第161話 付き合っているフリをして、皆の前でラブラブっぷりを見せつけろ!(芽衣子9月発案)

「あの、京先輩…。ずっと前から好きでした。私と付き合って下さい…。」


私、氷川芽衣子(15)は手紙で屋上に呼び出した憧れの人=矢口京太郎(16)に7回目の嘘コクミッションの告白をした。


もちろんで…!


心臓が壊れるんじゃないかと思うぐらいバクバクいっている。


京ちゃんは目を丸くして私の方をガン見している。

ああ、私の事汗っかきな子だと思ってないかな。


ただでさえ、汗ばむ時期に、緊張して更にいろんなところから汗がにじみ出してくる。


どうか、夏服のポロシャツに、汗がしみていませんように!


風さん。早く汗を乾かして〜!!

屋上に吹き荒ぶ生暖かい風に祈るように私は手を組み合わせた。


そんないっぱいいっぱいな私に、京ちゃんは、何だか泣きそうな表情で問いかけてきた。


「それは、7回目の嘘コクミッションって事でいいのかな?」


「はい。」


私は、真剣な顔をして大きく頷く。


「京先輩の嘘コクミッションは、『付き合っているフリをして、後日、皆の前でバラす。』という内容でした。


本来なら、ミッションの為に、京先輩と一回お付き合いして、後で嘘コクでしたと皆の前で公表する必要があります…。」


私はそう言いながら、自分の言葉に胸を切り刻まれるような鋭い痛みを感じていた。


そう…。それで、本来なら私と京ちゃんの嘘コクを通した関係は終わりを迎え、接点のない、先輩、後輩の間柄に戻るはず…。


「そう…だな…。」


私の感じている胸の痛みをまるで京ちゃんも感じていてくれるかのように、彼は辛そうに顔を歪めた。


「けれど…。そのミッションは、少し内容を変えた方がグッと素晴らしい物になるのではないかと、私なりに少しアレンジを加えてみたのですが、京先輩に意見をお聞きしたくて…。」


「…!?」


不思議そうな顔をする彼に、私は勇気を出して切り出した。


「『付き合っているフリをして、皆の前でラブラブっぷりを見せつける』というものなんですけど、どうでしょうか…?」


「…!!」


私は、顔が熱くなっているのを感じながら、両手こぶしを握りしめ、必死の思いで京ちゃんに主張した。


「ま、まぁ、悪くはないと思うけど…。」


京ちゃんの口調は、肯定も否定もはっきりしない感じだったけど、京ちゃんのお顔は、真赤で、何と言っていいか戸惑っているように、目を瞬かせていた。


私は更に勢いこんで続けた。


「7つのミッションが終わっても、伝説の嘘コクやら、幻のポケ…嘘コクやら、まだまだ世界には色んな嘘コクがあります。その全てを極めるには、まだまだ時間が足りな過ぎると思うんです。私と、付き合っているフリをしながら、一緒に嘘コク道を邁進してもらえませんか?」


「芽衣子ちゃん…。」


もはや、自分でも何を言っているのかさっぱり分からない。分からないけど、私は京ちゃんを繋ぎ止めて置きたくて、側にいる理由を作りたくて必死だった。


もちろん、本当は最初っから嘘コクじゃなかった。京ちゃんが好きだから、側にいたかったから、嘘コクミッションをしていましたと

告白しなきゃいけないって事は分かっている。


だけど、だけど…!


それで、1から告白して、玉砕してしまった時のダメージを考えると…!!


今京ちゃんの隣にいられる、この幸せな立ち位置を全て失ってしまったら、私はもう、生きていける自信がなかった。


ヘタレだって分かってる!狡いって分かってるけど…!


京ちゃんは、そんなダメな私に一つの質問をしてきた。


「それはいつまで…?期間が決まっているものなのかな?」


「えっ?えっとぉー。そ、そうですね、元号が変わるぐらいまでは…。」


「元号っ?!」


「あっ。ま、間違えました。えーと、えーと、じゃあ、取り敢えず、年度が変わるまで、来年の3月までという事でどうでしょう?」


いけない。つい、本音が漏れてしまった。

京ちゃんに目を剥いて聞き返され、私は慌てて訂正した。


何十年もこのままなんてダメだ。(家族計画の事もあるし)流石にダメだ。


「来年度の3月にまた、更新をどうするか相談するという事で…京先輩、ど、どうですか??い、嫌ですか…?」


あと少しだけ、モラトリアム期間を延長して、今年度までには、もっとちゃんと気持ちを伝えて、親密な仲になれたら…。


そう思いながら、京ちゃんの様子をチラッと窺った。


今まで一緒に過ごしてきた感触では、京ちゃんが私を嫌っているようには感じなかった。

つい先日は、憧れの目で見ている白瀬先輩の前でも、手を繋いでくれ、私と仲良く一緒にいたいとまで言ってくれた。


恋愛感情かは分からないけど、ほんのり好意を持ってくれてる事は間違いないだろうけど…。


嘘コクを通した私達の関係は、いつか終わりになってしまうもの。京ちゃんはそういう認識でいるだろう。


7つ目のミッションを達成するまでは、一緒に仲良くに過ごしたいという事で、京ちゃんがその先を考えていないのであれば、嘘コクミッションの期間を長く引き伸ばすという私の提案は、断わられてしまう可能性がある。


でも、でも…。それをよしとせず、この関係を少しでも続けたいと、一緒にいたいと彼もそう願ってくれているなら…。


祈るような思いで、京ちゃんの答えを待っていると、彼は、苦笑いしながら答えを出してくれた。


「い、いいよ…。そうしたら、もうしばらくの間よろしくね?芽衣子ちゃん…。」


!!!!


や、やったあぁ!!


京ちゃんが私に差し出してくれた片手を、私はギュウっと握り締めた。


「はっ。はいっ!!嬉しいですっっ!!京先輩、これからもよろしくお願いします!」


「ふぐっ!?」


私は驚く京ちゃんの手を更にもう片方の手でも握り、両手で大事に胸に抱え込んだ。


「芽衣子ちゃん、あの当たって…//」


「よかった!よかったぁ…!断られたらどうしようかと思っちゃった…。」


これで、第一関門突破だぁ!

京ちゃんとの関係を取り敢えず繋ぐ事ができた!


涙が滲み、京ちゃんとの関係を失うかもしれなかった恐怖を思い、体が震えた。


京ちゃんが何やら呟いていたけど、安心したのと嬉しいので、いっぱいいっぱいの私はちゃんと聞き取れなかった。


自惚れてもいいのかな…?


京ちゃんも私とと同じ気持ちでいてくれると…。


この嘘コクを本物に近付けていく事ができるのだろうか…?


その為には、もう一つの関門を突破しなければならなかった。


「京先輩…。私、もう一つ告白しなきゃいけないことが…。今まで京先輩に誤解されているのを知りながら、黙っていた事があるんです。意図的に隠していたのではなく、京先輩に嫌われるかもと勇気がなくて言えなかった…。」


「えっ…。 l||l」


私の発言に、京ちゃんはピキンと固まった。


ん?何で、そんなに青褪めているんだろう?


一応誤解されては嫌な事を付け足しておいた。


「あっ。他の男の人と何かあるとかじゃ絶対ないですよ!今までも、これからもないです!チュウとか、体を触られたりしたのも、京先輩だけですから!」


ほっぺにチュウをしたのも、胸を触られて嫌じゃなかったのも、京ちゃんだから!好きな人だから!!


そこ重要なとこ!!


「そそそ、そうなんだ…。//」


京ちゃんは、ホッとしたように力を抜いたが、真っ赤になっていた。


ちょっとハッキリ言い過ぎちゃったかなと

私も顔を赤らめた。


「そんな事ではないんですけどっ…。」


私は今日もう一つの大きな告白のため、緊張に体を震わせ、ギュッと目を瞑った。


い、言うぞ!!

『私は“めーこ”です』って!!



「わ、私は、め、めー。めー。めー。」


「??」


私はそこで酸欠になり、一瞬クラっとした。


ダメ。まだ倒れちゃダメだ!!


私は大きく深呼吸をすると、もう一度言い直そうとした。


「わ、私、氷川芽衣子はっ。あなたのおさな…」



バンッ!


「「??!」」


「ここにいたぁ!矢口、あんた幽霊部員のくせに勝手に部誌に口出すなんてどういう了見よっっ!!」


いきなり屋上の扉が開き、ショートボブヘアの女子に大声で怒鳴られ、京ちゃんは目を丸くしていた。


ええ〜?何故にこのタイミング??!

あの女の子は一体誰なの…?と私も目をパチクリしていた。


彩梅あやめ…??」


「あや…め…??」


京ちゃんが思わず零した名前を私は愕然と

復唱した。


高校に入ってから、京ちゃんが、私以外に女の子の名前の方を呼び捨てにするのを初めて聞いた。

嘘コク6人目までの女の子達も、皆、ちゃんか先輩付けか、名字呼びだったはず…。


それって、余程親しい間柄って事で…。


私が、ショックを受けて固まっていると…。


バンッ!


「「「!!」」」


「あっ。部長〜!!ダメです!」

「そうです。部長。違うんですよぉ!!」


再び屋上の扉が開き、二人の小柄な女生徒が慌てふためきながら走り寄って来た。


それぞれ、青いリボンと赤いリボンで髪型をお団子にしているそっくりな二人は、京ちゃんに以前作品の相談を持ちかけていた双子の女の子達だった。


双子の女の子達は、怒鳴りつけていた女子と、京ちゃんの間に立って、京ちゃんを庇うように叫んだ。


「私達が、勝手に部誌のレイアウトについて矢口くんに相談しただけなんです!」

「そうなんです。矢口くんはそれに答えてアドバイスしてくれただけなんです!怒るなら私達を怒って下さい!!」


「あなた達…!」

あおちゃん、べにちゃん…。」


それに驚く、怒れるショートボブの女生徒と、京ちゃん…。



ぐすっ。何なの!?このハーレム昼ドラ修羅場的状況。


私と京ちゃん、今一番大事な場面だったのに…!!


誰かこの状況を説明して下さいっっ!!


私はそう叫びたい気持ちでいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る