嘘コク六人目

第117話 人手不足なのでこき使え!

「よっと。」


カチャン。

俺は台の上で少し背伸びをして、照明器具の配管に、丸い蛍光灯を取り付けた。


「芽衣子ちゃん、小さい方の蛍光灯くれる?


台の隣に立っているゆるっとした白いワンピース姿の芽衣子ちゃんを見下ろして、呼びかけた。


「あっ。はい!」


芽衣子ちゃんは、返事をすると箱から蛍光灯を取り出し、俺に差し出した。


「こんな事頼んじゃってすいません。京先輩。いつもは、静くんにお願いするんですが、あの子、まだ数日は島から戻らないらしくって…。」


申し訳なさそうにそう言う彼女に、俺は笑顔を向けた。


「いや、こんな事ぐらいだったら、いくらでも引き受けるよ。」

「ありがとうございます。京先輩!頼りにしてますっ♡」


頬を染めて、信頼を込めた眼差しで、ウルウルこちらを見上げてくる、茶髪美少女。

くぅっ!尊い…!!

かなりグッとくるものがある…!!


最近芽衣子ちゃんへの想いを自覚し始めた俺=矢口京太郎(16)。

夏休みも、もうあと数日で終わりという時期に、俺は彼女の家に呼ばれたのだった。


実は彼女に会うのはこれで2週間ぶり…。


夏休み前半は、南さんのキックボクシングジム〈Hawks Moon 〉の手伝いがあった為、

定期的に会えていたのだが、後半は、

鷹月師匠の要請で、トラ男や、静くんが参加しているキックボクシングの島プロジェクトのイベントに芽衣子ちゃんがスタッフとして、召喚されてしまった為、しばらく会えていなかった。


芽衣子ちゃんから毎日のように島から電話はあったものの、正直、寂しかった…。

彼女のはにかんだような笑顔を恋しく思っていた。

「京先輩、お久しぶりです。やっとお顔が見れました…!」


今日、久しぶりに会った彼女は、少しだけ日焼けをしていて、再会の喜びに目を潤ませていた。

その顔を見ていたら、たとえ、彼女が俺と会う理由が、6回目の嘘コクミッションの為であって、その内容が、リビングの少し高いところにある蛍光灯を換えて欲しいというものだとしても、彼女の為にできる事は何でもしてあげたいと俺は思った。


「終わったよ。芽衣子ちゃん。」

「ありがとうございま…あっ?京先輩、気を付けて下さい!アブが…!!」


蛍光灯を換え終わり呼びかけると、芽衣子ちゃんは、礼を言いかけ…、驚いて俺の後ろを指差した。


「えっ?」


その声に、ふと見ると、電気のついた蛍光灯の辺りから、俺の鼻先まで、アブが寄ってきていた。


「うわっ?!」

ガタガターン!!


振り払おうとして、台の上でバランスを崩した俺は、足を踏み外し、リビングの床に転倒してしまった。


「京先輩っっ!!大丈夫ですかっっ!?」


蒼白になった芽衣子ちゃんが、俺の近くに駆け寄ってくる。


「う〜、いてて…。」


背中をさすりながら、床に寝そべった俺が見上げたとき、俺が目にしたものは…。


芽衣子ちゃんの広がったワンピースのスカートの中身=すらっとした白い足と、白い下着だった。


可愛らしいレースのパンツに、うっすら割れ目のラインまでバッチリ目に入ってしまい、俺は上から下から、込み上げてくるものを抑えきれなかった。

うっ。マズイ!!


俺は鼻を押さえたが、指の間から、ポタポタと、血を垂らしてしまい、それを見た芽衣子ちゃんは悲鳴をあげた。


「きゃっ!京先輩、鼻を打っちゃったんですか?どうしよう?私のせいで…!!」


「いや、べーこちゃ…、違っ…。ケガしたわけじゃだっ…。」


俺は体を起こして、芽衣子ちゃんにケガをしたわけじゃない事を知らせようとしたが、鼻を押えているので、うまく喋れない。


「ちょっと、失礼しますね?」

「あっ。べーこちゃ…。」


芽衣子ちゃんは膝立ちになり、俺に近づくと、ティッシュで鼻栓を作り、俺の鼻に詰めると、鼻の上方をその指で、圧迫するように摘まんだ。


「血が止まるまで、動かないで下さいね?」


至近距離に心配そうな彼女の顔がある。

大きな目。長い睫毛に、涙が僅かに浮かんでいる。


うわ、情けないな、俺。彼女の力になってあげたかったのに、逆に心配かけちゃって。


きまり悪く思いながらも彼女に優しくされ、心地よさも感じてしまうダメな俺…。


「あ。アブ、今窓から出ていきましたね。」


芽衣子ちゃんは、ふと窓に目をやると、ホッとしたように言った。


「網戸がちゃんと閉まっていなかったので、虫が入って来ちゃったんですね。本当にごめんなさい。ちょっと一瞬離れますね。」


芽衣子ちゃんは、網戸を閉めると、すぐに

戻ろうとしたが、俺はそれを手で制止した。


「あ。もう血は止まったみたいだから、大丈夫だよ。芽衣子ちゃん。」


「そうですか。よかっ…??!」


芽衣子ちゃんは俺を見下ろすと、ある一点を見つめ、固まっていた。


あっ。やっべ!鼻血に気を取られて、こっちも反応してたの忘れてた…!!


ああ、もう死にてえ…!!


「えっとぉ〜。」


芽衣子ちゃんは、俺(の下半身)から気まずく目を逸らしながら、恐怖の質問をしてきた。


「変なこと言っていいですか?も、もしかして、京先輩の鼻血、ケガをしてのものじゃなかったです?」


「は、はひ…。」


「も、もっと変なこと言っていいですか?

もしかして、私、またパンチラしたり、してました?」


「〰〰〰、は、はひ…。」


芽衣子ちゃんの2つ目の恐怖の質問に、答えるのを逡巡しながらも、答えないワケにはいかなかった。

「ひゃああん…!毎度毎度痴女でごめんなさい!!」


芽衣子ちゃんは真っ赤になり、両手で顔を覆いながら、謝ってきた。


「い、いや、そんな!俺の方こそ変態でごめん!!」

俺も手を合わせて芽衣子ちゃんに謝った。


「こんなの、気持ち悪いよな。嫌な思いさせてごめん…!!」

「い、いえ、そんな…!びっくりしましたが、気持ち悪いとかでは!久々にお会いできて光栄でしたし!!」


なかなか収まらない、俺の股間に向かって、芽衣子ちゃんは、丁寧に話し掛けてきた。


「こ、こんにちは。お久しぶりです。お元気そうで何よりです…。」


「め、芽衣子ちゃん。話しかけなくていいよ。コイツ余計元気になって収まらなくなっちゃうから…!」


優しさに溢れた芽衣子ちゃんの対応を、俺は焦って止めたが…。


「きゅん…♡」

芽衣子ちゃんは目をウルウルさせて胸キュンの表情を見せた。


「何キュンなの?それ?」


芽衣子ちゃんは、今度は俺に向かって上目遣いでいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ふふっ。思春期な部分のある京先輩も大好き…ですよ?」


!!!

うおぉ!!あざとエロすぎて、ヤバい!!!


「め、芽衣子ちゃんっ。だから、収まらないんだってばっ!!」

「ひゃっ!ごめんなさい〜!!」


俺は、芽衣子ちゃんからの嘘コクに初めて声を荒らげてしまった。







*あとがき*


いつも読んで頂きまして、フォローや応援、評価下さってありがとうございます。


カクヨムコン読者選考期間につき、格別に配慮下さった読者様がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました✨🙏✨


今後もよろしくお願いしますm(_ _)m


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