第102話 茶髪美少女はその台詞を言いたい

「芽衣子ちゃん、殺しちゃダメだ!そいつは生きて罪を償わせる。

お・あ・ず・けーっ!!」


「キャフン!!」


俺が叫ぶと、驚いて芽衣子ちゃんは、一瞬動きを止めた。


トラ男は、その一瞬の隙を逃さず、ポケットから刃物を取り出し、芽衣子ちゃんの胸に突き立てた。


!!!!


つうっ…!!」


スローモーションのように、芽衣子ちゃんは苦悶の表情を浮かべてその場に崩れ落ちていく。


全てはあっという間の出来事だった。



「芽衣子ちゃんーっっ!!!」


俺が声をかけたから…!


そもそも、トラ男に対峙すべきだったのは、俺だった。その結果、自分がどうなったとしても、芽衣子ちゃんを危険な目に遭わせるべきじゃなかった…!!


今、彼女に何かあったら、俺は生きていけない…!!!


目の前の光景がひしゃぐほどの絶望と後悔と共に、芽衣子ちゃんの元へ必死に駆け寄ろうとすると…。


?!!


芽衣子ちゃんは、床に膝をついたところで止まって、トラ男を睨み返した。


「?!な、なんで刃先が中に入ってかねーんだ?」


トラ男は、芽衣子ちゃんの胸からナイフを抜き、信じられないという表情を浮かべている。


そのナイフの先には、血の一滴たりともついていなかった。


「いったーいっ!!何するんですか!!」


ドガァッ!!


狼狽しているトラ男に芽衣子ちゃんは立ち上がりざまローキックをお見舞いした。


「ぎゃふっ!!」


ふっ飛ばされたトラ男は、床の上に転がった。


「防刃チョッキ着てても当たると痛いんですからね!!」


「芽衣子ちゃんっっ!!」

プンプン怒っている芽衣子ちゃんの元に急いだ。


「大丈夫か!?当たったとこ見せてっ!!」


「えっ?京せんぱ…、きゃああん!!」


驚いている芽衣子ちゃんに構わず、彼女の服を引っ張り、さっき、ナイフの突き立っていたところを見てみると、鎖骨の少し下のあたりが少し赤くなっているものの、腫れもなく怪我をしている様子はなさそうだった。


「よ、よかったあぁ…!!」


一瞬、芽衣子ちゃんの死が見えた。

最悪の事態が回避された事に、俺は、ホーッと安堵の息を漏らして、思わず手に力を込めてしまうと…。


「やぁっ…!京先輩、それ以上引っ張ったらダメ…ですっ…♡」


芽衣子ちゃんの甘い声に我に返ると、俺は彼女の服を防刃チョッキや下着ごと引っ張り、上から胸の谷間どころか、白い双丘の半分くらい覗きこんでしまっていることに気付いた。


「ごご、ごめん!!俺そんなつもりじゃ…!」


突然痴漢行為を働いてしまった…!!


慌てて手を離し、謝ると、芽衣子ちゃんは真っ赤な顔を両手で覆い、プルプルしていた。


「いい、いえ…。ちょっとビックリしちゃいましたけど、心配して下さった事は分かってますので…。」


「ちょっとあんた達!イチャイチャするのは、全部終わってからにしなさい!!」


後から駆けつけた南さんに叱りつけられ、

俺達はハッとした。


そうだった。まだ、最後の仕上げが残っている。


「芽衣子ちゃんは、下がっていて!」


俺は芽衣子ちゃんにそう言うと、フローリングの床にのびているトラ男に近付いていった。

「京先輩、その人まだ武器を持ってるかも…!!危ないですよ!?」


「大丈夫…!」


心配そうに声をかけてくる彼女にそう答え、ショルダーバックから、小さな黒い物体を取り出すと、呻いているトラ男の手に押し当てボタンを押した。


周りに青白い火花が散る。


「ぎゃあああ!何しやがる!!」


スタンガンを浴びせられ、トラ男は、悲鳴を上げた。


「悪いが、しばらく動けないようにさせてもらった。武器がないか、調べさせてもらうぞ?」


言いながら、トラ男の服を剥いでいく。


「なっ?よ、よせ!!もう、武器なんて持ってねーよ!オイ!!」

「信じられるか!!不意打ちで、芽衣子ちゃんを刺そうとしたくせに…!」


バサッ。バサバサッ。脱がした服をどんどん辺りに投げ散らかしていく。


「わああぁ!やめろぉっ!」


「きょ、京先輩が…、今度はトラ男くんを…!ひゃあああっ!!やだぁんっ!!」


「あら…♡ 坊やったら強引ね?」


芽衣子ちゃんと南さんが騒ぐ中、俺は奴をパンツ一丁の姿にした。(嫌だったが、一応パンツの中に、武器がないかも確認した。)


「ゆ、許してくれ…!すまなかった。京太郎!!めーこ!!い、命だけは助けてくれ!!」


トラ男は三人の前で、パンツ一丁の姿を晒し、ガタガタ震えながら命乞いをしてきた。


「めーこ?」


俺が怪訝な顔をすると、芽衣子ちゃんが引き攣り笑いを浮かべた。


「ああ〜、えっとこの人錯乱して、

私をめーこちゃんと混同してるみたいですね?それよりホラホラ、京先輩、真柚さんの画像を…!」


「あ、ああ。そうだな…。おい、トラ男!

死にたくないのなら、まずは、真柚ちゃんの画像を消すんだ!!」


芽衣子ちゃんに促され、俺は脱がしたズボンから回収したスマホをトラ男の前に置いた。


「わ、分かった…!」


トラ男に、スマホを操作させると

画像がちゃんと消去されているか、芽衣子ちゃんに確認してもらった。


「パソコンとか他の媒体にも画像はあるのか?」


「な、ない!スマホだけだ。」


「……。」


疑わしい目で見ていると、


「ほ、本当だ…!信じてくれ!!」


トラ男が嘘をついている可能性ももちろんあるが、現時点で嘘だと確認することはできない。


「一応信用するけど、保険として、さっきお前が情けなく命乞いしている写真を南さんに撮ってもらってる。」


「えっ!いつの間に…!」


南さんはウインクをして、スマホの画像をトラ男に見せた。


「フフッ。男前に映ってるわよ?」


「街中にこの画像広められたくなかったら、変な事考えるなよ?」


「〰〰〰〰〰〰」


よし、画像の件も解決したし、ここら辺で仕上げに入るか。


俺は芽衣子ちゃんと顔を見合わせて頷いた。


うう…。昨日何度も練習した恥ずかしいセリフを言わなければ…。


「トラ男、よく聞け!芽衣子は俺の番犬だ…!!」


「ワンッ!」


何だよこのセリフと思いながらげんなりしている俺とは対照的に、隣の芽衣子ちゃんは嬉しそうに吠えた。


「お前のした事は許せないが、今回は命だけは助けてやる。だけど、今後、俺と俺の仲間に手を出す事があれば、この芽衣子が必ず地の果てまで追いかけてお前の息の根を止めに来るからな。」


「ガルルル…!」


「ヒィッ。わ、分かった。二度とお前達に手出しはしないと約束する!!俺だってこんな化け物には金輪際会いたくねーよ!!!」


牙をむく芽衣子ちゃんに、トラ男は、真っ青になって切実な叫び声を上げた。


「そしたら、芽衣子、あの処理だけしてしまうか。」

「はい。」


「はっ?んあっ?!わあぁっ…!」


不思議そうなトラ男の両腕を掴むと上から押し倒した。

まだ、スタンガンの影響が残っていてちゃんと力が入らないのか、その抵抗力は驚く程少ないものだった。


パンツ一丁で仰向けに床に寝転がり、上半身を押さえつけられたトラ男の足元に、芽衣子ちゃんが近付く。


「な、何すんだよ?もう写真も消したし、罰は十分に受けただろ?この上俺に何しようってんだよ?ま、まさか殺す気かよ?!」


恐怖に震えながら、問いかけてくるトラ男に、芽衣子ちゃんは静かに首を振る。


「いいえ。殺しはしませんが…。

トラ男くん、私にやろうとした事を忘れ

てませんよね?

あなたをこのまま野放しにしたら、また女の子が被害に遭うかもしれないでしょう?私達で責任を持ってもう二度と悪さの出来ない体にして差し上げようと思いまして…。」


「ま、まさか…。」


状況を察したのか、青い顔から更に血の気が引き、トラ男の顔は紙のように真っ白になった。


「はい。あなたの家族計画には全く興味がありませんので、思い切りやらせて頂きます。」


芽衣子ちゃんがにっこり笑顔でそう言った途端、トラ男は、身を捩って暴れ出した。


「よ、よせ!!や、やめろーっ!!俺様のモノに何をしようとしてる!!この化け物!!悪魔!!」


死にものぐるいで暴れるトラ男の上半身を俺は体全体を押さえつける。


「大丈夫ですよ?一瞬で、終わらせて、気絶させますから。ズレると、一度で終わらず、余計苦しみますから動かないで下さいね。

鷹月師匠、医療班をお持ちですから、死にはしません。安心して下さい。」


「そ、そういう問題じゃねぇっ!!」


この上なく爽やかな笑顔を浮かべる芽衣子ちゃんに、トラ男は泣きじゃくりながら、懇願してきた。


「ううっ…、た、頼む!許してくれぇっ!!で、出来心だったんだっ!ほ、本当は俺、童貞なんだっ!!こんな怖い目に遭わされたら、もう二度と女に悪さなんてしねーし、出切っこねーよっ!!

だから、ちょん切るのだけはやめてくれ!!

童貞のまま、アレを失うのはいやだあぁっ!!」


「あらあら、あんなに、俺たくさん女コマしてきたんだぜオーラ全開にしていた方が、ご冗談を…!本当に、トラ男くんは最後まで嘘つきですねぇ…。」


「う、嘘じゃねーよっっ!!」


芽衣子ちゃんは、呆れたようにため息をついたが、俺はトラ男の言葉はあまりにも真に迫っていて、案外本当なんじゃないかと思われた。


しかし、トラ男の言う通りだったとしても、今までやった事はやった事。


俺も一童貞として心は痛むが、ここは、

計画通りに事を遂行すべきだろう。


俺は、やるせない気持ちで、芽衣子ちゃんに語りかける。


「芽衣子。すまない…。罪を一緒に背負ってくれ…。」


「はい。あなたの為なら喜んで…。」


彼女も哀しみを含んだ瞳で、気丈にも笑顔を見せる。


「オイコラ、何勝手に盛り上がって、二人の世界作ってんだ!!俺を無視するな!!

すまないと思うんだったら、やめろっつの!」


必死に喚くトラ男に、芽衣子ちゃんは優しい笑顔を向けた。


「次に目を覚ますときには、新しいトラ男くんになっていますよ。

あ。その時はもうトラくんじゃないから、呼び方変えなきゃね?」


「そうだな。俺達で新しい呼び方を考えてやらなきゃな…。」


「〰〰〰〰〰〰!!」


トラ男は、もう恐怖のあまり、言葉もないようだった。


「では…お覚悟を…!ハアッ!!!」


芽衣子ちゃんは少し離れた場所から、タタタッと助走をつけ、天井スレスレまで跳躍したかと思うとトラ男の股間めがけて強烈なキックを繰り出した。


「ぎゃあああああああああーーっ!!!!」


ドッガァンッッ!!バキメキッ!!











数秒後ー。


パキパキッ。

芽衣子ちゃんは、バキバキに壊れた床部分から、足を引き抜いた。


トラ男は、泡を吹いて気絶している。


そして、そのの床部分に空いた穴には、じわぁっと黄色い透明な液体が染み込んでいく。



「フッ。…。」


芽衣子ちゃんは、失禁したトラ男を見下ろすと、イケメン風に髪をかきあげた。


「何だよその決めゼリフ…。」


俺は呆れて苦笑いをする。


その時俺は昔、夏祭りで買ったおもちゃで、俺が次○役、めーこが五○衛門役で戦いごっこをした時の事を思い出していた…。


もう意識を失っているトラ男の耳元に、芽衣子ちゃんは語りかけた。


「最初は、『襲われている時に抵抗して、うっかり当たって潰しちゃった。ゴメン。テヘペロ案』も検討していたのですが、あーちゃんに、使い道があるから残しておいてくれって言われまして…。息子さん命拾いして良かったですね。トラ男くん?」


「ま、まぁ、こんだけショックを与えとけば、二度と悪さしようなんて気にはならないだろうな…。」


むしろ、トラウマでEDになりそう…。

自分のモノも縮み上がる思いで、俺は身震いをした。


「気は進まないけど、これも保険に写真撮っとくか。」


俺は、スマホでトラ男の失神&失禁姿を写真に収めた。


「あんた達、嵐山魁虎とのケリはこれでついた感じかしらね?」


「はい!」

「うん!」

南さんに聞かれ、俺と芽衣子ちゃんは大きく頷いた。


「そいじゃ、後はこちらの好きなようにさせてもらうわね?」


トラ男の腰にタオルを巻き、担いで運んでいく南さんに、俺と芽衣子ちゃんは頭を下げた。


「南さん、今回の件、なんてお礼を言ったらいいか…!本当にありがとうございました!!」

「あーちゃん、本当に本当にありがとう!!」


南さんは、そんな俺達に魅惑的なウインクをした。


「ふふっ。この借りは高いわよ?覚悟しといて?

アタシは魁斗の仲間達と一緒にここを出るけど、あんた達はここで少し待っててね。

鷹月師匠と、アタシの仲間がもうすぐ迎えに来てくれる事になってるから。」


「「あ、ありがとう(ございます)。あーちゃん。(南さん…。)」」


「それまでにその子ともちゃんと話つけておきなさいね?じゃっ。」


「「…!」」


南さんが、トラ男と共に立ち去った後、部屋の玄関口で青褪めて震えている真柚ちゃんの姿があった。









*あとがき*


今週は、トラ男ざまぁ祭りを最後まで見届けて下さってありがとうございました!

芽衣子ちゃんと京太郎くんの幸せに陰が差さないようにと考えると、ここまでがギリギリのラインでした。

物足りない方がいらっしゃったらすみませんm(__)m💦

あと、後ほど後夜祭みたいなのがありますので、そちらもご覧頂ければと思います。


次話は、真柚ちゃんとの決着をつける時…!来週もどうかよろしくお願いします

m(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る