第124話 被疑者 矢口京太郎の審判

事件内容:2年男子が1年女子の胸を揉む

現場  :校舎3階の階段


白瀬先輩は、以上の内容が書かれたホワイトボードをマーカーでコンコンしながら、俺に厳しい表情を向けた。


「被疑者の矢口少年、何か申し開きがあるなら言ってみろ?」


あれから、生徒指導室へ連行された俺は

裁判官&検事の白瀬先輩に向かい合って、椅子に項垂れて座っていた。


その周りを囲むように芽衣子ちゃんや、他の風紀委員の女子達が席についている。


「違います。誤解なんです…。俺は、

ただ、芽衣子ちゃんが足を滑らせたのを支えようとして、咄嗟に掴んでしまったのがそこ(おっぱい)だったんです。触ってしまった事は罪ですが、悪気はなかったんです…。」


げっそりした顔で弱々しく抗弁をする俺に、間髪入れず、白瀬先輩は突っ込んだ。


「異議あり!!あの時、君が、氷川芽衣子嬢が悲鳴を上げる程彼女の胸を揉みしだいているのを私は目撃している!支える為というなら、触れてしまったところまでは、しょうがないとしても、何も揉みしだく必要はないだろう!」


「うっ!そ、それは…!!」


確かに、俺はあの時、無意識に手が動いてしまった…!

何故、あの時芽衣子ちゃんの胸を揉みしだいてしまったのだろう…!!

俺は深い後悔に頭を抱えた。


周りの風紀委員の女子達は、ざわめきながらら、俺に白い目を向けてくる。


「きょ、京先輩…。」


被害者の芽衣子ちゃんは、そんな俺を心配そうな目で見ていた。


「残念だが、今の状況では、君に何らかの邪な気持ちがあるとしか、私には思えない。

被害者の氷川芽衣子嬢、辛いかもしれないが、話を聞かせてもらえないか?」


「は、はい…。」


「芽衣子ちゃん…。」


罪人=俺は、席を立って発言しようとする彼女の断罪の言葉を待つしかなかった。


「え、えっと。初めて触られた彼の手は思ったより、大きくて、あったかくて、ドキドキしました…♡

最近、測ってEカップになったばかりの、

人より少し大きめの胸が、結構すっぽり手の中に収まってしまって、ああ、やっぱり男の子の手なんだなって…。」


めめ、芽衣子ちゃん??一体君は何を…!??


頬を染めて恥じらいながら、そう語る芽衣子ちゃんに、白瀬先輩は、顔を真っ赤にして喚いた。


「ちっがーう!!誰がそんな生々しい感想を聞いているか!」


「え?ち、違うんですかぁ?」


「あたりまえだ、ポンコツ嬢!私は、君の視点から詳しく事件の状況説明をしてくれと言ったんだよ!」


驚き慌てる芽衣子ちゃんに、白瀬先輩は、

噛んで含めるように説明した。


ってーか、芽衣子ちゃん、ポンコツ嬢言われてるし…。


「あ、ああ。そういう事ですか。失礼しました。

えーと、白瀬先輩と生徒指導室でお茶をごちそうになった後、京先輩と一緒に帰ろうと

待ち合わせ場所に向かおうとしたところ、

京先輩が、可愛らしい双子の女の子に挟まれて、ウハウハしているところを目撃してしまいました。」


「その場面は、私も一緒に目撃している。罪が深いな?矢口少年。」


芽衣子ちゃんの説明に、白瀬先輩も頷き、他の風紀委員の女子達も一斉に俺に冷ややかな視線を向けてきた。


この場の女子全員を敵に回し、冷や汗をかきながらも、俺は弁解した。


「ううっ。ウハウハなんてしてない…。ただ、同じ部活の子が作ってきた、詩と挿し絵を見せてもらって感想を言っていただけだよ。」


「えっ。じゃあ、好きとか、可愛らしいとか言ってたのって、もしかして…?」


「そうだよ。作品に対する感想だよ!」


「姉妹丼は…?双子の胸を揉んだりとかは…?」


「するワケないだろっ?!そんな事したら

部活崩壊するわっ!」


恐る恐るとんでもない事を聞いてくる芽衣子ちゃんに俺は思わず叫んだ。


「じゃあ、京先輩が胸を揉んだのは私だけ…?」


「そ、そうだよ。や、ごめん。あの、ホントわざとじゃないんだけどね…。」


真面目な顔で聞かれ、俺は怯みつつ答えると、芽衣子ちゃんは、パアッと満開の花のような笑顔になった。


「ふふっ。そうだったんですね?誤解しちゃってすみませんでした。」


芽衣子ちゃんは、スッキリした様子で、白瀬先輩に宣言した。


「白瀬先輩。お騒がせしてすみません。

全て私の誤解でした。彼は無罪です…!!」


「いや、誤解は分かったが、今その事を議題にしているわけじゃないから…。

頼むからその先の事を話してくれないか…?」


額に手を当て、疲れたような表情で、白瀬先輩が芽衣子ちゃんに懇願していた。


こんな状況ながら、あの白瀬先輩を振り回すなんて、芽衣子ちゃんスゲーなと俺は一瞬他人事のように感心してしまった。


「あっ、はい。誤解をした私は、大きなショックを受けて、その場を走り去ろうとしました。その時、階段の手前で足を滑らせそうになり、後を追いかけてきた京先輩がそれを助けようとして、私の胸を鷲掴みにしました。私はびっくりしてしまって、つい悲鳴を上げてしまいました。」


「その悲鳴を聞きつけて、生徒指導室へ戻ろうとしていた私が戻ってみると、矢口少年が、芽衣子嬢の胸を揉みしだいていたんだ。ちなみに彼は何回ぐらい揉んだのかい?」


「え、えーと、8回ぐらいだったでしょうか…?」


芽衣子ちゃんは、顎に指を当てて、考えながら白瀬先輩の質問に答える。


8回…?

気付かないままに俺、そんなに揉んでしまったのか?

あの時は反射的に体が動いてしまって、あまりよく憶えていない。ただ、弾むような胸の感触しか…。あっ。いやっ…。


思い返して俺は赤面してしまった。


「8回も…!やはり、これは、人助けの枠を越えて、邪な気持ちがあって、校内でわいせつ行為が行われたとしか思えん!

残念ながら矢口少年に処分を下す必要があるな!」


「しょ、処分って、そんな…!!」


俺はガックリと肩を落とした。

ああ。母さん、生まれてきてごめんなさい。

俺は、よわい16にして、犯罪者になってしまいました…。



「異議ありです!!」


「「ええっ?」」


まさかの被害者=芽衣子ちゃんが挙手し、

異議申し立てをしたことに、俺も白瀬先輩も驚きの声を上げた。


「京先輩は、確かに私の胸を揉みましたが、それは、きっと邪な気持ちからではありません!!

目の前に柔らかなマイクロビーズのクッションが手に触れたら、思わず握ってしまうでしょう?

子どもが、真新しいおもちゃに手が触れたら、なんだろうと触ってみたくなるでしょう?

それと同じ原理で、京先輩もつい反射的に揉んでしまっただけなんです。」


芽衣子ちゃんの言葉に、衝撃を受けたように、白瀬先輩は目を見開いた。


「ば、バカな…!?

健康な男子高校生が、後輩の女生徒の胸を揉んで邪な気持ちがないだと…?

『バブみを感じてオギャった』とでも言うつもりか…?」


「はいっ。多分そのバブみとやらですっ!

昨日、私、柚子の香りの奴に入りましたしっ。」


め、芽衣子ちゃん、それ多分違う…!

俺もよく知らないけど、バブみは入浴剤とは、関係がないと思うんだ…。


大真面目な顔で主張する芽衣子ちゃんに、俺は思わず自分の立場を忘れて突っ込みそうになった。


「むぅ~。そんな事があり得るのか?でも、彼は友達も、先生も認める“ヘタレ”だしなぁ。」


白瀬先輩は、少し考え込むと…。


「よろしい。では、彼の処遇については、評決を取ることしよう。風紀委員長、被害者、被疑者を抜かした、今、ここにいる風紀委員で有罪か無罪か挙手をしてくれ。」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


風紀委員の女子達は、白瀬先輩に綺麗に声を揃えて返事をし、

俺と芽衣子ちゃんは不安そうに顔を見合わせた。


白瀬先輩は、風紀委員の女子達に向かって、呼びかけた。


「今までの話を聞いて、有罪と思う者は挙手!」



風紀委員の何人かが、パラパラと手を挙げる。


「1、2、…4人。有罪と思うものは4人!」


白瀬先輩が声を上げたとき、俺は絶望的な表情になった。


風紀委員の女子は、この場に7人しかおらず、過半数を獲得した時点で、俺の有罪は、

決まったようなものだった。


「ま、待って下さい。京先輩は、私を助けただけなのに、こんなの…!」


芽衣子ちゃんが、泣きそうな表情で抗議の声を上げようとした時…。


バタン!


一人の大柄な男子生徒が、肩を落として生徒指導室へ入って来た。


「はぁ…。小谷こたにうしお、今戻りました…。」


「潮、お疲れ。雅の様子はどうだ…?」


「ええ。今日はいつもよりは、話をしてくれ…って。あれ?何すか、皆集って…。

あれ?矢口くん、また貸し出しされたんすか?そちらの女生徒は?」


その男子生徒は、戸惑ったように周りをキョロキョロ見回した。


「小谷くん…!」


「??どなた…?」


俺は、絶望的な状況だが、風紀委員の中で唯一の男子がこの場に現れた事にちょっとホッとしてしまった。

芽衣子ちゃんは突然現れた風紀委員男子に、

首を傾げている。


「今、彼を被疑者として、審判が行われているところだっ。」


「えっ。何すか?ソレ!!」


小谷くんは、白瀬先輩の言葉に目を剥いた。


ううっ。小谷くん、久々の再会なのに、こんな状況でごめんよ…。


俺はどうしてこうなった?という目でこちらを見てくる彼に、いたたまれず、視線を逸らした。


「君は、有罪、無罪、どちらに票を入れるか決めてくれ。状況は今から説明するが…。」


「そんなの、必要ありません!矢口くんが、悪い事するわけないっしょ?俺は絶対無罪だと思います!」


「潮…。」

「こ、小谷くん…!」


俺は迷いなく言い切る彼の言葉に涙目になった。


「よ、よかった!京先輩…!」


芽衣子ちゃんも、ホッと胸を撫で下ろしている。


         *

         *


「…というわけで、審判の結果は、有罪、無罪、それぞれ4名ずつ。君は、グレーという結果になった。よって!!

噂の事もあるし、君ら二人の事は、一週間風紀委員で身柄を預かり、その間に、結論を出す事にする。」


「み、身柄を預かるって、まさかまた…。」

「??」

青くなる俺に、風紀委員長、白瀬柑奈は、人の悪い笑みを浮かべた。


「そう!君の想像した通りさっ…!!」


そして、おもむろにスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。


「あっ。もしもし、鈴花?うん。柑菜だけど、ちょっと君んとこの人員の2年の矢口くんと1年の氷川さんを、一週間ばかり貸してくれないかな?そうそう。ありがとう!!

うん。このお礼は必ずするからな。じゃっ。」


白瀬先輩は、電話を切ると、にこやかに俺と芽衣子ちゃんに向かい合った。


「よし。美化委員長とは、話をつけた。

これから、一週間、矢口少年と、芽衣子嬢は、美化委員から、風紀委員にお手伝いとして派遣される事になった。

明日から、二人共、風紀委員の元で、ビシビシ働いてくれ給え!!」


「え、えーっ?!」

「はぁ…。」


そう言って決め顔でウインクする白瀬先輩に、驚く芽衣子ちゃん、ため息をつく俺。


一年近く前の事を思い出し、やれやれまたかとこれからの一週間が思いやられるのだった。







*あとがき*


次回から過去編になります。

(というのを投稿時お伝えし忘れてしまい、後から付け足ししました。混乱を招いてしまい、申し訳ありません。m(_ _;)m💦💦)

嘘コク5人目の過去編直後の荒れている京太郎くんと、委員長の白瀬先輩を始めとする風紀委員との関わりを見守って下さると嬉しいです。

今後もよろしくお願いしますm(__)m









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