第63話 彼女談議
『京先輩。先ほどは課題の本を教えて頂いてありがとうございました♡
問答の内容が分かり易く解説してあって、課題もなんとかクリアできそうです。
マキちゃんからもお礼をお伝えするようにと言われました。本当に感謝です!
それで、マキちゃんと相談したのですが、
今日の放課後、一緒に課題を進めようかという話になっています。
今日だけ帰りにご一緒できなくても大丈夫でしょうか?自分からお昼や放課後をご一緒したいと申し出ておいて本当にすみません💦
代わりにと言ってはなんですが、明日のお弁当は京先輩の好きなもの何でも入れますから、何でも言って下さいね?
あなたの嘘コクパートナー🐶芽衣子より』
俺は放課後、芽衣子ちゃんからのL○NEメールを読むと、すぐにメールを打ち返した。
『了解。笠原さんと課題頑張ってね。
お詫びとかは、別に気にしなくていいけど、もし出来るなら、明日のお弁当、卵焼きを入れてもらえると嬉しいです。できたらでいいよ? 京太郎』
芽衣子ちゃん、今日いつも以上に挙動不審で少し元気なかったよな。
課題の事もあるのだろうが、他にも悩みがあるように感じられた。
笠原さんと課題をやりたいというのはもちろん嘘じゃないんだろうけど、もしかしたら、
女の子同士気兼ねなく悩みの相談をしたいとかもあるのかもしれないな…。
できる限り芽衣子ちゃんの力になってやりたいと思っていたのだが、俺は役に立たんな…。
俺がため息をついていると、いつの間にか俺の机の周りにクラスメートで友達のスギとマサが集まっていた。
「よう、京太郎!シケた面してんな。」
「おっ。さては、氷川さんとケンカでもしたか?」
「な、何だよお前らいきなり。関係ないだろ?」
マサとスギにからかうように絡まれ、俺は
そっぽを向いた。
こいつらは、最近それぞれ彼女ができて、彼女のいない俺に、昼休みや、放課後別々に過ごそうと、言ってきた、友達がいのない奴らだ。
今更、何の用があって、すり寄って来たんだ?
「彼女と過ごす予定なんだろ?俺に声かけてていいのかよ?」
つい、とげとげしい言い方をすると、マサとスギが顔を見合わせて、バツが悪そうな顔をした。
「いやさ、今日はマコちゃんもスギの彼女も予定あるみたいでさ。
それに、俺達初めて彼女ができて浮かれててさ、ここしばらく京太郎にあまりに冷たくしすぎてたんじゃないかって反省してな。ごめんな。」
すまなそうにポヨンとしたお腹を縮めながら謝ってくるマサ。
「うん。京太郎、友情を蔑ろにして悪かったよ。すまん。」
メガネを直しながら俯き、これまた申し訳なさそうに謝ってくるスギ。
「んあ?お前達急に変わってどうしたんだ?」
まだ信用できんと訝しげに問うた俺だが…。
「うん、すごく言い辛いんだが、この前、俺とマコちゃんとスギとスギの彼女と、一緒にお昼している時、氷川さんが通りがかってさ…。」
え?俺抜きでマサとスギ、カップル合同で
お昼してたの?ひどくね?
その説明を聞いている最中にも心が折れそう
だった俺だった。
「京太郎が、俺達と疎遠になって寂しがってるから、たまに誘ってあげて下さいねって言われてさ。」
「芽衣子ちゃんがそんな事を…?」
マサの話を聞いて、俺は目を丸くした。
うわ、俺、芽衣子ちゃんにどんだけ心配されてんだろ?有り難くも情けない気持ちになった。
「そうそう。それで、俺達、京太郎と急に距離とっては悪かったなって反省したんだよ。」
スギも、そういい頭を掻いた。
「それに、俺達ちょっと誤解してたところもあってさ。京太郎、校内放送が流れてから、学校内で評判上がって、氷川さんとは仲睦まじいし、クラスのリア充男子とも結構話すようになったろ?もう、俺達陰キャの底辺カーストと話す感じでもないのかなって距離とってたところもあるんだよ。」
「んん?ちょっと待て!芽衣子ちゃんとは嘘コク関係で絡まれてるだけだし、
俺がリア充男子と話をする?誰とだよ?」
「や、サッカー部の木村とかさ。」
「木村とは共通の知り合いについて、話してただけで、そんな親しくねーよ。校内放送で評判上がったってそんなん一時的なものだろ?所詮、俺はフツメン陰キャのカースト底辺だよ。」
「「京太郎…!」」
普通ならドン引きの陰キャのカースト底辺という言葉だが、同じ階級の者にとっては、これ以上絆を繋ぐ言葉はない。
マサとスギは顔をパァッと輝かせた。
「よし、今日は久々に3人で、ラーメン屋でも行ってダベるか!」
「まぁ…いい…けど。」
「京太郎には悪い事しちゃったからな、お詫びをかねて、今回は俺達の奢りにしないか?」
「いいな、そうしよう!」
「えっ、いいのか?すまんな…。」
我ながら俺もチョロいなと思いながら、マサとスギに絆されてしまう俺だった…。
*
*
*
「あれ?矢口、今帰りか?」
久々にマサとスギと3人並んで下駄箱で靴を履き替えていると、
向かいの下駄箱で靴を履き終えた涼やかな短髪のイケメンに声をかけられた。
柳沢の彼氏の柏木涼だった。
「ああ。あれ?柏木は今日は柳沢と一緒じゃないのか?」
今日は、確か全部活動が休みの日だった筈だが、おしどりカップルの柏木と柳沢は当然一緒に帰るものと思っていた。
「あ、ああ。梨沙は部室の整理するって言ってて、今日は別なんだ。」
柏木は、そう言って笑ったが、その様子はなんだか少しぎこちないものだった。
「そうなんだ…。」
何かあったのかな?と思いつつ、突っ込んでいいものか迷っていると…。
「京太郎、そのイケメンは誰だ?」
マサが敵を見る目で柏木を睨んでいた。
「矢口はお前らのようなリア充とは無縁の、陰キャカースト底辺同盟の一員なんだ。気安く話しかけないでもらおうか…!」
スギが一歩前に出て、柏木と俺の間に割って入った。
「ええ?陰キャカースト底辺同盟って何??俺何か悪い事した?」
柏木は二人の剣幕に驚いて引いていた。
「ちょっ、お前ら、失礼だろ?柏木はイケメンでも、性格のいい奴だぞ?
ホラ、柳沢っていい奴だろ?」
「ああ、柳沢さん、京太郎の嘘コクの件があったから最初はどうかと思ってたけど、何だかんだ気の利くいい子だよな?」
「陰キャの俺達にも優しく声かけてくれるもんな。」
マサとスギには柳沢の評判がよかった。
「だろ?そんな柳沢の選んだ彼氏だから、柏木もいい奴だ。」
しかし、そんな俺の言葉にマサとスギは余計怒りに吠える結果となった。
「ふざけんな!イケメンの上性格いいとか余計ムカつくわ!」
「柳沢さんみたいな可愛くていい子ひとり占めしやがって!リア充は
「コラ、お前ら、いい加減にしろって!
ご、ごめん。柏木。今日こいつら気が立ってるみたいで…。」
俺は二人を諌めつつ、柏木に手を合わせて謝った。
「ううっ。なんか俺メッチャ嫌われてるみたいだから、帰るよ。またな、矢口…。」
「あ、ああ。ホントごめん。またな…。」
柏木は傷付いた瞳で逃げるように帰って行った。
柏木、ホントごめん…。
でも、ぶっちゃけ俺もよく知らないイケメンだったら、同じように思っちゃってたかも。
男子に嫌われるイケメン税ってあるよね?
柏木、強く生きてくれ…。
「お前ら、いくらなんでも言い過ぎだろ?」
向き直って文句を言うと、逆にマサとスギは
胸を張ってドヤ顔をした。
「俺達は京太郎を守ってやってるんだぜ?」
「氷川さんからも言われてるんだ。京太郎を敵(イケメン)から守ってやってくれって。」
「だから何だよ?敵って…。」
芽衣子ちゃん、ホントどんだけ俺を心配してんのよ?
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
俺達は、カウンター席に、3人並んで、ラーメンをすすっていた。
ちなみに、毎々軒ではない。
濃いめのタレと太めのつけ麺が人気の、海来亭という駅近くの店だった。
「なんか、こういうのも久々でいいよな。」
「ホントホント。女の子と一緒もいいけど、ちょっと緊張するっていうかな…。野郎と気兼ねなくメシ食えんのいいよな…。」
「確かに…。」
芽衣子ちゃんと毎々軒に行ったとき、いつものラーメン屋の雰囲気が様変わりしてしまった事を思い出し、マサとスギの意見に同意しかけて、慌てて否定した。
「って、いや、俺は分かんねーけど!彼女いないし!」
「あれ?京太郎、氷川さんと付き合ってるんじゃねーの?」
「付き合ってねーよ。嘘コクで絡まれてるだけって言ってんじゃん!」
「でも、学校で昼休みも帰りもいつも一緒にいるよな。」
「それは、お前らが彼女と過ごすようになって、芽衣子ちゃんがぼっちになった俺を可哀想に思って一緒にいてくれるだけで…。」
「そりゃ、俺らのせいもあるなら悪かったけど、そんなボランティア的な理由で、あんな可愛い子が側にいてくれるかな?
デートもしてんだろ?
毎々軒に、二人で来てたって源さんから聞いたぜ?」
「うん。俺もそれ源さんから聞いた。」
源さんのおしゃべりめ。秒速で伝わってんな。
「や、だからそれも嘘コクのデートで…。」
「でも、手は繋いだろ?」
「や、だからそれは事情があって…。」
俺は反論の声がだんだん小さくなっていってしまった。
そういえば、なんで手を繋いだんだろ?
あの時芽衣子ちゃんは、彼氏に見せつける為に手を繋ぎたいっていってたのかと思っていたのだが、後にそれはミッションの為の設定で、実は彼氏がいなかった事が判明した。
何故芽衣子ちゃんはあの時手を繋ぎたいって言ったんだろ?
嘘コクデートの一環として、やってみたかったって事だろうか?
芽衣子ちゃんの小さくて柔らかい手の感触を思い出して俺は顔が熱くなった。
「うーん、理由はどうにしろ、やってることは付き合ってる俺達と変わらなくね?」
マサは眉間に皺を寄せ、スギと顔を見合わせた。
「そうだな。ステージも全く一緒。俺達もまだ彼女と手を繋ぐ止まりだもんな。」
「そ、そうなんだ…。い、いや、俺は付き合ってるわけじゃないから、ステージとかないから!」
「でも、あんな美少女に懐かれて、悪い気はしないだろ?いい子そうだし。それとも、氷川さんのこと迷惑なのか?」
「ま、まぁ、実際いい子だと思うし、迷惑ではないけど…。芽衣子ちゃんとは嘘コクを通しての繋がりしかないから!嘘コクのシチュエーションを再現し終わったら、多分疎遠になっちゃうと思うし…。」
「なら、それまでに告ればいいじゃん。」
「あのな。お前らも知ってる通り、今までに7人に嘘コクされた俺は恋愛的HPはほぼゼロなの。誰かとどうかなりたいとか今更思えないの!」
「えー、かなり勝率高いと思うけどな。勿体ないな…。」
そう。今はもう恋愛とか考えるのも懲り懲りだ。マジコクしてきた神条さんとさえ、
あんな悲惨な結果になってしまったんだ。
芽衣子ちゃんは可愛いし、正直側にいてもらえる事で癒やしになっているのも事実だけど、恋愛となると話は別だ。
俺が芽衣子ちゃんに恋愛的な視線を向けたり、浅ましい欲望の対象にしてしまったら、
俺は自分自身の手でこの居心地の良い関係を壊してしまうだろう。そんなのはもう嫌だった。
芽衣子ちゃんが嘘コクミッションを全てクリアするか、嘘コクへの興味が失せるかして、
いずれは、彼女とは疎遠になってしまうとしても…。
「俺の事より、お前らはどうなんだ?彼女と仲良くやってんのか?」
「仲良くはやってるんだけどさ、マコちゃんと食べ歩いてたら、お互い太っちゃってさ。今、ダイエットしようって二人で計画してんだよ。」
ラーメンを食べ終わった腹をぽよぽよんと揺らしてマサが頭を掻いた。
確かに以前よりマサのお腹の肉が厚みをましているような気がする。
「ははっ。同じ目標があっていいじゃないか。」
「確かに同じ目標があるとお互いに高め合えていいよな。
俺も、アミちゃん(スギの彼女)に勉強教えてるうち、理解が浅いとこ以前より真剣に勉強するようになって成績上がったよ。
ま、彼氏彼女としての進展はないけどな。」
「とか何とか言って、スギ!お前は明日彼女の家に遊びに行くんだろ?抜け駆けして、一人大人の階段上がる気じゃねーのか?」
「えっ。スギ、そうなの?」
俺は新人類を見るような目で、スギを見た。
「ななな、何言ってんだよマサ?京太郎、違うよ!ただ彼女に勉強教えに行くだけだって。」
慌てたように弁解するスギに俺とマサは疑いの目を向ける。
「勉強しに行くなら図書館で十分じゃないか?」
「なぁっ。しかも、親居ないときらしいぜ?」
「えっ。メッチャ怪しいじゃん。」
「お前ら、やめろよ!彼女と俺は健全な付き合いなんだから。」
焦っているスギをマサと二人でからかいながら、俺はやっぱり二人をどこか羨んでしまう自分がいることに気付いた。
スギやマサはそれぞれ絆を育み仲を進展させていける相手がいる。
俺にはそんな相手にはいない。今側にいてくれる芽衣子ちゃんも、仲を進展させるどころか、いつかは目的を果たしたら、去っていくだろう。
そんなのは、最初から、分かっていることだったが、幸せそうなマサとスギの二人を前にして、その事が何だかどうしようもなく寂しいことのように感じてしまった。
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