第109話 解き放たれためーこ
またあの夢を見ていた。
「京…ちゃん…。た、助けてっ…。」
ゴポゴポッ。
めーこは、苦しみながら、仄暗い海の底に沈んでいく…。
「めーこ!今、助けるから…!」
俺は、芽衣子を助けようと、海に飛び込んだものの、途中、ねっとりした海草に絡め取られ、身動きがとれなくなった。
「め、めーこっ!めーこっ!!」
必死に叫ぶも、めーこはどんどん遠ざかり、暗闇に飲まれていく。
そして、自分も息が出来ず苦しくなり、段々意識が遠のいていった。
(ごめん、めーこ。今回も俺、めーこの事助けてやれなかったよ…。)
絶望の内にそう思ったとき…。
「許しませんっ!!」
鋭い声と共に光の一閃が走り、海草がバラバラに千切れ俺は自由の身となった。
息の苦しさもどこかへ消えている。
一筋の差し込む光を頼りに、どんどん下へ潜っていくと茶髪を綺麗な花のように広げて気を失っているめーこの姿があった。
俺はめーこの体を抱きとめると海上に上がって行き、近くの島まで運んだ。
「京ちゃん。助けてくれてありがとう…!」
息を吹き返し、俺の膝の上で満面の笑顔で、俺に礼を言うめーこ。
「めーこ!本当によかった…!!」
やっと助けてやれた事に安堵し、俺は涙目になり、めーこをギュッと抱き締めた。
「あはっ。もう、京ちゃん。苦しいよぉ。あはははっ。」
めーこは弾けるような明るい笑い声を立てた。
「でもね?京ちゃん。本当はめーこ、こんな暗い水の底に閉じ込められてなんかいないんだよ?」
「え?」
「実は私達、今もずっと一緒にいるんだよ?」
そう言った途端、彼女の背丈、手足が、ぐんぐん伸びて、高校生くらいの女の子に成長した。
「ねっ、京ちゃん?」
陽の光を浴びて、茶髪をキラキラ光らせながら、微笑む彼女は、俺のよく知っている誰かのようで…。
「め…。」
彼女に手を伸ばした先に見慣れた天井を見つけて、俺は目覚めた。
「夢…か…。」
俺はやっちまった感満載で、両手で顔を覆った。
「あ〜もう、なんて夢見てんだ俺…。」
最後に出て来た、めーこの成長した姿、まんま芽衣子ちゃんじゃん。
俺はまだ、彼女にめーこを重ねているのか。
いい加減もうけじめつけなきゃいけないのに…。
それにしても、今日は、やけに目覚めがいい。あの夢を見た後は朝からどんよりした気持ちになるのが常だったが、今は澄み切った青空のように、心の中がスッキリしている。
俺はベッドの上で大きく伸びをすると、
次にやらなければならない事の為にテキパキ動き始めた。
*
*
「あ、京太郎、おはよ。今日は早いね。」
キッチンに向かうと、髪を一つにくくり、仕事着にエプロンをした母が、作った朝食をリビングテーブルに置いているところだった。
「おはよう。頂きます。」
「どうぞ?」
俺は焼色のついたウインナーを口に放り込みながら、
既に食べ終わり、向かい合って食後のコーヒーを飲んでいる母に視線を送ると、咳払いをして、話題を切り出した。
「あのさ、母さん。小学校の頃仲がよかっためーこって覚えてる?」
「へっ?」
母は目をパチクリさせて、こちらを見返した。
「もちろん覚えてるけど、どうしたの?」
「いや、今どうしてるのかなってふと思ってさ。母さん、彼女、今どうしてるかとか知らない?」
「えっ。そうねぇ。確かお母さんの再婚で、T県に引っ越して行った筈だけど…。その後の事はよく知らないわね。まいちゃんと何年も連絡とってないからなぁ…。」
「そ、そうか…。」
めーこはお母さんの再婚で引っ越して行ったのか。そんな事すら知らなかった。
あの時、めーこが遠くへ行ったのは、自分のせいだと思い込むあまり、めーこの転校について説明しようとする母の言葉も頑として聞こうとしなかったな。一連の出来事を全部自分のせいと思うなんて、今思えば、なんて馬鹿で傲慢なガキだったのだろう。
急に今までの自分が恥ずかしく思えてきた。
「気になるんだったら、久々に連絡とって近況を聞いてみようか?」
「え。いいのか?」
「ええ。もし、会いたいなら住所とか都合のよい日とかも聞いとくけど?」
「あっ。いや、今すぐ会いたいとかじゃなくて…、ただ、元気にやっているかどうか知りたいというか…。」
今のめーこがどうしているか、気にはなるが、正直、まだ直接会う覚悟は出来てないんだ。
「ふっ。そうなの?」
そんなヘタレな俺を見透かしたように、母は含み笑いをした。
「じゃ、まいちゃんに連絡とってみるから、何か分かったら教えるわね?」
「あ、ああ…。ありがとう。よろしく頼む…。」
「それにしても、どういう心境の変化?ちょっと前まで、めーこちゃんの話題なんて、頑なに避けていたのに。」
「ま、まぁ、ちょっと思うところがあったというか…。」
「ふーん。あんた前よりスッキリした顔してるし…。
やっぱり、最近お弁当を作ってくれている彼女さんの影響かな?」
ニヤニヤいたずらっぽい笑みを浮かべる母に慌てて否定した。
「た、ただの後輩の子だよ。彼女じゃない…!」
そう。芽衣子ちゃんは彼女じゃない。
今はまだ…。
続けそうになった言葉を赤面しながら、自分の中だけで噛み殺した。
「そうなの?ふふっ。じゃあ、今度その後輩の女の子家に連れて来てよ。あたしからも、お弁当のお礼言いたいからさ。」
俺の心中をやはり見透かしたような表情で、母はニンマリ笑ったのだった。
*あとがき*
長かった嘘コク5人目もこれにて終わりです。胸糞展開もあり、辛い部分もあったかと思いますが、最後まで見届けて下さって本当にありがとうございました(;_;)
本編のうちで、クライマックスの部分になりまして、嘘コク6人目、7人目はこれ以上の盛り上がりがあるかは分かりませんが、長いエピローグのような気持ちで読んで下さると有り難いです。
嘘コク5人目で、ほぼ京太郎くんのベクトルは決まりまして、今後は芽衣子ちゃんの為に、嘘コク6人目、7人目は、京太郎くんが意識して打ち倒していく(過去を振り切っていく)形になります。
待っている身の芽衣子ちゃんは、やきもきする事も多いかもしれませんね💦
嘘コク7人の内、唯一無罪の嘘コク6人目。
ベタなラブコメ展開になるかと思われます…(^.^;
裏テーマは“おっぱい“ ※嘘です
来週12/28(水)〜1/3(火)は、芽衣子ちゃんの過去編などを含むおまけ話を毎日更新させて頂きます。
1/4(水)〜嘘コク6人目のお話を通常通り
水、木、金更新させて頂きたいと思いますので、どうか今後もよろしくお願いします
m(_ _)m
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