第139話 風紀委員 小谷潮は幼馴染みを心配する
「雅が自分から人に話をしたいって、言うなんて、驚いたよ…。」
あれから、大山先輩と明日の放課後に話す時間を作る事をお約束をして、
保健室から帰る途中、小谷先輩は、細い糸のような目を、最大限に見開いていた。
「驚くような事なんですか?大山先輩、人当たり良くて、親切だから、コミュ力はかなり高い方かと思いましたが…?」
「以前はそうだったんだけどね。不登校になってからは、すっかり塞いでしまってね。
保健室登校になった今は少しましになったものの、保健室の先生か、俺か、仲のいいクラスの女子としか、関わろうとしなかったんだ。」
そう言う、小谷先輩の顔は暗かった。
「大山さん、今、辛い時期なんだね…。」
以前の大山さんを知っているであろう京ちゃんも、俯いた。
「でも、今日は京先輩のお世話をあんなに親身になって手伝ってくれたのに…。」
「ああ。今日は、以前みたいに、テキパキ動く雅を見てびっくりしたよ。
俺が体調崩した時は、いつもあんな風に看病してくれてたんだ…。幼馴染みだからって、高校生になっても気にせず、こっちの服を脱がそうとして、背中とか胸とか、汗を吹いてこようとするのは、流石に困ったけどね。ハハッ。」
「え、えーと、それは…。困るね?」
「こ、困っちゃいますね?」
二人のあまりに仲睦まじい様子に、聞いてるこっちも、顔を赤らめて困ってしまい、隣の京ちゃんと顔を見合わせて小声で、やり取りをした。
「(えっとー、小谷先輩と大山先輩、既にメッチャラブラブだったんじゃないですか?)」
「(ああ。大山さんもこんな調子で惚気話してきて、困るんだよ。二人、どう見ても両想いだと思うんだけどね…。)」
「とにかく、さっきは、氷川さんと矢口くんのおかげで、雅がいい方向に向いたような気がするんだ。
氷川さん、すまないんだけど、明日の放課後は、お願いします…。」
小谷先輩はそう言って、私に深く頭を下げた。
隣の京ちゃんは、とても複雑な表情をしていた。
もしかしたら、優しい京ちゃんは、私と大山さん、両方を案じているのかもしれないな。
私はそんな京ちゃんに心配しなくてもいいよという意味を込めて軽く頷いた。
そして、小谷先輩に向かって、にっこり笑いかけた。
「ええ。私で力になれるかは分かりませんが、大山先輩は、いい方だし、お話をするぐらいなら全然構いませんよ…。」
「氷川さん、ありがとう…。」
ピンコン!
ピンコン!
と、その時に、ラインの通知音がした。
私と京ちゃんは、同時に携帯を取り出そうとし、驚いて互いに顔を見合わせた。
「ああ。お二人共通のグループラインですか?じゃ、俺はこれで失礼するので、どうぞ構わずお返事してください。明日またよろしくお願いしますね?」
「あ、ああ、またな?」
「またお願いします。小谷先輩。」
小谷くんは爽やかに挨拶をしつつ、去って行った。
私と京ちゃんの入ってるグループラインって、マキちゃんと三人の奴と…もう一つの奴しかない。
マキちゃんは、今、部活中で、携帯切ってるだろうから…。
残された私と京ちゃんがそれぞれのライン画面を恐る恐る開いてみると…。
『青春高校本部の組長様、姉御様
9月に入ってまだ暑い日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
最近は、私めはすっかり心を入れ替えまして、星川スミレちゃんに飼いならさ…指導の下、日々、クラスの皆さんとカラオ…勤勉と善行に励み充実した毎日を送っております。
何かご用命の際には、遠愛高校支部秋川栗珠まで何なりとお申し付け下さいませ。
貴方様方の忠実なしもべ★秋川栗珠より』
私達は文面を見て、ため息をついた。
「秋川の奴、随分楽しくやってるみたいだな…。」
「ええ。クラスの人とカラオケとか…。別にいいんですけど、いちいちリア充報告して来ないでほしいですよね?」
私は大山さんの事を思うと怒りが込み上げてくるのを抑えられなかった。
「ああ。罪を精算しているとはいえ、今、大山さんが苦しんでるきっかけを作ったのは、秋川だっていうのにな…。
能天気にメールを打ってくるなっつーの。」
京ちゃんも秋川先輩の無神経なメールには腹が立ったようで、即座に返信していた。
『リア充してるのは、分かったがそんな事でいちいちメールを送ってこなくていいよ。
ヒマなのか?』
『秋川先輩の近況など、特に興味はありません。ご勝手にリア充でもなんでもしていてください。』
私もそれに続いて、かなり冷たい返答を返した。
数秒後…。
ポンッ!
ポンッ!
犬が号泣しながら、おしっこを漏らし、
『生まれて来てごめんなさい』とセリフを言っているスタンプが送られてきた。
「これは…。また、攻めたスタンプ送ってきたな…!」
「え、ええ…。」
秋川先輩、あんなにお漏らしの事気にしていたのに、自虐の性癖があるのかな…。
「ふざけたスタンプだけで謝ってくるあたり、若干イラッときますが、ちょっと言い過ぎましたかね…。」
「ああ。いくら秋川でも、自殺でもされたら寝覚めが悪いし、大山さんの事で、協力が必要になるかもしれない。ちょっと連絡を取ってみるか。」
「…!!ええ、そうですね!」
京ちゃんの言葉に私は大きく頷いたのだった。
*おまけ*
『初恋の人に小学生と間違われた上、ひどい失恋をした俺ですが、長い髪を切ってもらった途端、風紀委員女子のハーレムができました💕』
※ラノベ作品ぽい、長いタイトルにしてみました(笑)
芽衣子と京太郎が見回りに行った後、風紀委員の女子達に囲まれ、書類を渡され、仕事の説明を受ける庭木信太(17)
「これが、男子の服装チェック項目の表ね?明日は、小谷くん、矢口くん、氷川さん誰かと二人一組で、並んでいる男子を順番に一人ずつチェックしていってね?」
「は、はい…。(ううっ。女の子に囲まれて辛いっ…。)」
女子と目が合うだけで、鳥肌が立つので、
できるだけ周りを見ないようにし、返事をする信太。
「ただ、矢口くんと氷川さんがいてくれるのは、今週いっぱいまでだから、
その後も風紀委員の仕事をしてくれるなら、小谷くんと一緒に組んでもらう事になるかな?捌く人数多くて大変だけど、頑張ってね?」
「は、はい…。(そう言えば、二人共期間限定って言ってたよな?)あの…、なんで、二人は、今、期間限定で風紀委員になってるんでしょうか?」
「えっ。あっ、その…。」
「?」
目の前の風紀委員女子は、困ったように風紀委員長を見たので、信太は首を傾げた。
「うーむ。」
風紀委員長の白瀬柑菜は、少し考えてから、信太に真剣な表情で、向き合った。
「庭木少年!芽衣子嬢はいわば、君のピンチを助けた恩人だ。その恩人を貶めるような事はしないと誓えるよな?」
「は、はい…。(この人目力強っ!アレ?でもあんまり女の子っぽくないせいか、この人にも鳥肌立たないな…。)」
「では、この事は、君の胸一つにしまっておいてくれ。」
と言って、信太にヒソヒソ話をする柑菜。
「実は、コショコショコショ…。」
「え!矢口くんが、氷川さんに¥§∑※☠…??」
大ショックを受ける信太。
「ガガーン!!(初めて気になる女子ができたのに、秒で失恋しちゃったよ…。)」
「(あれ?庭木くんって…?)」
「(もしかして、氷川さんの事…?)」
ざわめく風紀委員女子達。
「グスン…。髪、切りたい…。」
涙目でそう言う信太に、風紀委員女子達も全てを察し、もらい泣きしながらウンウン頷いた。
「庭木くんの気持ちは分かった!」
「今すぐ髪切ろう!私、弟のよく切ってるからウマいよ?任せといて?」
ハサミを構え、迫ってくる風紀委員女子の一人、
「え?え?うわぁっ、何をっ…?!
ぎゃあああーっっ!!(やっぱり、女子怖いよお〜っっ!!)」
*
*
その20分後ー。
夏子に、長い前髪やモサモサした後ろ髪を切ってもらった信太。
「キャーッ。庭木くん、可愛いっ♡♡」
「いーじゃん!絶対そっちの方がいいよ!」
「へー、変われば変わるもんだな!庭木少年、いい感じだぞ?」
実はとても綺麗な顔立ちをしていた信太。
髪を切ると、『オドオド系美少年ショタ』
として、しっかり系お姉さんキャラの風紀委員の女子達の心を鷲掴みにした。
「えっ。そ、そう…?」
皆の反応に戸惑い、目をパチパチさせている信太。
(何をされるやらと思ったけど、ちゃんと綺麗に髪を切ってくれたんだ。皆優しいし…。女の子も、怖い人達ばかりじゃないのかな?あ、なんか、鳥肌も収まってきたかも…。)
「ナツ、やるじゃん!!」
「ふっ。見たか…!私の腕前!」
得意気にガッツポーズをとる夏子に、恥ずかしそうに上目遣いでお礼を言う信太。
「あ、ありが…とう…!」
「!!きゅううん…♡♡」
あまりの可愛さにその場に崩れ落ちる夏子。
「あれ?あ、あの…。三原さん、大丈夫?」
「「庭木くん、可愛い〜♡♡」」
かくして、庭木信太(17)は、風紀委員においてショタ系マスコット要員としての地位を確立したのであった…。
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