第122話 白瀬柑菜は茶髪美少女を諌めたい
「校内で、君と矢口少年、不純異性交遊の噂がたってるだろ?先生達から、二人の交際の実態調査を頼まれていたんだよ。」
「ええっ?!」
私の発言に、氷川芽衣子嬢は、大きな目を更に見開いて、青褪めた。
「校内で噂が立っていたの、気付かなかったかい?」
「いえ。以前より周りの方によく見られ、ざわざわされてるなぁとは思っていたのですが
(新学期始まって、京ちゃんと学校でも会える事に浮かれていたので、)
噂の内容までは、気にしていませんでした…。」
氷川芽衣子嬢は、気まずそうにポリポリと頬を掻いていた。
どうやら、本当に噂の事は、今知ったらしいな。
「我が校では、男女交際について禁止されていない。
校内で、交際をしている全カップルを風紀委員が取り締まる訳ではないし、そんな事は物理的に出来はしないが、
君達のように、校内でも有名なカップルが、
派手に不純異性交遊を行なっているとなると、風紀の乱れは免れん。
実態を調査した上で、注意指導すべきというのが、先生方の結論らしいが…。
君に関しては、かの鷹月勇夫からも学校側に、よろしくと頼まれていて、先生方も萎縮しているらしくてな。
風紀委員に委託されることになったのだ。」
「そ、そうだったんですね。鷹月師匠が、島へ行く前、学校に軽い挨拶をしたとは聞いていたんですが、先生方にそんな圧力を感じさせてしまっていたとは…。なんか色々お騒がせして、ご迷惑おかけしてすみません…。」
氷川芽衣子嬢は、しゅんと謝ってきた。
その様子に、私は実家のメメが粗相をやらかしてヘニョッと耳を寝せて小さくなっている姿を思い浮かべてしまった。
うん。まぁ、この子が素直ないい子である事は間違いなさそうだな。
聴き取り調査からも、本人の言い分を聞いても、二人の仲は、まだ深いものでなく、
付き合う一歩手前の甘酸っぱい雰囲気を醸し出す二人の会話を、周りの生徒が誤解して噂になってしまったという事なんだろうな。
であるなら…、本人達に軽い忠告をしておくぐらいでいいか。
「京先輩にも迷惑かけちゃったな…。」
心配そうな芽衣子嬢に、私はにっこり笑いかけた。
「まぁ、風紀委員の調査では、君らは清い付き合いだったとご報告するから、噂も次第に薄れるのではないかな。
矢口少年とよく話し合って、これからは学校であまり刺激的な言動をするのは、気を付けたほうがいいぞ?」
「は、はい…。」
氷川芽衣子嬢は神妙な顔で頷くのを見て、
私は満足そうに頷いた。
『前は私が責めた発言をすると、ちょっとは、ドギマギする表情を見せてくれたのに。最近は、じっと私を見て、「ありがとう。」とか「僕もだよ?」とか、落ち着いた大人の対応であしらわれてしまって…。』
彼女の先程の発言を思い返しながら、更に続けた。
「それから、先程矢口くんの態度が変わったと君は言っていたが、私が思うに、それは恋愛におけるステージが変わったということではないかな?」
「へっ?ステージ?」
氷川芽衣子嬢は、眉間に皺を寄せてちょっと考え込むような様子を見せた。
「……?(ステージが変わるってどういう事?確か、アクションゲームとかだと、ステージが変わるに従って、パワーアップしたり何回も攻撃しないと倒せないような敵も強いのが出て来たりするよね?
あっ。もしかして、京ちゃんに、しょっちゅう嘘コクしたり、パンチラしたりしてるから、慣れて、並の攻撃では効かなくなってしまったという事?)」
氷川芽衣子嬢は急にハッとしたように、息を飲んだ。
「という事は、もっと京先輩におっぱいを押し付けながら告白したり、服を脱いだりしないと京先輩には効かないってことですかぁっ?!」
「ブッフーッ!!」
私は口に含んでいた紅茶を思い切り吹き出してしまった。
何がどうしてそんな結論になった!?
「め、芽衣子嬢!!
おっぱいを押し付けながら告白をしたり、服を脱いだりしてはいかん!!
それは、風紀委員長の視点からも、恋愛的な戦略から言っても、ナシだっ!!!」
「ええっ?違うんですかぁっ?!」
私は涙目になって慌てているポンコツ嬢に
思わず責め立てるように言ってしまった。
「当たり前だろう!今までの話の流れで、なんでそうなる?
私が言う、ステージが変わったというのは、今まで、片思いだと思っていた恋愛のステージが、両思いのステージに変わりつつあるんじゃないかという事だ!」
「ええっ!両思いのステージっ?」
氷川芽衣子嬢は、両手で、真っ赤になった顔を覆った。
「ああ。責めた発言にドギマギしなくなったのは、きちんと君を受け入れる覚悟をし始めたからではないかな?今は矢口少年の方から告白するタイミングを図っている時期だから、むしろ、今は押してはいけないと思う。
君は適度な好意を示しつつ、矢口少年が告白し易い雰囲気を作ってやればそれでよいと思うぞ?」
「京ちゃんから告白…!?
はうぅ…あうぅ…どうしよう!」
恥ずかしさと嬉しさにおろおろしている芽衣子嬢に、釘を差してやった。
「晴れて、矢口少年と恋人同士になったら、もう風紀委員の世話にならないように、清い交際を心がけるんだぞ?しばらくは、ギュウとかとかチュウで我慢しときなさい。」
「ぎゅ、ぎゅう…♡♡とかちゅう…♡♡♡?ひゃああぁ…!」
芽衣子嬢は、恥ずかしさと嬉しさにプルプル震えている。
なんだろう、この、可愛い生き物…。
おやつをあげる前のメメに似てる…。
芽衣子嬢の頭に思わずナデナデをしようと手を伸ばすと、すんでのところで両手でブロックされた。
「わっ!何するんですか!」
「あっ。いや、すまん。あまりにもウチの犬にそっくりだったもので、つい撫でたくなって…。」
「私の飼い主は京先輩なので、他の人は撫でちゃ駄目なんです!京先輩に怒られちゃいます!」
キリッとした顔で断られ私は目をパチクリとさせた。
「他の人に撫でさせちゃダメって、矢口少年が言ったのかい?」
「は、はい…。そうですけど…?」
問い返す私を芽衣子嬢は不思議そうに見上げた。
ほほぅ。これはこれは…!
彼を弄るネタができたと私はニンマリ悪い笑顔を浮かべた。
*
*
氷川芽衣子嬢、実際会ってみたら、素直で一途なわんこ属性のいい子なんだが、思い込んだら一直線で、何をしでかすか分からん危うさがあるな。
これは、矢口少年の方にも牽制しておいた方が良さそうだ。
私は、生徒指導室を後にすると、芽衣子嬢に呼びかけた。
「では、最後に矢口少年にも一言注意を促しておきたいので、案内してくれるかな?」
「は、はい…。一階の休憩所で待ち合わせをすることにしているのですが…。30分程かかると言っていたので、まだ来てないかも…。!??」
私の呼びかけに説明しながら、階段に向かおうとしたところ、芽衣子嬢は、屋上に続く階段の方を見て、固まった。
「芽衣子嬢、どうし…。?!」
芽衣子嬢の見ている先ー。
屋上に続く階段の踊り場に、もう一人の調査対象である、矢口少年が、可愛い小柄な双子の女子生徒に挟まれるように、3人並んで座り、書類を手に、にこやかに談笑していたのだった…。
や、矢口少年…。
君、意外とプレイボーイだったのかい?
「きょきょきょ、京ちゃん…。」
顔色が土気色になっている隣の茶髪美少女を横目で見ながら、私は先の展開を思い、心の中で、十字を切ったのであった。
*あとがき*
いつも読んで頂きまして、フォローや応援、評価下さってありがとうございます。
カクヨムコン読者選考期間につき、格別に配慮下さった読者様がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました✨🙏✨
嘘コク5人目のお話では、凛とした姿を見せていためーこちゃんですが、
嘘コク6人目のお話では、まるでシーズンの変わったポ○モンの主人公のように精神年齢が変わります(;_;)
嘘コク2人目の後もそうでしたが、大きな戦いの後では反動が来るのか、めーこちゃん、いつもより3割増位にポンコツになりがちです。
温かい目で見守って下さると嬉しいです。
今後もどうかよろしくお願いしますm(_ _)m
追記:120話、芽衣子ちゃん、メールにて、
京ちゃんとの待ち合わせ場所を昇降口前のベンチと記載していましたが、一階休憩所の誤りでした。120話の記述を訂正しています。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでしたm(_ _)m💦💦
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