第153話 おまけ話 お正月の余興


「あけましておめでとうございます!」」


京太郎(9才)と芽衣子(8才)は、大人達の前でペコリと頭を下げた。

今日は1月3日。お正月三箇日の最終日、京太郎の母方の叔父と、叔父と仲のいい遠い親戚のおじさんが家に遊びに来ていた。


どうせなら、皆で一緒にご飯でもということで、芽衣子と、芽衣子の母=本郷麻衣子もお家に呼ばれていた。


「京太郎に芽衣子ちゃん。きちんと挨拶できて偉いね?ハイ!お年玉。」


「「ありがとうございます!!」」


京太郎の叔父=矢口凪やぐちなぎ(24)から、ポチ袋を受け取り、嬉しそうに顔を見合わせる京太郎と芽衣子。


「ええっ。すいません。芽衣子の分まで!」


麻衣子が、申し訳なさそうに頭を下げると、凪は、笑顔で手を振った。


「いえいえ。芽衣子ちゃんの事は、姉からよく聞いてます。芽衣子ちゃんが仲良くしてくれるから、京太郎は、毎日楽しそうだって。本当にありがとうございます。」


「いえいえ、そんな。こちらこそ、京太郎くんには、仲良くしてもらって、本当にありがたいと思ってるんですよ。

引っ込み思案だった芽衣子が、京太郎くんのおかげで、すごく明るくなりました。

本当になんてお礼を言ったらいいのか…。」


麻衣子も、凪に頭を下げ目を潤ませた。


「お、おおっ、凪が大人の挨拶してる…。社会人になったんだな?お前も…。」


しんみりした雰囲気をぶち壊すような、

遠い親戚の的場京介まとばきょうすけ

(31)の感想に、凪は、呆れたような声を上げる。


「そりゃそうですよ。俺も会社入ってほぼ2年も経つんですから。京兄きょうにいも、もういい年なんだから、早くちゃんと落ち着いた方がいいですよ?」


「おおっ。いっちょ前に説教まで垂れてきやがる。」


後ろで一つに括った長髪を揺らして、京介は、驚きつつ、頭を掻いた。


「分かっちゃいるが、俺は、この仕事がやめられないんだ。この窮屈な国で、あくせく働くより、世界を飛び回って写真をとってた方が性にあってる。

常に金はなく、いつも生活ギリギリだけどな…。」


「おじさん、お金ないの?だから、お年玉なかったんだね…。」


話を聞いていた京太郎がそう言うと、芽衣子も京介に哀れみの視線を向けた。


「おじさんお金ないの?可哀想…。めーこ、今、お財布に150円あるけど、あげようか?」


「め、芽衣子っ!(それは余計に失礼よっ。)」


慌てて止めようとする、麻衣子に、苦笑いする京介。


「いや〜、子供からお金巻き上げるほど、切実に貧乏なワケじゃないんだけどな…。分かったよ!やるよ!君達にお年玉!!京太郎、めーこちゃん、手を出して!!」


ヤケになったように、京介は、財布からお金を取り出し、京太郎と芽衣子の手の平に500円玉を一枚ずつ乗せた。


「「ありがとうございます!!」」


二人は声を揃えて礼を言った。


「す、すいません。ありがとうございます。」


再びお礼を言う麻衣子に、京介は、相好を崩して笑いかけると、首を振った。


「いやいや、お礼を言うのはこっちの方ですよ。久々に京太郎に会って見れば、まさかこんなに可愛いガールフレンドが出来ていたとはね。嬉しかったですよ。おい。京太郎!

将来結婚するときには俺も呼んでくれな?」


「ななな、何言ってんだよ。芽衣子は妹みたいなものだしっ。なっ。めーこっ?」


「えっ。あー、うん、そう…だね?京ちゃんは、お兄さんみたいな…ものかな?」


真っ赤になってそう言う京太郎に、少しショックを受けつつ、頷く芽衣子。


「へえ〜、そうなんだ?」


京介は、そんな二人の様子をニヤニヤしながら見守っていた…。


そこへ、台所から、京太郎母=矢口奈美が大きな寿司桶を持ってやって来た。


「皆、お待たせ!海鮮ちらしよ〜。取皿置いとくから自由によそってね?」


「「「「「お〜(わあぁ)!」」」」」


テーブルに置かれた、エビ、マグロなど、寿司ネタが散りばめられた豪華なちらし寿司に、その場にいた全員が歓声を上げた


「奈美ちゃん、大変だったでしょう、ありがとうね?」


「いえいえ、具材混ぜるだけだから、大した事ないわよぅ。私、ちょっとお吸い物よそってくるから、麻衣ちゃん、この場をお任せしていいかな?」


「大丈夫よ?任せといて?」


麻衣子は、奈美にウインクをすると、皆の取皿にちらし寿司を取り分けたり、グラスに飲み物(大人はビール、子供はジュース)を注いだりし始めた。


それから、しばらく、皆で歓談の時を過ごしす事となった。

     

         *

         *


「ウィック!こんなに美味しく酒が飲めるのは久しぶりだなぁ…。ヒック!」


「京兄…、グラスにビール一杯でもう酔っ払ってるよ…。」


苦笑いする、凪。


「よし、不肖、的場京介!宴の余興にコサックダンスダンスを踊ります!!」


いきなりその場で、屈み、手を胸の前で組み合わせ、足を交互に前に繰り出すダンスを踊り始める京介。


「「すごーい!」」


「まぁ、すごい…!」

「おおっ。京兄、すごいな…!」


「もう。酔っ払いが…!調子に乗って転ばないでよ?」


皆が歓声を上げる中、奈美は、ハラハラしている。


「よしっ。京太郎とめーこちゃんにも、教えてやろう!こっち来い!!」


勢いの止まらない京介に手招きされ、芽衣子と京太郎は、コサックダンスを教えてもらう事になった。


「そうそう…。京太郎、姿勢を保ったままリズムよく、足を繰り出して…。」


「ふん、ふんっ、あっ…!」


何回か足を繰り出したものの、すぐに姿勢を崩して倒れてしまう、京太郎。


「京太郎、リズム感はあるんだが、ちょっと筋力が足りないな。上手に踊れるようには、下半身をもう少し鍛えた方がいいかな?」


「は、はーい。」


「それと、芽衣子ちゃんは…。」


「ふん、…ふんふん…、ふん…、ふんふんふん!」


つらい姿勢で長時間、足を交互に出しながら汗一つかかない芽衣子に驚く京介。


「??め、めーこちゃん、子供の割に下半身周りの体幹がめちゃめちゃしっかりしてるんだな?けど、リズムをとるのは苦手みたいだね…。もう少し練習した方がいいかな?」


「は、はーい。」


「京太郎と、めーこちゃん、それぞれお互いの苦手な事と得意な事が逆だから、一緒に練習すれば、すぐ上手に踊れるようになるんじゃないかな?上手になったらおじさんに見せてね?」


京介がそう言ってにっこり笑いかけると、

二人は嬉しそうに顔を見合わせて、返事をした。


「「はーい!」」


「なんか、いい感じだな?君達。本当に結婚しないの?」


からかう京介に、顔を赤らめる二人。


「だから、本当に何言ってんだよ?おじさん!///」

「……!!(京ちゃんと結婚なんて…!きゃあっ、恥ずかしい…!)///」


「じゃあさ、芽衣子ちゃんは、どんな男の子がタイプなの?どんな男の子なら結婚してみたいと思う?」


「え?!えっと〜!」

「…!!」


突然質問をされ、戸惑う芽衣子。


心配げな表情の京太郎の顔を見て、答えるのを躊躇う。


(京ちゃんは、私の事妹って言ってたし、結婚したいって言うと嫌がるかな…。でも、他に結婚したい人なんていないし…。うーん、どうしよう…?)


「え、えーと、結婚したいタイプは、京ちゃんではないんだけど…。」


「…!!」


困りつつ、芽衣子が答えるのを聞き、がーんとショックを受ける京太郎。


「でも、京ちゃんみたいに優しくて、温かくて、京ちゃんみたいに強くって、めーこを守ってくれて、京ちゃんみたいにいつも一緒にいてくれて、京ちゃんみたいに、カッコイイお顔と声の男の子と、結婚したいです!!」


「…!!!!」


芽衣子が勢いよく、そう言い切ると、周りの大人は、皆ニヨニヨしていた。


「め、芽衣子…。(それ、ほとんど、京太郎くんと結婚したいって言っちゃってる!

京太郎くん、真っ赤になって、何も言えなくなっちゃってるし…。)」


麻衣子は、言えてスッキリした表情になった芽衣子と、京太郎の顔を交互に見て、苦笑いするのだった。


「そっかそっか。芽衣子ちゃんのタイプはそんな感じなんだね?という事はだ…。」


京介は、いたずらっぽい瞳をきらめかせた。


「将来、芽衣子ちゃん俺と結婚するか!」


「ええっ??!(なんでそうなるの??)」


ショックを受けて、涙目になる芽衣子。


「な、何言ってんだよ?!このロリコン親父!芽衣子から離れろ!」


芽衣子を庇うように立つ京太郎。


「京ちゃん…♡♡」


「だって、京太郎ではなくて、京太郎みたいな男って言ったら、俺しかいないだろ?なんたって俺はDNA的に、最も…。」

スパーン!!

「ぐはっ!!」


「あんた、何を血迷ってるの!いい加減にしなさいよっ!?」


京介は、発言の途中で、奈美に丸めたTVガイドの雑誌で、思い切り頭を叩かれた。


「ね、姉さん、落ち着いて!あはは…。京兄ちょっと酔っ払っちゃったかなぁ?」


二人の間に立ちつつ、引き攣った笑いを浮かべる凪。

「まぁまぁ、どうしましょう…。」

オロオロしている麻衣子。


そこへ、追い討ちをかけるような事を京介に言い放つ京太郎。


「めーこと結婚なんて出来るわけないだろ!年だって違うし、第一おじさん、お金ないじゃん!」


「ぐふうっ!」


痛いところを突かれ、かなりのダメージを受ける京介。


人差し指を突きつけて、京太郎は更に言い募った。


「お金がなくてフラフラしている人は、結婚なんかできないんだよ!おじさんなんかと結婚したら相手が可哀想だよ!」


「ぐっふうぅっ…!!!」


致命傷に近い傷を負う京介。


「いいわ!京太郎、もっと言ってやって!!」


ガッツポーズをとり、喜々としてけしかける奈美。


「そ、そっか…。おじさん、だから、結婚出来なかったの…?」

「コ、コラッ、芽衣子!わざわざそんな事言わないの!」


同情的な視線を京介に向ける芽衣子に、それを諫める麻衣子。


「ううっ。皆、もうやめて…。」


「ああ〜、京兄、ホラ、ちょっと酔い醒ましに向こうの部屋行こうか?」


凪が、シクシク泣き出す京介を隣の部屋に連れて行った。


「ちょっとおじさんに言い過ぎたかな…。」


「私も余計な事言っちゃった。後で、

おじさんに優しくしてあげよう?京ちゃん。」


「そ、そうだな…。おじさんの好きな幸福堂の羊羹とってあるし、それ食べたら元気になるかな?」

「うん!きっと元気になるよ!」


少し笑顔の戻った京太郎に大きく頷き、

芽衣子は少し考えた。


(それにしても、「結婚」っていいものだと思っていたけど、お金がかかったり、色々大変なんだなぁ…。これから、コツコツ貯金することにしよう…!いつか、私も…!)


京太郎の顔をちろっとみて、

今年のお年玉は、全額貯金しようと、決意する芽衣子であった。





*あとがき*


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m(_ _)m


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