第112話 おまけ 鷹月師匠の下での修行 後編

〈修行旅行〜実父との再会〜〉芽衣子12才夏〜秋


2回目の島合宿にてー。


「ふっ!はっ!えーと、そこそこの価格で肌に優しい化粧品ね…。この間メールで勧めたオル○スとかどう?」


「ふん!とぅっ!うん。あーちゃんお勧めの美容液、今使ってるよ?ただ、最近頬のあたりがカサカサしてきちゃって…。」


「ふおりゃっ!それは、洗顔の仕方が悪いんじゃないの?今度、使ってない洗顔用ネット、あんたにあげるから、それで泡立てて、擦らずにふわっと…。」


トレーニング中に、美容情報のやり取りをするあーちゃんと芽衣子。

懐に入ってしまえば、面倒見が良い、アネゴ肌の晶。


トラ男を倒す事にばかり気を取られていたが、京太郎と結婚するには、彼に好かれる女の子にならなければならない事に気が付いた芽衣子。

あーちゃんに勧められ、長い前髪を切り、

京太郎に好かれる可愛い女の子になるべく奮闘中であった。

なお、強い女の子であることは、京太郎の好みが分かり次第、場合によっては隠す方向でいくつもり。


「くっ!はっ!こ、このキツいトレーニング中によくそんな会話ができるよなっ!」


今回、特別に島合宿に参加させてもらった静くん(12)。あまりにハードなトレーニングにバテ気味…。


「ふふっ。私達は、去年も参加してて慣れてるからね。それにしても、静くん、まだ小学生なのに、背高くてカッコイイわね。将来有望よ♡

でも、島合宿キツいから、よほどの事がなければ小学生は参加できないのに、芽衣子、

鷹月師匠になんて言ったの?」


「うん。義弟、姉が好き過ぎて一ヶ月も離れてると寂しがっちゃうから、義弟同伴じゃないと島合宿に参加できませんって言ってみたら、快く許してくれたよ?」


晶の疑問に笑顔で答える芽衣子。


「なんだよソレ!キモっ!ゲボゲボッ!」


「あ〜。トレーニングキツすぎて、最初は戻しちゃうよね…。」


吐いてしまう静くんに苦笑いする芽衣子。


         *

         *


「さて、今年の島合宿は、(芽衣子ちゃんの破壊的な強さにより)ケガ人も続出し、例年に比べてかなりハードなものじゃった。」


「うん。本当に地獄だったよね…。」


「「(いや、芽衣子のせいじゃないか…?)」」


鷹月師匠の言葉に、神妙な顔でウンウン頷く芽衣子に、顔を引き攣らせる晶と静。


「そこで、島合宿は、しばらく中止にして、島合宿の成績優秀者に個別で修行旅行を行うものとする。」


芽衣子と、あーちゃんの方を見遣り、ニコッと笑う鷹月師匠。


「氷川芽衣子!南晶!この両名は、秋口に、一週間、T国に修行旅行に行く予定じゃから、心しておいてくれ。」


「しっ、師匠とハネムーン?」

「ん?何?修学旅行?」


「どっちもちげーだろ!」


晶と芽衣子に突っ込む静。


         *

         *


そして、数ヶ月後ー。


T国にやってきた鷹月師匠と、芽衣子、晶。

歴史的仏教遺跡を前に写真を撮る三人。


「ホラホラ、師匠、あーちゃんにもっと寄って寄って?撮りますよ〜!ハイ、チーズ!」


カシャッ。


「ハイ、オッケーです!(あーちゃん、師匠とツーショット写真撮れたよ?)」

「(キャーッ♡ありがとう芽衣子ぉ!!

京ちゃんとやらと再会したときには、私が二人のツーショット写真撮ってあげるからね?)」

「(えっ!そ、そんな、京ちゃんとツーショット写真なんて恥ずかしい//鼻血出ちゃう♡)」

「(じゃ、鼻血つーショット写真撮ってあげる。)」

「(やだぁーん!!)」


こそこそ、二人で盛り上がる芽衣子と晶に鷹月師匠ため息をつく。


(二人共何やら浮ついとるなぁ…。観光に来たワケではないんじゃがの…。ここは、試練を与えて、目を覚まさせてやらんといけんのぅ。)


とある、ムエタイの施設を訪れる。

スタッフの人に日本語で挨拶される。


「タカツキ。メイコ。ミナミ。

コンニチハ!キョウハ、ヨロシクオネガイシマス!」


「「「よろしくお願いします!」」」


施設内のムエタイの選手と交流試合をすることに…。

ドカッ!「わっ!」

バキッ!「ひゃうっ!」


首相撲、ヒザ、ヒジ打ちOK、技の美しさが重視されるなどキックボクシングとのルールの違いに苦戦する芽衣子と晶。


それでも、なんとか対戦相手を打ち負かす。


「フッ。本当の試練はこれからじゃ!」


ニヤリと微笑む鷹月師匠。


「最後の対戦相手は、ここの施設の選手にムエタイと日本語を教えている本郷ほんごうたかし先生じゃ!」


「えっ!」


現れた人物を前に顔色を変える芽衣子。


〈第一戦〉


南晶 VS 本郷隆


ドカッ!バキャッ!!


「ううっ、強過ぎる…!」


本郷隆のあまりの強さに歯が立たない晶。


〈第二戦〉


氷川芽衣子 VS 本郷隆


対峙する二人…。


「芽衣子…。大きくなったな…!」


「お、お父さん…。」




「えっ。あの人、芽衣子のお父さんなんですか!?」


二人の試合を離れて見守っていた晶が驚いて隣の鷹月師匠に問いかける。


「ああ…。本郷くんは芽衣子ちゃんが小3の時離婚した実父じゃ。

キックボクシングの有名な選手じゃったが、離婚してからは、この国でムエタイを習い、施設を作ったんじゃ。」


「そ、そうなんですね。でも、師匠。せっかく再会できた親子を対決させるなんて、あんまりじゃないですか…!」


「晶。これは、芽衣子ちゃんにとっての試練なのじゃ。勝負の世界は非情じゃ。

たとえ、実の父といえども、勝つ気構えがなければ大会ではやっていけん。

その葛藤を乗り越えてこそ、あの子はまた一回り大きく強くなれるんじゃ…。」


「師匠…。」


心配そうに二人の試合を見守る晶だったが…。



「浮気して離婚したお父さん!よっくも、

お母さんを泣かせたなぁっ!!

めーこ怒りの大キーック!!」


ドバキャッ!!


「ぐはぁっ!!」


あっという間に芽衣子に打ち倒される父=本郷隆、白目を剝いて気絶する。



「師匠。芽衣子、何の躊躇も葛藤もなくぶっ倒しちゃいましたけど…?」


「あっれぇ??」


ジト目で晶に言われ、頭をポリポリと掻く鷹月師匠。


芽衣子の見事な蹴り技に、ムエタイの選手達、大盛りあがり。


「「「メーコキック、ウツクシイ!」」」


「師匠。お父さんをぶっ倒す機会を与えて下さって、ありがとうございます。

なんだか、長年の心のつかえが取れて、とってもスッキリしました!!」


「お、お、お、おう…!め、芽衣子ちゃん、よ、よかったの…。」


芽衣子に晴れ晴れと笑顔で礼を言われ、引き気味の鷹月師匠であった…。



〈鷹月師匠との別れ〉芽衣子12才 冬


「えっ?K県に戻れる?」


「ええ。4月から、お父さんの転勤でね。あなたには行って戻ってで、また面倒をかける事になってごめんね。」


「ううん!そんな…。全然構わないよ?(ヤッター!また京ちゃんの近くにいられる!!)」


母から知らせを受け、喜ぶ芽衣子。


「それで、キックボクシングの方どうしようかしら?静くんは、今通ってるとこのジムと、同じ系列のジムが引っ越し先の近くにあるんだけど、あなたは鷹月師匠の下でトレーニングをしていたから…。」


「…!」


トレーニングのあまり、腹筋が割れてきてしまった事を気にしていた芽衣子、硬く引き締まったお腹に手をやりながら、考える。


(もう、辞め時かもしれないな…。)

       

         *

         *

        

「何じゃと!?キックボクシングを辞める?」


「ハイ。鷹月師匠、今まで大変お世話になりました!!」


早速、鷹月師匠に、家族の引っ越しと、キックボクシングを辞める事を伝える芽衣子。


「芽衣子ちゃん。考え直すんじゃ!

君ほど才能を持った子をワシは知らん。

中学を卒業したら、大人の大会にも出られる。優勝総ナメにして、世間の大注目を浴びる存在になること間違いなしじゃのに!」


「あはは。まさか!力の加減もできない下手っぴな私が、優勝だなんてできるワケないじゃないですか。もう、師匠ったら、褒め上手なんだから!」


「まだ、そんな事言っとるのか!いい加減、自分の強さを自覚せんかい。ご家族が引っ越しされても、ワシ所有の寮に入れば問題ないじゃろ?晶からもなんか言ってやれ!」


たまたま芽衣子特設のトレーニング場に遊びに来ていた晶。


「んー。芽衣子の思う通りにさせてやったらどうですか?」


「んなっ!?晶まで…!」


「だって、芽衣子はもともと、イジメっ子をやっつけて、好きな子とラブラブになるためにキックボクシング始めたんでしょう?

イジメっ子をやっつけるぐらいの実力は身に付きすぎるほどに身に付いてるし、好きな子の近くに行けるなら、それを優先した方がいいんじゃないです?」


「あーちゃん…!分かってくれて、ありがとう!!」


「わ、ワシは認めんぞ!男なら、有名になってからいくらでも、わんさか押し寄せるわい。今、この大事な時期に恋愛など、必要ない!どうしても、キックボクシングを辞めるなら、このワシを倒していけい!!」


「た…鷹月師匠…!!」


鷹月勇夫 VS 氷川芽衣子


ドガガガっ!鷹月の猛攻!!

必死に防御する芽衣子。


「うっ!うぐっ!!恩義がある鷹月師匠を倒すなんて、私には出来ません…!」


「何を甘い事を言っておる!勝負の世界は非情じゃ!!今の時期、何が一番大事か、自分自身を見つめ直すのじゃ。」


「師匠…!!」


すうっと深呼吸し、はらはらと涙を流す芽衣子。


「分かりました。私、甘かったです。

自分にとって、一番大事な事がやっと分かりました…!!」


「分かってくれたか…!」


「ハイ!たとえ師匠をぶっ倒してでも、私はこの愛を貫きます!!」


「え。」


「師匠、ごめんなさい!!京ちゃん、今会いに行きますキーック!!」


ドッゴーン!!


「か、かはぁっ!!」


芽衣子に蹴り倒され、うつ伏せに倒れる鷹月師匠。


「み、見事じゃ…、芽衣子ちゃん…。」


ガクッと意識を失う鷹月師匠を介抱しながら、晶が芽衣子にウインクする。


「芽衣子、鷹月師匠は私がフォローするから心配しなさんな。手紙書くから、向こうの住所決まったら教えてねん?」


「うん。もちろん!ありがとう、あーちゃん…。師匠…。」


こうして芽衣子は、晶と鷹月師匠に別れを告げ、京太郎のいるK県に引っ越して行ったのだった…。

                

               (完)





*あとがき*


読んで頂きまして、ありがとうございます✨✨

鷹月師匠や、南さんとの出会いにより、芽衣子ちゃんが強くなっていく過程を書いた

過去編でした(^^)


次は、京ちゃんの中学生の頃のお話です。

亮介くんと、真柚ちゃんが出て来ます。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m



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