第73話 初プリクラ&UFOキャッチャーは誰と…?

「彼女さん、脅かしちゃって、ホントごめんね。俺は京太郎とは同中の嶋崎亮介。よろしくね?」


「京先輩と同中のお友達…?

私は京先輩と同じ高校の後輩、氷川芽衣子です。よ、よろしくお願いします。」


芽衣子ちゃんはまだ、プリクラお化け説が後を引いているのか、俺の腕に掴まりながら、

亮介に恐る恐る自己紹介をしていた。


「カップル用のプリクラは、元々試験的に設置されてる期間限定のものだったんだけど、使った人から、『機械音声がセクハラ過ぎる』とか、『彼女と気まずくなった』とか、苦情が出て、予定より早めに回収される事になったんだってさ。」


亮介の説明に、さもありなんと芽衣子ちゃんと俺は顔を見合わせて苦笑いをした。


確かに、あの機械音声、「キスより先の行為はしちゃダメ」とかセクハラまがいの余計な一言言ってたもんな。あれで気まずい雰囲気になってしまうカップルもいるだろう。


「二人で使った事があるみたいだね?あれで気まずくならないとは、かなりの深い仲と見た。」


ニヤニヤしながら、亮介にからかわれ、慌てて否定する俺と芽衣子ちゃん。


「ち、違う違う。俺達はそんなんじゃない。ただの先輩と後輩で…。」

「そ、そうです。私達はまだ清い関係です!」


ん?まだ?


「ふ〜ん、ただの先輩、後輩でカップル用のプリクラとるかね?」


「もう、亮介!からかうなよ!」


「ふふっ。ゴメンゴメン。女っ気のなかったお前が、すっごい可愛い子連れてたから、ついからかいたくなっちゃってさ。」


「亮介はここでバイトしてんのか?」


「ああ、コンビニバイトだけじゃ、ちょっと厳しくてね、先週から掛け持ちでもう一個やることにしたんよ。」


亮介のところは、父親が過労死で亡くなって、母子家庭になってから、経済状況があまり芳しくない。


亮介は通信制の学校に通いながら、バイトに励み、かなりの額を生活費の足しにしていると聞いていた。


「そ、そうか…。お前も大変だな…。その…真柚ちゃんはどうしてる…?」


亮介は、途端に顔を曇らせると困ったような笑みを浮かべた。


「ん〜真柚はまぁ、相変わらずだよ。せっかく入った学校もほとんど行ってないし、毎晩遅くまで遊び歩いてるみたいだ。」


「そ、そうか…。」


真柚ちゃんは、まだアイツと一緒にいるのか…。

俺は暗い表情になった。


「ま、身内の事はこっちでなんとかするから、お前は気にすんな?

いや、真柚の件で嫌な思いさせちゃって、すまないと思ってたからさ、今日久々に楽しそうな京太郎に会えて、俺、嬉しかったんだぜ。色々いじっちゃってゴメンな?」

「亮介…。」


何の力にもなってやれなかった俺を責める事なく、そんな風に言ってくれて、本当にこいついい奴だな。それだけに余計に罪悪感が増すのだった。


「氷川さんも、ゴメンね?二人のデート邪魔しちゃって。」


「あっ。いえいえ、別に私は!」


亮介に謝られ、慌ててふるふる首を横に振る芽衣子ちゃん。


「氷川さん、ぬいぐるみとか好き?」


「え?あ、はい。」


「4.7.9.16の台の内、どれか好きなのあったら、京太郎にねだってみてね?」

「えっ?」


ひそっと俺達に囁くと手を降って去っていった。


「じゃあね、お二人さん。楽しんでいってね?」


「??はい。さよう…なら…。」

「またな。亮介。」


亮介を見送った後、芽衣子ちゃんが、首を傾げながら、俺に問い掛けてきた。


「嶋崎さんが最後に言ってたのは何だったんでしょう?何かの暗号ですか?」


「うん。ぬいぐるみのクレーンゲームの事じゃないかな?ホラ、一台一台、番号がついてるだろ?」


そう言って、俺はプリクラ機の近くにある、クレーンゲームの右上の方に番号がついてるのを指差した。


「あっ。本当だ!これは3番って書いてありますね。」


芽衣子ちゃんは数字を見つけると、嬉しそうに顔を紅潮させた。


「多分だけど、亮介の言った番号のクレーンゲームの台が、ぬいぐるみを取りやすいって事じゃないかな?4.7.9.16だっけ?芽衣子ちゃんの好きそうなのあったら、俺チャレンジしてみよっか?」


「わぁ。京先輩が、とってくれるんですか?ちょっと待って下さいね?」


芽衣子ちゃんは明るい笑顔を見せると、真剣な顔で台を選び始めた。


亮介が教えてくれた番号のクレーンゲームの台は、小さいぬいぐるみが山積みになっているもの、獲得口の周りに障壁がないものなど、なるほど、比較的取りやすそうなものばかりだった。


その中から、芽衣子ちゃんは「あっ!」と声を上げた9番の台を見てみると、茶色いぶち模様の犬のぬいぐるみがあとひと押しで獲得口に落とせそうな場所にあった。


「これ、私が今ハマっている“森の動物”っていうスマホゲームで『怒り』をモチーフにした、ブチブッチーっていうキャラクターなんです。えと、これ、お願いしてもいいですか…?」


上目遣いに胸の前に手を組み合わせてくるおねだりポーズの芽衣子ちゃん。


何度やられても、あざといと思っても、このポーズの芽衣子ちゃんの頼みを退けられた試しがない。


「おう!まかしといて?」


気付いたら、親指立ててそう返事しちゃってるんだよなぁ…。


         *

         *

         *


「京先輩。今日は本当にありがとうございました。ショッピングセンターも楽しかったし、プリクラも撮ってもらえて、ぬいぐるみまで頂いてしまって、感無量です。」


ゲームセンターを出て、駅までの道を歩く途中、芽衣子ちゃんは、怒りマークを額に付けた茶色いぶち模様の犬のぬいぐるみを小脇に抱えて、ホクホクの笑顔で俺にお礼を言ってきた。


「いやぁ。お礼なんていいよ。プリクラは割り勘だったし、ぬいぐるみは一回で取れたから、100円しかかかってないし。それに俺も…楽しかったし…。」

「京先輩…!」

芽衣子ちゃんは嬉しそうに頬染めて、こちらを見ている。

なんか、この雰囲気面映ゆいな…。


「ふふっ。それにしても、ぬいぐるみを獲得口に押し込むあの技、すごかったです。京先輩、本当にUFOキャッチャー上手…。」


芽衣子ちゃんは、一瞬躊躇うような表情をすると、思い切ったように聞いてきた。


「あのっ、京先輩。一つ聞いてもいいですか?ぬいぐるみキャッチャーも、プリクラも、京先輩、結構手慣れているなと思ったのですが、どなたかと一緒にされていた事があるんですか?」


「え。」


「や、あの、言いたくなかったら、無理にと聞き出すつもりはないんですが、少し、その、気になってしまって…。」


芽衣子ちゃんは俯いてぬいぐるみの前で、組んだ手をしきりにモジョモジョ動かしている。

何だろう?別にやましいことはないはずなんだが、俺は芽衣子ちゃんにポショポショと言い訳をするように話し出した。


「う、うん…、さっき会った亮介に頼まれて、妹さんに少しの間、勉強教えてたときがあってさ。気分転換に時々ゲーセン連れて行ってたんだ。プリクラもクレーンゲームもその時やった事があって…えっと、芽衣子ちゃん?」


芽衣子ちゃんは険しい表情でぬいぐるみをぎゅうっと固く抱きしめている。

そして、そんな自分にはっと気付いたように、慌てて笑顔を浮かべた。


「あっ、そうなんですね。えと…嶋崎さんの妹さん…とも仲が良かったんですね…。」


「いや、でも、途中で嫌われちゃったみたいで、今は疎遠だけどね。亮介に会ったのも本当に久々だよ。」


「そ、そうなんですね…。嫌な事を聞いちゃってごめんなさい…。」


「いや、それももう半年以上前の話だし、

向こうは、高校生にもなって、俺の事なんて忘れてるだろうよ。」


「そんな!本当に忘れてたとしたら、その妹さん、恩知らずですよ。気まずい関係になったとはいえ、せっかく勉強を教えてくれてたり、遊びに連れて行ってくれてたのに…。」


「兄の友達なんて、そんなもんだろ。

俺も亮介に会うまですっかり忘れてたし。お互い様だよ。」


そう。本当に都合の悪い事は忘れて、俺は自分で自分が嫌になるよ。


『私がこうなったのは、全部矢口さんのせいじゃない!!』


憎しみに満ちた瞳で、そんな言葉を投げつけてきた彼女を今まですっかり忘れていたなんて。彼女に何もしてやれないと無力な自分を言い訳にして、背を向けた。


しかし、そんな俺に、芽衣子ちゃんは真っ直ぐな瞳を向けてきた。


「私は絶対忘れませんよ。京先輩に嘘コクミッションを手伝ってもらった事も、今日ぬいぐるみとってもらった事も大事な思い出です。一生忘れません。忘れられません。」


「芽衣子ちゃん…。」


そう迷いなく言い切る彼女の姿に、夕方でもきつい、今の日射しよりも眩しさを感じて、俺は少し視線を逸らした。


「ふっ。芽衣子ちゃんはいつも大げさだからなぁ。でも、ありがと。今日で嘘コクミッションも5つクリアした事になるよね?残りはあと、2つ、よろしくね。」


「あっ。は、はいっ。それは、もう、こちらの方からよろしくです。」


そう。俺達の関係にはタイムリミットがある。この子はずっと側にいるわけじゃない。

自分から線を引いていかないといけない。

でないと、最近の芽衣子ちゃんとの距離の近さに勘違いしてしまいそうになる。


そう割り切っている自分と…。


「でも、取り敢えずは、明日、静くんの試合よろしくお願いしますね?休みも連続で京先輩に会えて嬉しいです!」


幸せそうな彼女の笑顔に絆され、次の約束があることに安心してしまう自分と両方いる事に、最近戸惑っているんだ…。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


自室に戻った私は、着の身着のままベッドに横になり、今日の幸せの余韻にひたっていた。


「ああ、京ちゃん、今日の私服もカッコよかった〜!京ちゃん成分マックスまで補充されて幸せ〜♡」


仰向けに寝転がりながら、京ちゃんに取ってもらった、ブチブッチーのぬいぐるみを子供に高い高いをするように持ち上げた。


「くぅ〜、君可愛いなぁ…!一生の宝物にするぞ?」


それから、気掛かりなことを思い出した。


『亮介に頼まれて、妹さんに去年の夏から秋位の何ヶ月か、勉強教えてたときがあってさ。気分転換に時々ゲーセン連れて行ってたんだ。プリクラもクレーンゲームもその時やった事があって…』


『途中で嫌われちゃったみたいで、今は疎遠だけどね。』


それから、柳沢先輩に言われた情報が頭をよぎる。


『芽衣子ちゃん、ごめんね。嘘コク5人目については、この学校の関係者じゃないみたいで、情報が何もないの。

ただ、去年の秋頃、友達の妹に散々奢らされた上、5回目の嘘コクをされたらしいっていう噂だけが流れて…。

学校関係者じゃないのに、何故、噂が流れたのかも分からなくて。大体噂の発信源は栗珠だったから、問い詰めてみたけど、証拠がないから、逃げられてしまって…。

ただ、矢口、噂が広まってから…、ううん。その少し前ぐらいから、しばらくちょっと荒んでた。

元気がなくって、あまり誰とも喋らない感じで。とても詳しいことを聞ける状態じゃなかったの。

噂にあった友達についてもさっぱりで。

高校の友達じゃないとすると、中学か小学校か、はたまた他の所で知り合った友達か…。


中学の時に、よく話していたのは、

同じクラスの嶋崎亮介くんかな?

その時はあんまり、矢口と話した事なかったから、友達関係を全て知ってるわけじゃないんだけど…。

中途半端な情報で、ごめんね。』


もしかしなくても、嶋崎さんの妹さん、嘘コク5人目なんじゃないだろうか。


京ちゃんの話だと、嶋崎さんの妹さんに去年の夏から秋にかけて勉強を教えたり、ゲーセンに連れて行ったりしていて(モヤッ💢)

最終的には、妹さんと仲が悪くなって、

柳沢先輩の話だと、秋頃に学校で嘘コクの噂が流れた。


時期的にも行動や出来事の辻褄がピッタリ合う。


二人の間に何があったかは知らないけど、

京ちゃんに勉強教えてもらったり、ゲーセンに遊びに連れて行ってもらったり(モヤモヤッ💢💢)していたのに、

一方的に嫌って京ちゃんを傷つけるなんて

恩を仇で返す行為だ。


とても許せる事じゃない。


今は疎遠だと言うけど、もし、再び近付いてきて、京ちゃんを傷付けたり、貶めたりしようものなら、たとえお友達の妹といえど、私は彼女に対して絶対に容赦はしない!


京ちゃんと嶋崎さんの会話から察するに、妹さんの名前は真柚ー。


嶋崎真柚ー。


私は現在最も警戒すべき敵としてその名を頭に刻み込んだ。


「ん?あっ、いけない。ブチブッチー君が…!」


色々考えている内に思わず、ブチブッチーのぬいぐるみに形が変わるぐらい力を入れてしまっていたらしく、顔の部分が辛そうに歪んでいた。慌てて形を直した私だった。



*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。


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