第54話 気になる視線
「それで剛原の奴、6股が判明して、細井を含む他の彼女全員に振られたらしいんだ。」
いつものように、昼休みに屋上で芽衣子ちゃんお手製のお弁当(今日は中華)を食べながら、芽衣子ちゃんと嘘コク三人目の細井美葡の彼氏だった剛原の話をしていた。
「6股も?もともと不誠実な人とは思っていたけど、最低ですね!細井先輩とは別れちゃったんですね。」
芽衣子ちゃんは箸で小さく切ったシュウマイを口にしながら、口元を押さえ、顔を顰めている。
俺はお弁当の半分を占めるハムとレタスで、桃の形が飾ってあるチャーハン部分を攻略しながら、頷いた。
「ハフッ。ああ、そのせいで、剛原のお手つきだったサッカー部のマネージャーは全員辞めちゃって、雑用の仕事が回らなくて、大変だって、同じクラスの木村が愚痴ってたよ。
サッカー部の他の部員達から剛原の扱いは当然ながら酷いらしくって、キャプテンの座を引き下ろされて、今はマネージャー業務をやらされているらしい…。」
「そんな事になっていたんですね。何も関係のないサッカー部の他の部員さん達が本当に可哀想です。剛田先輩、マネージャー業務をやりながらしっかり反省して欲しいですね!」
芽衣子ちゃんが拳を握り締めてプンプン怒っていた。
「芽衣子ちゃんは、その後は細井や剛原に絡まれたりしてない?」
「はい。全然ないです。絡まれるどころか、細井先輩や剛田先輩の近くを通りがかるだけで、向こうが顔色を変えて逃げてしまわれるので…。」
芽衣子ちゃんは気まずそうに笑った。
「そっか。それならいいんだけどさ。」
まぁ、この間芽衣子ちゃん、サッカー勝負を挑み、衝撃波のようなシュートで、
剛原を文字通りぶっ飛ばしたばかりなので、
彼らに怖がられていても不思議はないだろう。
そのくらい、あのシュートは人間離れした凄さがあった。
「そういや、静司くんとキックボクシングの練習をしていると言ってたけど、芽衣子ちゃんもそれで脚力が強いの?」
俺が聞いてみると、何故か芽衣子ちゃんは過剰なくらいにビクッと肩を揺らして反応した。
「い、いえっ!私なんか、弟よりは全然弱いですし、大した脚力ではないですよ?それに、私、手先は不器用ですが、足は割と器用な方なので、力も加減できますし、そんな心配するほどは強く蹴らな…。」
「ん?何を…?」
俺がキョトンとして聞くと、芽衣子ちゃんは
みるみる内に真っ赤になった。
「なな、何でもありません…。」
芽衣子ちゃんは俺の顔から視線を逸らして、
恥ずかしそうに俯いた。
何かいけないことを聞いてしまったかな?
確かに、女の子にあんまり脚力強いとか聞かれるのは恥ずかしい事だったのかな?
しまったな。話題を変えよう。
そうだ!ここは芽衣子ちゃんの大好きな嘘コクについての話題を振っとくか。
「あ、ええと、最近は芽衣子ちゃん、嘘コクの話題出さないけど、何か作戦とか立てたりしてるの?」
しかし、芽衣子ちゃんは再びビックゥ!と肩を揺らしてさっき以上にアワアワし出した。
「は、はひっ!!か、考えてはいるのですが、考えれば考えれる程その事でいっぱいになってしまって、強くしてはいけないけれど、弱くしたら弱くしたで、感触がしっかり感じられてしまうんではないかと…!
ずっとそんな事ばっかり考えていると、私、もう痴女なんじゃないかと…!!」
「め、芽衣子ちゃん…?どうしたの?落ち着いて?」
好きな話題を振ったはずが、芽衣子ちゃんは拳を振り回して大混乱していた。
「な、何でもないんです。忘れて下さい…。」
芽衣子ちゃんはまた、かあっと赤くなると、
俯いた。
何だろう?これまでの付き合いで、
芽衣子ちゃんが、挙動不審なのは結構よくあることと、理解しているが、今日は輪をかけてひどい。
それに、芽衣子ちゃんが俯く度に股間の辺りに熱い視線を感じるのは気のせいだろうか?
ごめん。そんなに期待の目で見られても大したサイズじゃないんだ。人並みか、なんなら少し小さいくらいかも…。
って何を考えてる?俺!!
って思わず自虐的に考えてしまった自分に突っ込みを入れた。
清楚可憐な芽衣子ちゃんが、俺の股間の事を
見たり、考えたりしているわけがないだろう!
何かは分からないが、彼女はもっと崇高な悩みがあり、胸を痛めているに違いない。
俺が先輩として力になってやらねば、と俺は決意を新たにした。
「ごめんね。芽衣子ちゃん。俺、察するの下手だから、分かってあげられなくて…。
何か悩みがあるんだよね?」
「えっ!」
図星をさされたような彼女の表情にやはりと思った。
「今、話せないなら無理には聞かないけど、何か俺に力になれることがあったら何でも言ってね?」
そう微笑むと芽衣子ちゃんは泣きそうな表情になった。
「京先輩、ありがとうございます…。」
そして、ポツリポツリと語り出した。
「えっと、大したことじゃないんです。授業の課題で難しいのが出ちゃって、その事で悩んでいただけで…。しばらくは、課題の事で頭がいっぱいで、大好きな嘘コクミッションの事も考えられないなぁと残念に思っていただけで…。」
芽衣子ちゃんはそう言って困ったように笑った。
「そうだったのか…。」
さすがは真面目な芽衣子ちゃん。
授業の課題のことで悩んでいたのか。
悩む程真剣に課題に取り組んだ事のない俺とはエライ違いだぜ。
それでも、その悩みに関しては、俺でも力になってやれるかもしれん。
「芽衣子ちゃん、その課題ってどんな奴?」
「ええ、倫理の課題なんですが、ギリシャの哲学者の問答について、ペアになって討論しろっていうもので…。元の問答についても何を言ってるか訳が分からなくて、ペアになっているマキちゃんと首を捻っているところなんです。」
「ああ〜、俺もそれ、一年の時、やったわ。石井の爺さんの倫理だろ?あの先生ボソッと喋って聞き取り辛いし、課題の説明もあんましてくれないから分かり辛いよな。」
俺の言葉に芽衣子ちゃんは大きく頷いた。
「そう!そうなんです。」
「去年課題やる時、すごく分かり易くて、役に立つ参考書があったから、教えようか?」
「え、いいんですかぁ?ぜひお願いします!」
芽衣子ちゃんは手を組み合わせて、可愛い笑顔を見せた。
「うん、確か学校の図書室にあった筈だけど…。」
と、言いながら、ふと苦い思い出が蘇った。
『矢口くん、本はお好きですか?』
そう優しく微笑むメガネの彼女。
うん、まぁ、確か彼女は昼休みは当番に入っていないって言ってたし、万一いたとしても、芽衣子ちゃんに本の場所教えてすぐ
去ればいいし…。
「場所教えるから、図書室に一緒に行こうか?」
俺がそう言うと、何故か芽衣子ちゃんは凍りついたような表情になった。
「と、図書室…?京先輩?い、いいんですか?」
「?うん。お昼食べ終わったら、覗いてみようか。」
「え、えーと、は、はい…。」
どうしてなのかか、芽衣子ちゃんは、さっきまでよりも暗い表情で俯いてしまった。
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うわぁ〜ん!!どうしよう?
いつもなら、昼休みは京ちゃんと過ごせる幸せな時間なのに、今日ばかりはその幸せを満喫する余裕もなく、私は大パニックになっていた。
さっきから自爆しまくっている…。
嘘コクミッションの事を聞かれただけで、
京ちゃんは金蹴りのことなんて言ってないのに…!
ずっと、その事で悩んでいたからつい口に出てしまった。
挙動不審で変な子だと思ってるよね。
しかも、さっきから思わず、京ちゃんの股間をチラチラ見てしまうし!
「ごめんね。芽衣子ちゃん。俺、察するの下手だから、分かってあげられなくて…。
何か悩みがあるんだよね?」
「えっ!」
図星をさされて、思わず声をあげてしまった。
「今、話せないなら無理には聞かないけど、何か俺に力になれることがあったら何でも言ってね?」
そう言って優しく微笑む京ちゃんはなんて尊いの?
ううっ。こんな神々しいばかりに輝く京ちゃんに、嘘コクミッションの金蹴りが悩みで、ずっとあなたの股間の事ばかり考えていますなんて死んでも言えないよぉっ!!
自分の浅ましさに涙が出そうになった。
だからといって、ここで何も言わないのは、
さすがに挙動不審すぎるよね?
私は必死に考えを巡らせた。
「京先輩、ありがとうございます…。」
私は2番目に気がかりな学校の課題について話す事にした。
「えっと、大したことじゃないんです。授業の課題で難しいのが出ちゃって、その事で悩んでいただけで…。しばらくは、課題の事で頭がいっぱいで、大好きな嘘コクミッションの事も考えられないなぁと残念に思っていただけで…。」
実際は比率逆だけどね…。
「そうだったのか…。」
「芽衣子ちゃん、その課題ってどんな奴?」
「ええ、倫理の課題なんですが、ギリシャの哲学者の問答について、ペアになって討論しろっていうもので…。元の問答についても何を言ってるか訳が分からなくて、ペアになっているマキちゃんと首を捻っているところなんです。」
「ああ〜、俺もそれ、一年の時、やったわ。石井の爺さんの倫理だろ?あの先生ボソッと喋って聞き取り辛いし、課題の説明もあんましてくれないから分かり辛いよな。」
京ちゃんの言葉に私は大きく頷いた。
「そう!そうなんです。」
よし。完全に話題は、課題の事に移ったみたい。なんとか誤魔化せたかな?
「去年課題やる時、すごく分かり易くて、役に立つ参考書があったから、教えようか?」
「え、いいんですかぁ?ぜひお願いします!」
さっすが、京ちゃん!頼りになるなぁ…。
こうなったら、京ちゃんも協力してくれてる事だし、一旦嘘コクミッションは保留にして、課題を頑張ることにしよっかな?
「うん、確か学校の図書室にあった筈だけど…。」
?!!
学校の図書室って…確か…。
「場所教えるから、図書室に一緒に行こうか?」
京ちゃんに言われ、凍りついた。
「と、図書室…?京先輩?い、いいんですか?」
「?うん。お昼食べ終わったら、覗いてみようか。」
「え、えーと、は、はい…。」
あーもう、私のバカぁ!!課題の話を出した自分を殴ってやりたい気持ちだった。
嘘コク四人目が図書委員だって私は知ってたのに!
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