第149話 君はやっぱりポンコツ
「京先輩?ホラ、あーんですよ?」
芽衣子ちゃんは、向かいの席で巨大なチョコパフェから、生クリームのかかったチョコアイスの部分をスプーンで掬って俺の口元に差し出して来た。
「あっ、う、うん…。んっ。」
躊躇いながらも、大きく口を開けると、
チョコアイスが口の中に入ってきて、冷たくて甘い風味が口いっぱいに広がった。
「ふふっ。お味はどうですか?」
ニコニコ聞いてくる芽衣子ちゃんの顔を真正面から見れず、俺は目を逸らした。
「あ、ああ…。甘くて美味しいよ?」
「よかったぁ…!京先輩。私にもあーんしてください?」
「えっ。あ、ああ、どうしよう?スプーン一本しかないけど…。」
躊躇する俺に、芽衣子ちゃんは、にっこり笑顔で答えた。
「ああ、同じスプーンで大丈夫ですよ?
もし京先輩が気にするなら、もう一本持って来てもらいますけど…。」
「えっ。い、いや、俺はいいけど…。」
「じゃあ、大丈夫ですね。お願いしま〜す。」
芽衣子ちゃんは、俺にスプーンを渡して
目を閉じて、口を開けて待っている。
うっ。なんか、鳥の雛のようで可愛い…。
「い、いくよ?」
俺は震える手でチョコシロップのかかったバニラアイスの部分を芽衣子ちゃんのピンク色の舌に乗せるように置いた。
「んっ…!あ、甘〜い♡京先輩が食べさせてくれたから、倍美味しいです!」
芽衣子ちゃんはさも美味しそうに手でほっぺを押さえた。
「そ、そう?それならよかった…。」
俺との間接キスも特に気にすることもなく、
嬉しそうに口をモグモグ動かしている芽衣子ちゃんに愛おしさを感じながらも、俺は気の利いた言葉も言えず、ただ赤面するばかりだった。
白瀬先輩と別れた後、芽衣子ちゃんの要望通り、俺は学校中の生徒の視線を浴びながら、芽衣子ちゃんと一緒に手を繋いで下校し、3駅先の映画館のある複合施設へ行き、「8回目のプロポーズ」という恋愛映画を(手を繋いだまま)鑑賞した後、
同じ施設内の「高島フルーツパーラー」で、ジャンボパフェを二人で食べさせあいっこし始めたのだったが…。
色んな意味で甘過ぎる…!!
俺は恥ずかしさに顔を赤らめながら、芽衣子ちゃんの顔がなかなか見られなかった。
芽衣子ちゃんは、そんな俺にさっき見た映画の話題を振ってきた。
「さっきの「8回目のプロポーズ」愛を信じられないヒロインの為に、色んなシチュエーションや場所でプロポーズする主人公が面白かったですね?」
「あ、ああ。最後、気球でプロポーズをしようとして、墜落しそうになるところではどうなるかと思ったよ。」
恋愛映画のジャンルではあるが、コテコテの恋愛物ではなく、ギャグあり、アクションありで、先が読めない奇想天外な展開に、
恋愛物苦手な俺にも最後まで楽しく観ることが出来たのだった。
「はい。最後、実はヒロインがスカイダイビングの資格を持っていて、最後主人公を助けて空で逆プロポーズするラストは本当に感動しました…。」
芽衣子ちゃんは、手を組み合わせて、目をウルウルとさせていた。
「ああ…。メチャクチャだったけど、最後は感動させられたよな…。」
映画のヒロインに愛を届ける為に必死になっている主人公の姿を思い浮かべ、
井戸での芽衣子ちゃんの告白を重ね合わせてしまった。
『私、氷川芽衣子はーーっ!!
矢口京太郎を愛していますーーーっ!!!
世界中の誰よりもーーーっ!!
うわあぁ〜んっ!!ああぁ〜んっ!!』
あれって、やっぱり…マジ告だったんだろうか…?
思い出すと、ドンドン顔が熱くなって、鼓動が速くなっていく。
なかなか芽衣子ちゃんの顔が見れなくて、パフェを口に運ぶ手が、誤って少しほっぺよりにぶつかってしまった。
「あっ…。ご、ゴメン…!!」
「だ、大丈夫です。ん、んっしょ。」
芽衣子ちゃんは、ペロッと舌でアイスを受け取って口の中に入れた。
うっ…!今の仕草、なんかエロい…!!
「京先輩…。あんまり私の顔見てくれないけど、何かありました…?今日は、白瀬先輩との事誤解して、怒っちゃったし、ワガママ言って色々付き合わせてしまって、ごめんなさいね…?」
芽衣子ちゃんは、申し訳なさそうな顔でこちらをちろっと窺うように見てくる。
「あ、いや、こっちこそゴメン…!別に怒ってるとかじゃなくて…。ちょ、ちょっと、恥ずかしくてさ…。」
俺は慌てて否定すると自分の気持ちを正直に伝えた。
「きょ、今日は、嘘コクデートだって言われなかったから…。」
「あ…!!」
芽衣子ちゃんの頬が一気にピンクに色付いた。
「そ、そうでしたね…。言いませんでした…。」
芽衣子ちゃんも、俺から目を逸らして、俯いた。
「どうして…嘘コクデートって言ってないのに、恥ずかしいのも我慢して付き合ってくれたんですか…?」
「いや、今日は俺の気遣いがないせいで、
芽衣子ちゃんを不安にさせて泣かせてしまったし、許してくれるなら、俺ができる事なら何でもしようと思って…。」
俺は息を吸い込んで勇気を出して芽衣子ちゃんの顔を見て言った。
「芽衣子ちゃんとは、仲良く一緒にいたいから…さ…。」
「…!!京先輩…!!」
「あの、俺、色々鈍いし、気付かないし、芽衣子ちゃんの気持ちを分かってあげられない事があると思うんだけど、ごめんね…。
何が芽衣子ちゃんをそんなに不安にさせていたのか、教えてくれる…?俺も気を付けるように努力するから…。」
「京先輩…。私…。」
芽衣子ちゃんは、一瞬ふっと泣きそうな表情になったかと思うと…。
極上の笑みを浮かべてこう言った。
「うふふ。今、あまりに幸せ過ぎて、全っ部忘れちゃいましたぁ!!」
「え。」
俺は思った。
やっぱ、この子ポンコツだと…!!
そして、実感した。
だけど、俺はそんなポンコツな茶髪美少女が、世界一可愛いのだと…。
口に出しては、まだ言えないけどさ…。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
「京先輩?ホラ、あーんですよ?」
私は、巨大なチョコパフェから、生クリームのかかったチョコアイスの部分をスプーンで掬って向かいの席の京ちゃんの口元に差し出した。
「あっ、う、うん…。んっ。」
京ちゃんは、少し躊躇ってから、大きく口を開けてくれた。
キュンっ♡可愛い♡♡
なすがままの京ちゃんに私は母性本能をくすぐられながら、チョコアイスを入れて上げると京ちゃんは、モグモグと口を動かして食べてくれた。
「ふふっ。お味はどうですか?」
「あ、ああ…。甘くて美味しいよ?」
ルンルン気分で京ちゃんに聞く私から少し目を逸らしながらも、そう答えてくれた。
「よかったぁ…!京先輩。私にもあーんしてください?」
そして更に調子に乗る私…!
「えっ。あ、ああ、どうしよう?スプーン一本しかないけど…。」
あれ?京ちゃん、昔はよく二人で、同じお皿の物、半分こして食べたり、一つしかスプーンないとき、順番こで食べたりしてたのに、
今はそういうの気にするのかな?
躊躇する京ちゃんに、私は、にっこり笑顔で答えた。
「ああ、同じスプーンで大丈夫ですよ?
もし京先輩が気にするなら、もう一本持って来てもらいますけど…。」
「えっ。い、いや、俺はいいけど…。」
「じゃあ、大丈夫ですね。お願いしま〜す。」
私は、京ちゃんにスプーンを渡して目を閉じて、口を開けてあーんをしてくれるのを待った。
「い、いくよ?」
京ちゃんは、バニラアイスの部分を私の舌に乗せるようにそっと置いてくれた。
チョコシロップのたっぷりかかったバニラアイスの甘〜い甘い味が口いっぱいにひろがった。
「んっ…!あ、甘〜い♡京先輩が食べさせてくれたから、倍美味しいです!」
美味しくて幸せで堪らない私は手でほっぺを押さえて悶えた。
「そ、そう?それならよかった…。」
心なしか少しお顔の赤い京ちゃんを真向かいで眺めながら、この幸せな状況はどうした事だろう…?と、夢心地でポーッとしていた。
放課後、真実の井戸で、大山先輩と小谷先輩が仲直りした後、寂しくなった私が、井戸に向かって京ちゃんへの愛を叫んで泣いていると、白瀬先輩と京ちゃんが一緒にやって来た。
目配せをし合い、何やらとても通じ合っているような白瀬先輩と京ちゃんの様子に不安を感じた私は、
二人の仲を疑って責めてしまった。
けど、京ちゃんは、そんな私の手を優しく繋いでくれ、ヤケクソで出した許す為の条件を
全部実行してくれると言ってくれた。(事実、後で本当に全部実行してくれた。)
白瀬先輩は、京ちゃんは、見回りの仕事を手伝ってくれていただけで、コソコソしていたのは、京ちゃんが私の為に、風紀委員の借り出し期間を短縮するように秘密裏に交渉してくれていたのだと教えてくれた。
そして、白瀬先輩は、風紀委員の問題を全部解決してくれた私達にいたく感謝して、
借り出し期間の短縮と終了を宣言してくれた。
でも、私が風紀委員に来てから、やった事と言えばー。
・庭木先輩を小学生の坊やと間違う。
・京ちゃんへの間違った看病(服を脱ぎ温
める)をしようとし、大山先輩に迷惑を
かける。
・大山先輩の話を聞くも、諸悪の根源の
秋川先輩を接触させてしまう。
・真実の井戸で大山先輩と小谷先輩に白瀬
先輩への悪口を先導してしまう。
など、我ながらポンコツな事しかやっていない。そんなにお礼を言われるような事は何もやってないんだけど…と、私は首を捻った。
ともあれ、無事風紀委員の借り出しを終え、京ちゃんと私は健全な関係とお墨付きを頂き、明日から自由の身(美化委員へ戻る)
となったのだった。
白瀬先輩と別れた後、京ちゃんは、私の要望通り、学校中の生徒の視線を浴びながら一緒に手を繋いで下校してくれ、3駅先の映画館のある複合施設へ行き、「8回目のプロポーズ」という恋愛映画を(手を繋いだまま)鑑賞してくれた後、
同じ施設内の「高島フルーツパーラー」で、ジャンボパフェを二人で食べさせあいっこしながら、今見た映画の話題で盛り上がり、
夢のような時間を過ごしていた。
今日の京ちゃん、優しすぎる…。
どうして、こんなによくしてくれるんだろ…。
もしかして、白瀬先輩と本当に何かあって、罪悪感の為にやってくれるわけじゃないよね…。
さっきから、あんまり目合わないし…。
『さあ。矢口少年。あんないいなりチョロワンコなど、放っておいてこっちに来るんだ…。放課後の服装チェックを始めるぞ…♡?』
『あっ…♡白瀬先輩…。俺はあなたの犬ですっ…!』
ああっ…!京ちゃんがいいなりエロワンコにされてしまってたらどうしようっ?!
私は良からぬ想像(妄想)をして、青くなった。
いやいや、流石にそれはない!
白瀬先輩も京ちゃんもそんな人ではない!
そんな人ではないと思うけど…。
考え事をしていた私は、京ちゃんがパフェを運んでくれるタイミングでうまく口を開けれなくて、アイスが少しほっぺよりにぶつかってしまった。
「あっ…。ご、ゴメン…!!」
「だ、大丈夫です。ん、んっしょ。」
私は、ペロッと舌でアイスを受け取って口の中に入れた。
そして、意を決して京ちゃんの気持ちを探るべく、ちょっと突っ込んで見る事にした。
「京先輩…。あんまり私の顔見てくれないけど、何かありました…?今日は、白瀬先輩との事誤解して、怒っちゃったし、ワガママ言って色々付き合わせてしまって、ごめんなさいね…?」
私は、遠慮がちに京ちゃんをちろっと窺うように見た。
「あ、いや、こっちこそゴメン…!別に怒ってるとかじゃなくて…。ちょ、ちょっと、恥ずかしくてさ…。」
京ちゃんは慌てて否定すると思いがけない事を言った。
「きょ、今日は、嘘コクデートだって言われなかったから…。」
「あ…!!」
そう言われた瞬間、私の頬がかあっと熱くなった。
「そ、そうでしたね…。言いませんでした…。」
本来なら、京ちゃんとは、嘘コクで繋がっている間柄なのだから、嘘コクデートと言わなければ、付き合ってもらえない筈なのに、
風紀委員の事で色々あって、忘れていた…!
という事は、この放課後デートは、本当のデートとして、京ちゃんは付き合ってくれているって事…!?
私も急に恥ずかしくなって、京ちゃんから目を逸らして、俯いた。
「どうして…嘘コクデートって言ってないのに、恥ずかしいのも我慢して付き合ってくれたんですか…?」
「いや、今日は俺の気遣いがないせいで、
芽衣子ちゃんを不安にさせて泣かせてしまったし、許してくれるなら、俺ができる事なら何でもしようと思って…。」
京ちゃんはそう言うと、息を吸い込んで
私の顔を真正面から見た。
「芽衣子ちゃんとは、仲良く一緒にいたいから…さ…。」
「…!!京先輩…!!」
そう伝えてくれた京ちゃんの目は真剣で…。お顔は真っ赤で…。勇気を出して一生懸命気持ちを伝えてくれている事が分かった。
ああ…。手を繋いでくれたのも、恥ずかしいのを我慢して嘘コクじゃないデートに付き合ってくれたのも、全部、
私の不安を解消する為にしてくれた事だったんだ…!
「あの、俺、色々鈍いし、気付かないし、芽衣子ちゃんの気持ちを分かってあげられない事があると思うんだけど、ごめんね…。
何が芽衣子ちゃんをそんなに不安にさせていたのか、教えてくれる…?俺も気を付けるように努力するから…。」
「京先輩…。私…。」
正直な気持ちを言うと、白瀬先輩と京ちゃんから弁明を受けたものの、モヤモヤが全くないわけじゃない。
京ちゃんの白瀬先輩を見る目には、憧れが宿っていたし、白瀬先輩の京ちゃんを見る目にも、特別な感情が込められていた気がする。
二人並んでいるところは、悔しいけどとってもいい雰囲気だった。
だけど…。それでも、京ちゃんは白瀬先輩の前で私と手を繋いでくれた。
私の不安を解消して、私と一緒にいる事を選んでくれた。私を優先してくれた。
もう、それだけで私は胸がいっぱいで、心がポカポカ温かく満たされていくのを感じた。
いいなりチョロワンコと言われてもいい。
この幸せを大事にしたかった。
「うふふ。今、あまりに幸せ過ぎて、全っ部忘れちゃいましたぁ!!」
「え。」
至福の笑顔を浮かべてそう言う私に京ちゃんは呆れたような視線を向けてきた。
そして、そんな彼に、今しか言えない事を伝えた。
「京先輩。近い内に最後の嘘コクミッションをしてもいいですか…?私、京先輩に伝えたい事があるんです。」
*あとがき*
いつも読んで頂きまして、フォローや応援、評価下さってありがとうございます。
カクヨムコン中間選考が発表されましたね。
残念ながら、選考は突破出来ませんでしたが、応援下さった読者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました✨🙏✨
嘘コク6人目のお話も、あと2話になりましたが、最後までどうかよろしくお願いします
m(_ _)m
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