第100話 嵐山魁虎の誤算

※注意書き※


今回の100話〜102話まで、暴力表現があります。苦手な方はご注意下さいm(_ _)m💦💦

ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。








 


バゴッ!ドガッ!バキッ!!ドゴオッ!


「がっ…!ぐはっ…!げふっ…!ごぼぉっ…!」


壁際に追い詰められた俺は、奴からパンチ、ヒジ、ヒザ、キック、の応酬を受け、サンドバックのようになっていた。


壁や床に、俺の血が辺りに飛び散って酷い惨状になっている。


凄まじい痛みなのに、気絶することも出来ない。奴がその気になれば、俺を一発で仕留めることなどわけない筈なのに、力を加減していると、ハッキリと分かる。


目の前の怪物は、怒りに染まった瞳を俺に向け、無慈悲に、正確に、俺への罰を体に、心に刻み込んでいく。


こ、殺される…。


どうしてこんな事になったんだ…。

本当なら、今頃、俺はこの女を犯して新しい自分に生まれ変わっている筈だったのに、

どうして…。


ガキの頃、この女がヤバいという事を俺は知っていたのに、変な意地を張って、京太郎なんかに関わらなければ…。


真柚なんかに手を出さなければ…。


『めーこ』と同じ名前で、しかも茶髪のこの女に近付こうとしなければ…。


せめて、カードが使えない時点で…、仲間たちが顔色を変えたあの時点で、異変に気付いて、逃げていたら…。


過去の自分を死ぬほど後悔しながら、

俺=嵐山魁虎は、つい数時間前の事に思いを馳せていた。


   

         *

         *





「お客様。大変恐れ入りますが、お会計が出来ないようです。」


「あぁん?何でだよ?」


申し訳なさそうにそう言うコンビニの店員に、苛ついて俺は凄んだ。


「も、申し訳ありません!こちらのカードは、ご利用頂けないようです。一度ご確認頂いても宜しいですか?」


怯えて、震えている店員からカードを乱暴に引ったくった。


「チッ。んだよ!使えねーな!」


なんだよ、今月は利用限度額を超えるほど使ってねー筈なのに…。

金だけ出して放ったらかしの親のくせに、金も出さなくなったら、ただのネグレクトじゃねーか!

親父の奴に後で抗議してやる…!


「か、魁虎さん。大丈夫…っすかぁ?」

金太が青褪めながら、恐る恐る聞いてきた。


「あの、俺、払いましょうか…?」


おずおずと支払いを申し出てきたのは、銀次だった。


なんだよ、こいつら。カードが使えなかったぐらいで、こんな不安気にしやがって…!

普段、自分から払うなんて言った事のない銀次にそう言われ、逆に俺は腹が立った。


「大丈夫だって!現金でも、ん十万も、家に置いてるから。お前ら、そんな動揺すんなよ!!」


「「は、ハイ…。すみませんっ。」」


店員に諭吉を叩きつけて、食料品の入った袋を金太と銀次に手渡すと、俺はスマホで親父に電話をしたが、繋がらない。


「チッ。気に入らねーな。」


気に入らない事はもう一つある。

金太が昨日俺に紹介してきた、新しい仲間の

ナンという奴の事だ。

俺達の中では最年長の19才で、免許持ちなのはいいのだが、こいつがメガネに長髪、ヒョロっと背の高い陰キャで、いつも、言葉少なにボソッと喋る。

俺の素晴らしいジョークにクスリともせず、片眉を上げて小馬鹿にしたように見てくる。

年上という事で他の仲間も奴に気が引けているのか、強く出れないようだ。

一度立ち位置を分からせるために締めてやってもいいのだが、計画を楽に遂行するには、車が必要不可欠なのだ。

この計画が終わるまで、制裁は我慢だ。


車に戻ると、ナンがボソッと呟いた。


「買い出し…終わったんすか?」

「ああ。オラ、お前ら、飲み物いるか?」


「「「あ、あざっす。」」」


車内で、仲間にペットボトルのお茶を配っていき、意地悪い笑みを浮かべると、ナンに両手を合わせた。


「あっ。ごめ〜ん。新入りくんの分買うの忘れちゃった。」


「ああ。いいっすよ。(汚れた金で買った飲み物なんて欲しくないんで。)そんな事より、次に向かうのは、嶋崎真柚の家でいいっすか?」


「あ、ああ…。」


嫌がらせをしてやったのに表情一つ変えず、不気味な野郎だぜ。

途中モゴモゴ言って聞き取れないところがあるし…。


ま、いい。後で訪れる美少女とのお楽しみの時間を想像して、ニヤニヤしながら、今日のところは、我慢してやるかと思い直す俺だった。


         *

         *

         *



「だ、ダメだ、芽衣子ちゃん!!やめろ、トラ男、やめてくれーーっ!!」


ザマァ見ろ!京太郎!!

好きな女を俺に奪われ、穢されるのを止める事もできない己の無力さに泣くがいい。


京太郎が絶望に染まった表情で悲痛な叫びを上げているのに、胸がすくような思いで、

俺は、芽衣子という茶髪美少女の肩を抱き、京太郎を監禁している部屋を出た。


「ううっ。芽衣子さん、ごめんなさいっ。

矢口さんの事は、私が責任持って守りますから…!」


去り際に、真柚が芝居がかった様子で泣いていたが、あいつも自分で仕組んでおいて、いい面の皮してるよな。

俺がこの女を汚せば、矢口と元サヤに戻れると思ってやがる。ちょっと甘い顔すれば、

調子こいていらぬ事考えやがって。

残念だが、俺は一度手にした持ち物は死ぬまで使い倒す主義なんでな。

この女の次は、真柚だ。

京太郎の目の前で、犯してやれば、俺から離れようなんて気に二度とならねーだろ。


だが、まずは、この女、氷川芽衣子だ。


「ううっ…。痛っ…!やぁっ…!」


怯えている茶髪のS級美少女を力まかせに隣の部屋に引き摺って行った。


「きゃぁっ…!」


部屋に入るなり、俺は茶髪美少女を突き飛ばし、靴のまま床に転がした。


「へへっ。たまんねーな。」


手入れの行き届いたセミロングの茶髪。怯えて見開かれた大きな瞳に、紅色の頬。濡れたような桜色の唇。

そして、床に横たえられた、柔らかそうな豊かな双丘。


俺の童貞を捨てるのに、文句なしの相手だ。

早くも、俺の下半身はこの女を欲して反応し始めていた。

よし。今度こそいけそうだ。

        

      


俺は小4のある時から、女に接触することとに恐れを抱くようになった。


きっかけは、同じ登校班で憂さ晴らし用のおもちゃにしていた同級生の矢口京太郎と

一つ下の学年の本郷芽衣子=めーこに反撃された事にあった。


その日の前日、俺は久々に用事で実家に呼ばれて優秀な兄達に劣等生として散々バカにされ、屈辱を味わされた。


そのストレスを京太郎にぶつけ、いつもより長く暴力を振るっていると、

いつも、京太郎の影のように寄り添うめーこが、奴を守ろうと、俺に噛み付き、向かって来た。

怒った俺は、めーこの上に馬乗りになり、同じように殴ってやろうとしたのだが、

パンチを繰り出した瞬間…。


ドッゴオォッ…!!

股間に恐ろしい程の衝撃を受けた。

めーこが、俺の大事なところを容赦なく蹴り飛ばしやがったのだ。


「ぎゃあああああっ!!い、いてー、いてーよー!!!」


俺はあまりの痛みに悶絶し、股間を押さえて蹲り、泣き叫んだ。


めーこは立ち上がり、そんな俺を泰然と見下ろして、鬼のような表情で告げた。


「次は必ず…!!」


「ひいっ。」


俺は股間を押さえたまま震え上がった。


あの時、俺は憂さ晴らしの道具でしかなかったみすぼらしい少女から、何か得体の知れない本能的な恐怖を覚えた。


そのトラウマにより以来、めーこと京太郎に直接暴力を振るう事が出来なくなった。


それだけでも腹立たしいのに、思春期になってから、もっと深刻な問題が出てきた。


雑誌やAVは大丈夫なのに、生身の女に長い間触れていると、めーこの事を思い出し、

恐怖で脂汗が出て、体が震えるようになった。


強さとカリスマ性を身につけた俺には沢山の女が寄ってきたが、結局最後までする事は出来なかった。


俺の体をこんな風にした、京太郎とめーこを強い恨みを抱きながらも、どこかで恐怖を感じていた。


その恨みと恐怖を振り払うように、中学では、奴と、友達の亮介に執拗に絡み、

高校に入ってからは、奴といい感じになっていた亮介の妹の真柚を奪ってやった。



そして、めーこと同じ名前、同じ茶髪

の氷川芽衣子を今まさに奪おうとしている。


一体どうしたことだろう?

あんなに苦しんでいた女への恐怖は、不思議な事にピタリと止み、

俺の体は目の前の魅惑的な美少女に素直な反応を見せている。


どうして、俺はこんなか弱く震えているような女を今まで怖いなんて思っていたのだろうか?


そう言えばあの時のめーこだって震えていた。弱い中、振り絞った一撃でしかなかったのだ。

今の俺なら、たやすく返り討ちに出来るのに、何を怖がる必要があったのか。


俺は確信した。

この女を抱くことで、俺は自分の過去のトラウマ=めーこに打ち勝つことができる。


ニヤリと笑って俺は氷川芽衣子に向き合った。


「どうせあの童貞拗らせ野郎の事だから、まだ手出してないんだろうな…。

S級美少女で処女とか最高かよ?」


「痛っ…!」

俺は氷川芽衣子の顎を掴むと、無理矢理自分の方に向かせた。


「いいか。今からお前を犯して俺の女にしてやる。それから、鷹月勇夫のコネを使って、俺をキックボクシングの舞台にたてるようにサポートしろ。さもなくば、京太郎がどうなるか分かってんな?」


氷川芽衣子は、絶望を瞳に映しながら涙を流して、了承するしかなかった。


「ううっ。分かりました…。だから、京先輩だけは、助けて下さい…。」


「いーぜ?用が済めば、奴は解放してやる。

その頃には、お前も強い俺に夢中になってるだろうからな。

所詮この世は弱肉強食。あんなひ弱な奴には、お前は過ぎた女だ。」


「この世は弱肉強食…。」


呆けたように呟いた氷川芽衣子に俺は頷いた。


「ああ。強い俺がお前を幸せにしてやるから、安心して俺に抱かれろ。」


ドゴッ。ミシミシッ。


俺は、その事を思い知らせてやるため、一発パンチを当てると、壁に小さな亀裂が走った。


!!


「痛い思いしたくなかったら、抵抗はしないほうがいいぜ?」


俺がその美味しそうな体に手を伸ばそうとすると、氷川芽衣子は手で制した。


「待って。その前に一言だけ言わせて下さい。」


「あん?なんだ?恨み言でも言うのか?」


氷川芽衣子は俺の耳元にひそっと囁いた。


「トラ男くん、久しぶり。

って私、言いましたよね…?」


??!!


「お、お前、もしかして、『めーこ』…?」


俺が顔色を変えるのと、同時に、氷川芽衣子は右足を蹴り上げた。


ドゴオォーッ。バキバキッ。


「っ…!!!」


瞬間体を逸らした為、その打撃は顔をかするだけとなり、後ろの壁をバキバキに壊した。


「なっ、なんっ…??」


俺は、血が吹き出す頬を押さえながら、後ろの壁から中身の石膏がポロポロ落ちてくるのを見て、呆然とした。


目の前で氷川芽衣子…いや、めーこが世にも凶悪な笑顔を浮かべているのをまるで悪夢でも見ているかのような気分で眺めていた。


「さっきの壁パンは、あれですよね?器物を損壊しても構わないから全力で向かって来いっていうトラ男くんの熱いメッセージですよね?ちょっと気にしていたんで、そう言ってもらえて嬉しいです。」


ああ…、俺があの時めーこから感じた恐怖はこれだったんだ…。

絶対に敵わない圧倒的な力。根源的な恐怖。

それらを具現化したそのものが、舌なめずりをして微笑んでいた。


「所詮この世は弱肉強食…!!

全力で仕留めさせて頂きますね?トラ男くん?」







*あとがき*

今週はトラ男くんざまぁ回をお楽しみ頂ければと思います。


いつも読んで頂きまして、フォローや応援、評価下さってありがとうございます。


カクヨムコン読者選考期間につき、格別に配慮下さった読者様がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました✨🙏✨


今後もよろしくお願いしますm(_ _)m


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