第168話 文芸部との軋轢
突如勃発した、読書同好会の女子達の乳マウント大会は、神条さん=ジャイアント級の巨乳登場により、参加した女子全員の敗北を持って閉幕をとげることとなった。
神条さんの胸に一瞬目を奪われてしまった俺は、いたたまれず、どことなく覇気のない他の女子達…特に芽衣子ちゃんと目を合わせられないまま、図書室の時計に目を遣ると、時計の針は部活動の終了時間10分前を指していた。
「お、おー。もう、いい時間だな…。今日部活はこの辺にしてまた明日にしないか?」
ぎこちなく、棒読みなセリフを吐くと、上月が同意した。
「そ、そうね…。部室も閉めなきゃいけないし、じゃあ、氷川さん、参考図書借りてきてね?先に部室の片付けしてるから。」
「「部室で待ってますぅ。」」
「は、はい。ありがとうございます。では、本借りてきます。」
芽衣子ちゃんは、何冊もの本を持ってよろよろと立ち上がったので、俺は上の何冊かに手を伸ばした。
「お、俺も持つよ。どうせ予約してた本あるし。」
嘘コク設定上の彼氏だというのに、他の女子の胸に目を奪われてしまった罪悪感もあり、今は、贖罪の為に芽衣子ちゃんの為に何でもしてあげたい気持ちになっていた。
「あ、ありがとうございます…!」
芽衣子ちゃんは、ぎこちない表情から一転してぱあっと嬉しそうな表情になった。
「京先輩。私、負けません!神条先輩みたいな巨乳を育てますから、待ってて下さいね?」
「芽衣子ちゃんは、何言ってるんだよぅ…!」
ムンっと拳に気合を入れてそんな事を言ってくる芽衣子ちゃんに俺は狼狽えた。
そんな事しなくても、君は十分…!
芽衣子ちゃんの可愛い笑顔と、胸元を見て、すぐに目を逸らした。
「そ、そりゃ、大きいとつい目が追っちゃう事はあるけど、今、付き合っている子のが一番魅力的に決まってるよ。」
「!!それって私のEカップおっぱいが一番魅力的ってこと?京先輩…!!♡♡」
「あう…♡」
ポフウン!
芽衣子ちゃんに飛びつかれ、危うく本を取り落としそうになるところだった。
その後、おかっぱ髪の一年生の子に俺と芽衣子ちゃんはジロジロ見られ、気まずい思いをしながらも、それぞれの本を借りる事ができた。
俺達の去り際に、
「結局矢口先輩は、Eカップ好きか…。」
という呟きがボソッと聞こえたような気がしたのは、気のせいだったろうか。
明日、変な噂が流れていない事を祈るしかない。
*
*
そうして、俺と芽衣子ちゃんが、図書室を出て、部室に戻ろうとしたところ…。
「あらぁ?誰かと思えば嘘コクの矢口くんじゃない。それに一年生の人気女子氷川さんも…!」
纏わりつくような話し方をする眼鏡をかけた整った顔立ちのロングヘアーの女子生徒とその取り巻き七三分けの髪形の男子一人が図書室に入ろうとするところに行き合ってしまった。
「
「??」
俺は嫌な奴に会ってしまったと俺は顔を顰めた。芽衣子ちゃんは、俺とその女子生徒を交互に見て、キョトンとしている。
「矢口くんは読書同好会の人達と一緒のところを見かけないけど、やっぱり辞めちゃったのかしら?上月さんにあんなひどい事されたんだから当然よねぇ?
しつこいようだけど、矢口くん文芸部に来ない?もちろん、氷川さんも一緒で大丈夫よ?
あちらと違ってうちは部員も多いし、部費も出るし。
文芸コンクールでも私は佳作を取ったけど、上月さんは、ただの努力賞。
うちにいた方が大きいやりがいの仕事が出来るの分かるわよね?」
親切を裝って、口元に策略の笑みを浮かべている千堂さんに、俺は寒気がした。
「京先輩…。」
心配げにこちらを見てくる芽衣子ちゃんを千堂から覆い隠すように立つと、俺はニッコリ
「千堂さん、親切な申し出ありがとう。
でも、せっかくだけど、俺には小さな部活で自由に活動するのが性に合ってると思ってね。
上月との事はもう気にしてないし、
今日から氷川さんと一緒に読書同好会でちゃんと活動していく事にしたから。」
千堂さんの申し出をハッキリ断ると、彼女は、嫌な笑みを浮かべた。
「あら、そうなの?矢口くんて意外と話の分からない人なのね?あなたは、よくっても、元カノと一緒の部活なんて入らされて、氷川さんが可哀想…。」
「…!」
「い、いえ…、私は別に…。」
やり玉に挙げられた芽衣子ちゃんは、慌てて俺に向かって手をブンブンとふった。
「近いうち、私の申し出を断った事を後悔する事になるかもね。では、失礼。左門、行くわよ?」
「はい。千堂さんの有り難い申し出を断るなんて、バカな男だな?流石嘘コクの矢口。
せいぜい小さい部活で、ちまちまやってな。俺達文芸部の活躍を遠くから見ているといい…。」
「なっ。七三分けの先輩、京先輩をバカにしないで下さい!小さくても読書同好会のメンバーは精鋭揃いなんですからね!作品を見て泣く事になりますよ?」
「芽衣子ちゃん…!」
「ハハッ。そいつはいいわ。せいぜいあまりの不出来さに泣いて笑う事にならなきゃいいけどな…。」
「ふふふっ。左門。言わせてあげなさいよ。」
芽衣子ちゃんは、怒った顔で言い返したが、二人は取り合わず、嘲るように笑いながら図書室へ入って行った。
「くう〰〰。あの人達、嫌みで腹立ちますねぇ…!」
芽衣子ちゃんは、怒りに両手拳をぷるぷる震わせていた。
「今のは文芸部の人達なんですか?」
「ああ。文芸部部長の
文芸部は、読書同好会と同じ様に、部員達で文学的な作品を載せた部誌や、月刊誌を作っているんだが、向こうは人数も多く、部費も出るから、印刷を業者に頼んで豪華な本を出したりしている。
加えて、部長の千堂は、教育委員長の娘だから、何かと周りが忖度して優遇される事が多いらしい。
けど、一年生がコンクールに出るのを制限したり、自分が書きたいテーマやジャンルを書かせて貰えなかったり、色々制約が多くてね。
それに反発した上月達が去年の4月に読書同好会の部活を新たに立ち上げたんだ。」
「そんな経緯があったんですね…。」
芽衣子ちゃんは、感心したように、ほうっと息をついた。
「ああ。文芸部に睨まれるのを怖がってか、他の部員がなかなか入らないくってね。
俺も、(嘘コクで)色々あって、入部したのは、文化祭直前ぐらいの時期だったから、
部活当時の状況を見ているわけではないんだけど、上月と千堂さんは何かと張り合う事が
多いんだ。
部員の俺達も、あんな風に嫌な事を言われたりする事がたびたびあると思うけど、
芽衣子ちゃん巻き込んじゃってごめんね。
上月も、悪い奴じゃないけど、作品に対して妥協がなくて手厳しい奴だからなぁ。
まだ仮入部だし、もし、辛かったら、やめてもいいからね。」
「いえ!私は、京先輩といつでも一蓮托生です。嫌みなんか、へっちゃらです。
上月先輩は、厳しい方だけど、文学作品への熱い思いがあるのは伝わって来ますし、
私に対しても一生懸命教えてくれようとしているのは分かります。
国語力は、ないですけど、皆さんの作品を見ていたら私も伝えたい気持ちを作品にしてみたいって思えたので、京先輩、心配しないで下さいね?」
「そう言ってくれるならよかったけど…。」
「けど、京先輩との二人の時間が減ってしまうのはやっぱり寂しいので、これからは別に
私と二人きりの時間を作ってもらえると嬉しいです…♡
嘘コク設定上とはいえ、今日から私達は付き合ってるんですからね?」
「お、おう…。///」
「取り敢えず、今日の帰りはちょっと付き合って下さいね?」
「ああ。いいよ。話があるんだったよね。」
俺は恥ずかしそうな笑みを浮かべる可愛い彼女に頬を緩めていたのだが…。
部室に戻った俺達を、双子達のハーモニーが迎えた。
「「氷川さん、矢口くん、これから新入部員歓迎会しませんかぁ?」」
え?これから…??
芽衣子ちゃんと俺は困ったような顔を見合わせたのだった。
*あとがき*
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