嘘コク七人目

第159話 君に贈る歌

それは、三学期が始まってすぐの事だった。


「京ちゃん…。めーこは、悲しい運命に気付いてしまいました…。」


「急にどうしたんだよ、めーこ?」


いつものようにめーこが家に遊びに来て、一緒に宿題をやっている途中で、突然悲壮な表情でめーこにそう告げられ、俺は目をパチクリさせた。


「京ちゃんは、めーこより一学年上だから、一緒に小学校にいられるのは、あと、2年と少ししかない…。その後は、京ちゃんは、中学校へ行ってしまって、めーことは一年離れ離れ…。」


「ま、まぁ。そりゃ、そうだな…。」


びっくりした。めーこの身の上に何か不幸な事があったのかと思ったぜ。

当たり前の事を言われ、内心ホッとしながら俺は頷いた。

最近学校で、5、6年生が卒業式の練習をしているのを見て、そんな事を考えるようになったらしい。


「2年したら、学校で時々京ちゃんと会えたり、一緒に帰ったりできなくなるかと思うと、めーこは寂しくて悲しい…。

中学生になったら、京ちゃんは、新しい友達が沢山できちゃって、放課後もめーことは遊んでくれなくなるかもしれない…。」


めーこ…。そんなに俺と離れたくないと思ってくれてるのか…。

俺は胸の奥がほっこり温まるのを感じ、

ショボンと俯くめーこの頭をポンポン叩いて俺は笑った。


「めーこ!2年も先の事で、なに落ち込んでんだよ?それに、中学生になっても何も変わらねーよ!小学校では、会えなくても、家に帰ったらいつでも会えるじゃん。

俺、陰キャだし、友達なんてそんなにできねーと思うし、めーこが遊びに来てくれなくなちゃったら、俺も、さ、寂しいよ…。//」


「…!ほ、本当?本気にするからね?京ちゃんが中学生になってからも、めーこ毎日遊びに来ちゃうよ?約束だよ?」


「いいよ?約束。」


真剣な顔で小指を出すめーこに向かって俺も笑って小指を突き出して見せた。


「ああ。よかったぁ…!それだけが心配だったんだぁ。」

「そっ、そっか…。//」


前髪で目は見えないものの、ホッとして、笑顔になるめーこを俺は可愛いなぁと思って少しドキドキしていた。


「京ちゃんが卒業するときには、めーこ、在校生として、今から、一生懸命練習して歌を贈るからね?」


「今からは、気が早くないかぁ…?」


「だって、めーこ歌下手だから、いっぱい練習しなきゃいけないんだもん。」


「めーこ歌下手だったっけ?」


「うん。超下手。前の学校で、クラスの女の子に、「ひど過ぎてとても聞いてられないから歌わないで。」って言われた事ある…。」


「何だ、ソレ…?クラスの子、ひどい事言うな…!」


めーこが恥ずかしそうに、そう言うのを聞いて、俺はそのクラスの子に怒りを覚えた。


確か、(本当は、可愛いのに)めーこの目が気持ち悪いって言ってたのも前の学校のクラスの女の子じゃなかったか?

もしかして、やっかみでそんな事を言ったんじゃないか?

そう思い、俺は思わずめーこに言ってしまった。


「俺はめーこの歌下手だなんて思わないと思うよ?めーこの歌聞きたいなぁ…!」


「ええ〜?ほ、本当?」


「うん。ちょっと歌ってみてくれないか?」


「う、うん…。じゃあ、ちょっとだけ…。」


めーこは、すうっと息を吸い込んで歌い始めた。


「ほおたあぁるのぉ〜〜ひ〜かあぁありぃ

まどのおぉおゆきいぃ〜〜☠、ふ〜みふみ〜つきいぃ〜ひいぃいかさ〜ね〜つつ〜、

いつ〜しかあぁ〜とし〜もおぉ〜すきのーとを〜あけ〜てぞけさ〜はわか〜あぁ〜れゆ〜くうぅ〜〜〜☠☠

はあっ…。私の歌どう…かな?」


その歌を聞きながら、これ、歌…なの…か?音符の代わりにドクロマーク飛んでるけど…?と俺は目が点になっていた俺は、熱唱のあと、めーこに歌の感想を聞かれて、やはり、これが歌だったらしいという事が分かり、愕然とした。


めーこ、音痴過ぎ…!!今回はクラスメートの指摘は正しかった。しかも、歌詞微妙に間違えてるし…。


『ふみふみ月日重ねつつ』って?

『すきノート』って何?デスノートの親戚か??


いや、何より、『蛍の光』は、確か卒業生が歌う歌で、在校生は、『旅立ちの○』を歌うんじゃなかったっけ…?


どうしよう?どこからどこまでも間違ってるよ…。


しかし、期待に満ちた瞳で、感想を待っているめーこにそんな事はとても言えなかった。


「め、めーこ、歌よかったよ!うまい☠…じゃん?俺、感動しちゃったよ。」


「えっ。本当!?めーこ、歌を褒められたの初めてだよ。嬉しいなぁ♪」


俺に褒められ、めーこは嬉しそうに顔を輝かせていた。


ごめん。こーゆーのホントの優しさじゃないって分かってるけど、歌が絶望的に下手だなんて俺には言えない。言えないよっ。


「めーこ、歌いっぱい練習するね?」

「う、うん…。頑張れ…よ?」


ヘタレの俺にはそう言う事しかできなかった。

卒業式の日、例え他の誰がめーこの歌を貶そうとも、せめて俺だけは褒めてあげよう。

そう思っていた…。


けど、めーこは俺の卒業式の日、その下手な歌を披露してくれる事はなかった。


それからすぐに数ヶ月でT県に引っ越す事になり、めーこは俺の前から姿を消した。


中学生の時に毎日遊びに来る約束は果たされない事になった。


今でも時々考える。


めーこは、『蛍の光』を正しい歌詞で歌えるようになったのだろうかと…。



*あとがき*


読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る