第141話 大山雅 ポンコツ茶髪美少女に親近感を覚える

「これ、今日のノート、見辛いかもだけど、分かんないとこあったら言ってね?」

「いつもありがとう!キョロちゃんのノート、きれいな字で見易いよ?」


「し、失礼しまーす。」


緊張ぎみに、保健室の戸を開けると、部屋の中には、テーブルの席に向かい合って話をしている二人の女子生徒がいた。


「あっ。氷川さん、来てくれてありがとう!」


そう言って、座っていたテーブル席を立って、嬉しそうに笑顔を向けてくれたのが、これから、話を聞く約束をしている大山雅先輩。


「は、はいっ。今日はよろしくお願いします。」


「わあぁっ。あなたが氷川芽衣子さん?

私、一度会って、お礼が言いたかったんだ!!」


リボンの色から2年の先輩と分かる、もう一人の女子生徒は、振り返り、私を見ると、歓声を上げた。


白瀬先輩と同じ黒髪ポニーテールで、かなりの美少女だけど、白瀬先輩が凛とした中性的な雰囲気の美人としたら、目の前の彼女は、意志の強そうなくりっとした瞳は持っているものの、全体としては、女の子らしい可愛い

顔立ちをしていた。


「??えっと…。」


初対面でそんな事を言われ、戸惑っている私に、その先輩はにっこり笑って自己紹介してくれた。


「私、清路雪。梨沙と同じバスケ部の!」 


「あ、ああ!清路先輩?!」


私は思いがけない人物に会えて目をパチクリさせた。

清路先輩といえば、数ヶ月前には、柳沢先輩と協力して、秋川先輩の悪事を暴き、

嘘コク5人目の真柚さんの件で転校先の秋川先輩に協力を求めた際には、柳沢先輩経由で、彼女から秋川先輩の行動に釘を刺すようなメッセージを託された事もある。


会った事はないものの、秋川先輩関連の事では、深い関わりを感じていた人だった。


「栗珠の件では色々お世話になりました!ホンットありがとうね!」


そう言って清路先輩に、ペコリと頭を下げられ、慌てて私も私も深々とお辞儀を返した。


「い、いえいえ、こちらこそお世話になりました。えっと、清路先輩は、大山先輩と…?」


戸惑ったような私の問いを、大山先輩が引き受けて答えてくれた。


「ああ。キョロちゃんは、同じクラスのお友達なの。保健室に時々遊びに来てくれてクラスの様子を教えてくれたり、授業のノートのコピーをくれたり、すっごい親切にしてくれてるんだよ?」


「いやいや!あたしなんか、それぐらいしかできないけどね。栗珠の事では、奴の悪事を知ってたのに、雅ちゃん守ってあげられなくって、申し訳なくって。せめて、できるだけの事をしたいってただそれだけ…。」


大山さんの言葉に、清路先輩は、照れたようにブンブン手を振った。


「栗珠の件では、お世話になりっ放しで申し訳ないけど、氷川さん。今日は雅ちゃんの話を聞いてあげてね?

雅ちゃんにとっては、氷川さん、白瀬先輩に匹敵するぐらい、憧れの人だったから、今日、お話するのすっごく楽しみにしてたんだって。」


「えっ…。憧れの…?」


私は思ってもみないことを言われ、目を丸くすると、大山先輩は、顔を赤らめて、清路さんの肩を軽く拳で小突いていた。


「もう、キョロちゃんはおしゃべりだなぁ!」


「ごめんごめん!つい…。じゃ、二人共ごゆっくり〜。」

「キョロちゃん、ありがとう!」

「ど、どうも…。」


清路さんは、にこやかに私達に手を振って、保健室を出て行った。


「「………。」」


そして、残された私と、雅さんに、しばらく沈黙の時間が訪れた。


「えっと…。取り敢えず、テーブルの席の方…座ろっかぁ?」


「あっ。ハイ…。」


促され、雅さんと向かい合うようにテーブルに座った私は、彼女から思いがけない話を聞く事となった。


「私ね?お昼の校内放送で初めて氷川さんを見てから、ずっと会ってみたいと思ってたんだ…。」


「私に…?何でですか?」


驚いて人差し指で自分を差しながら、私は不思議に思って大山先輩に問い返すと、大山先輩は、辛そうに眉間に皺を寄せていた。


「氷川さん、あの時、秋川先輩に陥れられそうになっていたでしょう?

私も同じような経験があったからすぐに分かったの。」


「!!」


「私のときは、新聞部に風紀委員の仕事についてインタビューを受けた時に、別件の取材で、秋川さんがそこにいたの。


最初は仕事内容とか、簡単な質問をされていただけなんだけど、秋川さんが「風紀委員長オスカル様みたいにカッコイイから、私が風紀委員に入ったら、惚れちゃうだろうな」とか、言い出して…。


それから、新聞部の人は、秋川先輩の発言に誘導されるように、

「風紀委員ってレズの集団なの?」とか失礼な事を聞いてきて、挙げ句の果ては、私と潮と柑菜さんが、淫らな関係にあるんじゃないか?と邪推してきて、堪えきれなくなった私は、思わず、その人に暴力を振るいそうになってしまったんだけど、

すんでのところで、柑菜さんと、潮が突入して、止めてくれたの。新聞部は、3ヶ月活動停止の処分を受ける大事になっちゃった。」


「そ、そんな事があったんですね…。」


私は痛々しい気持ちで、大山先輩の身に起こった事件の概要を聞いていた。


確かに、校内放送の時も、秋川先輩が発言する度に放送委員の空気が変わって、嫌な企画が立ち上がりそうになった事があった。

同じ事が新聞部のインタビューでも起こっていたんだな…。

その場にいた大山さんも、どんなに腹立たしく、辛い時間だっただろうかと思うと胸が痛んだ。


「私、一人でも立派にやっていけるところを柑菜さんや潮に見せたくて、二人の反対を押し切って、新聞部のインタビューを受けたのに、結局何もできなくて、最後は全部二人に助けてもらっちゃって、情けなくなっちゃってさ…。

おまけに、今まで私物の持ち込みとか注意して、もともと煙たく思われていたクラスの女子とは、その事件をきっかけに、ますますうまくいかなくなっちゃって。

そのまま不登校になっちゃった…。」


大山先輩は、そう言って、泣き笑いの表情を浮かべた。


「大山先輩…。」


「新学期から、試しに週二で保健室登校していた時、たまたま校内放送で氷川さんが矢口くんと秋川さんと出演しているところを見たの。

私と同じようになってしまうかと、心配していたけど、氷川さん、逆に嘘コクの動画でガラッと空気を変えて、秋川さんをやり込めてしまったでしょ?


私、感動しちゃって…!!柑菜さんでさえ手を焼く、あの秋川さんを相手に堂々と立ち向かって、氷川さんは強くてカッコイイ人だなぁって、あれ以来ずっと憧れてて、一度会ってお話してみたいと思っていたんだ。


でも、こんな自分じゃ、恥ずかしくて会えないなって、今まで勇気が出せなかったの。」


恥ずかしそうにそう言う大山先輩に、私は首をフルフル振って否定した。


「そ、そんな。大山先輩は、充分立派な方ですよ。昨日も助けてもらいましたし!

あの時は、実は色んな人に助けてもらって、立てた作戦が、たまたまうまく行っただけなんですよ?

大山先輩にそんな風に言ってもらえる程、私、すごい人じゃないですよ…。」


「ふふっ。ありがと!いや、氷川さん、すごい子だとは思うし、それは変わってないんだけどね?ふふふっ。


昨日、初めて会ったあなたは、かなり慌てていて、いきなり脱ぎだそうとするし…。

ぷぷっ!ゴメンね?ちょっとポンコツなとこあるかなって、そう思っちゃって…!ふふふっ。」


大山先輩に、涙を浮かべる程笑われてしまい、私は赤面するばっかりだった。


「いや、あの、お恥ずかしいやら、何やら…。//イメージを崩してしまってすみません…。」


「ううん。昨日の氷川さんは、確かにポンコツだったけど、矢口くんの為に一生懸命で、カッコ悪いなんて、ちっとも思わなかった。

好きな人の事で、オロオロ慌てちゃう気持ち、私も分かるなぁと思って。何だかすごく親しみを感じてしまって、私の話を聞いてもらいたくなっちゃったんだぁ…!」


「大山先輩…。」


「私、好きな人の前でより強くてカッコイイ自分でいたいって焦ってしまっていたんだけど、素直な気持ちを相手に伝えるって大事だなって、ホントに思って…。

これからは、私もにそうしていきたいなぁって…。

私、間違ってないかな…?」


不安げに聞いてくる大山先輩は、なんだか、年上ながらに、可愛らしくって、私は笑顔で大きく頷いた。


「はい!大山先輩は、今も強くて優しくて魅力的ですけど、素直になったら、最強だと

思います!」


「ありがとう…!氷川さんがそう言ってくれるなら、心強いよ。」


大山先輩は、スッキリしたような顔で満足そうに微笑んだ。

ポンコツな私でも、少しは役に立てたのだろうかと思うと私も嬉しかった。


あ。ポンコツと言えば…。


そこで、私は、秋川先輩からの預かりものを思い出した。


「あの〜、大山先輩、これは、嫌だったら受け取らなくてよいのですが…。」


「??手紙…?」


私は、持っていた手提げから、大山先輩におずおずと手紙を差し出した。


「秋川先輩が、大山先輩にあの時の事をどうしても謝りたいという事で、手紙を預かってきました。」


「え、あ、秋川さんから?!」


大山先輩は、驚いた表情で私をガン見した。


「秋川先輩は、今は、転校先の学校で、

清路さんのお友達の元で、今後悪さをしないようしっかり見張られているそうです。

何かの企みとかそういう事ではないので、そこは安心して下さい。


『大山さんにはひどい事をしたので、読んでもらえなくても、しょうがないです。

踏みつけるなり、紙吹雪にして遊ぶなり、

気の済むようにして下さい。』

との事でした…。」


「いや、紙吹雪て…。秋川さんって、そんなへりくだる人だったっけ…?」


少し引き気味な大山先輩は、その封筒を指で挟んで恐る恐る受け取った。


「本当は、臓器を提供するとか、指詰めするとか、言ってきましたが、怖いからやめてもらいました。」


「秋川さんはどこの世界に生きているの?」


大山先輩は、青褪めてドン引きしていた。


「あと、謝罪の為、24時間休まず写経をしたいとも言ってましたけど…。」


「いや、写経もしなくていいけど…。あ。

罰として、体中にお経を書くとかだったらありかも?」


「えっと、大山先輩…?」


私は一瞬ニヤッとした大山先輩に、戸惑って声をかけた。


やはり、秋川さんへの恨みはかなり深いらしい…?


「なんて、やだ、冗談…。」

ガラッ。

「せめて書くなら、耳にも書いて下さぁいっ!!」

「「?!!」」


大山さんの言葉を遮るように、叫びながら、ツインテールの他校の制服を着た女子が保健室に飛び込んで来た。


秋川先輩だった…。





*あとがき*


どうでもいい豆知識ですが、秋川さん、小さい頃、忙しかった両親に変わってお祖母ちゃんにお世話してもらっていました。

怪談好きのお祖母ちゃんに、「耳なし芳一」や「四谷怪談」など、よく聞かされて震えていたらしいですよ?


いつも読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。



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