第82話 奸計の勧め

「くそっ。虎太郎の奴め…!あんなに俺を慕っていたくせに裏切りやがって!今に見てろよ。キックボクシング界に返り咲いて、思い知らせてやる。」


キックボクシングの試合会場から自宅に戻った魁虎は荒れて、リビングのカウンターチェアを蹴り飛ばして、転がした。


「……。」


私はその様子を冷めた目で見ていた。


「京太郎の野郎も吠え面かかせてやったと思ったら、またあんな凄い美少女連れやがって、ムカつくな…!」


「そんなに、美少女だったっけ?それ程でもないんじゃない?」


矢口さんの名を聞き、私は眉を顰めた。


「バカ、お前の面がA級としたら、向こうは、S級ランクだぜ。スゲーいい体してたし。畜生、京太郎の奴め、お前を奪って吠え面かかせてやったと思ったら、お前よりいい女捕まえて、ウハウハじゃねーか。」


茶髪の美少女が、矢口さんに寄り添ってイチャイチャしていた様子を思い出し、胸にドス黒い感情が湧き起こった。


「あんな女、カマトトぶって男に擦り寄って嫌らしい。私は嫌い!」


「んあ?お前、もしかして妬いてんのか?」


「バカ言わないでよ。誰があんたなんかに…。」


「ああ〜、お前、久々に矢口に会って、気持ちが揺れでもしたか?ハハッ。お前にはもう俺がいるんだから、諦めろって。

お互い気持ちがささくれ立った者同士慰め合おうぜ?今夜は帰るなよ?」


そう言って、後ろから抱き寄せようとする魁虎から身を捩って、躱した。


「はんっ。どうせくせにっ。」


わたしが蔑んだ目でそう言うと、魁虎は目に見えて動揺した。


「な、何言ってやがんだ?人をEDみたいに言うなよ。俺はお前を大事にしてるから、最後までしないだけで…。」


そう。私の体を触っていた時、反応していたから、EDではない。とすると…、最後まで出来ないのは女が怖いせい…?


「芽衣子…。」

その名を出すと、魁虎は、ビクッとした。


「矢口さんの隣にいた女が幼馴染みの子かと思って、ビビってたよね?昔その子と何かあったの?」


「何もねーよっ!余計な詮索してんじゃねーよっっ。」

と言いながら、股間を押さえて青ざめている魁虎に私はニヤリと笑った。


「幼馴染みの事で拗らせているのは、あんたも一緒みたいね。

ねぇ、あんたのトラウマ、もしかしたら、幼馴染みの子と同じ名前のあの女をモノにすることで、克服できるかもよ?

このまま一生童貞でいいの…?」


「…!!お、俺は童貞なんかじゃねぇっ。そ、それに、あの女は鷹月の身内も同然の奴。鷹月は、キックボクシングの達人である上に、マフィアとつながりがあるとか、人間兵器を育てているとか、昔から黒い噂があるんだ。流石にこの俺も手は出せねーよ。」


「あんたらしくもない。このまま、負け犬でいいの?凄い人の身内ということは、逆に言えば、あの女を奪えば、強力なコネが出来るって事じゃない。ジムを追われたあんたでも、鷹月の弟子にでもしてもらえば、キックボクシングに返り咲く事が出来るんじゃないの?」


魁虎は、目を見開き、喜色の色を浮かべた。


「真柚…。お前、なかなか賢い事言うじゃねーか…!」

「まぁね…。」


あの清純そうな茶髪の女と今の汚れた醜い私では比べるべくもないのは分かっている。

けど、その彼女が私より汚れてしまったとしたら…?

その時、矢口さんは彼女と私、どちらを選ぶんだろう?


私は、禍々しい笑みを浮かべて魁虎に囁いた。


「あの女の身も心も、矢口さんから奪ってやろうよ…?

いい考えがあるの。私に任せて?」






*あとがき*

先週から今週にかけて、特にたくさん

フォローや、各話に応援、コメント、評価頂きましてありがとうございます(*´∀`)


読んで下さってる方がいる事が何よりの支えになっております(;_;)

本当に感謝です✨✨


ご期待頂いた分、ちゃんと、最後まで嘘コク5人目のお話を書き切っていきたいと思います。

今後ともどうかよろしくお願いします。

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