第140話 茶髪美少女のイメージトレーニング講座♡

「あっ。矢口くん。氷川さん。おはよう!

今日から、よろしくお願いします…。服装チェック、分からない事があったら、教えてね…?」


早朝、生徒指導室へ入って来た京ちゃんと私に、天使のような美少年が、緊張した様子で話しかけて来た。


「「??」」


私は取り敢えず半笑いで挨拶を返しながら、隣にいた京ちゃんと顔を見合わせた。


「お、おはようございます。よろしくお願いします(えっと〜、この坊やは、誰です?)」

「お、おはよ…。よろしく…。(えっと〜、俺も確証は、ないけど、この背格好と、話し方からすると…、彼はもしかして…。)」


「ああ。矢口少年、芽衣子嬢、おはよう!」


服装チェックの表を持った白瀬先輩が私達を見て、呼びかけてきた。


「「お、おはようございます…。」」


「狐につままれたような顔をしてどうした?

庭木信太くんだぞ?今日から、彼も活動に参加すると言ってたろ?」


「ええっ!庭木先輩?!」

「や、やっぱり…。」


「昨日、夏子が彼の髪を切ってくれてな。

見違えるように、可愛くなっただろう?」


白瀬先輩が、いたずらっぽい笑みを浮かべてウインクをした。


「ほ、ほえー。そ、そうなんですね…。」


昨日坊や…庭木先輩に、髪を切ったらとは提案したものの、まさか、こんな別人のように変わるとは…。

京ちゃんも、その変わりぶりに目をパチクリさせている。


「えっと、今日の服装チェックなんだけどさっ。僕、小谷くんと組んでもいいかな?今後風紀委員の活動するなら、彼と組む事になるそうだから、その方がいいかなって。

だ、だから、氷川さんと、矢口くんで組んでもらってもいい?」


そう言いながら、緊張のあまりか、涙を浮かべる庭木先輩に、私達は頷いた。


「はっ、はい。分かりました。

(やった!変わらず京ちゃんと組める!庭木先輩、外見も中身も天使…✨✨)」

「えっ?お、おう…。(あれ?庭木、芽衣子ちゃんに惹かれてるっぽい感じだったのに、いいのか?)」


「庭木少年、(辛いのに)よく頑張ったな…。偉いぞ?」

「はい…。」


白瀬先輩は、子供を見守る保護者のような眼差しで、庭木先輩の頭をポンポンと叩いていた。


「おはようございます!遅れましてすみません!…あれ?その坊やは誰ですか?」


後からやって来て、不思議そうな顔をしている小谷くんに、私達は、1から事の次第を説明する事となった…。


         *

         *


「ウフフ♡庭木くん、今日、服装チェックちゃんとこなしてて、カッコよかったよ〜?」

「ホントホント…!皆、風紀委員に美少年がいるって、驚いてたよね?」


「えっ。いや〜、なんだか照れちゃうなぁ…。」


庭木先輩は、三原夏子先輩を中心とする風紀委員女子達に囲まれ、一大ハーレムを形成していた。


あれから、服装チェックは滞りなく終わった。昨日私にセクハラまがいの声をかけて来た例の悪人面の男子生徒は、庭木先輩を見るなり、ポーッと顔を赤らめて、借りてきた猫のように大人しく服装チェックを受けてくれた。

もしかして、庭木先輩に一目惚れしちゃったんだろうか?庭木先輩、これからはカツアゲよりも別の事に気を付けなきゃいけないかもと一瞬思ったものの、目の前のハーレム状態を見て、すぐにそれはいらぬ心配だなと考え直した。


彼に何かあれば、怖い風紀委員のお姉さんの鉄拳が飛ぶであろうことは、すぐに想像できたから。


チヤホヤされている庭木くんを尻目に、私と京ちゃん、小谷先輩は、腕章や、服装チェック表の後片付けをし始めた。


「庭木くん、何か納得いかないんだよな…。」


一人複雑な表情をしているのは、京ちゃん。


「まぁまぁ。矢口さん。何となく俺も気持ちは理解できますが、一人の女の子が側にいてくれたらそれでいいではないですか。

俺は、矢口くんの方が羨ましいですよ。いつも氷川さんと一緒で、仲良しで…。」


小谷先輩の言葉に私と京ちゃんは、顔を赤らめた。


「こ、小谷くん、何を…!」

「やだ。そんな…。いつも一緒で仲良しで

だなんて…!」

↑※そこまでは言ってない。



「俺も…雅とそうなれたらどんなにいいかって思いますよ…。」


そう言って、小谷先輩は、寂しそうに微笑んだ。


「小谷先輩も大山先輩といつも一緒で、仲良しではないですか?」

「そ、そうだよ?大山さんなんて、会話の半分くらいは小谷くんの話ばっかりだよ?」


「昔は、そうだったかもしれませんが…。

雅が、新聞部にインタビューを受けると言った時、俺は反対するばかりで、ちゃんと話を聞いてやれませんでした。


結局、雅への連絡もなしに、柑菜さんと一緒に現場を取り押さえる事しかできませんでした。あの時の雅は助けられたというより、俺達に裏切られたという顔をしていました。


クラスでも、女子グループから孤立した雅

をちゃんと守ってやる事ができない俺に、

雅は愛想を尽かしたのか、

最近では、俺が保健室に来るのも嫌がるようになってしまって、早く風紀委員の方へ行けって言われちゃうんです。」


「小谷くん…。」

「小谷先輩…。」


辛そうに眉間に皺を寄せた小谷先輩に私も京ちゃんもなんと言っていいか、分からなかった。


「嫌がられてるって、分かってても、結局

心配だし、会いたいから行っちゃうんですよね。ますます嫌われるし、悪循環なんですけど…。」


『潮、早く生徒指導室行きなって!

本当は柑菜さんに会いたいくせに!!

もう私の事は放って置いてって言ってるでしょっ!?』

『バカ!こんな状態の雅、放って置けるわけないだろ!?』


私は、保健室に入る前の小谷先輩と大山先輩の会話を思い返してみて、少し気になる事があったので、小谷先輩に聞いてみた。


「でも…、昨日の大山先輩の様子は、小谷先輩を嫌がっているというよりは、無理に強がって遠ざけているという印象でした。

もしかして、大山先輩は、小谷先輩が、白瀬先輩の事を好きだと思っていて、遠慮しているのではないんですか…?」


「えっ?」

「芽衣子ちゃん…。」


「それはないと思うけどな…。いや、もちろん、柑菜さんは、小さい頃から知っていて大好きな先輩だけど、恋愛というより、どちらかというと、強くてカッコイイ男の先輩に憧れているような感覚かな?

どちらかというと、雅の方が、柑菜さんの事が大好きだから、風紀委員の活動で柑菜さんに会える俺に嫉妬してるのかと思ってたんだけど…。」


「ほ、ほほう…。なる程…。」


逆に、大山さんが、白瀬先輩を好きだと勘違いしている小谷先輩に、私は、遠い目で頷いた。


もしかしなくても、これは、お二人共拗らせているパターンなのかしら?


私は京ちゃんの顔をチラッと見ると、苦笑いしながら頷いてくれた。


「(うん。二人共拗らせているんだよ…。)」


あ、やっぱりそうらしい…。

う〜ん。二人にその誤解があるから、余計に

ギクシャクしてしまうと思うんだけどな…。


「え、えーと、小谷先輩は、大山先輩に告白しようと思った事はないんですか?」


「えっ!こ、告白っ?!」


小谷先輩は、真っ赤になって、狼狽えた。


「そ、そりゃ、思わない事はないけどっ、雅は、柑菜さんが好きなのに、迷惑じゃないか…!」


「でも、告白を機会に、恋人になる事を検討してくれるかもしれませんよ?」


「いやでもっ。あんな状態の雅にそんな事言ったら、余計に負担に思って、追い詰めてしまうしっ、断られたら、幼馴染みとして会うことすらできなくなってしまうだろっ?俺は、雅の側にいれるだけで別にっ…。」


「本当に?」


私は自分にもズッシリと響く言葉を小谷先輩に放った。


「うぐっ!」

「うぐふぅっ!」


小谷先輩と、京ちゃんは、かなりのダメージを受け、その場に膝をついた…。


って、アレ?


「京先輩まで、なんで?」


「い、いや、ただ、小谷くんにつられただけだ。気にしないで続けてくれ…。」


不思議に思って問う私に、京ちゃんは、苦境に立たされたヒーローのような苦しそうな笑顔で答えた。

つられてるだけの京ちゃんの方がダメージが大きく見えるのは気のせいだろうか…?


「は、はぁ…。で、では、続けますが、

想像してみて下さい…!

自分が躊躇って手をこまねいている内に、

よく知らないポッと出の男に大山先輩を掻っ攫われ、その結婚式に仲のよい友人枠で出席する自分の姿をっ…!!」


「がはあっ!!」

「がっはぁっっ!!」


二人は、大きなダメージを受けてもはや床に這いつくばっていた。


私は、心を鬼にして両拳を握り締めて、その先を叫んだ。


「想像してみて下さいっ!!

本当は泣きたいのに、他の友人と、余興のダンスで、幸せそうな二人の前で、張り切って愛嬌を振りまく自分の姿をっ…!!

そして、その後飲みに行き、友人に「昔は

彼女、俺といい感じだったのに…。」なんて、愚痴り、果ては、ドレスや、式場にまでケチをつけ始める自分の姿をっ…!!」


「ぐああ!脳が破壊される!!ひ、氷川さん、もうやめて!」

「ごああ!!芽衣子ちゃん、ストップ!!

それ以上は、脳が死んじゃうから!!」


私は、悲痛な叫びを上げる二人に、いたずらな笑みを浮かべた。


「えへへっ。ちょっと、やり過ぎちゃいましたかね?そうやって、想像してみると、気持ちを伝える勇気も出るのではないかと思ったのですが…って、あ、アレ?あの…お二人共大丈夫…です…か…?」


京ちゃんも、小谷先輩も、血の涙を流して倒れたまま、ピクリとも動かなかった…。



*あとがき*


ちなみに、これは、芽衣子ちゃんが京ちゃんに一番最初に告白する前日、勇気を出すため、何度もイメージしたものでした。

京ちゃんの結婚式の後、マキちゃんに、

「私が結婚相手なら、もっと京ちゃんに合うタキシードの色を選んであげたのに!」

とか愚痴っている自分の姿を胃をキリキリさせながら、思い浮かべていました。


その後、京ちゃんと小谷くんは、もう少しで保健室へ連れて行かれるところでしたが、すんでのところで立ち直り、今の例え話は刺激が強過ぎるから、大山先輩には決してしないようにと芽衣子ちゃんに釘をさしたらしいですよ…(;´∀`)

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