第170話 ボーリング初心者の罠《結果編》

上月に何故か俺と一緒に帰る権利を賭けて、ボーリング勝負を持ち掛けられ、勝負魂に火がついた芽衣子ちゃんは、動き易いように髪をポニーテールにまとめ、きりっとボールを構えた。


「京先輩とのお帰りデート権は渡しません!!この一球にわたしの全てを込めます!

とおりゃああっ!!」


ゴロゴロゴロ……。


「ああ〜、どんどん逸れてくうぅっ!💦」


芽衣子ちゃんの気合の入った投球は、レーンの右寄りに外れていき、またガーターになるかに見えたが…。


コーン!ガシャン!!


「「「「「!!」」」」」


なんとか直前まで持ちこたえ、右端一本のピンを倒す事が出来た。


「や、やったぁ!京先輩、一本倒しましたよ!!」


芽衣子ちゃんは、涙目で喜び、ポニーテールの髪を揺らしてぴょんぴょん跳ねている。

(チラッと何か白い布地が見えた気がするが、俺の気のせいだろう…。)


「芽衣子ちゃん、やったな!!」


「ハイ!京先輩コーチのおかげです!!」


パチンと俺と芽衣子ちゃんは、ハイタッチを交わした。


「「氷川さんすごーい!おめでとうございます!!」」


紅ちゃん碧ちゃんは、パチパチと温かな拍手を送っている。


「むむ。氷川さんやるわね…。」


上月は、悔しそうに顔を歪めている。


「私だって、読書同好会の部長として、この試合負けられないわ!

ふんぬぅぅっっ〜!」


上月は、思い切り腕を振り上げ、ボールをレーンに落とした。


コロコロコロ…。


「ああっ。左に逸れていってしまうわ…。」


気合の入った動作の割に勢いの弱々しいそのボールは、少しずつレーンの左寄りになっていったが…。


コーン!カシャン!!


「「「「「!!」」」」」


これまた、ぎりぎりで踏み留まり、左端のピンを一本倒す事が出来た。


「やった!やったわ、矢口!!今の見た?私だってやれば出来るのよ?」


上月はぱあっと顔を輝かせ、ショートボブの髪を揺らして、ぴょんぴょんと跳ねている。


(チラッとグレーと白のストライプの何かの布地が見えた気がするが、多分気のせいだろう。)


「お、おお…。上月、頑張ったな!すごいすごい!」


珍しく感情を露わに喜んでいる上月に戸惑いながらも、俺は上月ともハイタッチを交わした。


「「部長もすごーい!おめでとうございます!!」」


紅ちゃんと碧ちゃんは上月にもパチパチと温かな拍手を送った。


「むむ。上月先輩、ツンからの満面の笑顔デレ!やりますね…。」


芽衣子ちゃんは、何か違うところを悔しがっていた。


次は俺の番だった。


「あっ。逸れちった。」


ゴロゴロゴロ…ガシャシャン!!


二人の勢いに圧倒されて、自分の番で気の抜けた投球をしてしまい、3本しか倒せなかった俺だったが…。


「京先輩!3本も!!素晴らし過ぎます!!天才ですか?!」

「矢口、凄いわ思わぬところで才能があったのね…!!」

「「矢口くん、凄いですぅ!!」」


「え。い、いや、(ホントに)それ程でも…。」


4人の女子達から即座にべた褒めされ、俺は面食らった。

いや、ストライクならまだしも、失敗した投球でそんなに褒められても…。


俺達があまりにテンション高く騒いでいた為、周りででゲームをしている人達に目を丸くして見られ、ちょっと恥ずかしかった。


ヤバイ。褒め殺しってこういう事か?

逆に恥ずかしくなっちゃうから、彼女達の褒め言葉に相応しい投球をしなければ…と、変な気合の入り方をした俺だった…。


それからも女子達の攻防は続いた。


「コ○モを燃やせ!!新入部員アタック!!」


ゴロゴロ…ガシャン!


「コー○の前では平気なの!!部長アタック!!」


コロコロ…カシャン!


芽衣子ちゃんと上月は試合に熱中し、それぞれ訳の分からない事を叫びながら、投球を重ねた結果…。



「うわあぁ〜ん。やったああぁっ!!」


ガッツポーズを取り、涙を流している芽衣子ちゃん。


「くうぅっ…!!最後、失速してしまったわ…。」


拳を握り締め、悔しがっている上月の姿があった。


それぞれのスコアは、


芽衣子ちゃん(紅ちゃんの分も含め)36

上月    (碧ちゃんの分も含め)30

俺                101


という結果になった。


あれから、女子達は一投につき一本ピンを倒すという妙技を連発し、

上月は後半疲れが出て、ガーターが出てしまったものの、上月は30回1ピン倒し、

芽衣子ちゃんに到っては、一回目で出したガーター以外はなんと全てパーフェクトに、36回一投につき1ピン倒しを貫いていた。


いや、ずっと1ピン倒しって、逆にすごくない?


芽衣子ちゃんと上月、実は物凄いボーリング上手なんじゃ…思わずにはいられなかった。


俺は、無駄にプレッシャーを受け、気合を入れて投球したものの、3回スペアを取るぐらいの当たり障りのないスコアで終わった。

(それでも、皆からは絶賛されたが…。)


「氷川さん、おめでとうございます♡最後まで諦めない姿に感動しました!ポカ○どうぞ?」


「あ、ありがとうございます…!」


「部長、惜しかったですね。でもナイスガッツでした!ポカ○どうぞ?」


「あ、ありがとう…!」


芽衣子ちゃんは紅ちゃん、上月は碧ちゃんからそれぞれスポーツドリンクを渡されていた。


「「そして、見事一番に輝いた矢口くんには…。」」


「え?え?もう一本?」


紅ちゃん、碧ちゃんは、戸惑う芽衣子ちゃんにもう一本スポーツドリンクを渡すといたずらっぽい笑みを浮かべた。


「「二番の人からキスとポカ○を受け取る事が出来ます。」」


「「…!!?」」


「王様ゲームかよっ!!」


双子達のいたずらに、俺は思い切り突っ込んだ。


「え?え?キス…?//初めてが人前は恥ずかしいから、ほっぺでもいいですか?」


「え?ちょっ…!芽衣子ちゃん、二人共ふざけてるだけだから…!!ダメだってっ…!!」


いつの間にか、頬を染めて唇を尖らせた芽衣子ちゃんが至近距離にいて、焦って止めようとしたところへ、上月に怒鳴られた。


「なっ!二人共ふしだらだわっ!//💢

先生に不純異性交友を言い付けるわよっ?」


上月さん、それだけは、やめて下さいっ。

また風紀委員送りになるからっ…(涙)

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