第97話 仁義なき争い

あれから、南さんの仲間(サブさん、イチさん、ゴロさんという三人の若い男性:南さんの昔の不良仲間で、今は、鷹月師匠の元であるプロジェクトの為、働くスタッフさんらしい。)に連絡し、車で迎えに来てもらった俺達は、秋川を家まで送ってもらい、トラ男の不良仲間である大男を、南さん宅に運んだ。

そして、仲間の男性達と芽衣子ちゃんは街中で悪さをしている不良仲間の情報を得て、また狩りに出かけて行った。


そして戦力外の俺は、嵐山魁虎との戦いに備えて鍛えてやると南さんに言われ、一人残されたのだが…。


「み、南さん。あの…、昨日は本当に申し訳ありませんでした…!せっかく俺がお願いしてご相談させて頂くお時間を取って頂いていたのに、南さんにも、芽衣子ちゃんにも嫌な思いをさせてしまって…。」


俺は気まずい思いで、目の前のスレンダーなに思い切り頭を下げる。


「あらぁ?昨日と随分態度が違うじゃない?」


手を腰に当て、南さんはそんな俺を半目で睨んだ。


「昨日、私が男の姿だった時は、私の事、まるで敵か何かのように睨んでたわよね?

坊やは、女性か男性かで、態度を分けるワケ?」


「そそ、そういうわけでは…!」


俺は頭を上げられないまま、冷や汗をかいた。


「それとも、私が女に興味なくて、芽衣子とどうこうなりようがない事に安心した?」


「そ、そんな事は…!」


「芽衣子と仲直りしたみたいだけど、あれから、どうしたの?チューでもした?」


…!!


「いや、その…、違っ…!」


昨日の芽衣子ちゃんのキスを思い出して真っ赤になると、南さんは呆れたようにため息をついた。


「図星か…。分っかり易いわねぇ。さすがは芽衣子の想い人。同じ世界の住人か…。」


「ち、違います!芽衣子ちゃんは、その、趣味に協力する相手として好意を持ってくれているだけで、異性として好いてくれているワケでは…。」


「あ〜、そーいや、芽衣子が嘘コクか何だかそーゆー設定だって言ってたわね?面倒臭っ。ま、いいや。芽衣子は、その嘘コクに協力する相手として、坊やに好意を抱いているとしましょう。それでも、芽衣子はその好意の為に、文字通り、命を張る覚悟でいる。その事の意味をよく考えて欲しいの。」


「!!命って、そんな…!」


「大袈裟だと思う?

じゃあ、逆に聞くけど、坊やは、嵐山魁虎に立ち向かうと決めたらしいけど、命を張るぐらいの覚悟はできている?

実力差があるのは、分かってる?どんなに、機会を見計らっても、武器を持ったとしても、相討ちさえ難しいのは、分かってるわよね?」


「そ、それは分かってます。けど、嵐山魁虎は、何故か俺に恨みを持って執着しているように思えます。奴をおびき寄せる餌になったり、囮になったりは出来ると思います。危険な目に遭うのは覚悟の上です。」


「なるほど。強い相手と組んで、嵐山魁虎を自分を引きつけている間にそいつに倒してもらうと。うん。でも。それは、その強い相手と目的の為には坊やに多少の犠牲があっても構わないと両者が合意している場合に限り成り立つ事よね?


芽衣子と坊やの間にそれは成り立たないと思うわよ?

あの子は嶋崎真柚を守る為でなく、あなたの心と体を守る為に、命を張って嵐山魁虎に立ち向かおうとしているのだもの。

坊やが囮になどなろうものなら、芽衣子は敵に対して手も足も出なくなってしまうものね。」


「え?え?」


なんで、芽衣子ちゃんと俺が組んで戦うみたいな話になってんだ?俺は混乱して目を瞬かせた。


「ああ。後で打ち合わせのときにも言うけど、嵐山魁虎と直接戦うのは、あなたと芽衣子の予定だから。」


「へっ?!」


目を丸くする俺に、南さんは人の悪そうな笑みを浮かべた。


「ふふっ。私か、誰か腕っぷしの立つ奴と組むと思ってた?甘いわねぇ?


この戦いは、嵐山魁虎との因縁で、君が始めたもの。芽衣子に相談した以上は、もうあの子にとっての戦いでもある。


嵐山魁虎と直接対決するのは、あなた達だけで、してもらうのが、筋でしょう?


私がしてあげるのは、外野を静かにさせる事と、後処理だけよ。」


俺と芽衣子ちゃんだけで、嵐山魁虎に立ち向かう…!?


思ってもみない事を言われ、俺は血相を変えて南さんに詰め寄った。


「そ、それじゃ、芽衣子ちゃんを危険な目に遭わせるって事ですか!?

昨日は南さんだって、言ってたじゃないですか…!

芽衣子ちゃんはキックボクシングをかじっているとはいえ、実力は嵐山魁虎には到底敵わないから、無茶な事するなって…。」


「あれは、芽衣子に、油断しないように一応釘を差しておく為と、

あの真柚って子に嘘の情報を聞かせる為に言ったのよ。」


「真柚ちゃんに…?」


「ええ。悪いけど、アタシはあの子を1ミリグラムも信用してないんでね。


芽衣子のキックボクシングの実力は、鷹月先生の弟子の中でも随一のもの。

一度は鷹月先生を負かした事もあるぐらいなんだから。

嵐山魁虎になんか、負けるワケがないわ。」


?!


芽衣子ちゃんが、鷹月先生の弟子の中で随一の実力を持っている?鷹月勇夫を負かした事がある?

ということは、海外のキックボクシングの大会で優勝するような、南さんより強く、キックボクシングの権威の鷹月勇夫より強いって事?

そりゃ、前から静司くんとキックボクシングの練習してるって聞いてたし、実際目の前で不良をぶっ倒していたし、強いんじゃないかとは思ってたけど、まさかそんな異次元の強さだとは、思わなかった。


「でも、芽衣子ちゃんは、自分はそんなに強くないって言ってましたけど…。」


「あぁ〜、芽衣子天然だからね。女の子だから手加減してもらってると思ってるみたい。

なんでも、実のお父さんが、キックボクシングの有名な選手だったみたいで、その素質を受け継いだのか、小さい頃から人間兵器的な強さだったんだけど、相手に怪我させるかもっていう理由で、試合にも出れなくて、きちんと実力を知る機会もなかったしね。」


南さんは苦笑いして、肩を竦めた。


今、さらっと人間兵器的って言ったような…。


「ま、そんなワケだから普通なら嵐山魁虎に負ける事はないんだけど、アイツがどんな卑怯な手を使ってくるか分からないから、全く危険がないとは言い切れないわね。」


「……!」


「昨日坊やの態度が悪かった事は気にしなくていいわ。私が、芽衣子を巡ってのライバルに見えるように煽ったアタシも悪いしね。

嵐山魁虎の戦いに芽衣子を巻き込んだことも、あの子自身が強く望んでいることだから、私は何も言わない。

その戦いの末に、あなたが、芽衣子ではなく、嶋崎真柚を選んだとしても、仕方のない事だと思う。


だけどね。覚えておいて欲しいの。



あの子を利用するだけ利用して、使い捨てにすること…。

例えば、嵐山魁虎と芽衣子が相討ちになって、無傷の坊やが嶋崎真柚となんの問題もなく結ばれるなんて、胸糞悪い展開になったら、私は坊やを決して許さないわよ?」


南さんに鋭い眼光を向けられ、俺は青褪めて否定した。


「縁起でもない事言わないで下さい!俺はそんな事望んでいません…!!」


「そういう可能性もあるって言いたかっただけ。アタシだって、そんな展開になりそうだったら、流石に茶々を入れるわよ。


坊やにお願いしたいのは、嵐山魁虎との戦いに置いて、決して芽衣子の邪魔にならないようにする事、それから、この戦いにおいて芽衣子の体と心を必ず守る事。難しいかもしれないけど、考えておいてちょうだい。あと、今更、芽衣子にこの件から抜けろっていうのは無しよ?そう言うなら、あの子は、坊やに隠れて嵐山魁虎を討ちにいくだけの話よ。

あの子はもう腹を括っているの。坊やも、後戻りはできないと肝に銘じなさい…!」


「……!!は、はい…。」


俺は苦々しい思いで、芽衣子ちゃんを危険な戦いに巻き込んでしまった事実と責任の重さを噛み締める。


『京先輩、で戦うんですよ!!』


明るい笑顔でそう言ってくれた芽衣子ちゃんの内心の覚悟を思い、胸が痛くなった。


武力的な戦闘力から言えば、ほぼ足手まといにしかならない俺が、彼女を守る為に何が出来るか、死ぬ気で考えなければならない。


それこそ、命を張ってでも…。


「よし。優柔不断な坊やも少し覚悟が決まったところで、少しでも立ち向かえるよう仕込みますか…。」


「はいっ!お願いしますっ!!」


気合を入れて返事をした俺だったが、南さんが取り出した道具を見て、俺は、目を丸くした。


         *

         *


の使い方を教わり、敵からの攻撃に対しての簡単に防御できる方法、急所の守り方を教わった俺は、南さんに恐る恐る聞いてみた。


「あ、あの〜、南さん。護身術、大変分かり易く教えて頂いて、有り難いんですが、これって、あの嵐山魁虎相手にちょっとでも、戦力になるんでしょうか?」


「え?ならないわよ?」


キョトンとした顔でそう言われ、俺は目を剥いた。


「ええ!じゃ、じゃあ何の為にこんな事を…!」


「芽衣子の戦闘力を減らさない為よ。

だから、さっきも言ったでしょ?芽衣子は坊やを守る為に戦うんだから、あなたが怪我したり、敵に捕らわれたら、なんの意味もないの。自分の身は出来るだけ自分で守ってもらわないとね。

大体あの子だって、嵐山魁虎だって、何年も修行して、強さを身につけたのに、それに対抗できるぐらいの強さをあなたが一朝一夕に獲得できるワケないでしょうが!」


「ま、まぁ、それはそうなんですが…。」


「坊やの役割は、うまく芽衣子をサポートする事。あの子、頭に血が上り過ぎて時々危ういところがあるから、怒り狂う牛からヒラリと身を躱す闘牛士の如く正しい道に導いてやって?」


「と、闘牛士って…。は、はい。分かりました。」


苦笑いしながら、俺は頷いた。

とうとう芽衣子ちゃん牛にたとえられちゃったよ。あと、闘牛士って、まぁまぁ命の危険あるよね?

危険は覚悟しているが、そう言われると身の引き締まる思いだった。


「あれ?それなら、芽衣子ちゃん、不良仲間達を狩りに行って大丈夫でした?」


「ああ。それは大丈夫でしょ?奴らは、芽衣子の感情を掻き立てるような因縁の相手ではないし、一撃で、倒せる雑魚ばっかりだしね。

それに、可愛い女の子にいいところを見せたい大の男が三人もいるし、芽衣子だけがハッスルする状況にはならないでしょう。」


「そ、そうですか…。」


どうせ、戦力外の俺は芽衣子ちゃんにいいところを見せるどころか、自分の身を守る事すら難しいよ。

さっき送ってくれた南さんの仲間の男の人達が芽衣子ちゃんの前で活躍している様子を思い浮かべて穏やかでない気持ちになった。


「あらあらぁ?面白くなかったかしら?もしかして、嫉妬って奴ですか?」


南さんはそんな俺を見てニヤニヤからかってきた。


「ち、違いますよ!」


「そう?ちなみに〜、言っとくけど、

アイツラは、完全にノン気だからね?芽衣子可愛いからなぁ。今頃、あの内の誰かに口説かれてるかも…。」


「何で、わざわざそういう事言うんですか!」


煽ってくる南さんに文句を言うと、はさも楽しそうにニンマリ笑った。


「ぷぷっ。坊やムキになって面白〜い!

優柔不断で、フラフラしてるくせに、独占欲だけはいっちょ前なのか?ケツの穴が小さいわね?どれ、一つお姉さんにケツの穴がどれだけ小さいか見せてみなさいよぉ!」


「ちょ、ちょっとやめて下さいよぉ!」


ふざけてズボンのベルトに手をかけてくる南さんの腕を振り払おうとしたが、流石、キックボクシングの達人。びくともしない。

本当にベルトを外されそうになり、焦った。


「ちょ、本当にやめ…!」


「ホラホラ!恥ずかしがらないで、早くケツの穴を見せ…。」


「あーちゃん…?京先輩のおしりの穴を見て、一体どうするつもりなの…?」


後ろからただならぬ気配を感じて振り向くと、紅い怒りのオーラに包まれた、芽衣子ちゃんがそこに立っていた。





*あとがき*


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m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。



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