第167話 女子の女子による女子のためのマウント大会
「『詩の書き方〜世界に一つだけの自分の詩を書いてみよう〜』作者は青空ポプラさんですね?」
芽衣子ちゃんは、会議室のテーブルの上で、
頷きながらメモをとっていた。
「うん。私が詩を書くとき、すごく参考になった本なんです。オススメですよ?確か、学校の図書室にもあったと思いますよ?」
紅ちゃんは、人差し指を立てて説明すると、にっこり芽衣子ちゃんに微笑んだ。
あれから、双子の詩に感銘を受け、今度は短歌ではなく、詩を書いてみたいと言い出した芽衣子ちゃんに、紅ちゃんがポエマーの先輩として参考図書など色々親切に教えてくれる事になったのだ。
「学校の図書室ですね?今から行ってきてもいいですか?」
「それなら、私も一緒に行きますぅ。」
「紅がいくなら、私も行きますぅ。」
「なら、全員で行けばいいんじゃないか?」
芽衣子ちゃんに紅ちゃん、碧ちゃんも同行する事になり、俺も立ち上がって提案したが、
上月は、皆を引き止めるような素振りを見せた。
「あの、ちょっと!矢口、本当にいいの?水曜日の放課後って…!」
「ん?何だ、上月?何かまずいことあったか?」
俺が問うと、上月は言い辛そうに顔を背けた。
「い、いや…。だって…。」
??
いつも、ハッキリ物を言う上月がいい渋っているなんて珍しいなと首を傾げていると、
芽衣子ちゃんも、その様子を見て、申し訳なさそうな顔をした。
「ええっと…。私の用事ですし、もし何でしたら、皆さんは部室で待ってていただいてもいいですよ?」
「いや、俺もどうせ図書室に行こうと思っていたんだよ。この間神条さんに、予約してもらってた本を受け取りに行かなきゃいけないしさ。」
「!??」
俺がそう言うと、上月が何故か驚愕の表現を浮かべた。
さっきから一体なんだろう?
芽衣子ちゃんは、この間一緒に図書室に行った時の事を思い出して笑顔で頷いた。
「ああ、そう言えば、この前青山太郎の本、予約されてましたね?今日も神条先輩の当番の日でしたよね?詩の本の事も聞いてみようかな?」
「ああ。いいんじゃないか?彼女は、図書室中の本を網羅しているからね。」
「ええ。本当にすごいですよね。神条先輩。」
「上月は、どうする?部室で待ってるか?」
「!!い、いいえ!み、皆がそれでいいなら、私も行くわよっ!!」
「そ、そうか…?」
何故かヤケクソ気味に上月は叫び、紅ちゃんと碧ちゃんは、嬉しそうに拳を振り上げて見せた。
「「じゃあ、皆で行って、氷川さんの作品作りをサポートしちゃいましょう!」」
「皆さん、よろしくお願いします!初心者なので、色々教えてください。」
芽衣子ちゃんは、皆にペコリと頭を下げていた。
*
*
こうして、図書室に向かった俺達読書同好会のメンバーだったが、
お休みなのか、他の作業をしているのか、
神条さんの姿はなく、図書室のカウンターには、おかっぱ髪に眼鏡をかけた一年生の女の子が一人座っているだけだった。
文学作品を作るのは、初心者の芽衣子ちゃんの為に、それぞれメンバーがオススメの本を選んであげようという事になった。
「ハイ。詩の書き方の本ありましたぁっ。」
「ついでに、その続編の本も!」
紅ちゃん、碧ちゃんが、図書室の自習用デスクの上に本を2冊置くと、芽衣子ちゃんが嬉しそうに礼を言った。
「紅先輩、碧先輩、ありがとうございます!」
「後、氷川さん詩を書くなら他の作品にも触れた方がいいと思って、文学的に有名な(かつ、教科書に乗っていない)オススメの詩の本があったから、よかったら読んでみて?」
「こ、上月先輩、あ、ありがとうございます…。」
上月が双子の置いた本の上に更に何冊かの本ドサドサッと積み上げると、芽衣子ちゃんは、その量に少し怯みながらも礼を言った。
「芽衣子ちゃん、小学生向けの本で申し訳ないけど、ドラ○モンが文章の書き方について、漫画で解説してる本があるので、これもよかったら…。」
「!!(活字苦手だから、漫画で読めるのありがたいよう…!)きょ、京先輩、ありがとうございます…!」
俺も上月の選んだ本の上に、コミックスサイズの本を置くと、芽衣子ちゃんは涙目になって礼を言われた。
やっぱり芽衣子ちゃん、本読むの苦手なのかな?
俺の為に読書同好会に入る事になってしまって、申し訳ないような気持ちになった。
俺は、芽衣子ちゃんにできるだけのフォローをしてあげなければと決意したのだが…。
*
*
「乙女達の
「ちょっと待って!くさかび色の唇って何?!そんな色の唇で微笑まれたら怖いでしょう!?そこは“バラいろ”と読むのよ!!」
「あ、ああ…“バラいろ”と読むんですね?失礼しました…。///」
小声で詩の朗読をしていた、芽衣子ちゃんに、上月に突っ込まれ、顔を赤らめた。
「全く青空ポプラさんの詩が台無しだわ!
氷川さんが詩の情緒を理解するところまで辿り着くには、やはり、基本的な国語力を身に付けるところからみたいね。
広苑辞持って来るから、分からないところがあったら、それで調べてね?」
「は、はい…。何から何まですみません…。」
辞書コーナーへ向かった上月に、芽衣子ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「はあ…。作品作りまでの道はなかなか険しいですね…。」
肩を落とし、グデっと体を机にもたせかけた芽衣子ちゃんを俺と、碧ちゃん、紅ちゃんは
勇気づけようとした。
「いや、上月は文学作品に対して妥協しない奴だから、ああ言うけど、そんな肩肘張って考えなくていいと思うよ?芽衣子ちゃんが表現したい事を自由に表現すればいいと思うし…。」
「そうですよ。私だって、難しい事は考えず、好きな事、感じた事を好きな言葉に置き換えているだけなんですから。」
「そうですよ。私も頭の中に思い描いているイメージをそのまま絵にしているだけです。大事なのは、氷川さんの心の中にある想い、伝えたい気持ちのイメージです。それをそのまま言葉にすれば、詩になります。言葉は表現力は、その為のツールですから、おいおい身に着けて行けばいいんじゃないですか?」
「京先輩、紅先輩、碧先輩、お優しい言葉ありがとうございますぅ…!」
芽衣子ちゃんは、瞳を潤ませて、向かいの席にいる俺と斜め向かいの席にいる紅ちゃん、碧ちゃんに向き合ったのだが…。
プルルン…。
「「「!!!///」」」
体を机にもたせかけた状態で、正面を向いた為に芽衣子ちゃんのたわわな双丘が揺れながら机の上に乗っかってしまっていた。
「表現したい事…。好きな事、感じた事…。
心の中にある想い、伝えたい気持ちのイメージ…。ふむふむ…。(私の心の99.999%を占めているのは、京ちゃんへの想いだから…。それを言葉で伝えれば、詩になるってことかな?)うんうん…。なるほど…。」
プルンプルン…。プルプルルン…。
「っ…!っ……!!///」
「「はわわ…はわわわ…!!///」」
何やら考え込みながら、芽衣子ちゃんがウンウン頷くのに併せて、たわわな果実が揺れているのに、俺も、紅ちゃん、碧ちゃんも目が釘付けで思わず一緒に頭を揺らしてしまった。
「氷川さん、直近の広辞苑ここに置いて…。
?!!///」
広辞苑を手に自習机に戻って来た上月もその情景を見て、目を剥いた。
「ひ、氷川さん、破廉恥よ!?胸を机の上に乗せて何してるのっ!!?」
「えっ?きゃあっ!!私ったらやだぁっ!///」
芽衣子ちゃんは、上月に指摘されて、自分の胸が机の上で大きくたわんでいるのに気付き、真っ赤になって立ち上がった。
「いくら付き合っているからって、部活中に矢口を誘惑したり、イチャイチャするのやめてくれるかしら?真面目にあなたの作品作りをサポートしようとしていたこっちがバカみたいじゃない!」
「ち、ちがっ!今回に限っては、無意識にやってしまった事で、京先輩を誘惑しようとしたわけじゃありませんっ!」
怒り叫ぶ上月に、芽衣子ちゃんは必死に手を振って否定した。
けど…、今回に限ってって??時々胸を押し付けてくる事があるけどあれは、意識してやってるって事なのかい??
芽衣子ちゃん…。やっぱり恐ろしい子…!!
俺が衝撃を受けて白目になっている中、上月は、更に爆弾発言をかました。
「そうね。そういう下品なアピールを嫌いな男子もいるものね。
以前、矢口は、大きい胸が好きじゃないって言ってたものね。」
?!!
「ええっ!そ、そんなバカな…!?」
「「え?矢口くんそうなんですかぁ?(矢口くんまさかの貧乳派?)」」
ショックを受ける芽衣子ちゃんと、碧ちゃん紅ちゃん。
「こ、上月。何言ってるんだよ?俺がいつそんな事…!」
「あら。以前私が「男の子ってやっぱり大きい胸の女の子が好きなんでしょ?」って聞いたら、「そんな事ないだろ?男の全員が大きい胸の子が好きなワケじゃないよ。俺は寧ろ大きすぎるのは気持ち悪くて苦手だな。」って言ってたじゃない!」
「い、いや、それは…。」
上月に言い返され、俺は冷や汗をかいて言い淀んだ。
言われてみれば、以前上月と付き合っていた数日の間に胸が小さい事を気にしている彼女にそう聞かれ、そんな答えをした気がするが、その状況で大きい胸が好きとか言える奴はいなくないか…?
大き過ぎると気持ち悪いっていうのも、普通では考えられない相当なサイズを想定して言ってるから…。
俺がどう説明したらいいのか、悩んでいるうちに、女子達の論争はヒートアップしていってしまった。
「そ、そんなぁ…!そんな筈…!
だって、京先輩は、私のおっぱいを確かに(好きだった筈)…。」
「芽衣子ちゃんっ!!///」
そう口走られ、俺が叫ぶと、芽衣子ちゃんは口元を押さえた。
「あ。ご、ごめんなさい…。それは二人だけの秘密でした…♡」
「「「!!?///」」」
「芽衣子ちゃぁん…!」
更なるやらかし発言をされ、俺はその場に崩れ落ちた。
そこまで言ったらもうほぼ同じだし、余計に色々想像しちゃうだろう…?
俺をガン見してくる上月と紅ちゃん、碧ちゃんの視線が痛かった。
「と、とにかくっ!京先輩は、Eカップ以上の大きいおっぱいが好きだと思います!!」
「わ、私は矢口は、Bカップぐらいの大き過ぎないサイズが好きだと思うわっ!!」
「「ち、小さいのが好きだとしたら、矢口くんAカップもありって事ですかぁっ?」」
芽衣子ちゃん、上月、紅ちゃん&碧ちゃんが
それぞれの主張や、疑問を叫んだ。
「「「「京先輩(矢口)(矢口くん)、どのサイズが好きな(の?)んですか?」」」」
「え、えええっ…?!」
俺は四人の女子達に詰め寄られ、タジタジだった。
「「「「ちゃんと答えて(下さい)っ!京先輩(矢口)(矢口くん)!!」」」」
「いや…そのっ…!」
何これ?俺、なんて答えても、角が立つし、変態にならない…?
俺が返答に困って泣きそうになっていると…。
突然、目の前にジャイアント級に大きな胸が現れた。
トン!プルルルルルン!!
「コラ!!図書室で騒いじゃいけませんよっ!!」
「か、神条…さん…。」
いつの間にか神条さんが、自習スペース机の近くまで来ており、怖い顔で俺達を叱った。
軽く机を小突いた拍子に、巨大な胸を震わせている様子を思わずガン見してしまった。
「ハッ。」
視線を感じて振り返ると、そんな俺の様子を青褪めた四人の女子達が見詰めていた。
や、やべぇ…。終わった…!
「しかも、胸の話題で盛り上がるなんて…。一年生の当番の子が困っちゃって、図書準備室にいる私を呼びに来たんですよ?」
「「「「「す、すみませんでした…。l||l」」」」」
俺達は、カウンターにいる真面目そうな一年生の子が困り顔になっているのを見て、神条さんと、当番の子にかわりばんこにペコペコと謝るしかなかった。
猛省した俺達に、神条さんは、小さく微笑んだ。
「はい。今度から、気をつけて下さいね?
では、私はもう少し、図書準備室で、本の修繕の作業がありますので、これで。」
そう言って神条さんはペコリとお辞儀をすると、またカウンターの方へ戻り、一年生の子に優しく声掛けをすると、カウンター奥の図書準備室へと入って行った。
芽衣子ちゃんと上月は、何かに敗北したような青褪めた顔を見合わせると、小声で囁やきあった。
「む、胸の事で論議するなんて、無益な争いしたね…。
大きいのも小さいのも
みんな違ってみんないいにしませんか?」
「そ、そうねそうね…。それがいいわ。無駄な時間を過ごすところだったわ。」
「「ああ〜ん。でも、胸の谷間羨ましいですぅ…。」」
紅ちゃんと碧ちゃんは、抱き合って静かに泣いている。
お、おおう…。なんて悲惨な図だ。
か、神条さん、あらゆる意味で最強だぜ…。
俺は気まずい思いで、女子達の悄然とした姿から目を逸らしたのだった…。
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