第150話 三者三様の愛のかたち
(京太郎視点)
「ねぇ、ちょっと聞いた?矢口と氷川さん、結局健全な関係らしいよ?」
「聞いた聞いた!風紀委員が調査して、委員長のオスカル様が、『彼らは校内の模範とすべき、善良で健全なカップルであることを保証します。彼らが何か問題を起こした私は責任をとって風紀委員長を辞す覚悟です!』って、先生に報告したんだってね。」
「あの、完璧なオスカル様が、そこまで言うなら、間違いないんだろうね。
何かあったら責任取るなんて、オスカル様カッコイイ〜。頼りない生活指導の金七とは全然違うよね。」
「ねー。あ、そういや、金七って、長谷川先生と破局したんだっけ?なんか、真実の井戸から貞○の幽霊が出て、長谷川先生を置いて逃げたらしいよ?」
「うわ。最低〜!」
何やら、学校で、また噂が流れていた。
俺と芽衣子ちゃんは疑いの視線を向けられる事はなくなり、女子は白瀬先輩を褒め称え、男子は俺への態度を幾分和らげた。
白瀬先輩め。お礼ってこの事かよ…。
いつもながら、問題解決に対する鮮やかなお手並みには、驚くやら、感心するやら…。
頼んだ事ではないが、芽衣子ちゃんが関わる事だっただけに、お礼をしといた方がいいんだろうな…。
俺は白瀬先輩のドヤ顔を思い浮かべて、苦笑いした。
あれから、大山さんは風紀委員に復帰し、
小谷くんと息のあった様子で服装チェックをする姿が見られた。
庭木くんは、武闘班の女の子と一緒に組んでいた。蕁麻疹の症状は改善されたらしい。
風紀委員がいい方向に向かっているのは、間違いがなく、まぁ、本当によかった。
俺と芽衣子ちゃんはというと、また、お昼休みや、放課後は二人で過ごすようになった。
以前と少し違う事といえば、昼休みも放課後も芽衣子ちゃんが先に授業を終わった時は、教室まで迎えに来てくれるようになった事ぐらいか…。
廊下でソワソワしながら、俺を待ってくれている姿は、本当に忠犬○チ公のようで、いじらしくて可愛い…。
しかし、今日の昼休みは週に一度の校庭清掃の日で、俺と芽衣子ちゃんは、美化委員の集まりに行ったのだが…。
「や!矢口少年、芽衣子嬢、2日ぶりだな!元気でやってるかな?」
「「矢口くん。氷川さん。こんにちは!」」
「白瀬先輩…??」
「大山先輩と、小谷先輩も…??」
集合場所で、清掃道具を手にした白瀬先輩と、大山さん、小谷くんと対面して俺と芽衣子ちゃんは、目を丸くした。
「ふふっ。優秀な人材を二人も借り出ししたお礼に、ぜひ、手伝わせてくれと頼み込まれてね。今回は、風紀委員からボランティアでお手伝いに来てもらいました〜!!」
「矢口くん。氷川さん。本当に借り出しに協力してくれてありがとね!風紀委員のオスカル様が来てくれたから、今日は美化委員の参加率も高くて助かるよ!」
「「そ、そうなんですね…。それはよかったです。」」
美化委員長と、元美化委員長の楠木鈴花、楠木鈴音姉妹に俺達はそう言われ、目をパチクリさせた。
なんと、律儀にも借り出しのお返しもあったらしい…!
*
*
「きゃっ?」
「あっ…。雅、ごめん。ぶつかっちゃった。」
「ううん。大丈夫だよ?ゴミ、一緒のとこに集めよ?潮…♡」
「う、うん。雅…♡」
校庭の掃き掃除をしながら、お尻同士がぶつかってしまったらしい大山さんと小谷くんは、正視できないほど甘々な空気を醸し出していた。
大山さんと小谷くん、辛い時期もあったけど、幸せそうでよかったなぁと思っていると、ちり取りをもった長身のポニーテールの女生徒が声をかけてきた。
「雅と潮、風紀委員でもずっとあんな感じなんだ。当てられちゃうだろ?」
「白瀬先輩…。でも、二人幸せそうでよかったです。それに、白瀬先輩も嬉しそうじゃないですか?」
「まぁな。あれから、久々に、幼馴染みの3人で腹を割って話し合ったんだ。ほとんどは、二人の惚気をきいてるだけだったけどな…。ふふっ。」
そう言って笑っている白瀬先輩に、お礼を言わねばと思った。
「あのっ。先生方に俺達の事をあんな風に報告して頂いてありがとうございました!
でも、何も責任を取るとまで言って頂かなくても…。」
「いやいや、私にできる事といったら、これぐらいしかないからな…。君らにやってもらった事を考えると、ゆうにお釣りがくるぐらいだ…!」
リスクを背負わせてしまった事を、俺が申し訳なく思っていると、白瀬先輩は、にっこりイケメンスマイルを浮かべ、手をひらひらと振った。
「ふふっ。天下の風紀委員長様がここまで太鼓判押したんだから、ギュウとかチュウまでの健全な付き合いで頼むな?せめて…私が卒業するまでは、芽衣子嬢に手を出すなよ?」
「ギュウとかチュウって…!ぜ…善所します…。」
白瀬先輩は、いたずらっぽい笑みを浮かべてそう言われ、俺は真っ赤になって答えた。
「あとな…矢口少年。」
白瀬先輩は、少し顔を赤らめて、ひそっと俺に囁いた。
「(あの時、真実の井戸の近くで雅と潮の悪口を聞いて腰を抜かしていた事は、誰にも秘密だぞっ?いいな…?)」
「(ふふっ。分かりました。気にしないで下さい。俺も、芽衣子ちゃんの告白で、腰抜かしてるとこ見られているので、おあいこです。お互い、秘密って事でいいですね。)」
「ふふっ。ああ…。二人だけの秘密だ…。」
そう言って、無邪気な笑顔になる白瀬先輩は、やっぱり魅力的で、例え恋愛ではなくなっても、この人は俺の憧れの人であり続けるんだろうな…。
と思ってしまったのは、俺の胸の内だけにしまった秘密…。
「おっと、また話し込んでいると、芽衣子嬢がさびしんぼうワンコになってしまうな。」
「えっ。」
白瀬先輩と俺は、校門の前辺りを掃除している芽衣子ちゃんの方を見遣った。
芽衣子ちゃんは、下にいくつか落ちている光る何かを拾おうと屈んでいた。
そして、近くにいる美化委員の男子生徒が、手伝おうかチラチラ様子を窺っているのが見えた。
「あれ?あの辺り下に割れたビンが落ちているみたいだな。芽衣子嬢、かけらを拾おうとしているぞ。お、あの男子手伝おうとしているな。矢口少年、いいのかい?」
「…!!ちょ、ちょっと俺、行って来ます!」
「うむ。矢口少年。行ってらっしゃい。」
俺はニヤニヤしている白瀬先輩にペコリと頭を下げると、慌てて芽衣子ちゃんのところへ走り寄っていった。
どうせ嫉妬深いとか、余裕ないとか思われてんだろうなぁ。
でも、本当にそうだし、もう隠してもしょうがない。
好きな子の前で、余裕持てるほど俺は大人じゃないよ。
カッコ悪くても、みっともなくても、自分の気持ちに正直にぶつかっていく事。
真っ直ぐな彼女の隣にいるために最低限それぐらいは努力しなければと、俺は強く思った。
「め、芽衣子ちゃんっ…!!」
俺は息を切らしながら、彼女に精一杯の大声で呼び掛けた。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
(芽衣子視点)
「きゃっ?」
「あっ…。雅、ごめん。ぶつかっちゃった。」
「ううん。大丈夫だよ?ゴミ、一緒のとこに集めよ?潮…♡」
「う、うん。雅…♡」
校庭の掃き掃除をしながら、お尻同士がぶつかってしまったらしい大山さんと小谷くんは、正視できないほど甘々な空気を醸し出していた。
大山先輩と小谷先輩、ラブラブでいいなぁ…!よし、私も、京ちゃんと…♡と思って京ちゃんの方を見ると…。
?!
先に京ちゃんに近付いていく、長身のポニーテールの女生徒がいた。
白瀬先輩だったー。
白瀬先輩と京ちゃんは笑い合いながら、何やら話している。
な、何話してるんだろ?楽しそうだな…。
あっ。な、なんか親しげにヒソヒソ話してるぅ…!あんまり、京ちゃんに近寄らないでぇ…!!
私は気になって仕方がなく、二人の様子をチラチラ横目で窺って、ヤキモキしていた。
数日前、二人の仲が心配するとのではないと白瀬先輩にも、京ちゃんにも説明を受けて、一応の納得はした。
その後白瀬先輩は、風紀委員長の職までかけて、私と京ちゃんの事を健全な関係だと、先生方に保証してくれたらしい。
あまりある恩がある人なのは、間違いないし、私自身、凛々しくも面倒見のよい白瀬先輩の事が決して嫌いと言うワケじゃない。
けど、京ちゃんと白瀬先輩が並んでいるところを見てしまうと、やっぱり他の人が立ち入れない、二人だけの世界がある気がして、またモヤモヤしてしまうんだよなぁ…。
はぁ…。凹む…。
俯いてため息をついていると、校門の近くに、割れたコーラのビンが転がっているのに気付いた。周りにいくつか、ガラスの破片も散乱している。
「もう、ここ、皆の通り道なのに…!」
捨てた人に文句を言いながら、ガラスの瓶を拾って、カケラを拾おうとしていると、息せき切って駆けてくる茶髪の男子生徒がいた。
「め、芽衣子ちゃんっ…!!」
…!!
「京先輩…!!」
さっきまでの暗い気分が吹き飛んで、私は顔を輝かせて立ち上がった。
「ガラス、危ないから、俺が拾うよ…!」
「えっ。で、でも…。」
そう申し出てくれる京ちゃんに私は京ちゃんがケガしたら嫌だなと思って、ちょっと躊躇った。
「大丈夫。俺、軍手してるし…。」
グーパーして両手を見せてくれる京ちゃんに、私は安心してにっこり微笑んだ。
「はい。じゃあ、お願いします…!」
「うん。任せて?」
京ちゃんが、屈んでガラスの破片を丁寧に拾ってくれるところを、私も屈んで間近で見ながら、ポーッとしていた。
はぅ…♡こういう、さり気ない気遣いが京ちゃんホントカッコイイんだよな…。
色々モヤモヤする事があっても、京ちゃんに
こんな風に少しでも優しくされたら、全部吹き飛んじゃう。
今日も私はチョロワンコ…🐶
揺るぎなく幸せ♡♡だった…。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
(白瀬先輩視点)
矢口少年は、芽衣子嬢に近付こうとする美化委員の他の男子生徒の存在を指摘すると、
焦って芽衣子嬢の下へすっ飛んで行ってしまった。
ふふっ。矢口少年、意外と嫉妬深く、余裕ないんだよな…。そんなに心配しなくても、矢口少年にべた惚れの芽衣子嬢が他の男子に目移りする事はないと思うんだが…。
恋は盲目と言う事か…。
私は矢口少年が芽衣子嬢の代わりに割れたビンのカケラを拾ってあげ、二人睦まじく寄り添っている様子を微笑ましく見守っていた。
芽衣子嬢の秘密、本当は、最初に会ったときから…。いや、校内放送に二人が出演しているのを見た時から、なんとなく分かっていた。
彼女が矢口少年の運命の人かつ、矢口少年を茶髪にした張本人だって事…。
芽衣子嬢と矢口少年には、雅と潮と同じような空気感、長い間共に過ごして築いてきた絆のようなものが感じられたから。
どうして、芽衣子嬢が、以前の関係を矢口少年に秘密にしているのかは分からない。
しかし、正体を知らずとも再会した彼女に惹かれていく矢口少年を見ていると、運命の恋というものを感じずにはいられなかった。
だからこそ、雅と潮に君達の言動があんなにも深く響いたのかもしれないな。
「あ、潮。ほっぺに土ついてるよ?」
「え、ホント?あ〜、さっき泥のついた手で汗拭っちゃったかな?」
「もう、しょうがないな…。結構こびりついちゃってるから、私が拭いてあげるね?えいっ。♡」
「うわ。雅、ちょっと、くすぐったいよ…。//」
「京先輩、大丈夫?ガラス刺さってないですか?」
「大丈夫だよ。芽衣子ちゃん。」
「ほんとにほんとですか?ちょっと、軍手脱いで見せて下さい。むっ?これ傷になってませんか…?」
「ちょっ…。芽衣子ちゃん、それ、元からある、ただのささくれだから…。手の平指でなぞらないでよ。こそばいし…//」
いや、聞いてるこっちの方がこそばゆくなってくるんだが…。
全く、尊いなぁ…?君らは本当に素晴らしい幼馴染みカップルだよ。
愛しているぞ…?
二組のカップルを見守りながら、私は胸いっぱいに愛おしさが込み上げるのを感じていた…。
*あとがき*
読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます
m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます