第65話 初めての女の子の部屋
「きょ、京先輩、すみませんが、部屋を少しだけ片付けたいので、ちょっとここで待っていて下さいね?」
「あ、あ、ああ…。」
少し緊張した様子でそう言う芽衣子ちゃんにガチガチに緊張している俺は、やっとの事で返事をした。
そんな俺に芽衣子ちゃんははにかんだような笑みを見せると、廊下に続く扉の奥に姿を消し、俺は芽衣子ちゃんの家のリビングに一人残された。
お、落ち着け、俺。
どうしてこうなったのか、始めから状況を整理してみよう。
俺はリビングのソファーに座って、芽衣子ちゃんが出してくれた炭酸入りのオレンジジュースを飲みながら、芽衣子ちゃんに昼休みに言われた爆弾発言から、ここに至るまでを思い返していた。
『京先輩、私を襲ってくれませんか…?』
昼休み、そんな事を芽衣子ちゃんに言われ、
大きなショックを受けた俺だが、その後に、芽衣子ちゃんが5つ目の嘘コクミッションとして、との説明を受けて一気に脱力した。
ああ、もちろん今までの経験から大体分かっていたよ?
芽衣子ちゃんが、俺に突拍子もない事を言い出す時は全部嘘コク絡みだって。
だけどね、一応最初に『嘘コクのミッションで』という修飾語をつけて欲しいんだ。
いきなり、襲ってくれなんて言われて、口から心臓が飛び出るかと思ったよ。
5つ目のミッションの内容は、
「襲い掛かってきたところを金蹴りして逃げ出す」
というかなりヘビーなものだった。
よく考えたら俺、その時初対面だった芽衣子ちゃんによくこんな選択肢を提示出来たものだよ。勢いって恐ろしい…!
たとえ、真似事をするだけにしても、周囲にあらぬ誤解を受けそうなミッションだけに、
学校や、外で実行するのは難しいと考えた芽衣子ちゃんは、なら、家でやりましょうと
放課後、俺を自宅に招いてくれたのだが…。
ご両親も義弟の静司くんもいないなんて、聞いていなかった…!
この間の嘘コクデートで帰りに送った事もあり、芽衣子ちゃんのお家の場所は知っていて、学校の最寄り駅から3駅離れた駅近くのマンションだった。
学校から向かって、三十分程度で着いたのはいいのだが、
部屋の中に入ると誰もいない様子で、慌てて芽衣子ちゃんを問い質すと、ご両親は仕事で6時頃、静司くんはキックボクシングのジムに行っていて、8時頃の帰宅になると、事もなげに言われた。
つまり、今俺は芽衣子ちゃんとこの家に二人きり。
その上で、あんな際どい内容のミッションを
再現しなければならない。
芽衣子ちゃんに邪な事をする気は毛頭ない。ない…けど…。
状況的に緊張してしまうのは致し方ないことだった。
「お、お待たせ…しましたっ…。」
数分後再びリビングに現れた芽衣子ちゃんの姿に、俺は目を見張った。
芽衣子ちゃんは、髪を大人っぽく、一つにまとめ、胸元の開いたピンクのレースのキャミソールに、同じ素材のショートパンツの部屋着姿というとても防御力の低い格好をしていた。
「え、えっと、ミッションがあるから、動きやすい格好の方がいいかなと思って着換えたんですが…変…ですかね?」
恥ずかしそうに胸の前で手をもじもじさせている芽衣子ちゃんに俺は上擦った声で答えた。
「や、似合ってるし、可愛い…よ…?」
けど…。
大きく開いたキャミソールの胸元からは
胸の谷間が、短いショートパンツから太ももや形のよい生足が露わになってしまっていて、少し動いたら、下着まで見えてしまいそうだった。
目のやり場に困って俺は慌てて目を逸らした。
「なら、よかったです。で、では、私の部屋にご案内します。どうぞどうぞ。」
「あ、ああ…。」
俺は芽衣子ちゃんに連れられて、リビングから廊下を通り、左側の奥の部屋、(ドアノブに芽衣子と書かれたピンク色のドアプレートがかけてある)に通された。
芽衣子ちゃんの部屋は、木製の机、本棚、チェスト、ベッドなど可愛いデザインの家具が並び、ピンクや、薄紫の色彩を基調に、可愛いハート型のクッションや、ぬいぐるみなど、可愛い小物がところどころに飾られていた。
むさ苦しい匂いのするスギや、マサの部屋と
違ってどことなく甘い女の子の香りがする。
「うわぁ。可愛い。これぞ女の子の部屋って感じだね。」
俺が歓声を上げると、芽衣子ちゃんは恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「エヘヘ。そうですか?急いで片付けたから、散らかってるとこ見つけちゃったら、見ないフリして下さいね?あ、そのピンクのラグのあたりでも、ベッドの上でも、どこでも好きなとこ座って下さい。」
「え。あ、ありがとう…。」
いや、そうは言っても、ベッドは色々まずいよな…。
俺はピンクのカバーのかかったベッドを横目で見ながら、恐る恐るラグの上に腰を下ろした。
芽衣子ちゃんは俺の前に正座をし、身を乗り出して真剣な顔で聞いてきた。
「えっと、ミッションの前に京先輩に何点か確認したい事があるんです。まずは軽い質問から行きますね?」
「お、おう。」
芽衣子ちゃんの勢いに押されつつ、返事をする。
「京先輩は童貞ですか?」
「ぶふぅっっ!」
俺は思わず吹いてしまった。
「どこが軽い質問なんだよっ!?」
「経験がなければ、すぐ答えられる質問でしょう?さ、さては京先輩、経験があるんですかっ?!」
涙目になって問い詰めてくるポンコツ美少女に俺は問い返してやった。
「じゃあ、逆に聞くけど、芽衣子ちゃんは処女なのか?」
芽衣子ちゃんは目を見開いた。
「ホラ、答えられないだ…。」
「嘘コク一筋の私に経験があるわけないじゃないですかっ!処女に決まってるでしょうっ!!」
俺の発言に被せるように芽衣子ちゃんは少し怒り気味に言い切った。
アレ?簡単に答えちゃった??
唖然としている俺に芽衣子ちゃんは更に問うてきた。
「私は言いましたよ?京先輩はどうなんですか?」
俺は迷ったが、この状況で言わないのは流石にずるいかなと思い、手をもじもじさせて、小さい声で答えた。
「え、えーと、はい。童貞です…。すみません…。」
「なんだぁ。童貞なら童貞と早く言って下さいよ!もう!一瞬経験あるのかとびっくりしちゃったじゃないですかぁ!」
そう言って清々しい笑顔でカラカラと笑う芽衣子ちゃん。
なんでそんなに男らしいん?
「ううっ。経験がない事を知られてしまった…。」
俺は恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆ってめそめそと泣いた。
「ふぅ。では、お互い経験がない事が分かってスッキリしたところで、第2の質問です。」
「お、おう…。」
軽い質問で、このダメージのデカさよ…!
俺は次の質問に何を言い出されるやらと、緊張して身構えた。
「えっと、メガネをかけた私をどう思いますか?」
芽衣子ちゃんは、今時見ないような瓶底のぐるぐるメガネをかけて、俺に問いかけてきた。
「ぶふうっっ!」
俺は思わず吹き出してしまった。
「あはははっ!め、芽衣子ちゃん、その眼鏡面白過ぎ…!いーよ、すごくいい!!
しばらくそのままかけててよ…。ぶはははっ!!」
親指を立てて、笑い転げる俺に、芽衣子ちゃんは真っ赤になって、頬を膨らました。
「も、もう!そんなに笑うことないじゃないですか!やっぱり私に眼鏡は似合いませんね…。」
そう言って残念そうに眼鏡をとった。
いや、眼鏡が似合わないってより、その眼鏡が特殊過ぎただけで…。
「ご、ごめんごめん。いや、でもその眼鏡かけててくれると緊張が解れていいよ。
芽衣子ちゃんの身を守ってくれる事にもなるかもよ?」
「守る?何から…?」
芽衣子ちゃんはキョトンとした顔で目を瞬かせた。
「い、いや…。敵から?」
「??」
その眼鏡をしていたら、今の色っぽい格好の芽衣子ちゃんにも俺が邪な思いを抱くこともなさそうだ。
流石にそうは言えず、俺は曖昧に笑って誤魔化した。
「魔除けという意味でしたら、もうマキちゃんにお守りもらって置いてますから、大丈夫ですよ?」
「お守り?」
芽衣子ちゃんの指を差した方を見ると、ベッドの頭部分に、小さい封筒が置いてあるのに気付いた。
「なんか、本当に困った時だけ開けてねって言われたので、中身は分からないんですけどね。」
「へぇ〜、玉手箱みたいだな。」
「ですね。おばあちゃんになるの嫌なので取り敢えず、開けずに枕元に置いてみてます。」
芽衣子ちゃんはヘラっと笑った。
「では、最後の質問です。」
芽衣子ちゃんは、俺と膝が当たってしまいそうなくらい、更にずいっと前に詰め寄って来た。
「お、おう。」
芽衣子ちゃん、ちょっと距離近過ぎない?
うおぉう。美少女の顔が目の前に…!
でも、心のHPをガリガリ削る質問もこれで終わりかと少しホッとしたのも束の間…。
「京先輩、私に女を感じる事はありますか?」
最後の質問は、俺にとって最も難しく、答えにくいものだった。
*あとがき*
次話、ちょっと字数多くて、7000文字程度になりそうです(;^ω^)
(いつもは、1000字から5000字程度)
ペース配分うまくできず、すみません💦
お時間あるとき読んで頂ければと思います。
今後もよろしくお願いしますm(_ _)m
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