第146話 矢口京太郎の告白

「(あっ!潮が来たぞ?)」

「!!(小谷くん…。)」


俺と白瀬先輩は、焼却炉の近くに隠れ、

小谷くんが、植え込みで区切られた真実の井戸の方へ向かっていくのを確認した。


多分、これから小谷くんと約束をしている

芽衣子ちゃんがここに来る事になっている。


白瀬先輩の勢いに押されて、ついここまで来ちゃったけど、二人で会っているところを確認して、その後俺はどうしたらいいのだろう…?

芽衣子ちゃんは話を聞くだけって言ってるのに、こそこそ後を付け回したりして…。

余計にモヤモヤするだけじゃないか…。

俺がため息をついていると、白瀬先輩が心を読んだかのように、ニヤリと笑った。


「(さては、矢口少年、後を付けたところでこれからどうしたらいいかと途方に暮れているな?案ずるな。

私の予想通りであれば、恐らく、君が心配しているようにはならないから。)」

「??(一体どういう事…)」


白瀬先輩に問い返そうとした時、向こうから二人の女子生徒の会話が聞こえてきた。


「大丈夫?氷川さん、疲れちゃったかな?

今日は一日私の事で振り回してしまってごめんね。体調悪そうだったら無理しなくていいよ?保健室戻ろうか?」


「い、いえっ。大丈夫です。」


「!!」

「(やはりな…。)」


芽衣子ちゃんと、は、

呆気にとられている俺と、満足気に頷いている白瀬先輩の近くを通り過ぎ、小谷くんの待つ真実の井戸の辺りに向かって行った。


な、なんだ…。小谷くんと二人きりじゃなくて、大山さんも一緒なのか…。


ホッとして、肩の力が抜けている俺を、白瀬先輩が面白そうに見ていた。


「なっ?心配することはなかったろ?」

「白瀬先輩、分かっていたなら、最初から教えて下さいよ!」


食って掛かる俺に、白瀬先輩は、人の悪そうな笑みを浮かべて舌を出した。


「いや、こういうのは、ちゃんと自分の目で確かめた方がいいかと思ってな…。

恐らく芽衣子嬢は、雅と潮を真実の井戸で

二人きりにする為にここに来たのだろうから、いい頃合を見計らって戻って来るのではないかな?それまで、ここで待つかい?」


「いえ、帰ります…。心配で後を付けてきたなんて、ストーカーみたいな事やってたなんて、知られたくないです…。」


白瀬先輩に唆されたとはいえ、俺は急に自分のやった事が恥ずかしくなり、とぼとぼと校舎の方へ歩き出した。


「おやおや…。」


白瀬先輩が、肩を竦めると俺の後を追ってきた。


「それだけ、芽衣子嬢が気になる存在という事じゃないか…。知ったら、芽衣子嬢は逆に喜ぶと思うけどな…。それでなくても、

彼女は、最近、君の言動に不安を感じているようだし…。」


「…!」


白瀬先輩の言葉に、俺は芽衣子ちゃんの言葉を思い出した。


『誰か、黒髪で気になる人が出来たんですか?その人とおそろいにしたいんですか?』

『白瀬先輩…ですか?』


もしかして、芽衣子ちゃん…、俺と白瀬先輩の仲を疑って不安に…?


はたと思い当たった時ー。


「ねぇ、たっちゃん、どこへ行くのよ?」

「いいから、僕に付いてきて?マミちゃん!」


一組の男女が俺達のすぐ側を通り過ぎて、真実の井戸の方へ向かって行った。


「「長谷川先生と…金七先生…?」」


俺と白瀬先輩は顔を見合わせた。


         *

         *  


あの三人と鉢合わせしてしまうであろうと、気になって、真実の井戸の方へ向かってみると…。


「ぎゃあああああぁっ!!貞○だぁ!」

「きゃあああああぁっ!!貞○よぉ!」


突然男女の物凄い叫び声がしたかと思うと、金七先生と、少し遅れて長谷川先生が飛び出して来て、もう少しでぶつかりそうになった。


「お、お助け〜!!殺さないでくれーーっ!!」

「ちょっ、たっくん?!いやあぁ!置いて行かないでよ〜っ!待って〜!!」


「「??」」


泣きながら走り去っていく先生達を俺と白瀬先輩は唖然として見送った。


「一体何があったんでしょうか?」

「詳しい方法は分からないが、三人が何かで驚かせて、追い払ったみたいだな。さ、貞○って…。ぷぷっ…。」


白瀬先輩は、片手で口元を押さえて笑いを堪えていた。


「ふふっ。悪いが、ちょっと胸がすいてしまったぞ?これに懲りて、職務をサボってイチャコラするのを控えてくれたらいいんだが…。くふふっ。」


「……。」


そうやって、無邪気に笑う白瀬先輩は、やっぱり魅力的で、俺は彼女に言わなければいけない事があると思ったのだった。


「白瀬先輩…。俺、あなたに言いたい事があります。」


「ん?なんだ?矢口少年。」


そのキラキラした黒い大きな目を真ん丸にして問いかけてくる彼女に俺は告げた。


「白瀬先輩…。俺はあなたにずっと惹かれていました。」


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