第72話 友人との再会 inゲーセン
それから、芽衣子ちゃんと複合施設の中の雑貨屋や、本屋などを見て回った後(ウインドーショッピングのみで、お金はかからず)、
フードコートで飲み物を飲んで休憩しつつ、
次にどこ行こうとなった時に、
芽衣子ちゃんに以前行ったゲーセンはどうかと提案された。
学校の最寄り駅のゲーセンのネオ、以前の嘘コクデートでは、色々あって、ゆっくり回れなかったので、そのリベンジをしたいと言うことだった。
どうせ、ここからの帰り道になるし、途中で降りても、そこからは、芽衣子ちゃんも、俺も定期を持っているので、交通費もかからない。
俺は芽衣子ちゃんの提案を二つ返事で了承したのだが…。
*
*
*
「えっ!あっ。早い!ポンッ?あっ。コッてどこです?」
「芽衣子ちゃん、太鼓の端っこの方打って!」
「はいっ!あれっ。通り過ぎちゃった!」
ゲーセンのネオに辿り着いた芽衣子ちゃんと俺は、『太鼓マスター』というゲームで、最近流行りの「夏花火」という歌謡曲のメロディにがかかる中、画面に表示された指示に従って、それぞれ持ち場の太鼓を叩いていた。
芽衣子ちゃんは初心者ということもあり、
表示されたタイミングに合わせて太鼓を叩くのが、難しく、苦戦しているようだった。
「ううっ。難しいよぅ…。」
「芽衣子ちゃん、自分でも歌いながらリズムとってみたら?」
半泣きの芽衣子ちゃんに提案してみたが、すぐに後悔した。
「な、なつはなーび〜、こ、このなつ〜きみとふたりだけ〜の〜?」
やべ。この子かなりの音痴だ。リズムもメロディもあったもんじゃない。
ポンポンコッ、ポンコッポンコッ
→コッ ポン、コッポン ポン
のように、指示を悉く外して叩いてしまっている。
芽衣子ちゃんの独特の節回しに、こっちもリズムを崩されそうになりながら、曲の最後の方の連打に差し掛かり、呼びかける。
「ホラ、芽衣子ちゃん、連打。両手で打って?」
「はっ、はい!」
ポンポンポンポンポンポンポンコーツ!
俺も、芽衣子ちゃんも額に汗を浮かべて最後の太鼓を叩きまくった。
結果を見ると、俺はぎりぎりノルマクリア、芽衣子ちゃんは、最後の連打しか特典になっておらず、スコアは惨憺たるものになっていた。次のステージに行くことができず、芽衣子ちゃんはガックリと肩を落とした。
「ああぁ。京先輩の足を引っ張ってしまってごめんなさい…。あまりにダメすぎて最後の方、もう機械からの指示がポンコツポンコツって言われてるように見えました。」
「そ、それは被害妄想だよ。芽衣子ちゃん、最後の連打は出来たじゃん。初心者にしては頑張った方だよ!」
俺は凹む芽衣子ちゃんを勇気づけようと、
精一杯のお世辞を言ったが、芽衣子ちゃんは力なく首を振った。
「いえ、先程やった、シューティングゲームも、モリオカートも、ひどいスコアでしたし、私手先が不器用なので、やはりゲーム全般得意でないようです。京先輩のお友達のように上手くやれなくてごめんなさい…。」
「いやいや、こっちはいいんだけど、俺の好きなものに付き合わせちゃって、ごめんね?苦手なものやらせちゃって、楽しくなかったよね。」
しょんぼりしている芽衣子ちゃんに俺も申し訳なくなって謝ると、不思議な事を言われたように芽衣子ちゃんはキョトンとして、目を瞬かせた。
「え、そんな事はないですよ?京先輩の好きなゲームを知れて、プレイも見れましたし。京先輩と一緒にいられるだけで、私はいつでも楽しいので!」
「ぐふぅっ!」
この子、サラッとこういうこと言うんだよな。
矢口京太郎。真に受けちゃダメだぞ?
この子が好意を抱いているのは、あくまで嘘コクシチュエーションを再現する仲間、
嘘コクパートナーとしての俺なんだから。
自分の頬が赤らんでいる事に気付かない振りをして、俺は芽衣子ちゃんが好きそうなものに誘ってみた。
「お、俺もなかなか楽しかったよ。次は、またプリクラでも撮る?」
「えっ。いいんですかぁ?」
案の定、芽衣子ちゃんはぱぁっと顔を輝かせた。
くそぉ。可愛いなぁ!
*
*
*
「あれっ。この間のカップル用のプリクラ機体がない!」
芽衣子ちゃんの声に、プリクラの区域の方を見ると、確かに、この前の嘘コクデートで使ったカップル用のプリクラ機体があった場所には、何もなくただ空きのスペースができているだけだった。
「そう言えば、アレ、期間限定って書いてあたよな。」
まぁ、あの機体、大分セクハラぎみな機械音声入ってたし、試験的に設営されていたものだったのかもしれない。
「何かありましたか?」
キョロキョロしているところを、ゲームセンターのスタッフさんに、話しかけられ、芽衣子ちゃんが、聞いていた。
「あっ、いえ、ついこの前までここにあったカップル専用のプリクラの機体って、もうなくなっちゃったんですか?」
「えっ。ここに、カップル用のプリクラなんて初めからありませんでしたよ?」
「「えっ…!?」」
不思議そうに、スタッフに言われ、絶句する俺と芽衣子ちゃん。
「きょきょ、京先輩…。だ、だって確かにここに…。」
芽衣子ちゃんは青褪めながら、財布に貼ってあるプリクラを俺に見せて来た。
「あ、ああ…。」
も、もしや、あのプリクラ機体、都市伝説的な奴だったりして…?
思わず背筋がゾワッとしたとき…。
「なんちゃって!」
スタッフが深く被っていた帽子をとり、
舌を出していたずらっぽい笑みを浮かべた。
「京太郎。久しぶり!」
「え?あ、お、お前、亮介か…?」
どこかで見覚えのある顔だと思ったら、中学の同級生の
ぽふぽふぅんっ!
突然背中に2つの柔らかい何かが押し付けられた。
「うをっ??!」
「ど、どういうこと?あのときのプリクラはお化けじゃないんですか?そうじゃないならちゃんと教えて下さいっ!私、怖い話ダメなんですぅっ。」
振り返ると、芽衣子ちゃんが、
涙目になって、震えながら俺の背中に抱き着いていた。
め、芽衣子ちゃん、胸思い切り当たってる!っていうか押し付けてる…!
俺は例によって、元気になりそうな我が息子を必死に宥めた。
「ああ〜、彼女さん、ごめん!お化けじゃないから安心して?」
亮介は慌てて両手を合わせて、芽衣子ちゃんに謝った。
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