第69話 氷川姉弟共通の敵

「相手を怪我させることなく、一瞬で戦闘不能にする方法…。フムフム…。」


私はTシャツとスカーチョといった格好で、リビングテーブルの席に腰掛け、食後の紅茶を飲みながら、今日図書室から借りてきた本

『図解!人体の急所』を読みふけっていた。


中1でキックボクシングの習い事をやめて以来、私の右足は、無遠慮に言い寄ってくる男子を振り払う為にしか使っていなかった。


しかし、高校に入って、京ちゃんと再会してから、嘘コクの女子達やその彼氏など敵と相対する機会が増えた。

確実に京ちゃんを守る為に、やり過ぎて相手を傷付け過ぎることなく、最低限の被害で相手を仕留められるよう、勉強し直そうかと役に立ちそうな本を借りてきたのだが、神条先輩に見られてしまった。


あんな争いとは無縁そうな先輩に、私が格闘系に通じてると知られてしまったかと、ちょっと恥ずかしい…。


私が再び顔を赤らめていると、玄関の鍵を開けられる音がした。


「ただいま。うーふぁ、疲れたぁ…。」


ドサドサッ。ドスンッ。


リビングに現れて荷物を放り投げ、ソファーに寝っ転がったのはキックボクシングのジムから帰ったばかりの静くん。


キッチンからお母さんがこちらを覗いて声をかける。


「静くん、お帰りなさい。ご飯とお風呂どっち先するー?」


「メシでっっ!!」


くわっと目を見開き、一瞬元気になる静くん。


「了解〜!5分で出すわね?」

「よろ!」


言うなり、また、ソファーの上にクタッとへたばる静くん。


「静くん、お疲れ。練習キツそうだね。」


「まぁ、試合ももう来週だからな。最後の仕上げをしていかないと。」


「試合京ちゃんも来れるって言ってたよ。

皆で応援行くから、頑張ってね!」


静くんはわずかに頬を緩める。


「そうか。そりゃ有り難いな。美湖も、鷹月師匠も見に来てくれるっていうし、今回は気合入れないとな。」


「鷹月師匠が?遠いのに来てくれるんだぁ。静くん、すごく期待されてるんだね!」


「まぁ、俺の試合もあるけど、お前にも会いたいんじゃないか?」


「私?もう辞めちゃったのに、なんで?」


「鷹月師匠はお前の事今だに気にかけてんだよ。本当はキックボクシングの道に戻って欲しいみたいだぞ?」


「ええ?気持ちは有り難いけど、それはないよぅ。痣だらけになるの、嫌だもん。腹筋割れるし…。」


年頃の女の子として、その選択肢はない!

せっかく、京ちゃんとちょっといい感じになってきてるかもしれないのに、嫌われちゃったら嫌だもん!


「勿体ないな。天はどうしてこんな奴に才能を与えたんだ…。」


静くんにジト目で見られ、私はちょっといたたまれない気持ちになる。


「才能だったら、静くんのがよっぽどあるじゃん。もう同世代の子に並ぶものなしって言われてるんでしょ?お母さんから聞いたよ?今度の試合だって優勝間違いなしって!」


「んな事ねぇって!一人ライバルがいるんだよ。」


「ライバル?」


「ああ。同じ中3で、風道虎太郎ふうどうこたろうっていう体格も技術も俺と同じ位、芽衣子と同じように足技が得意な奴がな。」


「ああ。だから私に練習相手になってくれって言ってたんだ。」


「ああ。ま、流石に芽衣子よりは全然力は劣るんだがな…。」


「え。何言っているの?か弱い女の子相手に!」


静くん、謎に時々姉を持ち上げる(?)発言するな。


「お前をか弱いというなら、ほとんどの人類貧弱すぎて、生きていけんわ!」

「何それ!」


そこまで言ったら、悪口じゃん!


「ま、とにかく。

実力だけなら、相手に負けない自信はあるんだが、風道は最近の試合で、失格スレスレの卑怯な技を使ってくる傾向があって、油断出来ないんだ。

奴の兄弟子で嵐山魁虎あらしやまかいとっていう、素行が悪くてジムを破門された奴ともプライベートでも付き合いがあるらしく、そいつの影響とも言われている。」


「悪い兄弟子さんに影響を受けちゃっている子なんだね。試合で卑怯な手を使うなんて、許せないね。そんな奴に負けないで、静くん。」


私は静くんに向かってムンっと気合を入れるように、ガッツポーズをとった。


「ま、どんな状況だとしても勝つしかないんどけどな!」


「うん、頑張ってね!静くん!」


「芽衣子、静くんにご飯運ぶの手伝って!」

「あ、はーい!」


奥からお母さんの声がかかり、私はキッチンに飛んで行った。

         *

         *


今日のメニュー=大盛りのカツ丼を静くんが一心不乱に口に運ぶ様子を見守りながら、

私はさっき静くんから聞いた名前の一つが気になって首を傾げていた。


嵐山魁虎…。うーん、どこかで聞いたような…?

どこだったっけ…?





*おまけ*


〈倫理 課題発表の授業  1-Dにて〉


先生㋑「え〜、ここでは、ギリシャの哲学者が、肉体を愛する者と魂を愛する者と二つのパターンに分けて、愛について問答をしておる。その続きの問答を考えて皆に発表してもらう事になっとったね。

ほぉい。では、㋮㋱ペア発表どうぞ。」

生徒㋮㋱「「はい。」」


生徒㋮「そうですね。肉体のみ愛する人は、肉体の衰えと共に、すぐ心変わりしてしまうことになりますね。」

生徒㋱「では、魂を愛する者が肉体をも愛するようになるということはあるだろうか。」

生徒㋮「有り得る事だと思われます。そういう場合はどうなるのでしょうか。」

生徒㋱「魂を愛するが故に、より肉体を愛し、肉体を愛するが故に、より魂を愛する事になるだろう。特に愛する人に抱きしめられたときの、あの幸福感、魂の一体感といったら!」

生徒㋮「め、芽衣子?そんなのレジュメにあった?」


ザワつく教室…。


生徒㋱「お互いの肉体の反応により、相手の魂を理解し、惹きつけ合って…!」


生徒㋮「め、芽衣子ちょっとストップ、ストップ!芽衣子、ハウス〜っ!!」


生徒㋮生徒㋱の口を手で塞ぐ。


生徒㋱「ク、クウーン…♡(きょ、京ちゃーん…♡)」


先生㋑「ん、お、お前ら〜、ちょぉっと、後で職員室来い。」


※その後、職員室で担任に肉体の愛について厳しい追求を受ける生徒㋱だったが、生徒㋮が必死に誤解を解き、放免となったとの事…。




*あとがき*


嘘コク4人目の話はこれて終わりです。

今回明確なざまぁはありませんが、めーこちゃんが色んな意味で神条さんを打ちのめした

形にはなっております。

神条さんをどう思われるかによるのですが、

モヤモヤが残ってしまった方がいらっしゃったら、すみませんm(_ _;)m💦💦


嘘コク5人目はおそらく、7人の内で一番嫌われるタイプかと。

胸糞悪い展開もありますが、めーこちゃんと

京太郎くんの絆を深める大事な話になりますので、読んでいただけると大変嬉しいです。

今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m


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