第144話 仄暗い井戸の底から…。
「“鉄は熱い内に打て“と言います。この機会を逃さず、小谷先輩に素直な気持ちを伝えましょうね?大山先輩…?」
「わ、分かってる…!うん…、頑張る…!」
隣から呼びかけると、大山先輩は、緊張した様子で大きく頷いた。
あの後、決心したものの、なかなか小谷先輩に素直になれないと、大山先輩から相談を受けて、私は、真実の井戸で話し合ってみる事を提案した。
小谷先輩にもその旨お伝えして、放課後に真実の井戸で、二人を引き合わせる計画を立てた。
最初は、私も立ち会って欲しいとの事だったので、保健室から、真実の井戸まで大山先輩に同行する事になった。
本当は、京ちゃんにも相談したかったのだけど、昼休みは、結局会えずじまいだった。
放課後、その件で小谷先輩にも用事があるから帰りが遅くなるという内容のメールを送ったけど、京ちゃんからの返事はあっさりしたものだった。
『ちょうど自分も用事があるから大丈夫だよ。用事終わったら、連絡下さい。』
用事って、誰とだろう?この前の双子の女の子かな??それとも、綺麗な担任の先生??それともまた白瀬先輩??
京ちゃんは、私の用事の事なんて特に心配してないみたいなのに、私はモヤモヤと心配でいっぱいだった。
この間、庭木くんを小さい子と思って手を繋いでしまったときは、京ちゃん不機嫌だったけど、あの時は体調悪かったっぽいし、ヤキモチではなかったのかな…。
白瀬先輩には、両想いと言われ、浮かれていたけど、やっぱり私ばっかりが京ちゃんの事を片想いしている気がする…。
人の世話を焼く余裕があるほど自分の恋路はうまく行ってのだけどな…。
小さくため息をついた私に、大山先輩が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫?氷川さん、疲れちゃったかな?
今日は一日私の事で振り回してしまってごめんね。体調悪そうだったら無理しなくていいよ?保健室戻ろうか?」
「い、いえっ。大丈夫です。」
私は慌てて手をブンブン振って否定した。
大山先輩。いい人!私って心が狭いなぁ。
昨日、京ちゃんの看病の件でもお世話になったのだし、できるだけの事はやろうと思い直した。
「あっ。小谷先輩、もういらっしゃってるみたいですよ?」
「潮…!」
「雅…!氷川さん…!」
植木に囲まれた真実の井戸の辺りに、背の高い糸目の男子生徒が立っていた。
「「……。」」
幼馴染みの二人はしばし沈黙して向かい合った。
「えっと、小谷先輩。来て頂いてありがとうございます。大山先輩が、普段言えない素直な気持ちを伝えたいという事でしたので、ここに来て頂いたんです。ねっ。大山先輩。」
「う、うん…。」
私が呼びかけると、大山先輩は頬を染めて頷いた。
「雅…。言えない気持ちって何だ?ま、まさか柑菜さんの事…か?」
「…!」
不安げに問いかける小谷先輩に、大山先輩が
傷付いたような表情になった。
「な、なんで柑菜さんの話になるのよ?!
潮って、いつも柑菜さんの話ばっかりだよね?」
「いや、それを言うなら、雅だってそうだろ?いつも、二言目には柑菜さんがって言うじゃないか?」
「そ、それは、潮がいつも…!」
「あ、あの、お二人共〜、ここまで来てケンカはやめて下さい。とにかく、落ち着いて下さい。」
私がオロオロしながら言い合う二人に呼びかけていると、近くから、男女の話し合う声が聞こえて来た。
「たっちゃん、なあに?こんなところまで連れて来て…。イチャイチャするなら、いつもの教科準備室の方が冷房効いてて涼しいのに…。」
「いやね。マミちゃん、ここには、
真実の井戸っていう恋人達のイチャラブスポットがあってね?
ここで、君への真実の愛を誓いたいと思ってね。」
「そうなんだぁ…。たっちゃん、ロマンチストなのね♡」
「あの声は…?」
「確か、生活指導の金七先生と…。」
「うちのクラスの担任の長谷川先生…?」
大山先輩と小谷先輩と私は顔を見合わせた。
「え、こ、こっちへ来ますよ?…ふわぁっ!!」
足音が近付いて、こちらに向かってくるのに動揺して、私は木の根に足をとられて体勢を崩してしまった。
ドンッ!
転びながら、勢いで大山先輩を押してしまう。
「キャッ?!」
「ご、ごめんなさ…!」
「雅危な…。」
ドサドサッ。
「「わっ…!!」」
ガタガタドダーン!!
「キャアァっっ…!!!」
大山さんを助けようと、小谷先輩がその下敷きになるように、折り重なって植え込みに隠れるように倒れていくのを横目で見ながら、私は、そのまま井戸の中に突っ込んで行ってしまった。
「あら?今、誰かの声がしなかった?」
「え?誰もいないじゃないか…?」
すぐ近くで、先生達の声が聞こえる。
「(イタタタ…!)」
井戸の中は埋め立てられていて、そんなに高いところから落ちたワケではないが、打った背中をさすりながら、私は涙目になっていた。
「マミちゃん…!俺は君を愛しているよ?」
「たっちゃん!嬉しい…!!」
何やら先生達がイチャコラしているらしい。
どうしよう?出るに出られない…。
「生徒達の間では、真実の井戸を覗き込みながら、言う事は嘘が言えないと言われているんだ。今から君への永遠の愛を誓うよ…!」
「たっちゃん…!!」
「!!」
先生が井戸の方を覗き込んでくる気配を感じて、私は青褪めて、井戸の中で身を縮めた。
「金七剛士はー!!長谷川マミを愛していますー!!世界中の誰よりも!!どんな事があっても、必ず君を守…」
最初、目を閉じて、必死に絶叫していた金七先生だが、途中から井戸の中に私が座り込んでいるのを発見し、ヒュッと息を飲んだ。
「??!! さ…、さ…、貞○…?」
転んだ拍子に髪が乱れて、顔の前に垂れてしまっていた私の姿を見て、金七先生は震え声を出した。
「いや、違います…。私は、1-Dのひか…」
言いながら、のそりと井戸から這い出てくる私の姿を見て、金七先生も、長谷川先生も後ずさって悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああぁっ!!貞○だぁ!」
「きゃあああああぁっ!!貞○よぉ!」
「いや、だから、違っ…!」
「お、お助け〜!!殺さないでくれーーっ!!」
「ちょっ、たっくん?!いやあぁ!置いて行かないでよ〜っ!待って〜!!」
私の言葉も聞かず、我先にと、逃げ出す金七先生と、それを追いかける長谷川先生…。
「人の話を聞かない先生達だなぁ…。ふう。久々に髪で前が見えにくかった。あっ、そうだ!大山先輩…」
私は髪を直しながら、一息つくと、突き飛ばしてしまった大山先輩の事を思い出した。
急いで、植え込みの辺りに駆け寄ると…。
大山先輩が、小谷先輩に抱きかかえられる形になって、二人倒れ込んでいるのを発見し
慌てて声をかけた。
「大山先輩!小谷先輩!だ、大丈夫ですかっ!?さっきは突き飛ばしてしまってごめんなさい!ケガはありませんかっ?」
小谷先輩に抱き抱えられて、ポーッとした表情になっていた大山先輩は、私を見ると、ハッとしたように、すぐに小谷先輩から離れた。
「ひ、氷川さん…!//だ、大丈夫!潮が守ってくれたから、ケガしてない!う、潮は大丈夫…?」
大山先輩が頬を染めて目を逸らしながら小谷先輩に聞くと、小谷先輩も大山先輩に触れていた手を所在なげにグーパーしながら、俯いて答えた。
「お、俺も受け身とったから大丈夫!//氷川さん、気にしないで…!」
「よ、よかったぁ…。本当にごめんなさい…ん?」
私はホッと胸を撫で下ろしたが、お互いを気にしてチラチラと視線を送り合っている
二人を見て、さっきと違ってしっとりした空気が流れている事に気付いた。
あれ…?何か知らないけど、いい感じの雰囲気かな?これなら、お話し合いうまく行きそう…かな…?
*あとがき*
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m(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。
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