第160話 付き合っているフリをして、皆の前でドッキリでした…とバラせ!(京太郎4月発案)

「あの、京先輩…。ずっと前から好きでした。私と付き合って下さい…。」


目の前の美少女は頬を染めて、緊張した様子で俺の返事を待っていた。


ここは学校の屋上。

フツメンで特にこれといった取り柄のない

俺=矢口京太郎(16)は下駄箱に手紙をもらい、呼び出しを受けた。

昼休みに待ちあわせ屋上に向かった俺を待っていたのは、S級ランクに可愛い後輩女子だった。


4月に告白を受けた時と、同じシチュエーション。

けど、以前と違うところもある。

今の季節は、外にいるとまだまだ汗ばむ9月半ばー。


彼女の制服は、夏服のポロシャツに涼しげな薄い生地のスカートに変わっている。


そして、俺の彼女への気持ちも…。


セミロングのサラサラの茶髪を風に靡かせて、大きな瞳をうるうるさせて、両手を組み合わせている彼女=氷川芽衣子ちゃんに向き合いながら、

彼女と過ごしてきた半年の時間を思い出し、

何だか泣きたいような気持ちで俺は問う。


「それは、7回目の嘘コクミッションって事でいいのかな?」


「はい。」


芽衣子ちゃんは、真剣な表情で大きく頷く。


「京先輩の嘘コクミッションは、『付き合っているフリをして、後日、皆の前でバラす。』という内容でした。

本来なら、ミッションの為に、京先輩と一回お付き合いして、後で嘘コクでしたと皆の前で公表する必要があります…。」


「そう…だな…。」


芽衣子ちゃんの言葉に、俺は胸が切り刻まれるような鋭い痛みを覚えた。


分かってはいた…。芽衣子ちゃんとの関係は嘘コクを通したものである事。

いつかは、必ず終わりが来る事。


半年前までは、当たり前にその事実を受け入れていたのに、今は彼女と離れなければならないと思っただけで、身が引き裂かれるように辛い。


少し前までは、いざというときはその痛みを受け入れなければと思っていた。


けれど…。


『氷川芽衣子はーーっ!!

矢口京太郎を愛していますーーーっっ!!!

世界中の誰よりもーーーっ!!

うわあぁ〜んっ!!ああぁ〜んっ!!』


彼女が泣きながら、真実の井戸で叫んでいた事が、本心なら…。


「けれど…。そのミッションは、少し内容を変えた方がグッと素晴らしい物になるのではないかと、私なりに少しアレンジを加えてみたのですが、京先輩に意見をお聞きしたくて…。」

「…!?」


「『付き合っているフリをして、皆の前でラブラブっぷりを見せつける』というものなんですけど、どうでしょうか…?」


「…!!」


芽衣子ちゃんは、顔を真っ赤にして、両手こぶしを握りしめ、必死の様子で俺に主張してきた。


「ま、まぁ、悪くはないと思うけど…。」


ラブラブっぷりを見せつけるって、俺と芽衣子ちゃんがイチャコラするってことだよな?


俺も、自分の顔が火照っているのを感じながら何とも言えず、目をしばたかせた。


「7つのミッションが終わっても、伝説の嘘コクやら、幻のポケ…嘘コクやら、まだまだ世界には色んな嘘コクがあります。その全てを極めるには、まだまだ時間が足りな過ぎると思うんです。私と、付き合っているフリをしながら、一緒に嘘コク道を邁進してもらえませんか?」


「芽衣子ちゃん…。」


相変わらず言っている事がさっぱり分からない。分からないけど、彼女の真意を探るべく、俺は彼女に質問した。


「それはいつまで…?期間が決まっているものなのかな?」


「えっ?えっとぉー。そ、そうですね、元号が変わるぐらいまでは…。」


「元号っ?!」

「あっ。ま、間違えました。えーと、えーと、じゃあ、取り敢えず、年度が変わるまで、来年の3月までという事でどうでしょう?」


思わず聞き返した俺に慌てて芽衣子ちゃんは訂正した。


「来年度の3月にまた、更新をどうするか相談するという事で…京先輩、ど、どうですか??い、嫌ですか…?」


まさかの嘘コクミッション更新制??


不安げにこちらの様子を伺ってくる芽衣子ちゃんに、俺は苦笑いしながらも、心の中ではホッと胸を撫で下ろしていた。


嘘コクを通した俺達の関係は、いつか終わりになってしまうと思っていた。


でも、それをよしとせず、この関係を少しでも続けたいと、一緒にいたいと彼女もそう願ってくれているなら…。


「い、いいよ…。そうしたら、もうしばらくの間よろしくね?芽衣子ちゃん…。」


俺が芽衣子ちゃんに片手を差し出すと、芽衣子ちゃんは、歓喜に顔を輝かせて俺の手を握り締めた。


「はっ。はいっ!!嬉しいですっっ!!京先輩、これからもよろしくお願いします!」


フニュフニュン。

「ふぐっ!?」


芽衣子ちゃんは喜びのあまり俺の手を更にもう片方の手で握り、胸に抱えるようにして押し付けてきて、例の柔らかくも素晴らしい感触に声を漏らしてしまった。


「芽衣子ちゃん、あの当たって…//」

「よかった!よかったぁ…!断られたらどうしようかと思っちゃった…。」


彼女の目には涙が滲んでいた。繋がれている手が、小さい肩が、震えている。


今回の最後の嘘コクミッションと、今の提案をするのに、余程勇気がいったに違いない。


自惚れてもいいのだろうか…?

彼女も多分俺と同じ気持ちでいてくれると…。


この嘘コクを本物に近付けていく事ができるだろうか…?


「京先輩…。私、もう一つ告白しなきゃいけないことが…。今まで京先輩に誤解されているのを知りながら、黙っていた事があるんです。意図的に隠していたのではなく、京先輩に嫌われるかもと勇気がなくて言えなかった…。」


「えっ…。 l||l」


芽衣子ちゃんの発言に、俺はピキンと固まった。


も、もしかして、他に付き合ってる人がいるとか??

親同士の決めた許嫁がいるとか??


しかし、俺の反応に気付いたのか、芽衣子ちゃんが慌てて付け足した。


「あっ。他の男の人と何かあるとかじゃ絶対ないですよ!今までも、これからもないです!チュウとか、体を触られたりしたのも、京先輩だけですから!」


「そそそ、そうなんだ…。//」


男性関係の告白ではないと言われ、安心したが、芽衣子ちゃんの赤裸々な発言にほっぺにキスされたり、胸を触ってしまったりしたのを思い出し、俺は真赤になった。


「そんな事ではないんですけどっ…。」


緊張をしているように、フルフルと体を震わせ、芽衣子ちゃんは、ギュッと目を瞑った。


「わ、私は、め、めー。めー。めー。」


「??」


なんだろう?

羊かな??🐑

彼女は、一体俺に何を伝えたいんだろう?


芽衣子ちゃんはそこで酸欠になったように青褪め、一回言葉を切り、深呼吸をすると、もう一度言い直そうとした。


「わ、私、氷川芽衣子はっ。あなたのおさな…」


バンッ!


「「??!」」


「ここにいたぁ!矢口、あんた勝手に部誌に口出すなんてどういう了見よっっ!!」


いきなり屋上の扉が開き、ショートボブヘアの女子に大声で怒鳴られ、俺は目を丸くした。


彩梅あやめ…??」


「あや…め…??」


目の前の茶髪美少女は、俺が思わず呟いた名前を愕然とした表情で復唱したのだった…。






*あとがき*


いつも、読んで頂きましてありがとうございます!

先日本作、20万PVを達成しました✨✨


応援頂いた皆様には感謝の気持ちでいっぱいです😭


読者の皆様に感謝の気持ちを込めて、近況ノートにお礼と、イラスト(期間限定)を載せていますので、よろしければご覧下さいね。


嘘コク女子もとうとう7人目。ラストに向けて突っ走っていきたいと思いますので、今後ともどうかよろしくお願い致します。

m(__)m

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