第95話 遠愛高校の転校生
「栗珠ちゃん、今日帰りウチらと一緒にカラオケ行かない?」
「え〜、どうしよう〜?楽しそうだし、行きたいけどぉ、私、歌下手っぴだから、場を盛り下げちゃわないかなぁ?」
教室で帰りの支度をしていると、クラスのカースト上位グループのまとめ役、星川スミレに声をかけられ、私はわざとモジモジしながら躊躇う素振りを見せた。
「秋川さん、平気だよ〜。秋川さんが歌っているときは、俺等で盛り上げるからさ!」
「そうそう!俺、タンバリン得意だし!行こうよ、秋川さん!」
クラスの盛り上げ役の天野くんも、テニス部エースの吉村くんも、頬を染めて私に来てほしそうにしている。
うーん。正直、男子のレベルは前の学校より格段に落ちるけど、今のところはしょうがないか…。
「本当ぉ?嬉しい!それじゃ、行こっかな?カラオケ。」
私=秋川栗珠は天使の笑顔を向けると、男子はガッツポーズを取り、女子は、可愛いと私に抱き着いてきた。
ふっ。人心掌握なんて、チョロいもんよ。
遠愛高校に転校して一週間。
少し痩せて、さらに儚げな雰囲気になった天使のような容貌で、私は庇護欲をそそる美少女転校生として男女問わず、クラスの人気を独り占めしていた。
そう。本来私は光り輝く場所にいるべき選ばれた人間なんだ。
そうなるための努力を反省するなんて、私は一体何を考えていたんだろう?
この数ヶ月、常識では考えられない異分子が入り込んだせいで、私の考え方も、人生もちょっとおかしい事になっていた。
これからはそうはいかない。
まず、リア充グループに入り込み、私の邪魔になりそうな奴がいたら悉く排除する。
そして、この学校を私に居心地のよい空間に作り変えてみせる!
そんな野望を胸に秘め、リア充グループに囲まれ、学校の校門をくぐった私だったが…。
「あ。秋川先輩!」
幻聴が聞こえた。
アイツに恐ろしい目に遭わされてから、しばらくの間アイツの幻聴に悩まされたものだった。
もう勘弁してよ。新しい環境にようやく慣れてそれも薄れてきたところだったのに…。
私は軽く頭を振り、その幻聴を振り払おうとしたが、
今度は至近距離で、声がした。
「あ・き・か・わ・せ・ん・ぱ・い?
お久しぶりですぅ!」
目の前で茶髪美少女がニコニコ笑って手を振っている。
「ぎゃああああぁーーーっっ!!」
楳図か○おの漫画のヒロインのような表情で悲鳴を上げた。
「やだぁ。秋川先輩ったら!まるで化け物にでも会ったような反応しないで下さいよぉ。後輩の氷川芽衣子です。忘れちゃいましたぁ?」
氷川芽衣子は可愛らしくニッコリと笑った。
覚えてるから悲鳴あげてんでしょうがぁっ!
あんたなんか、化け物と大差ないじゃないっっ!!
私は心に思い浮かんだ悪態を必死の思いで飲み込んだ。
「い、いえ、ひ、ひ、氷川様。
もも、申し訳ありません…。
お、お久しぶりです。お、おお会いできた光栄さについ悲鳴をあげてしまいました。
いえ、決して調子こいて、悪巧みをしていた訳ではありません。
ここのシマを取り仕切って、氷川様に献上しようとそういう計画でして…ハイ!」
「うふふ。秋川先輩は一体、何言ってるんですか?相変わらずワケの分からないことを言って、面白い人ですねぇ。
でも、私もよもや、秋川先輩にお会いできてこんなに嬉しい気持ちになる日が来ようとは、自分でもビックリですぅ。」
「秋川、久しぶりだな。」
その時、氷川芽衣子の傍らに、奴の想い人、矢口京太郎が寄り添っているのに気が付いた。
「や、矢口様まで…!どうされたん…ですか?」
「いや、様って何だ…?俺から関わるなと言っておいて、転校先まで押しかけてすまないが、ちょっと、この学校の生徒について聞きたいことがあってな…。」
「聞きたいこと…ですか…?」
取り敢えず、再び私を締めに来た訳ではないらしい…。
ホッと胸を撫で下ろしたところ、星川スミレが声をかけてきた。
「栗珠ちゃん。どしたー?もしかして、前の学校のお友達??」
私と、氷川芽衣子と矢口を交互に見て目を瞬かせた。
「あ、もしかして、友達と約束あったか?」
「あっ。実はそうな…。」
引き下がりそうな気配の矢口に、勢いこんで、そう言おうとしたが、星川スミレが口を突っ込んできた。
「あ、いーよ、いーよ。なんか、そっちの方が大事な用っポイし。栗珠ちゃん、カラオケはまた今度行こう?
男子には私が言っとくから!」
「ええ?ちょっと待っ…!」
「いいって、いいって!前の学校からのお友達も大事にしなきゃだもんね?じゃ、栗珠ちゃん、また明日ね〜?」
「ええ〜、スミレちゃん!?」
星川スミレは残念そうな男子達を宥めながら、去っていった。
あの女!空気読んでるようで全然読めてねぇ…!
星川スミレ…!最初から気に食わなかったけど、あいつは必ず潰す…!
私が握りこぶしを作り、決心したところ、
空気を読まないどころか、全ての空気をぶち壊す女=氷川芽衣子が笑顔で、話しかけてきた。
「ふふっ。転校先で、いいお友達が出来たみたいで、よかったですね?秋川先輩?」
「は、はひ…。氷川様…。」
「立ち話もなんだし、ファミレスへでも付き合ってもらっていいか?秋川?」
「は、はひ…。矢口様…。」
私は肩を落として、氷川芽衣子と矢口に連行されるしかなかった。
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