第121話 風紀委員長 白瀬柑菜のミッション 茶髪カップルを調査せよ!

「…でね。夏休み中にあの鷹月勇夫が、校長に挨拶にみえた事があったのよ!彼の関係者であるならば、氷川さんについては、格別デリケートな取り扱いが必要というのが、先生方の間の結論になってね。

今、噂になっている件についても、

新人教師の私からは、言いにくい部分があるのよねぇ。それで、たっちゃ…、金七先生に相談したら、彼らの事は風紀委員長に任せてみてはどうかって言って下さって。ねっ♡」


1-D担任教師の、長谷川マミ(23)が、キュルンとあざとい表情で、生活指導教師の金七剛士(30)を上目遣いで見ると、金七先生は、デレッと相好を崩した。


「あ、ああ…!マミちゃ…、長谷川先生。そうなんだよ。白瀬。お前なら、皆の信頼も厚いし、矢口とも、面識あるし、適任なんじゃないかと思ってさ。

さり気に矢口くんと氷川さんの交際の実態についてそれとなく調べてみて、必要なら、注意を促してやってくれないかな?あっ。俺ももちろん力添えするからさっ。」


「はぁ…。話の経緯は分かりましたが…。」


私=風紀委員長=白瀬柑菜(18)は、心の中でヤレヤレと大きなため息をついた。


はたまた、どこから突っ込めば、いいものか…。


生活指導の金七先生と、新任の長谷川先生がデキているというのは、夏休み明けに、他の風紀委員の子から聞いてはいたが、その私情をこうもあから様に仕事にも持ち込んでくるとは…!


黒い噂のある、有名人の関係者の生徒に、下手を打つと、自分の責任問題になる。

新任の先生には、荷が重いというのは、分からなくもないが、だからといって、なぜただの生徒でしかない風紀委員長に責任を丸投げする?


金七先生よ。生活指導の先生なんだから、自分に全て任せろぐらい言えないのか?

その方が付き合ってる彼女の株も上がるだろうに。


俺も力添えするからって、いやいや、本来それ、先生きみたちの仕事だから!


我が校は、生徒の自主性を尊重した自由な校風であると言えば、聞こえはいいが、その実、教師の管轄である仕事まで生徒に割り振られがちである。


今回、呼び出しを受けた時から、嫌な予感はいたので、いざとなったら、キッパリ断り、あんまりひどい場合は、先生方が同時に学校を病欠した日に、遊園地で、デートをしている画像をネタに逆に先生達の風紀を取り締まってやろうかと思っていた。


だが…。


私は噂の当事者となっている、矢口京太郎という男子生徒をよく知っていた。


そして、彼と関わる事となった一週間の事を懐かしく思い出していた。


それから、一学期の校内放送では、緊張した様子で、茶髪の可愛い後輩女子と一緒にインタビューを受けていた彼の姿をー。


確か、隣にいた後輩女子がもう一人の噂の当事者氷川芽衣子だった筈だ…。


飼い主に尻尾をふる犬のように、彼への好意を隠しきれない彼女に、実家で飼っているメメ(2才の柴犬♀)を思い出し、一度会ってみたいと思っていたのだった。


教師に対するモヤモヤ全てを飲み込んで、私は大きく深呼吸をすると、頷いた。


「分かりました。この件、謹んでお引き受けしましょう!」


「わぁ!ありがとう、白瀬さん!」

「白瀬、助かるよ!ありがとう!!」


歓声を上げた彼らに一言釘を差した。


「ですが、こういう頼み事はこれっきりにしてくださいね?病欠とってまで、遊園地に行けるぐらいなら、充分生徒の問題に対処する時間ある筈ですよね?」


「「?!」」


目の前の二人の教師は青褪め、ヒュッと息を飲んだ。


「最近、素行不良の生徒が多いので、風紀委員の対応が多少手荒になっても大目に見て下さいね?それと、調査に幾人かの生徒に話を聞かねばなりませんので、美味しい紅茶や、お菓子を差し入れして頂けます?いいですよねっ。先生?」


「「ああ(ええ)…。も、もちろん…。」」


「よかった!契約成立ですね。」


引き攣った笑顔を浮かべる二人の教師ににっこり笑顔を向けたのだった。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


取り敢えず、風紀委員内で噂について聞いて見たところ、最初の噂の元は図書室の二人の会話から。


6月初旬頃、図書室で二人が、何やらただならぬ甘い雰囲気を出しながら、家に行った事を話し合っていたところを、その場にいた数人の生徒が聞いたらしかった。

その時現場にいた図書委員の子に話を聞いてみることにした。


【図書委員 神条桃羽(17)の証言】


「えっ!矢口くんと氷川さんの関係ですか?!

そそ、それは…。

わ、私の口からは何も申し上げられませんが、ただ、どんな過激な行為があったとしても、あの二人の間にあるのは純愛です!


それは不純異性交遊ではなく、純愛異性交遊と呼ぶべきものであることを私は強く主張させて頂きます。

風紀委員長。どうかあの二人に寛大な処置を頂くようお願いします!!」



図書委員の女子にいきなり、頭を下げられて私は面食らった。


いや、何を言っているか全然意味がわからん!

『純愛異性交遊』って何だ?

君、そんな事を言うキャラだったか?


私は、いつも穏やかな図書委員女子の激しい一面を見て、ドン引きのままその場を後にしたのだった。


最初の噂は夏休みと共に一度下火になっていたのだが、始業式の日、再び昇降口でされた二人の会話から再燃した。


何でも、矢口少年が、親のいないとき氷川さんの家に行ったとか…。


今度は多くの人にその会話が聞かれていたため、一気に噂が膨れ上がったとか…。


であるならば、もう少し近しい人間に聞いてみるか。


【氷川芽衣子の友人 笠原真希子(16)の証言】


「わっ。風紀委員長さん?え?芽衣子と矢口先輩の関係についてですか?

それが、誰から見ても、二人いい感じで

付き合ってる状態なのに、二人共まだ嘘コクを通した付き合いだって言ってるんですよね。本当に拗らせてますよね。

えっ。ああ、もしかして、深い関係かどうかを心配してます?いやぁ〜、残念ながら

ABCのAもいってないですよ。

そんな事になろうものなら、芽衣子、今頃羽根が生えて空飛んじゃって、私も惚気を3時間程は聞かされている筈ですから…。」


なるほどな。校内放送で見た通り、氷川さんは、気持ちを隠せない子のようだ。

友人から見れば、いい感じではあるけど、まだ付き合ってもいない状態と…。

しかし、嘘コクを通した関係とは一体どういう事なんだろうか…。


【矢口京太郎の友人福富正樹(16)、杉崎義隆(16)の証言】


「風紀委員長の白瀬先輩!また京太郎貸出されたんですか?今回は聴き取り調査?京太郎と氷川さんの関係?いや、さっき俺達も調査したところなんですよ。なっ。スギ。」


「ええ。奴は白でしたよ。手を繋いだりデートしたりはしてるみたいですが、まだ付き合ってもないって言ってました。でも、関係を進展させたい気持ちはある感じだったよな?マサ?」


「ああ。以前よりは、氷川さんに対して積極的になってる感じしたな。でもなぁ。京太郎は…」

「そうだよな。京太郎は…。」


「「ヘタレだから…。」」


最後は友人同士で仲良くハモった。


友人が口を揃えて言う程、矢口京太郎という生徒の性格は‘’ヘタレ‘’らしい…。


『俺は、白瀬先輩にそんな事望めません…。』


言われて見れば、確かに…!

私は一年近く前の事を思い出してクックッと笑った。


最後に、彼の所属している読書同好会の部長にも、一応話を聞いてみようと、今度は、部長と同じクラスの風紀委員の子に話を聞いてもらおうとした。


何故、部長だけ自ら話を聞きに行かないのかと問われれば、理由は簡単。

何故か私は彼女に嫌われているからなのだ。


【読書同好会 上月彩梅こうづきあやめの証言】


「はあっ?矢口のことで、聞きたいこと?

知らないわよっ!あいつは、もうこの部を辞めたも同然なんだから!!

私の前で二度とあいつの名前を口に出さないでちょうだいっっ!!」


と怒鳴られたそうだ。

私が行くのと、あまり、結果は変わらなかったかもしれない…。ごめん。野乃香(読書同好会部長と同じクラスの風紀委員)…。



最後に矢口京太郎の担任にも話を聞いてみた。


【2-D担任 新谷良子(29)の証言】


「ああ。矢口くん?よく仕事を手伝ってくれるわよ?エクセルで表とか作ってくれて助かるわ〜。ああ、そういう話じゃない?

え?氷川さんとの仲?

うん。まぁ、いって、せいぜい手を繋いだぐらいなんじゃないかしら?

彼、“ヘタレ”だから…。」


なんか、彼も教師に仕事を押し付けられて、苦労してんだな。


涙がちょちょ切れそうになったぞ。


しかし、“ヘタレ”にまた一票入ってしまった。

そこまで、聴き取り調査を行った時に、

風紀委員 武闘派部隊からに捕まってしまった。


「ああ、こんなところで油を打って何してんですか?委員長!放課後は、例の場所で喫煙しているらしき痕跡があった場所で張り込みをするって言ってたでしょう?」


「ああ。そうだったな。今、行くよ。」


こうして私は調査を中断して、別件に対応することにしたのだが…。


         *

         *


「白瀬っ!!お前、ちょっと女子に人気あるからって、調子に乗りやがって!女のくせに!!」

「痛い思いしないうちに、言う事聞いてりゃよかったのによ!」


喫煙していた二人の男子が、同時に私に飛びかかってきた途端、突然金属製のゴミ箱が飛んできて彼らに命中した。


ドギョン!!ドギャン!!

「ふぎゃっ!」「ぎゃふっ!」


土の上に、二人の男子がのびているのに、驚いて目をパチクリしている私の元へ、茶髪美少女がアセアセしながら、走って来た。


「ご、ごめんなさぁ〜い!転んだ拍子に

つい、うっかり、ゴミ箱を蹴り飛ばしてしまってぇ。

私ってホント、ドジだなぁ。テヘペロ。」


その茶髪美少女=氷川芽衣子は額に拳をコンと当て、可愛らしい様子で舌を出した。


「き、君は…!」


いやはや、まさか、調査対象が、自らやって来るとはね。


しかも、氷川芽衣子嬢ー。


私が予想したより遥か斜め上を行く人物であることが判明した。

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