第120話 風紀委員長、白瀬柑菜との遭遇

『芽衣子ちゃん、さっきの中華弁当(桃まん入り)美味しかったよ。ありがとうね。

ごめん。今日、友達に頼まれ事をしてしまって、30分位帰るのが遅れそうなんだけど、どうしようか?もしあれだったら先に帰っててもらって、構わないよ。

あと、明日は、スギとマサとラーメン食べに行く約束してて、一緒に帰れなさそうなんだ。たて続けに予定が入っちゃって本当にごめんね🙏』


「がーん…!」


私は京ちゃんから着信があり、ウキウキしながらライン画面を開いたのだけど、そんな内容だったので、私はショックを受け、肩を落とした。


京ちゃん、優しくていい人だから、友達も多いだろうし、付き合いもあるんだろうけど、

二人きりの時間が少なくなっちゃうのは

淋しいな…。


せめて、今日の帰りは遅くなっても、一緒に帰りたいと思い、私は急いで返信した。


『そうなんですね😊分かりました👍

明日は、お友達と楽しんで来て下さいね🍜

今日は、できれば遅くなっても一緒に帰りたいです。

一階の休憩所で待ってますので、お友達との予定が終わったら来て下さると嬉しいです。

あなたの忠実なワンコ🐶芽衣子より』


「よしっ。」


「めーいこっ!」

「わあっ!」


私が送信ボタンをクリックした途端、マキちゃんが、後ろからガシッと抱き着いてきた。


「コラコラ、掃除の途中じゃというのに、矢口先輩とラブラブメールのやり取りしちゃってるのか?」


「ご、ごめん、マキちゃん。でも、こっちの床掃除はもう終わったよ?あとは、ゴミ捨てるだけ。」


「こっちも、窓拭きおわったよん!あれ、なんか、涙目?どうした、ションボリワンコよ?」


「クウ〜ン。やっと京ちゃんと距離が縮まったと思ったら、今日、明日と立て続けに用事があるって言われちゃって。


なんとか、今日は用事の後、一緒に帰れるようにしてもらおうかと思うんだけど…。


考えたくないけど、私の事うっとおしくなってきちゃったわけじゃ、ない…よね?」


不安になって、聞いてみると、マキちゃんは

間髪入れずに否定してくれた。


「いや、それは絶対ないっしょ?

だって、始業式の日、登校早々、昇降口の辺りで、芽衣子矢口先輩とラブラブ会話を繰り広げてたじゃん!お互いの家を行き来するような事言ってて、私も見かけたけど、声かけられないぐらい濃厚で甘い雰囲気だったよ?」


「え、やだ。恥ずかしい…。私と京ちゃんあの時そんなんだった…?」


私はマキちゃんの言葉にかあぁっと赤くなった。


「ん〜ただ…。(あの時の芽衣子達があまりにラブラブだったせいで、ひと時収まっていた悪い噂がまた流れちゃってるんだよな…。矢口先輩が、それを気にして距離を取ってるわけではないと思うけど…。)」


マキちゃんが、何かを考え込むようなポーズをとったので、私は慌てて追求した。


「えっ。マキちゃん、何?何か心当たりごあるの…?」


「いや、まぁ、今のとこないけどさ、芽衣子や、矢口先輩が何か困る事があったら、言ってよ?力になるからさ?」


「??う、うん…。」


何か含みありげなマキちゃんの言葉に、私は不安を覚えつつ、頷いたのだった。

        

         *

         *

         *



「なっ!お前風紀委員長っ?!」

「おい!その写真消せよ!!」


「??」

学校の裏庭にあるゴミ捨て場に、ゴミを捨てに来ていた私は、近くの植え込みの辺りで、複数の男子の慌てたような声を聞いた。


植え込みの切れ目から、そちらを覗いてみると、木々に囲まれて空間ができているところがあり、そこで、一人のスマホを片手に持った、長身のポニーテールの女子生徒を二人の男子生徒が不穏な雰囲気で、囲んでいるのが見えた。


「お断りだ!裏庭で、文字通りキナ臭い匂いがすると思っていたんだ。やっと収めた君らの喫煙の証拠写真、生徒指導の金七先生に提出させてもらう!!」


その女生徒は、男子共に怯むことなく、片手を腰に当て、堂々と啖呵を切った。


私は、家政婦は見た状態で、固まっていた。


あらあら、大変…!あの男子達、タバコを吸ってるところをあの女生徒に見つかっちゃったの?

不良にも怯まず、あの人、カッコよ!!


ん?確か、風紀委員長って言ってた…?

嘘コク6人目の白瀬柑菜先輩?!


「白瀬っ!!お前、ちょっと女子に人気あるからって、調子に乗りやがって!女のくせに!!」

「痛い思いしないうちに、言う事聞いてりゃよかったのによ!」


二人の男子が、同時にその女生徒に飛びかかった途端、私は持っていた2つのゴミ箱を蹴り飛ばした。


ドギョン!!ドギャン!!

「ふぎゃっ!」「ぎゃふっ!」


その金属製のゴミ箱は、見事命中したようでだ。土の上に、二人の男子がのびているのに、驚いて目をパチクリしている白瀬柑菜先輩のところへ、アセアセしながら、走って行った。


「ご、ごめんなさぁ〜い!転んだ拍子に

つい、うっかり、ゴミ箱を蹴り飛ばしてしまってぇ。

私ってホント、ドジだなぁ。テヘペロ。」


私は額に拳をコンと当て、舌を出し、できるだけ可愛らしく言ったつもりだったのだが…。


「き、君は…!」


「な、なんだお前は…!?横島と、曲家になにしやがるっ!!」


その場には、呆気にとられる白瀬柑菜先輩と、もう一人慄いてる男子生徒がいた。


しまった!二人の他にもう一人不良仲間がいたらしい。死角になって見えなかった。


残った男子生徒は、白瀬柑菜先輩を羽交い締めにした。


「うっ。」

「!!」

「こいつをボコられたくなければ、お前もこっちへ来い!!」


どうしよう…?学校ではあまり暴れたくなかったんだけどな…。

言う事聞くフリして、スキをついて、一蹴り浴びせるか…。


男子生徒に言われて、私は仕方なく、そちらへ向かおうすると…。


「!?うわっ?」


ドガッ!!


白瀬柑菜先輩は、するっと男子生徒の拘束を緩めると、そのまま男子生徒に正拳突きをかました。


「ブクブク…。」


男子生徒は泡を吹いて気絶している。


「全く、しょうのない奴らだな。女だからって、バカにしてると痛い目見るんだぞ?」


気絶した男子生徒を余裕の表情で見下ろしている白瀬柑菜先輩に、私は感嘆の声を上げた。


「あら、お強いんですね!!余計な茶々を入れてしまってすみませんでした。」


白瀬柑菜先輩は、私に颯爽とした歩みで、私に近寄り、爽やかな笑顔を向けてきた。


うわ。柳沢先輩や、マキちゃんの言う通り、

すらっと背の高い美人さんで、キラキラオーラあるな!


「いや、助かったよ、ありがとう。君のお蔭で余裕を持って戦えた。

君、あの距離から、ゴミ箱蹴り倒して、あいつらに当てるなんて、只者じゃないな!何か格闘技をやっているのかい?」


白瀬柑菜先輩に、陽キャオーラあふれる笑顔で興味津々の様子で聞かれて、私はギクッとした。


中学では、暴れて大分噂になってしまったけど、高校では、できる限り大人しくすることを私は親友のマキちゃんと約束していた。

それに、ここで何かやらかしたら一緒にいる京ちゃんにも迷惑がかかってしまう事になる。


「い、いえいえ。そんな大した者では!私は通りすがりのドジっ子生徒Bです。お気になさらず!では、私はこの辺で失礼しますね?」


私は誤魔化してその場を逃げようとしたが…。


「こらこら、逃げるな!私は、風紀委員長の白瀬柑菜!!君の事も、知ってるぞ?」


「え。」


顔を引き攣らせて振り向いた私に、いたずらっぽい笑顔を向けて私の情報を並べ立てた。


「君は、1-D 氷川芽衣子、学校放送で流した嘘コク動画で、ますます人気を集める美少女にして、2-D矢口京太郎の最愛の彼女。」


「さ…最愛の彼女だなんて…♡」


「フフッ。強い事を皆に知られたくないなら、誰にも言わないって約束するから、私にお礼をさせてくれないか?ちょっとの時間生徒指導室に付き合ってくれよ?ね?」


「ちょ、ちょっとだけなら…、わっ!」


つい、請われるままに、OKしてしまうと、

白瀬柑奈先輩は、魅惑的な笑顔を浮かべて、私の左腕に抱きついてきた。


「よかった!君みたいな子、大好きだ!」

「ちょ、ちょっと白瀬先輩?」


いきなり、告白されちゃったよ…。

やっぱり、白瀬先輩、ちょっと変わってる人?


「あ。その前に…。芽衣子嬢、ちょっとすまんね。」

「??」


「武闘派部隊ーっっ!!すまないが、後片付けを頼む!!こいつらを生徒指導の先生に引き渡しておいてくれっ!!」

「「「はいっ!!」」」


「ええっ?」


白瀬柑奈先輩は、突然辺りに響くような大声を響かせたと思うと、周りからどこからともなく、三人の女子が現れた。


一人は、いつも落ち葉のゴミを捨てるのに使っているリヤカーを引っ張ってきているのを見て、私は目をパチクリした。


え?なんで、リヤカー??


「やっ!」

ドサッ。

「!!」


女子の一人が、不良の一人をリヤカーの中に投げ飛ばして積み上げた。


「ほっ!」


「ほらさっ!」


女子達が、不良達を次々にリヤカーに投げ飛ばして積み上げていく様子を呆気にとられて見守っている私に、白瀬先輩が爽やか笑顔で声をかけてきた。


「じゃあ、行こうか?芽衣子嬢。

皆、よろしく頼むな〜!!」


         *

         *


「ふふっ。よかったら、お茶とお菓子どうぞ?お客様。」


メガネをかけたふんわりミディアムヘアの可愛らしい風紀委員の先輩は、花のような笑顔を浮かべて、私の目の前の机にお茶とお菓子を置いてくれ、私は戸惑いながらも礼を言った。


「あ、ありがとうございます…。」


「姫華。ありがとう。愛しているぞ?」


白瀬先輩が、にっこり笑いかけると、姫華と言われた女子生徒は、ほんのり頬を染めた。


「もう、委員長ったら。」


また、告白してるよ。この先輩。しかも、言われた方、嬉しそうだし。


「では、私は奥で委員会の仕事してますので、何かありましたら、またお申し付けくださいね?」


頬を染めて、こちらに一礼すると、その先輩の女子生徒は、部屋の奥のテーブル席につき、書類をまとめ始めた。


生徒指導室というものは、問題を起こした生徒達が、風紀委員の人や、先生に厳しく詰問され、叱責を受ける恐ろしい場所というイメージを持っていたのだけど…。

そんな私のイメージとは、180度違うこの百合っぽい優雅な空間はなんだろう…?


「さあ、どうぞ、芽衣子嬢。姫華の出してくれる紅茶と、お菓子は絶品なんだよ?」


「は、はぁ…。い、頂きます…。」


白瀬先輩に勧められるまま、私は一口紅茶を飲んだ。

あ。ホントに風味があって美味しい…。


「美味しいだろ?」

「は、はい!」

こちらを見透かしたように、言われ、ドキッとした。

「フフッ。よかった!」


目の前で屈託のない笑みを浮かべている白瀬先輩をじっと見入ってしまった。


意志の強そうな大きな瞳。高い鼻。健康的な肌色に桃色の唇。

首を傾げるたびに揺れる黒髪のポニーテール。


見れば見るほど美人さんだ。


外見だけでなく、さっきの不良をやっつけた様子からも不良達に立ち向かう勇気と真っ直ぐさを持つ白瀬先輩の人となりが分かる。


いくら、皆に言ってるからって、こんな綺麗で、魅力的な人に、笑顔で好きだって言われたら、誰だってときめいちゃうんじゃないだろうか?


さっきの女の子だってポッとなっていたぐらいだもの。男の子なら尚更だよね?


京ちゃんの白瀬柑奈先輩の事を語る京ちゃんの事を思い出して胸がまた、ざわついた。


いい人には、違いないけれど、この人に完全に気を許してはいけないと私は自分自身に言い聞かせた。


「ねぇ。ところで、君の髪の色、とっても綺麗な茶色だね?染めてるの?」


「えっ。い、いえ、私のは地毛で…。」


一瞬、染めているかどうか詰問されているのかと私は怯んだ。

あれ?でも、確か校則には、髪を染めてはいけないという決まりはなかったと思うけど…。


「へぇ。地毛なのか。素敵な色で羨ましいな。

あ、警戒しなくてもいいよ?校則では、髪を染めるの禁止してないし、風紀委員でもチェックなんてしてないから。


確か、矢口少年も似た色じゃなかったかなと思って。カップルでお揃いの色なんて、いいね?矢口少年が君に合わせて染めているのかな?」


「い、いえそんな事はないと思います!

京先輩は、私が入学した時点から、茶髪でしたので…。」


「ふんふん…。ということは、君はその時から、矢口少年の事をずっと注目して見ていたと言う事だな?」

「あっ…。い、いえ、その…!」


いたずらっぽくニヤリと笑う白瀬先輩に、私は真っ赤になった。


          *

          *


その10分後ー。


白瀬先輩に酔っ払いのように、管を巻く私がいた…。


「ですからぁ…!京先輩が誰に対しても優しくて、困っている人を放って置けない性格は、とっても素敵だと思うんです。そういうところ、尊敬するっていうか、ホントに惚れ直すっていうか。だけど、他の女の子にあんまりかまけてばかりだと、私もモヤモヤして

しまって…!出来れば私だけに笑いかけて優しくして欲しいっていうか…!可愛いっていうのは私だけにして欲しいっていうか…!


最近なんか、京先輩、ますます私の扱いがうまくなっちゃって、あしらわれているっていうか…。


前は私が責めた発言をすると、ちょっとは、ドギマギする表情を見せてくれたのに。最近は、じっと私を見て、「ありがとう。」とか「僕もだよ?」とか、落ち着いた大人の対応であしらわれてしまって…。


こっちが逆にドキドキさせられてしまうんですよ!!


今じゃ、京先輩がドキマギした表情を見せてくれるのは、腕を組んだり、抱き着いたりして、胸を押し付けた時ぐらいに…!

ねぇ、白瀬先輩!聞いてますかぁ?」


「あ、ああ…。聞いている。聞いてはいるが…。

君のソレは、愚痴なのか?惚気なのか?

流石の私も大量に砂糖を吐いて胸焼けしそうだ…。」


白熱して、京ちゃんについてのマシンガントークが止まらない私に白瀬先輩は、ドン引きのようで、げんなりした様子で口元を押さえていた。


「はっ!私、なんで、こんな話をベラベラと?!」


おかしい…。どうしてこうなったの?

無罪の嘘コク6人目=白瀬柑奈先輩をライバルとして、警戒していた筈なのに、京ちゃんへの気持ちを洗いざらい全部喋ってしまうなんて…!

はっ。もしや…!


「白瀬先輩、もしかして、この紅茶に自白剤入れましたね?卑怯ですよ!」


「何も入れとらんわ!!君が勝手にベラベラ喋ったんだろうが…!」


とうとう、盛大に突っ込まれる事になった。


「いやいや、清楚な美少女と人気の氷川芽衣子嬢、一体どんな子かと思っていたら、かなり強烈な個性のある子でびっくりしたぞ?さすが、恋愛世捨て人の矢口少年を心を射止めるだけあるな…!

まぁ、でも、君のその個性、嫌いじゃないぞ?むしろ愛してると言ってもいい。


君と会う機会を与えてくれた、君の担任の長谷川先生と、生活指導の金七先生には感謝すべきだな…。」


「え?なんで、その二人です?」


再び愛してる発言を繰り返す白瀬先輩に何故か先生達の名前を出され、私は首を傾げた。


「校内で、君と矢口少年、不純異性交遊の噂がたってるだろ?先生達から、二人の交際の実態調査を頼まれていたんだよ。」


「ええっ?!」


寝耳に水の事に、私は一気に青褪めた。

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