第125話 嘘コク6人目 白瀬柑菜

「矢口くん。また嘘コクされたらしいよ?」

「またぁ?」

「今度は友達の妹だって?散々貢いだ挙げ句、捨てられたって!」

「うわ。可哀想〜!まぁ、あのフツメンだからな。」


「だけど、あれだけ嘘コクされてて、よく何度も本気にできるよな?身の程を知れっての。」

「あんまり、堪えた様子もないしな。驚異の強メンタル!」


5人目の嘘コクの噂が学校に流れた頃、やはり俺は何でもない顔をして、ヘラヘラしていた。


好き勝手に噂する奴らに、落ち込んでいる様子を見せたくなかった。


だけど…。


ある時、廊下の突き当りで、柳沢が、秋川を問い詰めている場面に出くわした。


「栗珠。あんた、また矢口の噂を流したでしょっ?」

「え〜、梨沙怖い顔して何?噂って、なんの事ぉ?」


「惚けないでよ!コンビニで働いてる矢口の友達に、あんたが話しかけてるの、見たっていう子がいるのよ!!

あんたのした事は、友達と矢口の仲を引き裂くようなものなんだよ?!どうして、そんなひどい事ができんのよ!!」


「はぁ?梨沙何言ってるの?

矢口くんの友達がコンビニで働いてるなんて、知らなかったし!

コンビニぐらい誰だって行くし、店員さんと会話することぐらいあるでしょ?

私がその店員さんに何か聞いて噂を流したっていう証拠はあるの?」


「そ、それは…。」


怯んだ柳沢に秋川は、胸に手を当て、さも悲しそうな表情をしつつ言い募った。


「証拠もないのに、人を疑うなんて、噂をでっちあげて流すのと同じぐらいひどい事じゃない…?私が皆にその話したら、逆に梨沙の人格疑われちゃうんじゃないの?」


「何よソレ!?」


「そこで何してんだよ。」


俺は、思わずヒートアップする二人の間に割って入った。


「矢口…。」

「ああ、矢口くん。梨沙が私が矢口くんの噂を広めたって、言い掛かりをつけてくるのよ?」


歪んだ笑いを浮かべる秋川に俺は同意してやった。


「確かに証拠もないのに、人を責めるのはよくないよな。」


「矢口、でも…!」

「友達は、俺の学校の生徒で、俺の彼女だと偽って話しかけてきたツインテールの女生徒に大分込み入った話をしたみたいだけど、秋川とは何の関わりもないものな。」


「そ、そうね。ツインテールの子なんて他にもたくさんいるもの。」


「ああ。秋川さんも、犯人に間違われて迷惑だよな?そのツインテールの子が、いつか報いを受けて、泣いてションベン垂れ流す程反省する事になるよう祈っておいてくれ。」


「ピギュッ!ショ、ションベン垂れ流…!な、なな何言ってるのよ!下品な事言って…!あ、あなた達には付き合ってられないわっ!じゃあねっ!!」


秋川は、俺の言葉に顔色を変えると、動揺しながら、ピューッと逃げて行った。

なんだ、秋川の奴、今日はいやにあっさり退散したなと首を傾げていると、柳沢が苦笑いしながら説明をした。


「ああ、栗珠の奴、小学生の頃にお漏らしした事あるらしくって、トラウマになってるみたい…。」

「そ、そうだったのか…。」


やべ。人のトラウマ案件抉っちまったか。

まぁ、秋川だし、悪いとは、全然思えないけど…。


「それはともかく、柳沢。お前余計な事するなよな?証拠もなく、秋川に詰め寄っても、返り討ちに合うの分かってんだろう?

自分の事ならともかくも、俺の事ならもう、何もせず、放っておいてくれよ!」


「ご、ごめん。矢口、余計な事して!

でも、最近の矢口、笑ってても全然楽しそうじゃないし、なんか自暴自棄になってるみたいで、私、友達として心配で…。」


……!!


泣きそうな顔でそう言う柳沢が、その時の俺は無性に腹立たしく、気付くと怒鳴りつけていた。


「友達と思ってるなら、そういうのは見ないふりして、そっとしといてくれよ!!

中途半端に引っ掻き回すな!!

柳沢の行動は、俺の為じゃない。お前の罪悪感を減らす為だろうが!!」


「や、矢口…。ほ、本当にそうだね。ごめ…。」

「っ……。」


青褪めて涙を零す柳沢を見るに耐えず、

俺はその場を後にした。


教室に帰ると、スギと、マサが何やら俺に気遣っている様子で、ラーメンでも奢ろうかと言ってきたが、今日は遠慮しておくと断った。


多分、二人共俺が落ち込んでいると思ってるんだろう。


情けなかった。自分では、平気な顔をしていると思っていたのに、柳沢にもマサにもスギにもそうでないことを見抜かれている事が…。


柳沢に八つ当たりをし、マサとスギの好意も無にして、俺は一体何やってるんだろう?


こんなんだから、俺は周りの人を不幸にしてしまうんじゃないのか?


『私がこうなったのは、全部矢口さんのせいじゃない!!』


『京ちゃんは、私のヒーローでした…!これからもずっとそうだよ!!』


二人の女の子を思い浮かべて、遣り切れない気持ちになりながら、俺は深くため息をついた。


         *

         *


「はい。あっ。柑菜…!え、小谷くんがインフル?!それは大変ね。うんうん、男子生徒一人ね。分かった!」


昼休み、美化委員の仕事で校庭の清掃をしていたところ、すぐ近くで、いつもクールな美化委員長の楠木鈴音くすのきすずね先輩がスマホで誰かと会話をして驚きの声を上げていた。


何事かと、思わず箒を動かす手を止めて、そちらに振り返ったとき、楠木先輩と目が合った。


「矢口くん。もうこっちの清掃はいいわ。

君、今から一週間、風紀委員にお手伝いとして、派遣されることになったから。今すぐ、3階の生徒指導室行ってくれる?」


「は?」


無表情に楠木先輩にそう言われ、俺は反射的に聞き返した。


ちょっと言ってる意味が分からない…。


         *

         *


なんでも、風紀委員で唯一の男子生徒である、一年の小谷潮くんが、インフルエンザにかかり、一週間学校を休むことになったらしい。


今の風紀委員長白瀬柑菜は、カリスマ的な魅力で女生徒に大人気であり、風紀委員の女子の競争力は高いらしいのだが、そんな百合的ハーレムな風紀委員の空気に男子は居辛いらしく、ほとんどが幽霊部員…もとい、幽霊委員になってしまうとの事。


白瀬柑菜の幼馴染みでもあり、百合ハーレムの中でも、うまくやっていく唯一の男子小谷くんは、男子生徒へ取り調べをする事もある風紀委員の中で貴重な存在と言えたが、

今回彼が休むことで、滞ってしまう仕事がある。


そこで、プライベートでも仲のいい美化委員長に男子生徒を一人派遣してもらうよう要請したらしいのだ。


そして、その派遣される男子生徒が俺=矢口京太郎(15)


え?違う委員会から人員補充するって何ソレ?

本来風紀委員だった幽霊委員を無理くり引っ張ってくりゃいいじゃん?


美化委員長と風紀委員長で勝手に決めちゃってるけど、俺の意志はどうなんの?


あれこれ言いたいこと、突っ込みどころは多かれど、俺はその時反論する気力もない状態だった。


ああ、俺は美化委員ここでも必要とされてない…。

疲れた気持ちでそう思っただけ。


「失礼します。」


生徒指導室のドアをノックすると…。


バン!


?!!


いきなり勢いよくドアが開いて、中から

長身でポニーテールの女生徒が、飛び出してきた。

「いらっしゃい!!」


端正な顔立ちの風紀委員長=白瀬柑菜は、頬を薔薇色に染めて興奮気味に話しかけてきた。


「君が矢口くんという少年か?ウェルカム貴重な男の子戦力!!愛しているぞっ?」


「はあ?」


なんだ、この変な人?!







*あとがき*


すみません💦お伝えし忘れましたが、今回から5回分過去編になります。

6人目の白瀬先輩は、もちろん、小谷くんと

その幼馴染みの女の子も登場しますので

注目下さると嬉しいです。

よろしくお願いしますm(_ _)m





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