレ気味にテンパっている電話のやり取りに気になって、声をかけると、
芽衣子ちゃんが途方に暮れた様子で俺にスマホの画面を向けて来た。
『次の詩の文章を声に出してよんでみましょう…。「静かな湖畔に朝が訪れ…」』
スマホからは、上月の声ではなく、プロの読み手が何かの本を読見上げているような音声が流れて来た。
「何だ?これ??」
「それが、上月先輩が、私が借りた本の文章を読み上げてくれるタイプの電子書籍を持っている事を思い出したそうで、今からライン電話で3時間分流すから聞いててくれと言うんです。」
「はあぁ?何だ、ソレ?!」
芽衣子ちゃんの説明に、俺は目を剥いた。
「何考えてんだ?上月の奴は…!!」
俺は上月に携帯番号の方で電話をするものの、繋がらない。
「仕方ない。メールで、すぐ止めるように伝えておくよ。芽衣子ちゃん。電話切っていいよ。」
「は、はい…。上月先輩、やっぱり京先輩と私が一緒に帰るのが気に入らないんでしょうか…。」
「いや、それはないと思うけどな…。
以前から文学に対しては熱すぎるところが、あったから、芽衣子ちゃんに教えたい気持ちが高じての事だと思うけど、
流石に、これは行き過ぎだよな…。」
俺と芽衣子ちゃんは、困った顔を見合わせた。
*あとがき*
今週は、特に沢山の方に読んで頂きましてありがとうございます✨✨
久々にランキング200番代になり、ビックリしました。
レビューやコメント、フォロー、応援下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
読者の皆様に楽しんで頂ける作品を書いていきたいと思いますので、
今後ともどうかよろしくお願いします。
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