第113話 おまけ ドアの向こうから

私=嶋崎真柚(中1)が、自室の机の上で、英語の宿題に取り掛かっていると、居間の方から、大声で、お兄ちゃんと誰か友達の男の子らしき人と話している声が聞こえてきた。


「え、うっそ!!京太郎も?」

「え、やっば!!亮介も?」


「「(デートの)時期、全くいっしょじゃーん!!」」


ギャハハハッという二人の笑い声がドア越しに、こっちの部屋まで響きわたった。


「もう、うるさくて、全然集中できない!」


苛ついた私は、一言注意をしようと、部屋を出て、居間へ続くドアの前に立ち、ノックをしようとしたところ…。


「俺、如月うさぎちゃんと、初デートに行く場所、もう決めてんだ。」


え?デ、デート?お兄ちゃん、あんなに陰キャてゲームオタク(その上帰宅部)なのに、

彼女できたの?


兄の会話の内容に驚き、私はピタリと手を止めた。


「腸内環境改善パーク、○んこランド!!」


!!!?


正気なの!?兄!!

そこ、本当に初デートで行くつもり?相手がよっぽどそこへ行きたい希望がなかったら、デートでそこ行くってドン引きじゃない?!ディ○ニーランドとかだったら、分かるけど…。


青褪めている私とは対照的に、お兄ちゃんの友達は、大ウケだった。


「アハハ、すげーな、亮介!腸内環境改善パーク○んこランドいいじゃん!!そこに決めたところに、亮介の男気を感じるよ!」


ええ!?友達の人、笑って感心してないで、止めてやってよ?デートに○んこランドだよ?


「俺なんか、駿川理沙子ちゃんと、初デートどこにしようか、迷ってるんだよ。

ボーリング場もいいけど、遊園地もいいなって。」


友達も彼女いるんだ…。優柔不断そうだけど、場所の選択はお兄ちゃんよりまともそうね…。

少しホッとしたものの、次の発言に私は凍った。


「だからさ、亮介。お前の持ってる

、ちょっと見せてくれない?」


え?攻略本…?


ちょっと待って?そう言えば、如月うさぎと

駿川理沙子って、どこかで名前を見た覚えがあったような…。

確か、お兄ちゃんの買ってきた

ギャルゲーの…中のキャラクター??


まさか、この人達、ゲームのキャラに対して、こんなに喜んだり、悩んだりしてるの?


カチンとその場に凍りついた私をよそに、

二人の会話は続いていた。


「ああ、攻略本、机の上にあるから、見ていいよ。」


「ありがとう。亮介。」


「いや、京太郎が見るのはいいけど、俺には見せないようにしてな?」


「え?なんで?」


「俺、如月うさぎちゃんの限定グッズ(うさぎちゃんといつもいっしょ♡まくらカバー)がついてくるから、攻略本買ったけど、基本的には、自分の感性で、その子が望んでるデートとかプレゼント考えてあげたいんだ。

だから、初回は、攻略本見ないようにしようと思って…。」


いや、攻略本買ったのに、見ないって、なんか変なこだわり…!

だから、デートの場所、そんなところになったのね?ちゃんと見た方がいいと思うけど…。


「そうなんだ、亮介…。なんかカッコイイな!!俺も初回は自分の感性でプランを考えることにするよ!!」


友達は、感動したようにそう言ったけど、キャラのまくらカバーにつられて使わない攻略本買ってる時点で、カッコよくはないから!

私は心の中で突っ込んでいた。


「よし決めた!デートの場所は(安いから)ゲーセン!プレゼントに(一点集中で高価な)星型ペンダントにするよ!!」


友達は、気合いを入れて叫んだが、私はため息をついた。


うわ〜、なんでデートの場所変えちゃったの?身近なところすぎて特別感なくない?その割に、初めてのデートで高価なアクセって…。アンバランス過ぎて引いちゃうよ…。


「いいぞ京太郎、急に男らしくなったな!!

よし!じゃ、俺はうさぎちゃんへのプレゼント、おしゃ魔女ひふみんのコスプレセットにするよ!!」


!!!!


ダメだ。彼らはダメな人達だ……!!


私は大きくため息をつくと、逃げるように、

ドアの前を離れ、自室に戻った。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


その数日後。


私が部屋で数学の宿題に取り組んでいると…。

「うさぎちゃん、マジ、最高ぉ〜!!」

「俺なんかやっちまったよおぉ!!」


居間から、また兄と例の友達が大声で話しているのが聞こえてきた。


「もぅっ!またなのっ?」


今度こそ文句を言ってやろうと居間のドアまで行くと…。


「やったぜ!うさぎちゃん、デートも楽しんでくれて、好感度も爆上がりで、プレゼントも大喜びしてくれて、その場で着替えてコスプレ見せてくれたぜ!!おじゃ魔女ひふみん姿のうさぎちゃん、マジ、尊い!!最高だぜ!!」


興奮した兄の声に、私は文句を言うのも忘れて、愕然とその場にたたずんだ。


え?もしかして、あのデートプランとプレゼント、如月うさぎのキャラにとってドンピシャだったの??

どういう感性してんのっっ…!?


「亮介は本当にすごいなぁ。俺なんか、デートの時に、理沙子ちゃんに、私、あんまゲー厶って得意じゃないんだよね?って引かれちゃって、プレゼントも、あんまり好みじゃないし、そもそもこんな高価なもの貰えないって返されて、好感度かなり下がっちゃってさ…。」


先日遊びに来た人と同一人物らしき、その友達の落ち込んだ声に、私はさもありなんと苦笑いで頷いた。


ホラ、言わんこっちゃない。(口に出して言ってはいないけど)私もそのプラン微妙だと思ったもん…。


「かなり嫌われてしまったみたいで、デートに誘うのも難しくなっちゃったよ…。俺ってダメ人間だな…。」


しょんぼりする友達を、兄は元気づけた。


「京太郎、そんな落ち込むなよ。すぐには俺みたいになるのは、難しいかもしれないけど、一度の失敗で諦めるなよ。彼女が好きなんだろ?これ、貸してやるからさ…。」


「これは、攻略本…!亮介…、ありがとう…!!俺も亮介みたいになれるように1から頑張るよ!!」


「ああ、頑張れ!京太郎!!」


いや、お兄ちゃん、友達にちょっとマウントとってるけど、ゲームキャラ相手にコスプレさせて、大喜びしている時点で、一般的にはあなたもかなりダメな人だから…!!


私は心の中で突っ込みながら、またも大きなため息をついて、その場を後にした。


でも、友達、兄と同じくダメな人だけど、

クラスの私をからかってくる男子達よりは、ちょっとだけ大人っぽくて、ちょっとだけ、優しそうな声だったな…。


お兄ちゃんに京太郎って呼ばれてたっけ…。


ゲーセンのデートで、高価な星型ネックレスを渡す変な人…。

ちょっとだけ覚えておこうかな?


私は顔を見たことのないその人を記憶の片隅にインプットしたのだった。


         *

         *


更にその数日後ー。


「あ。真柚ー。もうすぐ、お前誕生日だよな?なんか欲しいものある?」


にこやかに話しかけてきた、お兄ちゃんに言ってやった。


「んー。くれるなら、何でももらうけど…、おしゃ魔女ひふみんのコスプレセットだけは勘弁してね?」


「えっ?!」


青褪めるお兄ちゃんに私はいたずらっぽい笑いを浮かべ、舌を出した。




*あとがき*


年内最後の投稿になります。


いつも読んで頂きましてありがとうございますm(_ _)m


皆様どうかよいお年をお迎え下さい。


来年もどうかよろしくお願いしますm(__)m

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