嘘コク五人目

第70話 幼き日の別れ

「芽衣子。また、車ですぐに遊びに来れるから。」

「そうよ。芽衣子ちゃん。これで会えるのが最後って訳じゃないのよ?いつでも、遊びに来て?」


お母さんと、京ちゃんのお母さんが、ボロボロ泣いてものも言えない私を宥めるように言った。


引っ越しの日。

そろそろ引っ越し先に出発しなければいけない時間になっても、車の前で、行きたくない、京ちゃんと離れたくないと駄々をこねる私に皆手を焼いていた。


京ちゃんは泣かずに唇を噛み締めて、ずっと私から顔を逸らしていたが、あまりに私が泣き続けるのを見かねたのか、急に何かを私の前に差し出してきた。


「めーこ!これやるから、もう泣くな!」

「!?」

それは、京ちゃんがカードガチャで引き当てたドラゴンマスクのカードだった。

驚いて、一瞬涙が引っ込んだ。


「これ、京ちゃんの宝物じゃない?いーの?」


「ん。」

京ちゃんは、神妙な顔でこっくりと頷いた。


「あ、ありがとう、京ちゃん…。」


「それ持ってたら、また、会える!絶対だ。」


「本当?また会える?絶対?」


「ん!」

私を睨むような真剣な顔で頷く京ちゃん。

京ちゃんの言う事なら信じられた。


「おばさん、困らせたら駄目だよ。」

「わ、分かった。」


私は辛かったけど、歯を食いしばって頷いた。


「京太郎くん。ありがとう。」

私を車へと促すお母さんも涙を浮かべていた。


そして、車に乗り込む直前に、お母さんの手を一瞬振りほどいて、京ちゃんに駆け寄ると、柔らかいほっぺにチュッと口付けた。


視界が涙で歪む中、驚いて頬を押さえる京ちゃんの姿を目に焼き付け、私は告げた。


「京ちゃんは、私のヒーローでした…!これからもずっとそうだよ!!」


車から、京ちゃんの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。


いつか絶対また会えると信じて…。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「はぁ〜!昔の私は大胆だったな…。」


私は、自室の机の上に並べられた別れ際に撮った京ちゃんの写真と、ドラゴンマスクのカードを眺めながら、昔を思い出して顔を赤らめていた。

それから、紅茶を入れているマグカップに貼ってある、この間京ちゃんと撮ったプリクラに目を移しては、これから訪れるであろう幸せな時間に思いを馳せた。


明日土曜は京ちゃんとの嘘コクデート♡

明後日日曜は静くんの試合に京ちゃんも応援に来てくれる事になっているから、

今週は休みも毎日京ちゃんに会える事になる。


明日どの服を着ていくのか決めかねて、今、ベッドには何組もの洋服が並べられている。

休憩した後は、また服選びを頑張ろう!


甘い紅茶を飲みながら、頬が緩みっ放しの私は、休みの間にとんでもないことに巻き込まれる事になろうとは、全く予想もしていなかった。




*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。




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