第74話 因縁の相手

「うわぁ。交流試合と聞いたから、体育館みたいなところでやるのかと思っていたけど、かなり、大きい施設なんだね。」


俺は催し物をするような大きな施設を前に歓声を上げた。


「ええ。交流試合とはいっても、県内ジム

10ヶ所が参加する結構大規模なものですからね、見学の方も含めたら、大きな所でないと収まらないんですよ。」


隣の芽衣子ちゃんが笑顔で説明してくれた。


今日は白いブラウスにベージュのパンツという割とカチッとした格好をしている。

緩く一つに編んだみつ編みも清楚で俺的にかなりポイントが高い。

い、いや、今日はデートとかじゃないし。

あくまで、静司くんの応援に来ただけなんだけどな!


カラッと晴れた7月初旬の日曜日。


俺は、芽衣子ちゃんの義弟、静司くんのキックボクシングの試合を見るため、

芽衣子ちゃんと一緒に電車を2回程乗り継いで一時間ぐらいの距離にあるS市のスポーツセンターに来ていた。


芽衣子ちゃんの説明によると、

静司くんの所属している、キックボクシングのジムは全国に何十ヶ所も展開していて、大会で優勝するような選手を何人も輩出しているすごいところで、この試合で優勝する

事が、大会で良い成績を残すための大きな一歩に繋がることは間違いがないらしかった。


会場の入口で、小柄でゆるふわの美少女が、キョロキョロ辺りを窺っていたが、俺達を見つけると笑顔になって、手を振ってきた。


「あっ。お姉さん!矢口さん!」


静司くんの彼女の新庄美湖さんだった。


「今日はよろしくお願いします。」


深々とこちらに頭を下げる。


以前会った時は、彼氏の静司くんに芽衣子ちゃんが偽の彼氏役を頼んでしまっていた事から、かなり好戦的で言いたい放題だった彼女だが、今日は知らない場所で、緊張しているのかかなり殊勝な態度を見せていた。


俺と芽衣子ちゃんは、彼女ににこやかに声をかけた。


「新庄さん。こちらこそよろしく!」

「美湖ちゃん。今日は来てくれてありがとうございます。今日は静くんの事、いっぱい応援しましょうね!」


「はっ、はい!」


         *

         *

         *


静司くんの試合は中学生の部で、午後最初の時間に予定されていた。


ちょっと早めに会場についた俺達は、小学生の部の試合を見学した後、飲食スペースで早めのお昼をとることにした。


芽衣子ちゃんとお母さんが、作ってくれたサンドイッチを3人で美味しく頂きながら、小学生の部の試合について和気藹々と話していた。


「小学生の子達、小さくて可愛かったですね〜!試合で負けて泣いちゃった子、私もうるっと来ちゃった!」


「分かる〜!あの4年生の小ちゃい子ですよね。あれは接戦だったから、悔しかったろうな。」


新庄さんと、芽衣子ちゃんが語っているところへ俺も違う子への感想を述べた。


「あと、5年生の加藤って子足技凄かったよな。」


「あの子、強かったですよね!確か静くんと同じジムで上に高校生のお兄ちゃんがいて、兄弟でやってるんじゃなかったかな。」


「そうなんだ。兄弟でやってると、刺激を受けて、強くなれるのかな。」


「まぁ、自宅でもある程度は練習相手になってもらえますし上達は早いかもしれませんね。私が中1でキックボクシングをやめるまで、静くんとも毎日練習してましたよ。」


「そうなんだぁ、羨ましい…。」


「いや、羨ましいかな…。毎日痣だらけになるし、大変ですよ?」


唇を尖らせる新庄さんに芽衣子ちゃんは苦笑いしていた。


うん、まぁ、俺は芽衣子ちゃんが蹴ったボールが大の男をふっとばしているのを見た事もあるし、あれだけの脚力を手に入れるのに、余程努力したんだろうな…と目の前の美少女に尊敬の念を抱いた。


「静くんは今でも毎日欠かさず練習してますから、今日は勝って努力が報われてほしいですね。

ライバルはY市ジムの風道虎太郎という人らしいんですが、何でも元兄弟子の影響で卑怯な手を使ってくるらしくって…。」


芽衣子ちゃんが言い掛けたとき、ガラの悪そうな5.6人の連中が一行が、近くを通りがかった。


「嵐山さん。虎太郎のやつ勝てますかね?」


「ったりめーだろ!俺が奴に必勝の策を教えてやったからよ。」


「さっすが、嵐山さん!」


先頭を歩く、金髪のリーダーの男に取り巻きらしい奴が何人かすり寄るように話しかけていて、

その一番後ろをつまらなさそうな顔をした

ギャルっぽい女の子が歩いていた。


「面白いところ連れてってくれるっていうから来たのに、何ここ?キックボクシングとか私興味ないんだけど!終わるまで廊下で待ってていい?」


「ハァ〜?お前、俺の大事な弟弟子の試合だっつーのに、協調性のない奴だな。

わーったよ。そんな面で隣にいられても、迷惑だ。好きにしろよ。」


「終わったら、ご飯奢ってよね!」


「チッ。ホントがめつい女だよな。お前はよ。」


!!!


俺は先頭の男と後ろを歩く女の子の顔を見て愕然とした。

二人共よく知っている人物だったのだ。


「真柚ちゃん…、トラ男……!!」


俺が呆然と呟いた言葉を聞いて、隣の芽衣子ちゃんが大きく目を見開いた。


「真柚…?トラ…?あっ、ああっ!!!

嵐山魁虎って…!!!」

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