嘘コク四人目
第53話 幼き日の夢
小3の時、私はいつも京ちゃんと一緒だった。
いつものように京ちゃん家で一緒に宿題やって、一通りゲームをした後、
テレビの前に京ちゃんと並んで座って、夕方からやっているヒーローの番組を見た。
その番組は『ドラゴンマスク』という
特撮ヒーローもので、
普段は冴えない弱気ショボ太という少年が、
ドラゴンのマスクをかぶると、無敵のヒーローに変身し、悪者をやっつけるという内容だった。
『とうっ!!ドラゴンキック&下半身電気アンマの術!!』
『ぎゃあああっ!!』
画面には、悪者のアジトに潜り込み、
ヒーローが悪者をやっつけ、さらわれた妹を助け出すシーンが映し出されていた。
『メイ、大丈夫か?』
『うん。助けてくれてありがとう!ドラゴンマスク!!』
『く、くそっ、ドラゴンマスクめ!次は必ずぶっ潰してやるからな!覚えてろよぉ!!』
ほうほうの体で逃げていく悪者…。
「ドラゴンマスクかっこいいね…。」
私がホゥと息をついて言うと、隣の京ちゃんは嬉しそうな顔をした。
「だろぉ?俺、この番組大好きなんだ!」
「京ちゃんも、ドラゴンマスクみたい。いつもめーこを助けてくれるよね?」
私が笑顔でそう言うと、京ちゃんはそっぽを向いて頭を搔いた。
「そそ、そんなワケねーだろ!俺なんかただ、トラ男にやられてるだけだし!」
「でも、めーこにとって、京ちゃんは…。」
「あーホラ!めーこ!次回予告やるぞ?」
京ちゃんは慌てて画面を指差した。
その耳は赤く染まっていて、私もなんだか恥ずかしくなってしまって、それ以上は何も言えなかった。
それから、間もなくして…。
下校時に京ちゃんが、いじめっ子のトラ男に殴られたり、蹴られたりし続けていた。
「今日はとことん痛めつけてやっからなぁ!」
「うっ!うぐっ!」
「やめて、やめてよぉっ!!」
私は見る間にあざが増えていく京ちゃんが心配で泣き叫んだ。
今日はトラ男の機嫌が悪いのか、いつまでたっても、攻撃をやめようとしない。
このままじゃ、京ちゃんが死んじゃう…!
どうしよう…?大人を呼ぶにも、ウチも京ちゃん家も、仕事に行っていて、夜にならないと帰って来ない。
その時、私は京ちゃんと見たヒーローの番組を思い出した。
弱くても、勇気があればヒーローになれる…?
私も頑張れば、京ちゃんを守れる…?
私は意を決して、トラ男に向かっていき、京ちゃんを殴ろうとするその腕に思い切り、噛み付いた。
「いてっ!?コイツ何しやがる!?」
「………っ!!」
トラ男に振り払われ、私はあっけなく地面に横倒しになった。
「めーこ!?ダメだ!」
京ちゃんの叫びと、近付いてくるトラ男の憎悪の眼差しに、恐怖を感じながら怒りの矛先が自分に向いた事を知った。
「そんなに相手して欲しいならテメーも殴ってやんよぉ!!」
トラ男が私の上に馬乗りになり、パンチを繰り出した瞬間…。
無意識に私の右足が動き、相手の股間にクリーンヒットを決めた。
ドッゴオォッ…!!
「ぎゃあああああっ!!い、いてー、いてーよー!!!」
トラ男は股間を押さえて蹲り、泣き叫んだ。
私は立ち上がり、そんなトラ男を呆然と見下ろした。
ええと、ヒーローはこんな時なんて言ってたっけ?確か…。
「次は必ずぶっ潰してやる…!!」
強張った顔で、トラ男にそう告げると…。
「ひいっ。」
トラ男は股間を押さえたまま震え上がった。
ん?あれ、今の悪役のセリフだったっけ?
ま、いいか…。
やったよ!私も京ちゃんみたいに戦えたよ?
得意な気持ちになって、京ちゃんを見ると…。
京ちゃんは恐怖に青褪めた顔で私を見つめ、股間を押さえていた。
きょ、京ちゃん…!!
なんで私をそんな目で見るの…?
私はショックを受けてその場に立ち尽くした。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
「うわあああぁーーっ!!!!」
私は叫びながら、勢いよく身を起こした。
周りを見回し、自分の部屋のベッドに寝ている事を確認すると、私はホッと息をついた。
「ゆ、夢…?」
小さい時の夢を見ていたみたいだ。
今更あんな過去の事を夢に見るなんて…。
もちろん、あの事で京ちゃんとの仲が悪くなる事はなかった。
あの後、泣き出した私を見て、すぐに我に返った京ちゃんは、私の手を引いて、家に連れ帰ってくれたのだ。
その後、トラ男に仕返しをされるかと思ったが、意外にも何もなく、
それどころか、罵声を浴びせてくる事はあれども、京ちゃんと私に暴力を振るうことはほとんどなくなった。
トラウマになっているという程の出来事ではないのに、どうして昔の事を思い出して夢に見てしまったのかというと…。
原因は次の嘘コクミッションの内容をずっと考えていたからだろう。
『襲い掛かってきたところを金蹴りして逃げ出す』
きょ、京ちゃんの大事な部分を蹴らなければいけないなんて…!
これから京ちゃんとうまく行って、もし結婚なんて事になった場合、将来の家族計画にも関わる大事な部分を…!!
「ハァ、私は一体どうしたらいいの…?」
私はため息をつくと、力なく呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます