第126話 風紀委員 大山雅は幼馴染みを心配する

「君が矢口くんという少年か?ウェルカム貴重な男の子戦力!!愛しているぞっ?」


「はあ?」


風紀委員長=白瀬柑菜先輩に、挨拶のように嘘コクをされ、俺が固まっていると…。


「もう、柑菜さん!潮以外の男の子にそんな冗談言っちゃ駄目ですよ。矢口くん、びっくりしてるじゃないですか!」


「あっ。イヤ、すまんすまん。気持ちが昂ぶってつい…。」


後ろから、ショートカットの小柄な少女が現れ、気まずそうに頭を掻いている白瀬先輩を一睨みすると、俺ににっこりと笑顔を向けた。


「ごめんね?矢口くんだよね?」


「あ、はい…。そうです。美化委員から派遣されて来ました。よろしくお願いします。」


よかった。まともそうな人がいて…。

その小柄な女子はしっかりしていそうだが、赤いリボンを付けているところをみると、

俺と同じ一年生らしい。


「私は、一年の大山雅おおやまみやび。潮の代わりに手伝ってくれてありがとう。

委員長、優秀な方なんだけど、ちょっと変わってるとこあって…。取り敢えず、中入って。先輩達が仕事の説明してくれるから。」


「あっ。はい…。失礼しまーす。」


生徒指導室の部屋の中には、奥にパソコンの置かれた事務用の机がいくつか並べられ、

事務作業をしていた何人かの女生徒が俺ににっこりと会釈をした。


手前側には、白いレースのテーブルクロスが置かれたテーブルと、瀟洒なデザインのソファーがあり、俺はそこに座らされた。


部屋のところどころにレースのカーテンや、花などが飾られているのをキョロキョロと見回しながら、

うわぁ。生徒指導室って女の子空間なところだったんだ。可愛らしいが、ここに男は居辛いよな。

男の風紀委員が、幽霊委員になってしまうというのも頷けるわ。

唯一の男子生徒という小谷くんはよくこの女の園に耐えているよなと思っていると、

目の前に、30センチ先に風紀委員長の顔があった。


?!!


「ほほう。君、その髪は、染めているのか?綺麗な茶髪だな?」

「ち、近いですっ!うわっ…。」


興味津々の様子で目力の強いポニーテール美人に覗き込まれ、俺は思わず仰け反り、ソファーから落ちそうになった。


「こら、委員長。その子で遊ぶのやめて下さい。ちょっと男子との距離考えて?」


「わぁ、姫華。分かったよ。」


眼鏡をかけた優美な美少女に首根っこを掴まれ、白瀬先輩は、一歩身を引いた。


全く、なんなんだ、この風紀委員長は。


「矢口くん。助っ人に来てくれてありがとう。私は、副委員長の雨宮姫華あまみやひめか。早速だけど、仕事の説明をしてもよいかしら?」


眼鏡をかけた美少女は、書類を片手に俺にクールな笑顔を向けた。


「は、はい。」


白瀬先輩、雨宮先輩、大山さん、他の風紀委員の女子達に囲まれて、緊張する中、俺は風紀委員の仕事の概要について説明を受けた。

        

         

風紀委員の仕事は、

学期ごとの校門前の立ち挨拶、

毎月の服装チェック、私物、持ち物検査

週2回の校内見回りなどがあるらしい。


うちの学校は、そこまで校則が厳しくないものの、あまりにも目立つ装飾品や、ゲーム機などの持ち込みは禁止となっており、

生活指導の先生に報告の上、風紀委員の方で預ることになっていた。


会議や、行事の際の落とし物預りなど、

他にも細々仕事はあるらしいが、

俺は一週間のみの臨時委員なので、今の時期行なっている、服装チェック、校内見回りだけ参加すればよいそうだった。


男子生徒に対する服装チェックは、いつも、大山さんと、小谷くんが組んでしていたそうで、俺は小谷くんの代わりに大山さんと組んで、明日服装チェックを行う事になっていると伝えられた。


「矢口くん。潮の代わりにホントごめんね。

明日から、お仕事よろしくね。」


「あ、ああ。大山さん、不慣れで迷惑かけるかもだけど、よろしく。」


いきなり風紀委員にぶち込まれた俺だが、

大山さんに、にこやかに応対され、

取り敢えず一緒に仕事をする人は、まともないい人でよかったとホッと胸を撫で下ろしたのだった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


翌日ー。


「ハーイ!こちらに男女別2列ずつに並んで下さーいっ!」         


風紀委員の女子達の掛け声に従って、登校してきた生徒達は、整列し、俺達風紀委員は

どんどん生徒の服装をチェックしていく。


男子の担当のである俺と大山さんは、スカートの膝丈をチェックする女子の担当に比べ、

チェックする項目は少なく、時間も少なくすむが、時折服装チェックに応じない男子や、稀に暴力的な男子もいるそうなので、注意が必要らしい。

それを聞いたとき、自分が呼ばれた意味はそこにあるのかと思い、

事前の打ち合わせのとき、そういった男子がいた時は、代わるからと大山さんに言ったのだが、大山さんに、笑顔で、首を振った。


「あー、それは大丈夫。私武闘班だから。」

「武闘班?」

「うん。風紀委員は、時には素行不良の生徒に注意しなきゃいけない事もあるから、そういう時は、武道を極めた武闘班の女子が対応するの。あと、事務仕事をする事務班と、お客さんにお茶を出すお茶班。それぞれ、その道に秀でた女子がその役についているよ。」


「へー。」


風紀委員は、それぞれその特性によって、仕事が別れているらしい。


大山さんは武闘班という事は…。


「えへ。私、潮と一緒に柑菜さんのお父さんの経営する道場に通ってて、こう見えて、空手2段!」


「そうなんだ、すごいね!」


ニッと笑ってピースサインを出す彼女に俺は素直に感嘆の声を漏らした。

人は見かけによらない。目の前の小柄な女生徒は段持ちで強いらしい。


あれ?そしたら、俺、なんの為に呼ばれたの?強い女子だけで仕事問題なく出来そうじゃね?

そんな疑問は感じたのだが…。


「あ。そこの人。ちゃんと服装チェック受けて下さい!」


列から抜けて、服装チェックをせずにそのまま校舎に向かおうとした大柄で悪人面の男子生徒に大山さんが、声をかけた。


「えー、めんどいな。」


その男子生徒は、大山さんの手を掴んで、スケベそうな笑みを浮かべた。


「あんたが俺を脱がして服装チェックしてくれるってんなら、考えないでもないな…。なんなら、逆に脱がしてやってもいいけど…。」

「…!!」

「大山さん!」


俺が心配して大山さんの元に駆けつけようすると…。


「ふんっ。」

「いててて…!」


大山さんは、その男子生徒の腕をひねり上げた。


「このまま、ボディーに一発殴られるのと、服装チェックするのとどっちがいいですか?」


「分かった。悪かった!大人しく受けるから…!」


悪人面のその男子生徒は、必死に大山さんに謝っていた。


「ふんっ。口程にもない!」


大山さんは、男子生徒に触れた手をパンパン

払った。


うわぁ…。すご!!


悪人面の男子生徒が涙目で、服装チェックを受ける様子を見て、内心震えながら、やっぱ俺いらなくね?と思っていると、次の順番の生徒を見て、大山さんは途端に情けなさそうな顔になった。


「ご、ごめん。次の人矢口くん代わってくれる?」


「ええ?いいけど…。」


素行不良な生徒にも臆しない大山さんが、怯むなんて、一体どんな生徒なんだろうと次の生徒の方を見遣ると…。


「よよ、よろしくお願いします…。」


小学生中学年くらいの身長の、痩せ型の男子生徒が、震えながら俺に頭を下げてきたので、俺は目を丸くした。


「彼は一年の庭木信太にわきしんたくん、小中と、女子にいじめにあったせいで、女子と視線が合うだけで鳥肌が立っちゃうんだって。本当は風紀委員なんだけど、体質のせいで活動できなくて…。矢口くん、服装チェックお願いできるかな?」


苦笑いしながら、大山さんにこそっと説明をされ、俺は思わず顔が引き攣ってしまった。


「もしかして、その為に俺風紀委員に呼ばれたの?っていうか君、風紀委員だろ?事情は同情するけど、仕事するどころか、仕事増やすってどういう事だよ?!」


「ひっ!嘘コクの矢口くん、怖い!」


思わず声を荒らげてしまった俺に庭木くんはビビって縮み上がった。


「ホラ矢口くん、優しく、優しく!」


大山さんに諌められ、俺は大きく深呼吸をした。


くうっ!今更言ってもしょうがねーか。ここは抑えて、自分の仕事に徹しよう。


「ゴメン、ニワキクン。コワクナイヨ〜。

フクソウチェックスルカラ、チョット

ジットシテテネ〜。」


俺は死んだ魚の目で庭木くんに優しく語りかけた。

         *

         *


その後は、柳沢や、マサ、スギに風紀委員にいるところを見られ、驚かれた事以外は

特に困ることもなく、服装チェックを終え、後は昼休みの校内見回りだけになった。


昼休み、生徒指導室に向かっていた俺は、

扉の近くで、スマホを片手に心配そうな顔をしている大山さんを見つけた。


「潮…。なんで、出ないのよ…。」


電話を切って、しゅんとしている彼女に声をかけた。


「大山さん。大丈夫?何かあったのか?」


「あっ。いや、今日は朝から潮と連絡が繋がらなくて、ちょっと心配で…。」


「小谷くんの具合悪いのかな?」


「いや、昨日寄った時は、微熱程度でそれほどでもなかったんだけど…。」


大山さんは、小谷くんと幼馴染みで、二人共この学校のすぐ近くに住んでおり、お互いの家をよく行き来していると聞いていた。


「小谷くん親御さんはいるの?」


「うーん、おばさん、おじさん共働きだから、仕事で家にはいないと思うな…。」


顔を曇らせる大山さんに、俺は差し出がましいとは、思ったがある提案をした。


「大山さん、もし、心配なら、小谷くんの様子見に行って来たら?学校から家近いんだろ?」


「えっ!で、でも、校内見回りの仕事が…。」


「人の命の方が大事だろ?なんなら、校内見回りは俺が一人でやっておくし。

もし、人手がいりそうなら、先輩に言って、今回の見回りはなしにしてもらって、俺も一緒に小谷くんとこ行くけど、どうする…?」


俺の言葉を聞いて、大山さんの目に一瞬の葛藤と逡巡が浮かんだが、すぐに答えが出された。


「矢口くん、ありがとう。そしたら、取り敢えず、私だけで様子見に行って来てもいいかな?見回り、お願いできる?」


「了解!小谷くん、ひどくないといいね。」

「うん。ありがとう、矢口くん。またご報告するね。」


大山さんは、それから取るものも取り敢えず、一目散に階下へ向かった。


余計な事だったもしれないが、俺はその時

何だか俺は大山さんの…、いや、大山さんと小谷くんの力になってやりたい気がしたのだ。


大山さんと、小谷くんの関係は、まるで、

いつぞやの俺と幼馴染みのめーこのようで、

そのまま離れずに大きくなっていたら、

俺達もあんな感じになっていたのかなと

思うと、他人事とは思えなかった。


とんだ感傷だな…。俺はめーこに何一つやってやれなかったくせに。もし、一緒にいれたとしても、途中で愛想をつかされて、やはり疎遠になってる可能性だってあるのに。


俺は一つ息をつくと、分担された区分の見回りをするべく、チェック項目の紙を片手に校内を歩き回った。


見回り中、何かあれば武闘班に連絡するとの事だったが、特に何の問題もなく、最後のチェック箇所、体育館裏を回った時…。


「白瀬くん。俺と付き合ってくれないか?」


長身イケメンの男子生徒が、すらっとした

ポニーテール美人=白瀬柑菜先輩に言い寄っている場面に行き合ってしまった。




*あとがき*


いつも読んで頂きまして、フォローや応援、評価下さってありがとうございます。


カクヨムコン読者選考期間につき、格別に配慮下さった読者様がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました✨🙏✨


今後もよろしくお願いしますm(_ _)m



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