第55話 嘘コク…じゃない?

私は柳沢先輩から聞いた四人目の情報を思い出していた。


「嘘コク四人目の子は、二年生の図書委員で神条桃羽かみじょうももは

名前までは特定されなかったけど、

矢口が図書委員の子に4回目の嘘コクされたらしいっていう噂は流れていたの。」


「図書委員の神条先輩…?」


マキちゃんは驚いように復唱した。


「?噂では特定されていなかったのに、どうして、柳沢先輩は、嘘コク四人目が神条という先輩だと分かったんですか?」


疑問に思って聞いてみた。


「そういや、そだね。リサリサ先輩、なんで?」


「うん、それはね。秋川栗珠が神条さんに絡んで矢口の事について、根掘り葉掘り聞き出そうとしているところに偶然行き合ったからなの。」


「うわ、出たよ…。」

「また、秋川先輩ですか…。」


私とマキちゃんはげんなりした顔になった。


「矢口の噂の出所は大抵栗珠だからね。なかなか、尻尾を捕まえられないでいたんだけどね。

たまたま、栗珠と同中のバスケ部の子と歩いているときに、二人が話しているのを聞いちゃったの。」


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〜以下柳沢先輩視点の回想〜


「キョロちゃん、今日さ、部活の後、コンビニでアイス食べない?」

「おっ、ソレいい…。?!リサリサ、待って!アレ、栗珠じゃない?」


私は部活で仲良くなった、ポニーテールの美少女、キョロちゃん=清路雪きよろゆきと、部活に向かう途中、

廊下の奥で、二人の女子が何か深刻そうな話

をしているところに出くわした。


「矢口くん、4回も嘘コクされるなんて本当に可哀想だよねぇ?矢口くん、気落ちしてて本当に見てられなかったわぁ。」


栗珠はお得意の心配そうな表情で、メガネをかけた大人しそうな同学年の女子に話しかけていた。


「神条さん、同じ図書委員でしょ?何か知らない?」


「わ、私…はっ…。」

神条という子は青ざめて小さな肩を震わせていた。可哀想に、もうすっかり、栗珠の術中に嵌ってしまっている。


私とキョロちゃんは顔を見合わせて頷いた。

栗珠、絶対何か悪い事企んでる!止めなきゃ…!!


「こんなに嘘コクの噂がたって、また矢口くんの評判が下がってしまうよね。もし、事実が違うなら…、」


栗珠は怪しく目を光らせ、優しげに言った。


「例えば、とか何か事情があるなら、その図書委員の子もきちんと反論した方がいいと思うんだよね。矢口の名誉の為に…。」


「…っ!あ、秋川さん、実は、私っ!」


その子が、弾かれたように栗珠に向き直って、何かを伝えようとしたとき…。


「そこの栗珠めぎつね!ちょっと待ったーっっ!!」


キョロちゃんが大音声だいおんじょうで叫ぶと、二人が驚いてこちらを振り返った。


「げっ!雪と梨沙!?」

「??」


栗珠は珍しく感情を露わにし、心底嫌そうな顔をしていた。


「あんた、また、一体何を企んでるの?中学の時は大人しくやられてたけど、これからはそうはいかないよ!これ以上被害が出るのを黙って見てらんない!」


「栗珠、あんたその子から情報を聞き出して、また、矢口の碌でもない噂を流すつもりだったでしょう?」


キョロちゃんと、私は腰に手を当てて、栗珠に詰め寄った。


「えっ!」


神条さんは私達の話に驚いて栗珠をガン見している。


「そ、そんな事私がするワケないじゃない…。二人ともひどい…。

ただ、私はただ、良かれと思って…。」


一転して悲しげな表情を見せる栗珠に、キョロちゃんは容赦なく言い放った。


「泣き真似やめな!これ以上、この件で噂を流すような事があれば、私もあんたが小3でおもらしした時の事、詳しく噂に流してやるからね?」


「ピグッ!」


栗珠は動揺して一瞬で凍りついた。


「わ、私は何も悪くないのにっ!覚えてなさいよぉっ!」


栗珠は捨て台詞を残して走り去って行った。


「ったく、悲劇のヒロインぶるのか、悪役ぶるのか、どっちかにしろっつうの!」


キョロちゃんは顔を顰めてため息をついた。


「昔はあいつもあんなんじゃなかったんだねどね…。」


私は、呆然としている上条さんに声をかけた。


「あなた、大丈夫?栗珠に何言われたか知らないけど、あの子には気をつけた方がいいよ?」


「ええ…。私、もう少しで、矢口くんにもっとひどい事をするところだったんですね…!ううっ。私、あの人に恩を仇で返してしまいました…。」


神条さんは両手で顔を覆って泣いていた。


「えっと、神条さんって言ったよね…?よかったらウチら話聞こうか?

私は、B組の清路雪、そこの柳沢梨沙はD組で矢口の友達だし、信用してもらっても大丈夫だよ?」


キョロちゃんが心配して聞いたが、神条さんは頑なに首を横に振った。


「いいえ!!こんな事誰にも言ってはいけないことでした。私、どうかしていました…。」


「神条さん、一つだけ聞きたい事があるの。

私は矢口の友達で、心配だから聞くんだけど、神条さんは矢口の4回目の嘘コクに関わっていて、その…、矢口と付き合うという選択にはならなかったのかな?」


「はい…。私が浅はかでした…。」


神条さんは、項垂れて涙を零した。


「そ、そっかぁ…。」


私は大きく肩を落とした。


「あんないい人を傷付けてしまって、私はひどい人間です。大事なお友達に本当にごめんなさい…。」


「いや、あなたを責める資格なんて私には全くないよ…。

ただ、矢口の事を受け入れてやれないんだったら、今流れている噂と違う真実があったとして、それを主張したところで、また面白おかしく噂されて、矢口にとってもあなたにとっても更に辛い事になるんじゃないかな…。」


「!!そうですよね…。私、本当に考えなしでした…。」


神条さんはそう言ってまた涙を落とした。


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「まぁ、そんな訳で、矢口と神条さんの間に何があったか詳細は分からないんだけど…。」


柳沢先輩はちろっと私を心配そうに見て、躊躇いがちに言った。


「私は…、神条さんのは嘘コクじゃなかったんじゃないかと思ってる…。」


「「嘘コクじゃない…?」」


私とマキちゃんは驚いて聞き返した。


私はショックだった。

嘘コクじゃないって事は「マジ告」だったって事で…!

神条先輩が京ちゃんを好意を寄せていたって事で…!

京ちゃんもそれを知っていたって事で…!


「その後、廊下で矢口と話している時に神条さんがすれ違った事があるんだけど、神条さんだけでなく、矢口もすごく申し訳なさそうな顔をしていたの。その時の二人の雰囲気が単に嘘コクをした、された同士のソレじゃないような気がして…。」


「ふ、二人は…、もしかして好き合っていたんでしょうか…?」


私は震えそうになる、体を両手で抱くようにして聞いた。


「芽衣子…。大丈夫…?」


心配そうに、マキちゃんがポンと優しく私の肩を叩く。


「う、うん…。マキちゃん。」


柳沢先輩は慌てて謝って来た。


「ごめん、芽衣子ちゃん!余計な事を言って!いや、私がそう感じただけだから。ただ、どちらにしろ、二人はそれ以来何もないのは事実だから、そこは安心して?」


「は、はい。大丈夫です。柳沢先輩。情報ありがとうございます。

ショックですけど、京ちゃんは素敵だし、

7回の嘘コクの中にはもしかしたらマジ告が混じっているかもとは前から思っていました。

事実がどうあっても、京ちゃんを傷付けるような方は許せないし、絶対に負けません!」


私は弱気になりそうな心を叱咤して、両手に握り拳を作り、力を込めた。


「その意気だ、芽衣子!

実は私、同じ委員会なんだけど、神条先輩にそんな事があったなんて知らなかったな…。」


「マキちゃん、そういえば、図書委員だったね。」


「うん。私は部活あるから、昼休み当番にしてもらってるけど、神条先輩は、放課後の当番で、あまり話した事はないけどね。

でも、情報できる限り集めとくし、協力できることがあったら何でも言って?」


「ありがとう、マキちゃん!」


「私も何でも協力する。芽衣子ちゃんの事を応援している!けど…。」


柳沢先輩は何とも言えない複雑な顔をしていた。

「柳沢先輩…?」


「ごめん、これも私の勘なんだけど、

四人目についてはあまり深く立ち入らない方がいいかもしれない…。それをしてしまうと、神条さんはともかくも、矢口や、芽衣子ちゃんが傷付くような気がする。

芽衣子ちゃんは、今の矢口を見て、癒やしてあげて欲しいなと思うよ?」


言いにくそうにそう言う、柳沢先輩がどこか痛みを伴うような表情をしていたのが印象に残っている。



*あとがき*


いつも読んで頂き、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございます

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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